城に戻ると、玄関らしきところでマオさんが出迎えてくれた。
「お帰り、ヒビキくん。ねぇねぇ、どうだった? ボクの作った街は」
期待を込めた目で僕を見ながらそう聞いてくるマオさん。
それを見たルウェルは、魔王としての威厳を持ったマオさんの姿しか見たことがなかったのか、物凄く違和感がありげな顔をしていた。
僕は、気にせずマオさんの質問に答えた。
「街自体はいいけど、住んでる魔人達が喧嘩早いのがよくないかな」
「やっぱり? 大丈夫だった? 怪我してない?」
「大丈夫です、魔王様。すべて響さんが返り討ちにしましたので、怪我はしておりません」
「そっか、よかった。ところで、その子はどうしたの?」
ルウェルに気づいたマオさんが、どうしてここに連れてきたの? と言いたげに聞いてきた。
「絡まれているところを助けたら、付いていきたいって言うから連れてきたんだけど」
「ダメですよ、響さん。そんな大雑把な説明では。魔王様、この子は響さんが優しいことをいいことに、家がないからと響さんにすがったのです。許しがたいです、ええ、断じて許しがたいです」
あっ、ダメだ。せっかく宥めて説得したのにまたぶり返してしまった……。
「東条さん、僕は気にしないって言ったよ」
「響さんが気にしなくても、私が気にするんです」
「珍しいな。ハルがこんなに怒るなんて。今まで滅多に怒ったことなかったのに……」
やっぱりそうなんだ。だったら、なんでこんなに表に出して怒っているんだろうか。
いや、相も変わらず顔は無表情だし、声を荒げているわけでもないんだけどね……。
「まぁ、とにかく、そういうことなんだけど、ルウェルを城に住まわせてもいいかな?」
「いいよ。ちゃんと面倒見てくれれば」
「俺はペットかよ!?」
ルウェルが鋭いツッコミを入れると、言葉遣いが気に障ったのか、いつの間にか東条さんがルウェルの背後に回って首もとにナイフの刃先を当てていた。
「不敬です。謝罪してください」
「いいよいいよ。器の広いボクはそれくらいじゃ怒らないからね。というか、それだとヒビキくんも不敬なんじゃないの?」
「響さんが不敬罪で裁かれるなら、代わりに私が裁かれます」
「なんで俺とヒビキで対応が違うんだよ!」
「当たり前です。響さんは(私にとって)特別な存在です。貴方みたいなおつむの足りない子どもとは格が違うんです」
いきなり何を言い出してるんだ、東条さんは?
特別な存在って、誰に対してどんな特別な存在なんだろう?
一番考えられるのは、マオさんの友達としてだけど、本当にそういう意味で言ったのかはわからない。
というか、おつむの足りない子どもと言われたルウェルが、ショックを受けて涙目になってる……。
「ルウェル、大丈夫。普段から頭を使っていればそれなりに頭の回転は速くなるよ」
「でも、よくなるわけじゃないんだろ?」
なんだ、そこに気づけるということは、柔軟に思考できてるんじゃないか。
というか、元々僕はルウェルがおつむ足りないなんて思ってなかったし、東条さんがそう言っただけだから、僕が睨まれるのはお門違いだ。
そう思って東条さんを見ると、サッと目を逸らされた。
おーい、東条さんや? 東条さんのせいでルウェルに睨まれたんですけど?
そう心の中で問いかけると、東条さんは目を逸らしたまま、無言で「あーあー、聞ーこーえーなーいー!」といった感じで耳を塞いだ。
当然、マオさんとルウェルにはわからないため、東条さんが急に耳を塞いだことを不思議に思っている様子だ。
「あ、そうだ、夕食の時間なんだった! お腹空いてるよね。さぁ、ボクに付いてきて!」
思い出したようにそう言ったマオさんの案内の下、僕達は食堂へ向かった。
途中、外が見える所があり、そこから訓練場が見えたので見てみると、魔法の訓練をしている一団が目に入った。
魔法か……。あっ、そう言えば、無属性の魔法のこと聞いたはいいけど、使ってないしどんな魔法が使えるのか把握もしてないんだった。
「そうですね。言われるまで気づきませんでした」
「えっ? なんのこと?」
僕の心の声に反応した、なぜかしれっと僕の隣を歩く東条さんに、先頭を歩くマオさんが東条さんに顔を向けながら訊ねた。
「響さん、自分の魔法を使ってみたいそうです」
「あ、そっか。どんなものなのかは言ったけど、使い方とか教えてなかったもんね。じゃあ、夕食の後教えてあげるよ」
「ちょっと待った」
僕が慌てて待ったをかけると、マオさんは止めたことを不思議に思った顔をしながら僕を見た。
「どうしたの?」
「本当にいいの?」
「何が?」
全く見当がつかないと言いたげに首を傾げるマオさん。
「はぁ……。いい? この国のこと教えてもらおうとした時にも言ったけど、僕は敵対してる勇者の仲間なんだよ? そんな奴に魔法を教えるなんて、どうかしてるよ?」
「いやいや、毎回それを自己申告してくるヒビキくんもどうかしてるよ?」
「だって、警戒心が無さすぎるし、楽観的すぎるし……」
「じゃあヒビキくんは、魔法を覚えたらこの国を滅ぼして人族の王国へ帰るの?」
「そんなことするわけないよ。……それに、帰ると恐怖症の症状出るし……」
「ん? 最後なんて言った?」
「いや、何も」
ボソッと言った僕の言葉をマオさんが気になって聞いてくるも、説明してどうにかなるものでもないし、心配されても困るので、外国人恐怖症がバレないようにはぐらかした。
あっ、でも、耳がいい東条さんには聞かれたかな?
そう思ってチラッと隣に居る東条さんを見ると、相変わらずの無表情ではあるけど、僕の言葉を聞いて心配になったのか、ジッと僕のことを見詰めてきた。
東条さん、ただの外国人恐怖症だよ。外国人な見た目をした人を見るだけで動悸と呼吸が乱れるけど、それだけだから。
そう心の中で呟くと、ギュッと学生服を掴まれた。
言葉を発しないからどんな気持ちなのか正確な見当がつかないけど、たぶん心配してるんだろう。
「ハル、どうしたの? ヒビキくんの服の袖なんか握って?」
「いえ、なんでもありません。食堂へ行きましょう」
そう言って僕を引っ張って食堂へそそくさと向かう東条さんを、後から追いかけるようにしてマオさんとルウェルが続いた。
◆◇◆◇◆
夕食が終わると、魔法の練習をするためにマオさんの部屋に行くことになったので、マオさんの部屋に向かった。
部屋に着いて中へ入ると、どこから取り出したのか、黒板らしきものとチョーク,瓶底メガネに教師がたまに使う
しかも、それを身に付けるのがマオさんという……。
そしてそれが異様に似合っていたがために、結構ツボに入って笑いを堪えるのに必死になった。
「ヒビキくん? どうしたの? ボク、どこか変?」
「いや、似合いすぎて笑いそう……。特に瓶底メガネとか……ぶふっ、あはははっ」
「言ってるうちに笑っちゃってるじゃん……! というか、笑うってことは似合ってないってことなんじゃないの?」
「本当に似合ってるよ。でも、なんか笑えてくるんだよね」
「あぁ、もう! ともかく説明するよ! ちゃんと聞いてね!」
そう言って始まったマオ先生による無属性についての講座は、物凄くわかりやすくてイメージの湧きやすい講座だった。
――まず、それぞれ魔法には呪文があり、それを詠唱することで魔法を発動させることができる。
まぁ、これは、ラノベのみならず、魔法が絡むほとんどの物語で呪文が有ってそれを詠唱しているので、理解できないことはない。
ただ、いざ自分がやろうとすると、恥ずかしくてやりにくいと思った。
呪文を詠唱するの、厨二病感半端ないから……。
――次に、その呪文はそれぞれ魔法によって違うが、公式があり、属性や威力の違う魔法を使う時によって呪文が変わってくる。
例えば、火属性の【
一番弱い
もちろん、他の属性も三段階の威力の呪文がある。
ただ、無属性特有の回復魔法や状態異常を回復する魔法,再生魔法,状態異常をかける魔法、今日教わった防御魔法や転移魔法などは、呪文が多くて覚えるのが大変だった。
回復魔法は6種類もあって……
・【
・【
・【
の6つだった。
正直、こんなに使い分ける必要があるのかと思うけど、便利なことは間違いはない。
状態異常を回復させる魔法は、有り難いことに【
再生の魔法も、有り難いことに【
状態異常をかける魔法は6種類もあって……
・【
・【
の6つだった。
この世界、ステータスなんてものは無いので、毒なんかは、使うと普通に死ぬそうだ。
だだ、【
たぶん、使う機会はそうそう来ないだろう。
防御魔法は、有り難いことに【
転移魔法も、有り難いことに【
以上、計16の呪文が今知っている無属性特有の魔法の呪文だ。
まだ習っていない無属性の魔法や他の属性の魔法と合わせると、軽く30以上の呪文があるので、これが軍人ならば戦闘の幅が広がっていいんだろうけど、僕の場合、魔法で戦うことは恐らく滅多にないぐらいに少ないだろうし、そもそも一般人の僕には縁遠いことだろう。
魔法を使って戦うことが、無いとは言い切れないけどね……。
説明が終わると、マオさんが身につけた瓶底メガネを外しながらこう言ってきた。
「じゃあ、実際にやってみようか」
……えっ、ここで? さすがにそれは危ないんじゃないの?
そう思ったのは杞憂で、ちゃんと外でやるらしく部屋のドアを開けて「付いてきて」と言った。
マオさんの後に続いて外に出ると、訓練場に案内され、魔法を練習するための的がある場所に着いた。
「さぁ、ヒビキくん、やってみて」
マオさんがそう言いながら僕の背中を的の前まで行くように押してきた。
いや、いざやれって言われても、詠唱するだけでいいのかとか、その辺がよくわからないんだけど……。
まぁ、とにかくやってみるか。
的に向かって掌を向けて「【
一番弱いやつでこれだと一番強いの使ったらどうなるんだというヒヤヒヤする思いと、できたことにホッとした思いで居ると、マオさん達がやけに静かなことに気づいた。
振り返ると、マオさんもルウェルも目を見開いたまま、固まっていた。
東条さんはというと、近寄ってきて相変わらずの無表情で、一言「やりすぎです」と言った。
「やりすぎって、何が? 普通に【
「違います。説明してなかったこちらにも非がありますが、魔力を込めすぎでした。響さんの場合、無意識にやっていたのですが、原因は二つ考えられます」
「その原因っていうのは?」
「力んだからか、魔力が多いからかのどちらかです」
僕的には力んだの方が正解だと思うな。
成功するかどうかわからなくて不安だったし。
そう思っていると、いつの間にか東条さんが居なくなっていて驚いた次の瞬間、東条さんが目の前に現れて再び驚いた。
驚きつつ東条さんの手元を見ると、物凄く透き通った水晶を持っていた。
「響さん、この水晶に触れてください。これで魔力の量がわかります」
そう言いながら差し出してきたので触れてみると、属性がなんなのかを見たときと同じように画面のようなものが空中に映し出された。
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・魔力量を測ることができません。
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ん? 故障かな? 測ることができないって出てるよ?
「おかしいですね。壊れたことないんですけど……」
そう言って東条さんが触れて映し出された画面には、ちゃんと「魔力量Sクラス」と書かれていた。
ついでにマオさんとルウェルにも触れてもらうと、マオさんは「魔力量SSSクラス(最大)」でルウェルは「魔力量Aクラス」となっていた。
なんだ、測れるんじゃないか、そう思ってもう一回触れてみるも、「魔力を測ることができません」と出た。
なんで測れないんだろうか、と落ち込んでいると、マオさんがこう言った。
「ここから考えらることは一つ。ヒビキくんの魔力量がボクの魔力量よりも多い」
「!?」
言われたことに言葉も出ず、ただただ驚いていると、ルウェルにこう言われた。
「やっぱりヒビキが勇者だったんだな」
「絶対違う。勇者の武器に触れた3人とも、触れた武器が光ってたから」
「確かに、あの神から授かった勇者の武器が選んだのなら、響さん以外の3人が勇者ですね」
先代勇者の東条さんがフォローを入れてくれた。
だとしても、どうして僕の魔力量が水晶で測れないほどに多いのか……。
不思議なこともあるもんだね。