「――あっさりー、しっじみー、はっまぐりさーん……」
急に
……何なんだろう、この
*
とりあえず食べられそうな物は、目の前の海にある。後方の森にも探せば食べられる物はあるだろうけど、森は
それを解決するために開発されたのが、生体部品を用いた人型アンドロイド――“自律人形”である。
民生用に開発された自律人形は、私を開発したI.O.P社が現在トップシェアを占め――例えば僻地の鉱山地区での労働や、街中のカフェ店員に至るまで――今や人々の生活に欠かせない存在となっている。
そんな便利な自律人形が軍事に転用されないわけが無く、新たに“戦術人形”と呼ばれるカテゴリが生まれた。その多くは最初から戦闘用に開発・調整された人形だけれど、私たち民生の人形が戦う
『コア』と呼ばれる特殊な
それが“I.O.P社製第二世代戦術人形”である。
とは言っても、純正の軍の戦術人形に比べてどうしても私たちには運用上劣る箇所が幾つかある。
食事の件がまさにそれで、“人との共生”をコンセプトに開発された民生用人形出身の戦術人形は「人間と同じ物を食す」ように設計されていて、それ以外の物を食べる事を推奨していないのだ。
閑話休題。というわけで、私『FF FNC』は岩場へと向かっている。
データベースによれば、岩場は“タイドプール”と呼ばれる潮溜まりがあり、そこは
そんなわけで、岩場に私のお腹の行く末を託したのだ。
*
残念ながら、世の中そんなに甘くなかった。
潮溜まりには小魚がいたけれど、私が近づくとすぐに逃げてしまう。ずいぶんと気配に敏感らしい。
近づかずに遠くから狙撃すれば……なんてよく分からない事を考えてしまったのは空腹のせいで
そもそも水中の小魚に当てられるわけが無いし……いや、モシン・ナガンさんとかM14さんみたいなライフルなら普通に出来ちゃうのかな……というか私の
小魚は諦め、仕方ないので貝を探す事にする――探し始めて小一時間経ったほどだろうか。
「えっと……これは、『サザエ』……だっけ?」
見つけたのは、黒くてごつごつとした殻を持つ巻き貝。ユーラシア大陸東部――東アジアに広く分布していた貝で、ニホンでは好んで食されていたらしい。
「私にも、食べられるのかな?」
私の呼び出した『サバイバル大全』は元々
食べ慣れない
「……とりあえず、火を通して食べてみようかな」
何より、これで憧れだったニホンの食べ物が食べられる事に私は興味深々だった。
*
幸い、火起こし用のサバイバルキットは遭難で失うことなく、ポーチの中に残っていた。
これが無ければ生でサザエを食すはめになっていた。危ない危ない。
私は戦術人形だし、たぶん生で食べても大丈夫だろうけど“気分の問題”なのだ。
近くの小石で簡単なかまどを作り、落ちていた枝切れや葉に防水マッチで火を付ける。
ぱちぱちと勢いよく燃え始めた所に、採ったばかりのサザエを逆さまにして置いていく。
味付けは……“ショウユ”とか“ニホンシュ”なんて調味料は無いので、とりあえず塩水をすくってかけた。
作りたいのは『サバイバル大全』著者のお勧めらしい“ツボヤキ”だ。
*
……しばし待つこと数分。貝の入り口がぐつぐつと煮え、海水の匂いが周囲に漂い始める。
「よいしょっと……えい」
頃合を見計らった私は、貝の入り口を塞ぐ
すると、うにょにょんと白い身が出て、その後ろからこれまたうにょにょんと黒くて緑っぽい内臓? みたいな物も付いてきた。それと同時に磯の香りがぷぅんと
「……なんか、グロい」
ぷりんとした身の方は、まだ美味しく食べられそうだけど。おまけの黒い部分はちょっと食べ辛い……というか、データベースによれば“ツウの人向けだから”別に食べなくても良いらしい。ツウってなんだろう?
――というわけで黒い部分は取り除いて、熱いうちにいただきます。
「はむ……」
ほかほかの白い身を口にほお張ると、磯の香りが口の中にじゅわっと広がった。
「はふはふ」
熱々の身を噛むと独特の歯ごたえがある。噛めば噛むほど海の風味が広がる。初めて食べるけど……あ、これ結構好きかもしれない。
何より合成食材で無い
――そっか。これが“味わう”ってことなんだ。
いつものチョコバーやキャンディといった定番お菓子を食べている時とは違う感覚に私は包まれる。
素材や調理法、多彩かつ新鮮な情報を全身の様々なセンサーから手に入れる。それが味わうと言う事。
私の
初めての憧れのニホンの食べ物がお菓子ではなくて、ツボヤキになったのは気になるけど……。
……まあ、いいや。
私のお腹はまだまだ膨れない。サザエは多目に採ってきたし、どんどん焼こうっと。
*
「――おう、
私が夢中になってサザエを焼き始めて、食したけどそれでも足りなくてまた岩場に採りに行って……再び焼き始めてしばらく経った頃。
私がサザエとにらめっこしていたその時、不意に私に話しかける声が聞こえた。
はっとして顔を上げると、そこにはにひひと笑う水色の髪の少女。
「煙がもくもく出てたからさー、気になって来たんだよ。ところで、あんた誰?」
その服装はニホンの“セーラー服”――一〇〇式ちゃんが着ていた服にどこか似ていて。
背中と腰には不思議な装備を身につけていて、その手には銃らしき物を持ち。
そして何より、彼女は『
――これが私と、佐渡ちゃんと、横須賀第二鎮守府所属『第九哨戒艦隊』との初めての出会いとなった。