来輝達がそれぞれの武器での訓練に没頭している一方、響は暇をもて余していた。
「暇だなぁ、出歩くにも恐怖症のせいで出歩けないし……」
はぁ、と大きなため息をついた響は、寝るかと思いベッドに横になって寝ようとした。
その時、コンコンとドアをノックする音が聞こえてきた。
響は焦った。入れるべき入れないべきか。そもそも、来輝達なのかそうじゃないのか。
「えっと、どちら様でしょうか?」
そう起き上がって少し声を大きくして訊ねると、ドアの向こう側から透き通った声が返ってきた。
『私、第二王女のシェルリアと申します。ヒビキ様と少しでもお話しができないかと思いまして……あっ、恐怖症のことは存じております。ですから、この形でも結構ですので、会話をしていただけないでしょうか?』
「いえ、気にせず入ってきてください」
『ですが、それではまた症状が出るのでは?』
「お見苦しいとは思いますけど、話をするときは面と向かって話したいので、どうぞ入ってきてください。ちょうど暇をもて余していたところなので」
響がそう言うと、『では、お言葉に甘えて失礼します』という返事とともにドアが開き、入ってきたのは先に国王と一緒に居た美少女だった。
響は、また症状が出るが、なぜか少し息苦しい程度なことに驚いた。
今までは、極力見ないようにしてきたが、ついうっかり見てしまったという時でさえ、物凄い息苦しさが襲って来たのだが、今は少し息苦しい状態を保っている。
不思議に思いつつ、王女を部屋に迎え入れる。
「大丈夫でしょうか? 顔色が悪くなっていますけれど……」
「少し息苦しいですけど、話せますから大丈夫です」
笑顔でそう言った響は、王女が持っている布に包まれたものに目がいった。
「あの、その持っているものは?」
「あ、これですか? これは、魔法の属性がわかる水晶で、触れると何の属性に適正があるかがわかる代物です。ついでなので、触れてみてください」
そう言って王女は布から水晶を出し、差し出してきた。
響は、それにゆっくりと手を出して触れると、水晶から何かが映し出された。
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◇適正属性……無属性
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映し出されたものにはそう書かれていた。
「えっと、もしかして、僕は無属性の魔法が使えるということですか?」
そう言って王女に視線を向けると、王女は映し出されたものを見て唖然としていた。
その反応を見た響は悟った。
(あ、これ、無属性の魔法が使えるやつだ)
すると、唖然としていた王女が我に帰り、響にキラキラとした目を向けてこう言った。
「凄いです、ヒビキ様! 無属性は使い手が両手で数えられる程度しか居ないんですよ!?」
「そうらしいですね。……あと顔近いです」
「あ、申し訳ありません! 私ったら、つい、気が高揚してしまって……」
そう言いながら、恥ずかしいからか顔を赤らめつつ慌てて響から顔を離し、少し気まずくする王女。
「いえ、気にしないでください。それで、僕とどんな話をしたいんですか?」
「えっと、その、ライキ様はどのような方なのかなぁと、思いまして」
顔を赤らめ目を泳がせて人差し指同士でもじもじさせながら答えるのを見て、響は王女の気持ちを察して単刀直入に聞いた。
「もしかして、来輝のことを好きになったんですか?」
「なっ、なぜ!?」
なんでわかったんだ、と言いたげな顔をする王女をスルーして、響は続けた。
「そうですね……そういうのは自分で直接聞いた方がいいですから、どんな人なのかは、接するのが一番ですよ」
「そ、そうなんですか……。頑張ってみます」
「はい、頑張ってください」
響がニコッと笑ってそう言った後、王女がこう訊ねてきた。
「ヒビキ様は、なぜわかったのですか? 私がライキ様を好きになったということを」
「来輝の話をしようとしたときの仕草を見れば一目瞭然ですよ。なぜかというと、僕には恋愛の専門家が近くにいるので、どういう仕草をしたときが恋をしているときなのか、ということを教えてもらいましたから。まぁ、教えてもらったと言うより、教え込まれたと言った方がいいんですけどね」
「その専門家というのは、誰のことですか?」
「神奈ですよ? 響兄はこういうのは鈍感そうだから覚えてって言われて覚えたんです。向こうの世界では使う時が無かったんですけどね」
「えっ!? カンナ様は、ヒビキ様の妹君なのですか!? 確かに、似てると言うか、瓜二つな感じでしたけど」
オーバーリアクションをかます王女に、響はおもしろい人だなということと、よく響兄という呼び名で兄だと気づいたなということを思いつつ、笑顔で答えた。
「双子なんですよ。僕が先に産まれたから僕が兄で、神奈が妹なんです」
「そうなんですか……。双子、初めて見ました。居るんですね」
そこで、来輝達が帰ってきた。
「響、訓練終わったぞ……って、お前、なんで王女様としゃべってんだよ! また症状が出るだろ!?」
「いや、それが不思議なことに少し息苦しいぐらいなんだよね」
「だとしても、これ以上は止めておいた方がいいよ!」
「そうだよ響兄。……王女様、響兄の体調が悪化しないうちに部屋から出ていただけないでしょうか」
「まあまあ、いいじゃん。僕の暇を潰してくれたんだから」
そう言って傍らを見ると王女が居らず、いつの間にか来輝の隣へ行っていた。
「ら、ライキ様、お疲れ様でした!」
「あ、はい、ありがとうございます」
「ライキ様、私のことはシェルリアと呼んでください。あと、敬語は不要です」
畳み掛けるようにそう言ってくる王女に、少し引き気味の来輝。
その光景を見た神奈と香純が響のところへ来て代表して神奈がこう訊ねた。
「ねぇ、響兄、王女様ってもしかして、来輝のことが?」
「そうみたいだよ。ここに来たのも、来輝の人柄が知りたかったみたいだし。そうだ神奈、神奈は恋愛の専門家だから、王女様の相談相手になってあげてよ」
「任せて! 絶対に成就させるから!」
「そこまで言ったつもりは無いんだけど……」
「ううん! 響兄からの頼みは、頼まれた以上のことをしないと響兄の妹としてのプライドが許さないの! だから、任せて!」
「じ、じゃあ、お願いします……」
顔を近づけて宣言されたので、響は引きつった笑顔で神奈にお願いした。
「それにしても、王女様に好かれるなんて、イケメンは辛いよね……」
「そう言う白石さんも、アイドルに入れるくらい美人なんだから、そのうち王子様なんかに好かれたりするかもよ?」
「ううん、それはないよ。私にはもう、心に決めた人が居るから」
香純が、響に向かって意味深な笑顔でそう言った。
言われた響は、(ま、まさかね……)と思いつつ違うだろうと高を括ってこう言った。
「……そうなんだ。でも、向こうには帰れないから、無理じゃない?」
「ん~、それが、そうでもないんだよね。私の好みって言うのはね、身長は165・5㎝,体重は45㎏,血液型はA型,誕生日は8月8日,やせ型,顔はイケメンという程ではないけど優しそうな整った顔,成績はいつもトップ5,出席番号は私と同じクラスの10番で、加えて双子のお兄さんなんだけど、どう思う? 神奈?」
「それは本人が喜ぶと思うよ! 香純みたいな美人にすかれたんだからさ!」
(やばっ、香純と同じクラスの出席番号10番って、僕じゃん……!)
「でも、まだその人私のこと好きじゃないから、告白は
まだの部分を強調したことにより、他の人からの申し出は断れと言外に言われた気がした響だった。
そもそも、なぜ自分のことを好きになったのか得心がいかない響に、それを察した神奈が怒り気味にこう言った。
「もうっ、だから教えたのに、全然役に立ってないじゃん! 響兄の鈍感っ!」
「あたっ!? デコピンはやめてよ、神奈のデコピンって結構痛いんだよ!?」
「気づかなかったんだから、当然の報いでしょ!?」
それを言われると何も言い返せない響だった。
そして響は、話題を変えるため、3人が部屋に入ってきた時から気になっていたことを訊ねた。
「ねぇ、今更だけど。3人とも、結構ボロボロだよね。大丈夫?」
「一応、無属性使いの人に治癒の魔法はかけてもらったんだけどな」
「騎士団長さん、容赦なかったよね……」
「私はこのままでも耐えられるよ。だって、響兄が居るから、どんなに辛くても関係ないもん!」
「まぁ、神奈はそうだろうな……」
「神奈の気持ち、わかるよ。私も似たようなものだし」
来輝が呆れた様子でそう言った後、香純が頷きながらそう言った。
香純の言葉に、響は「ハハハ……」と苦笑いすることしかできなかった。
「そう言えば、さっき魔法の属性がわかる水晶に触(ふ)れたよ」
「えっ、マジ? 属性なんだった?」
「無属性だったよ」
「!? だったらこれからは響兄に治療してもらわなきゃ!」
「私もそうしよっと」
「俺は今日の無属性使いの人でいいな」
「巨乳だもんね」
「巨乳で美人だったもんね」
「えっ!? ライキ様は、巨乳が好みなのですか!?」
(城に居る無属性使いの人、女性だったんだ……)
王女に問い詰められる来輝を見ながら、思わぬ情報を得た響が、意外そうに心の中でそう呟いた。
「ライキ様は、胸の小さい年下の女性はお嫌いなのですか!?」
「えっ、あ、いや、むしろ好き……じゃなくてっ!? 野郎に治してもらうよりは女性に治された方がいいなっていう話だよ……!」
「……ロリコン?」
「おい、響! 今お前、ロリコンっつったな!? あぁ、そうだよ! この際ハッキリ宣言してやる! 俺はロリコンだ!」
「認めたぁ!?」
違うと反論してくると思っていたが予想外の返答をされた響は、予想外過ぎて結構大きな声で叫んでしまった。
ロリコン宣言をした来輝のことを、神奈と香純は「引くわ~」と呟きながら露骨に汚らわしいものを見る目で来輝を見ていた。
王女様はと言うと、好きと言われたことに驚愕した後、デレッデレに蕩けるような表情をしながら「す、すすす、好きって、言われました……! 今のは……告白!?」と少し勘違いした独り言を呟いていた。
イケメンなのにロリコンとは、世の中どんな人が居るかわからないなとつくづく思った響だった。