外国人恐怖症が巻き込まれて異世界へ   作:夏月太陽

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第一章 魔神国ウェルノット
急展開


 目を覚ますと、そこには自分が寝ていた部屋の天井ではない天井があった。

 

 それに驚いて飛び起きると、薄暗い部屋のようなところで、その窓際のベッドで寝ていたようだった。

 

 窓から入る日差しが心地いいが、それどころではない。

 

 ここがどこなのか、確かめなければならない。

 

 そう思ってベッドから降りようとしたその時、入り口から誰かが入ってきた。

 

 咄嗟に身構えると、入ってきた人物は戦う様子もなく気軽に話し掛けながら近づいてきた。

 

「あっ、起きたんだね、おっはよー! ボクは、魔王のマオウ=チャウ=ウェルノットだよー! よろしくね、ヒビキくん!」

「……」

「あ、あれ? おーい、ヒビキくーん?」

 

 あれかな、夢かな? 魔王って言ってた気がするけど……。でも、魔王が僕の前に現れるはずがないし……。

 

 いやでも、角が生えてるし、なんかマント羽織ってるし、夢じゃないのかも……。

 

 というか、自分で魔王じゃなくてウェルノットって言ってたから、魔王というのは冗談で、この人の名前はウェルノットって言うんだろう。

 

「もしかして、聞こえなかったかな? おっはよー!!」

「うるさいなぁっ! 聞こえてるよ!」

 

 かなりの大声を至近距離で出され、さしもの僕も怒らずにはいられなかった。

 

「ご、ごめんー。聞こえてないかと思ったから!」

「で? なんだっけ、えっと、マオウじゃなくてウェルノットさん」

「違うよ。マオウっていう名前なんだよ。魔王のマオウ=チャウ=ウェルノット」

「……間のチャウが関西弁に聴こえたから、魔王じゃないって言ってるのかと思った。というか、それだったら、今後名乗る時紛らわしいからマオって名乗ったら? 一々勘違いされるのは嫌でしょ?」

「マオか……いいねそれ! 今度からそうするよ!」

 

 ……っは!? 何を魔王と呑気に話をしてるんだ!? そんなことしてる場合じゃないのに!

 

「そ、それはともかく、ここはどこ?」

「あぁ、ここはボクの城の一室だよ。というかボクの部屋」

「えっ!? ……それにしては、何もない部屋だけど? マオさん、女の子なのに……」

 

 見渡しても、必要最低限度のものしか置いていないような飾り気のない部屋だ。

 

「えっ?」

「えっ? 違うの?」

「ボクが女の子だってわかるの? ここ数百年一目で女の子だって言われたことないんだけど」

 

 確かに、髪型は短いし顔立ちは女子とも男子とも取れそうな、それこそ男子のように振る舞っていれば男子と思うような中性的な整ったものだし、声色も声変わりしていない少年のような感じだし、背格好も僕に似た感じだし、胸も見た限りは無くて本当に男子っぽいけど、一目見た瞬間に直感的に女子だと思っていた。

 

 まぁ、そんな難しいのに当てられたら驚くのはわかるけど、それよりも……

 

「僕にとっては、マオさんが数百年生きてることに驚いたんだけど」

「あはは、そりゃ魔人族は長命だし、中でも魔王は永遠に近い寿命を持ってる上に死んでもすぐに転生してまた魔王にだからね。記憶もそのままだし」

「それで、戦闘にも長けてるって、そりゃ神って口外したくなるよ……」

「ん? 何か言った?」

「いや、何も……。ところで、なんで僕は魔神国に連れてこられたのかな。もしかして、見せしめに殺すとか?」

「えっ!? 誰がそんなことを!? 捕まえて処刑しないと!」

「物騒すぎる!! そうじゃなくて、マオさんがするかどうか聞いてるんだよ」

「えっ、ボク? しないよ?」

 

 なんでそんなこと聞くの? と言いたげな不思議そうな顔で首をかしげて見詰めてくるマオさん。

 

「ボクがヒビキくんを連れてきた理由は、【予知の魔眼】で未来を見てたらヒビキくんが英雄として讃えられている風景が見えたからなんだ」

「それって、アルマリーナ王国で?」

「いや、それがね。英雄として讃えられているのはここ魔神国でなんだよ」

「それって、魔王としては嫌なことなんじゃないの? 人族が讃えられるなんて」

「やだなぁ、ヒビキくん。ボクはそこまで狭量ではないよ。第一、ヒビキくんとは、その、友達だと思いたいし……」

 

 急にモジモジし始めたマオさん。友達、居ないんだろうか。

 

 まぁ、マオさん魔王だから、友達よりも部下の方が多いに決まってるか。

 

「仮に友達になったとして、これから僕ほどうすればいいの?」

「まずは、幹部連中との面会、かな。大丈夫、ヒビキくんのことは話してから拐ってきたから! 満場一致ではなかったけど」

「ふーん。じゃあ、行こうか」

「えっ?」

「えっ? 行くんじゃないの?」

「行くけど……ヒビキくん、怖くないの?」

「怖くないって言ったら嘘になるけど、ここに居る以上は従っとかないと、何されるかわからないからね」

「何もしないというか、したくなしさせたくないんだけど、まぁ、とにかく、行こうか」

 

 曖昧なことを言ったマオさんが、入り口に向かって歩き始めたので、僕はそれに続いて部屋を出た。

 

 

 ◆◇◆◇◆

 

 

 一方その頃、アルマリーナ王国の王城では、響が居なくなったことにより、特に神奈が絶望していた。

 

「ひ、響兄が、響兄が拐われたぁぁっ……! どうしよぉぉ、またあんなことされてたら、響兄、今度こそ外に出られなくなっちゃうぅぅっ……! 私が守ってあげなきゃいけなかったのにぃぃ……私が、私が守って、あげなきゃ、うっ……ぐすっ……ひっく……あ”ぁぁぁぁぁぁぁぁっ……!」

「落ち着いて! 神奈だけの責任じゃないよっ。私も気を付けてなかったし」

「しかし、なんで響なんだろうな。拐うなら勇者たる俺達の方が拐った奴にとって価値があるのに」

 

 ご丁寧に、ベッドの上に紙がありそこには、異世界文字で読めなかったので王様に見せて読んでもらうと、『カリヤヒビキはいただいた。返してほしくば、魔神国まで来い。魔王』と書かれていた。

 

「む? 何やら続きが……なになに?『追伸。カリヤヒビキはこちらで活躍する人材であるので、なるべく遅く取り返しに来てほしい』だと!? 何を馬鹿な!」

「なんで活躍するって決まってるんだろうな」

「確かに」

「わからぬ。魔王のことは400年戦い続けておるが、全く解明されておらぬのだ」

 

 3人や王女,兵士達が思案顔をする中、神奈はとても暗い顔をしながら、何やら一人ぶつぶつと独り言を呟いていた。

 

「響兄、響兄、響兄、響兄、響兄、響兄、響兄、響兄、響兄、響兄、響兄、響兄、響兄、響兄、響兄、響兄、響兄、響兄、響兄、響兄、響兄、響兄、響兄、響兄、響兄、響兄、響兄、響兄、響兄、響兄、響兄、響兄、響兄、響兄……」

 

 そんな、まるで呪文を唱えるかのように響兄と連呼する神奈を見て、他の面々は多少引き気味ではあるが、心中を察することはできていた。

 

 そこへ、来輝が神奈に一言こう言った。

 

「なぁ神奈、そんなに心配なら強くなって取り返しに行けばいいだろ? そんな絶望した顔見たら響なんて言うだろうな」

「そう、だね……。響兄の方が怖い目にあってるんだもんね。頑張らなきゃ」

 

 そう神奈が意気込んだところへ、窓から一羽のコウモリが入ってきて壁に何かを映し出した。

 

『えっ? もう写ってるの? 向こうに? へぇ、凄いね』

「響兄!?」

「響!?」

「響くん!?」

 

 響が映し出されたことに驚く3人もなんのその。テレビのように一方的なため、響は勝手に喋る。

 

『えっと、神奈。心配してるだろうけど、心配しなくていいよ。恐怖症が出ないから、まだ外に出てないけど外でも気にせず歩けるし。神奈が懸念してることは何もないから。不甲斐ない兄だけど、死ぬことはないだろうから、また会える日を首を長くして待つよ。訓練頑張ってね』

 

 そう言って響が笑顔で手を振ったところで、映像が終わった。

 

 そして、コウモリは入ってきた時と同じく窓から飛び去っていった。

 

 コウモリが飛び去った後の響が使っていた部屋の中は、急な出来事にド肝を抜かれ、驚きのあまり静寂に包まれていた。

 

 そんな中、最初に口を開いたのは神奈だった。

 

「響兄がああ言ってるってことは大丈夫だね。今すぐ不甲斐ないってところを否定しに行きたいけど、訓練頑張れって言われたし、強くなって否定しに行かなきゃ意味ないよね。さっ、訓練しよ、訓練」

「あ、あぁ、そうだな。しかし響も酷いな。俺と香純にもメッセージくれたっていいのに……」

「妹だから、一番心配なんだよ。響くんはそういう人だから」

 

 そう話ながら響が使っていた部屋を出ていく3人の勇者達を見て、王様を始めとする数名は唖然としていた。

 

 

 ◆◇◆◇◆

 

 

「勇者って3人で、他の二人も知り合いだったんじゃないの? メッセージ言わなくてよかったの?」

「いいよ。たぶん、一緒に聴いてただろうから」

 

 なぜこんな風になったのかというと、それは少し時間を遡る。

 

 マオさんの部屋を出た後、僕はふと神奈のことが頭をよぎった。

 

 それで、ボソッと「神奈、大丈夫かな……」と呟いたところ、マオさんが「心配ならメッセージ送る?」と聞いてきた。

 

 概要を聞くと、元々演説の時に使うための映像を映し出すコウモリを、神奈の下へ飛ばして映し出すとのことだった。

 

 できるのか不安だったけど、成功したので問題なし。

 

 そして今僕は、幹部達が集まっているという会議室なる部屋の前に来ていた。

 

「じゃあ入るけど、もし誰かがヒビキくんに襲いかかってきたらボクが叩きのめすから、安心して」

「あ、うん、ありがとう」

 

 そう言ってマオさんがドアを開けて中へ入っていったので、それに続いて僕も部屋に入った。

 

 中に入ると、5人の魔人が長方形型のテーブルに沿って左右に分かれて座っていた。

 

 そんな5人の魔人が、僕が部屋に入ると全員が一斉に視線を向けてきた。

 

 なんとも言えない圧力に後退りしそうになった。

 

 それをぐっと堪えて、マオさんに案内されたマオさんの席の隣まで行った。

 

「さて、紹介しよう。この者が件(くだん)の人間、ヒビキだ。実際に見ての率直な意見を述べてほしい。まずは、ザルクール」

「はっ!」

 

 全く口調が変わったマオさんに指名されたザルクールという、如何にも宰相か参謀長なんかをやっていそうな風格のある細身の真面目そうな男性の魔人が、返事をして立ち上がった。

 

「私が見る限り、その者がこの魔神国で英雄と讃えられるということは無いかと。賛成した者の気が知れません」

「そうか。では、シガルス」

「はっ!」

 

 今度は、如何にも軍の将軍をしていそうなムッキムキの他の魔人より一回り大きな男性の魔人が返事をして立ち上がった。

 

「吾が輩から見ると、軟弱で脆弱な感じではあるが、精神力が強いのは確かであろう。吾が輩達を前にして一歩も引いておらんのだからな。吾が輩は、それに免じてその者がこの国に携わることを認める」

「そうか。では、リシュア」

「はい」

 

 今度は、如何にもサキュバスのような魅惑ができるほどの容姿をした金髪の女性の魔人が、淑やかに返事をして綺麗な所作で立ち上がった。

 

「わたくしは、そこの人間さんがこの国に携わることを是としますわ。彼からは何か、この国にとって利益になるようなオーラを感じますもの」

「なるほど。では、ランズノッド」

「あいよ」

 

 今度は、如何にも不良のような態度をしている赤髪の柄の悪そうな細身の男性の魔人が適当な返事をして立ち上がった。

 

「オレぁ気に喰わねぇなぁ、人間がオレらの国に携わるなんてのはよぉ。愚の骨頂だわ。だいたいよぉ、そんな弱っちぃ奴がオレらの国でなんの役に立つんだよ? 精々、雑用ぐらいだろ。だから、反対だな、オレぁ」

「そうか。では最後、シルリア」

「ふあぁい」

 

 今度は、如何にも怠くて眠そうにしている、この中で一番背が低くロリっ子と言わざるを得ない容姿の可愛らしい赤髪の女性の魔人が、欠伸をしながら返事をして立ち上がった。

 

「あちしは良いと思うよぉ? 弱っちくても異世界人な訳だし、こちらの世界とは違う文明で育った訳でしょぉ? リシュアさんの言った通り、この国に利益になるのは明白じゃぁん。兄(あに)ぃは頭が堅いんだよぉ」

「んだと!? やるか!?」

 

 あの二人、兄妹だったんだ。じゃなくて、喧嘩止めなきゃ。

 

 そう思った僕は、走って二人の間に入っていった。

 

「まあまあ、喧嘩しなくてもいいじゃないですか」

「んだよ、人間のくせに割って入ってんじゃねぇよ!」

 

 そう言って、ランズノッドさんが殴ろうと右手を振り上げた。

 

 その右手に僕の左手を持っていき、その勢いを利用して手首の辺りを掌で抑えて前傾にさせ、右手で首を押して時計回りに回転して反動で起き上がってきたところを、首を右腕で押して体勢を崩させて地面に仰向けに倒れさせた。

 

 まぁ、いわゆる、入り身投げだ。

 

 よかった、合気道習っておいて……。あの誘拐事件の後、親が護身用に習えって言って神奈に内緒で無理矢理習わされたのが役に立った。

 

 その光景を見たマオさん始め魔人の幹部達は驚きの声を上げた。

 

「なっ!? 魔王軍の一番隊隊長であるランズノッド殿が地面に倒されただと!?」

「ほう、吾が輩のその者の見立ては間違っていたと見える。今のは、武術であるか?」

「あ、はい。合気道って言って、無駄な力を使わず効率良く相手を制する武術です」

「んの野郎!! やりやがったな!?」

 

 そう言ってまた殴ろうと右手を振り上げたので、今度は一教という、相手の腕を取り肘関節を可動限界まで伸ばして相手を腹這いにさせて抑える技を使った。

 

 こうすれば、立ち上がろうとしても抑えられる。

 

「はぁ……兄(あに)ぃ、カッコ悪いよぉ。馬鹿にしてた人間に倒されるんじゃぁ、認めるしかないよねぇ」

「くっ……わかった……。オレが悪かったから離してくれ」

 

 そう言うので、離してランズノッドさんからも離れて元の位置に戻った。

 

「さて、見ての通り、ヒビキは軟弱ではないし脆弱でもない。その上でもう一度問うが、ザルクール,ランズノッド、どう思う?」

「確かに、他の方々の仰る通り、我が国にとって利益に成りうると判断しました。よって、賛成に意見を変えたく存じます」

「オレも同じく。馬鹿にして悪かったな」

「気にしてないので、そちらも気にしないでください」

 

 ズバッと言うと、ランズノッドは「お、おう、そうか……」と気まずそうに言って席に座った。

 

「では、満場一致により、ヒビキをこの国に関わらせる。以上、解散」

 

 マオさんがそう宣言すると、全員席を立ち会議室を後にしていった。

 

 というか、僕をこの国に関わらせるってどういうこと? 僕はこれからどうなるの? 

 

 ――なんか、不安になってきた……。

 

 

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