戦術人形は提督に奢られたい   作:山の漁り火

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第2話

――崩壊液(コーラップス)

 

 20世紀初頭に超古代遺跡から発掘されたその物質は、世界中のあらゆる技術に一大革命をもたらした。

 

 崩壊液はありとあらゆる物質に浸透しその物質を原子レベルにまで崩壊させ、その際に凄まじいエネルギーをも放出する。

 崩壊した原子は再構成により別の物質へと変換可能。何に変容させるかは特定の手順を踏む事でコントロールする事ができ、例えば鉛を金塊にする――いわゆる“錬金術”が可能になったのだ。

 

 言うなれば崩壊液は『賢者の石』。

 各国はこぞって崩壊液の宝庫である古代遺跡の発掘に乗り出すが――その先に待っていたのは『愚者の末路』だった。

 

 2030年、中国の上海沖にあった北蘭(ベイラン)島の古代遺跡にて、崩壊液(コーラップス)の流出事故が発生。

 大量に流出した崩壊液を制御する事など誰にも出来はしない。島中のありとあらゆる物質に浸透した崩壊液は、同時に発生した莫大なエネルギーによる島の大爆発により、対流圏まで巻き上げられ……。

 

 ジェット気流に乗って世界中に崩壊液(コーラップス)がばら撒かれた。

 

 崩壊液(コーラップス)()()()()()()()()()()()()()()。つまりは、生物にも()()()()。崩壊液を浴びた生物は性質を変容させ、さながら“化け物(ミュータント)”と化してしまう。そんな崩壊液が人類の制御を離れて世界中に拡散してしまったのだ。

 

 こうして北蘭島事件は“世界の大部分を汚染し、世界の人口を激減させる”という大惨事を引き起こした。

 その後世界各国は汚染されていない限られた土地を巡って争い、やがて世界大戦へと突入するのだけれど……ここではその詳細は省く。

 

 とにもかくにも、崩壊液(コーラップス)は世界の大半を汚染して人類の生存圏は大幅に減った。

 つまりは、既にこの地球の多くの大地も海も、崩壊液に汚染されてまともな生物は生息していない。

 

 ……そう。生息していない()()なのだ。

 

 

 

*

 

 

 

「――本当にどこなんだろう、ここ……」

 

 ざざーん、と静かに波が打ち寄せる白い砂浜。

 そこで私――I.O.P社製第二世代戦術人形『FF FNC』は、ぼーっと青い海を眺めていた。

 

 遠く離れた沖合いで、ぴしゃんと魚が跳ねるのが見えた。

 脳内(マインドマップ)のデータベースを紐解くと、それは魚類の『アジ』と出た。確か図鑑で見た天然の海魚だ。今は水族館や生物学研究所といった場所でしか見る事が出来ない貴重な種のはずなのだ。

 そして、私の後ろに広がる森――それも富裕層(エリート)専用のリゾート施設に建設された人工の森のような――“天然の森”が広がっている。

 

 ……薄々は感じてはいたが、そろそろ現実と言うものを直視しなければならないらしい。

 

 

「ここは、()()()()()()()()()()って事だよね」

 

 

 今回の作戦の目標地点は“崩壊液汚染地域”の中――と言っても危険度が低い外れだが――にあった。汚染地域でも活動可能な戦術人形である私が護衛として選ばれたのもそれが理由だし、人間の船員さんたちもしっかりと防護服を着込んでいた。

 ちょうど人手が足らず、私の指揮官は私の分隊だけで行かせる事を謝っていたけど、今回は本隊が来るまでの先行偵察と調査が主任務だったし、(メインフレーム)含む5体のアサルトライフル分隊なら大体何とかなるって踏んでいた。

 

 ……まあ、船員さんも私のダミー人形(ドール)もみんな残らずあの化け物に食べられちゃったけど。

 

 閑話休題。つまりは本来は汚染地域のはずの()()は、私の(光学センサー)に狂いが無ければ、どう見ても汚染されていない。

 

 北蘭島事件とその後の大戦で世界が荒れ果てる前を再現した、富裕層向けのリゾート施設で見た――そのままの綺麗な光景が目の前に広がっているのだ。

 

 

 

*

 

 

 

 ――とりあえず。今可及的速やかに解決しなければならないことは。

 

『グウゥゥゥゥ……』

 

 ――この鳴り響くわがままなお腹を何とかしなければならない。

 

 活動開始からおそらく一日以上が経過している。船から投げ出されて、島に流れ着くまでの間にも、少なからずエネルギーを消費してしまっている。

 

 私たち“戦術人形”は、人間と同じく活動に食糧(MRE)を必要とする。環境が汚染された地球で貴重な天然食材なんて望めるわけも無く、私たちに配給されるそのほとんどは人工的に作られた“合成食材”だけど。

 

 そしてとりわけ私――『FF FNC』シリーズの戦術人形は、()()()()()により、すごく燃費が悪いのだ。

 

 だから任務にはいつもお菓子をいっぱい、いーっぱい持って出掛ける。

 ポケットの中にはいつもチョコレートバーが詰まっているし、もう片方のポケットにはキャンディを一掴み分入れてある。どちらも安価な合成食料なんだけど。

 

 それもあの“化け物”との戦闘と、船が壊れて海に投げ出された時に全部失っていた。

 

 戦術人形にとって、エネルギーの枯渇は“活動停止”を意味する。

 通常であれば、補給が尽きて活動を停止――“シャットダウンモード”に入ってもいずれ友軍の部隊が回収に来てくれる……が、おそらくこの場所ではそれは望めない。

 ……というか既にグリフィン本部と連絡が取れないもん。そんな状況で活動停止になったら……。

 

 ――私は決心して立ち上がった。

 

「食べられるもの、急いで探さなきゃ……」

 

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