――チチ キトク スグカエレ――
……流石に今時電報では届かなかったが、似たような意味の文面が妹からSNSで届いたのが三日前の事だ。
実家の果樹園にて農作業中の私の父が、高所作業車から落っこちて重体、それを聞いた母が右往左往の大慌て……という事態に、実家で暮らす妹が助けを求めてきたのだ。
そんなわけで横須賀鎮守府は第一から第三まで動員した『
作戦の真っ最中なのに休暇申請が通るか怪しい物であったが、そこは流石の“第二”である。
主計科から決裁印が押された申請用紙があっさり戻って来た時は拍子抜けしたものだ。
やっぱり戦力的に
*
結局父親の怪我は大した事も無く――いや、それでも大腿骨骨折という重傷なのだが――危篤と言うのは流石に大げさだった。
とは言え、父も決して若いわけではない。元気な老人が怪我をして一気に老け込むといった事例は聞いた事があるため心配ではあったが……あ、やっぱ大丈夫だわうちの両親未だに
「あ、じゃあ仕事に戻るから……」と私が病室を後にしたその背後で、堅物の父は母に林檎を一切れずつあーんされていた。あーうん端から見てても恥ずかしいが好きにやってくれ。
世の中平和が一番だ、今は深海棲艦との戦争中だが。
そんなわけで「結婚はいいぞ」オーラを纏う両親と疲れ気味の妹に別れを告げ、私は横須賀への帰路についた。結婚ねえ……私の職場は年頃の女の子たちに囲まれる素敵な職場です。ただ恋愛関係に発展しないだけで。
途中で呉鎮守府に寄り、同期の提督と南方海域における『
急いで電車に飛び乗った為に、買う予定だった呉のお土産を逃してしまった。仕方ないのでそのまま京都へと向かい、そこで購入したのが京都名物“生八つ橋”というわけだ。
第九哨戒艦隊が調査に赴いていた“不審船遭難事件”の生き残りが見つかったと聞いたのは、呉の鎮守府へと向かっている時のこと。事件の詳細――すなわち
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こうして無事鎮守府へと戻ってきた私を執務室で出迎えたのは、私の秘書艦を勤めている重巡洋艦の艦娘“摩耶”と、軽巡洋艦“五十鈴”率いる『第九哨戒艦隊』の面々――
そして、もう一人……くりっとした青い目とベージュ色の髪のショートヘアの、可愛らしい白い肌の少女。
まるで実家で幼い頃に見た、西洋の人形のような……可憐な少女であった。
……うん。正直言って、すごく可愛い。
そんな第一印象であったが、私が摩耶に差し出した
*
「……なるほどね。まあ俄かに信じがたい話ではあるけど」
執務室の隣にある、応接室のテーブルを挟んだ向かい側にて、夢中で“生八つ橋”を食べる少女に、私は話しかけた。
彼女の手と口は忙しなく動き、八つ橋と淹れられた渋いお茶の間を行き来している。
「もきゅもきゅ、私にも、もぐもぐ、こんな状況になるとは、もぐ、今でも信じられないですごっくん」
「ええっと、食べるか話すかどちらかにしようか?」
「もぐ、あ……ごめんなさい。じゃあ、とりあえず食べてから……」
……食べるのが優先かい。
まあ、仕方のないことかもしれない。
聞いた話では彼女は“
しかも彼女のいた世界は随分と荒れ果てているとのこと。きっとひもじい思いをしたのだろう。ここでは思う存分食べるがいいさ。
……それにしても、“
目の前の少女が
細い腕を覆う“肌”はまるで本物の質感だ。これは現代の科学技術では再現不可能であろう。
彼女がまだこの世に知られていない技術から造られた可能性もあるが、彼女が“向こうの世界”からやって来たという話は妄言では無いのかもしれない。
……そんな考えに至るのも、私が
「……もぐ、ごっくん。ごちそう様でした!」
お土産の八つ橋を一箱分ぺろりと平らげた彼女――『FF FNC』は、そう言って笑顔で私にはにかんだ笑顔を向けた。うん、顔にあんこ付いてるよ。まさか少し多めにお土産を買っておいたのが功を奏すとは思わなかった。
「気にいって貰えたようで何よりだ」
「はい! 私ニホンのお菓子を食べるのが夢で……“ダイフク”とか、“ナマヤツハシ”とかー、ずっと食べてみたいと思っていたんです!」
……そう言えば、彼女が言う“向こうの世界”での“日本”はどうなっているのだろうか。
聞いてみたい気もしたが、何故か嫌な予感がしたので止めた。