戦術人形は提督に奢られたい   作:山の漁り火

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第9話

 ――私の今の指揮官は、『グリフィン&クルーガー社(G & K社)』に入社したばかりの新人さんだった。

 

 

 崩壊液(コーラップス)汚染により疲弊した国々が争いあった第三次世界大戦。

 そんな不毛な戦争が終わった後も、世界は荒れに荒れた。

 

 残された資源や土地を奪い合う小規模な紛争に、食いはぐれた貧民が結成した盗賊団・強盗団の跋扈。

 おまけに自律人形製造のトップシェアを誇っていた『鉄血製造公司』製自律人形の暴走事件。なお鉄血製造公司の社員はその事件でほぼ全滅し、暴走した鉄血製人形を止められる者は誰もいなくなった。

 

 正規軍は崩壊液(コーラップス)から生まれた“化け物(ミュータント)”への対応に手一杯であり、それらへの対処と各地区の治安維持を民間軍事会社(P M C)へと丸投げした。

 

 そのPMCの中でも“最優良企業”の一つと呼ばれているのが『グリフィン&クルーガー社(G & K社)』であり。

 鉄血亡き後の自律人形製造のトップシェアとなった『I.O.P社』と“良き関係”を築いたG&K社は、正規軍に厚い信頼を寄せられ数多くの地区を任されている。

 そしてその細分化された地区を統括するのは、戦術人形部隊(ドールズフォース)の指揮を行う『指揮官』と呼ばれる役職の人間である。

 

 時たま「鷲獅子(グリフィン)の連中は、富裕層(エリート)子息(ボンボン)ばかりの役立たず」と揶揄される事があるが、それは正しくもあるし間違ってもいる。

 

 グリフィンの指揮官は、“軍人”にして“文官”でもある。

 彼らまたは彼女らは戦術人形を指揮するだけでなく、各地区の治安維持や行政の代行を任される事もある。つまりは書類が読めなかったり簡単な計算も出来なかったり、ましてや腹芸も知らぬ莫迦(ばか)では指揮官は務まらない。

 従って、G&K社に所属する指揮官のほとんどは戦前からの生粋の軍人、あるいは第三次世界大戦をやり過ごした富裕層(エリート)――高等教育を学ぶ機会に恵まれた人たちである。

 人格面の評価はともかく、厳しい入社試験を乗り越えた優秀なスタッフが揃っているのが『グリフィン&クルーガー社(G & K社)』の強みになっていた。

 

 ――私の指揮官は、そんな中では珍しく歴戦の軍人でも、富裕層(エリート)の子息でも無かった。

 

 

 

*

 

 

 

「――成る程。君たちの世界では、指揮官がその地区の行政官も兼ねているというわけか」

「もしゃ……はい。そうなんですよー」

 

 摩耶さんたちが警備任務へと出撃した後、私と“横須賀第二鎮守府”提督――夜凪(よなぎ)大佐は、横須賀軍港の埠頭を歩いていた。

 

「もしゅもしゅ……まあ治安が安定した地域には、国から行政官が送られて来る事もあるんですけど」

「ほう……それは助かるね」

「でも、その治安が安定するまでが結構大変で。行政官が強盗団に誘拐されるのは序の口で、庁舎が襲撃にあって職員全滅――なんてのも割とよく聞く話ですから……ぱくり」

「なかなかに物騒だね……」

「強盗団だけじゃなく、鉄血製人形の襲撃もありますからー……ぽりぽり」

 

 そんな私の世界の話をしている内に、私の手から“食べ物”が消えてしまった。

 もっと食べたかったな……と私が寂しそうな顔をしているのに気付いたのか、

 

「……もう一個食べるかい? ソフトクリーム」

 

 優しげな顔の夜凪大佐が手元の財布を開いて小銭を数枚取り出して、私に手渡してくれた。

 ……いや、私は催促したわけじゃないよ? ホントダヨ?

 

 

 

*

 

 

 

 “ソフトクリーム”は、私の世界にもあった嗜好品(デザート)だ。

 街中でもよく売られていたし、戦術人形(わたしたち)にも定期的に支給される甘味として人気があった。

 もっとも、街中で売られる物や支給品の原料は合成食材だけど。

 植物性由来の原料から生成される擬似ミルクは、一般市民には格安で手に入る身近な食料であり、私たちの携帯食糧(MRE)にも多く用いられている。

 それを主材料に人工香料を加えて作られたのが、私たちの食していたアイスクリームだ。

 まあ「“天然物”に比べてコクが足りない」と呼ばれていたけれど。

 

 そして私が今食べていたのは、いわゆるその“天然物”であるらしい。生きた牛からミルクを採取して作られた、正真正銘ミルク味のソフトクリーム。香料も人工物でなく、天然のバニラ・エッセンスを使用しているみたい。

 真っ白で冷たいクリームを口に含むと、とろっとふわっと口の中でクリームが溶けていき、ミルクのまろやかな味とバニラの香りが口に広がる。ああ、幸せ。

 「コクが足りない」と嘆いていた、G&K社の会計士さん――北蘭(ベイラン)島事件前から生き延びているお爺さんだった――の気持ちも今ならよく分かる気がする。

 

 

 

*

 

 

 

「店員さん、もう一個ソフトクリームちょーだい!」

「おやおや、もう食べちゃったのかい。お嬢ちゃんは食いしんぼだねえ、ははは」

「だって、このソフトクリームが美味しいんだもん!」

「嬉しいねえ。じゃあ次は何味にする?」

 

 二個目のソフトクリームもすぐに食べ終えてしまった私は、再びソフトクリームを売っている売店を訪れていた。

 私の顔を覚えてしまったおばちゃんがニコニコと笑顔を浮かべて、メニュー表を手渡してくれる。

 

「えっと、ストロベリー味にチョコ味に……」

 

 メニューには色んなフレーバーが載っていて、どれが良いかは迷ってしまうけれど

 

「……“マッチャ”味ください!」

 

 私はすぐに即決した。

 ――鮮やかな緑色をした、ニホンの味“マッチャ”。

 次に食べるとしたらこれだと、私は二個目のバニラを頼む時に決めていたのだ。

 

「OK、じゃあ常連さんにはおまけしちゃおう」

 

 私から小銭を受け取ったおばちゃんは、先ほどのソフトクリームより一回り大きくした物を手渡してくれた。

 

「やった、店員さんありがとう!!」

「はは、これからも御贔屓にってね……おや、あれは……見てごらん」

 

 そう言うとおばちゃんはふと私の後ろを指差す。

 私の目がそのおばちゃんの視線の先へと向かうと――

 

「――良いタイミングだったね、お嬢ちゃん。ちょうど我らが『第一航空戦隊』の帰還みたいだよ」

 

 ――海上で大きな弓を持った二隻(ふたり)の艦娘と、彼女等に付き添う艦娘たちの勇姿が遠くに見えた。

 

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