戦術人形の朝は早い。というよりも私『FF FNC』の朝が早い。
――“スリープモード”から復帰中――
――10秒後“AI覚醒モード”に移行――
――各種センサー異常無し――
自律人形のOSが起動しAIシステムが覚醒。人間で言う所の“起床”状態となり私はぱちりと目を開き光学センサーを起動させる。
……と同時に私の身体が
『グウウウウ……』
主に
つまりは
「お菓子……お菓子無いかな……」
何故かと言えば、私の暮らしていた『S150地区G&K社宿舎』には、私専用のどでかい冷蔵庫がでん、と置かれていたからだ。
中には私がせこせこと溜め込んだチョコバーやビスケット等のお菓子が詰まっている……それが影も形も無い、という事は。
「あ、そっか。ここは
*
――いっちにー、さんし。
古ぼけたラジオから流れる軽快なBGMと共に、私はぎこちなく手足を動かしていた。
静かな朝の鎮守府の庭の上を、チチチと小鳥が飛んでいく。庭には私の他には海防艦の
なおその佐渡ちゃんと対馬ちゃん曰く、朝のこのラジオから流れる体操はニホンの良き伝統であるらしい。
というわけで、私の目の前で元気あふれる佐渡ちゃんの動きに合わせて、私も見よう見真似で身体を動かしていた。
人間のように身体を鍛える必要の無い戦術人形にとって、“体操”は一見意味が無いように思われるがそうでもない。
身体を満遍なく動かす事で光学・触覚・温度センサーや体内に存在するバランサー、情報集約装置に異常が無いかの
つまりは、戦術人形が備える各種機能のメンテナンスとして効果を発揮する。
センサー系の異常で右腕を断裂している事に気付かなかったある戦術人形が、翌朝体操をしている時に担当指揮官がその異常に気付いたという例もあったとか……そんな噂も聞いた事がある。誰から聞いたんだっけ……スコーピオンちゃんかな。
「おなかすいた……」
そして、私のお腹は相変わらず空腹の
何か食べる物は無いかなーと、鎮守府内をふらふらとさ迷っていた時に佐渡ちゃんと対馬ちゃんに外へと(半ば強引に)引っ張り出されたのだ。ここで昨日からお世話になる身としては「あ、何か食べる物探してて……」という言い訳で断れるわけもない。
そんなわけで、私はただひたすら空腹に耐えながら体操をしている。
*
「おなかすいた……」
時刻は
「ふー姉ちゃん、大丈夫か?」
心配そうな顔で私を見るのは佐渡ちゃんだ。対して対馬ちゃんはあまり心配そうな顔でもなくにっこりと微笑みを浮かべている。私の元気が無いのが空腹のせいだけだと言う事をよく分かっているのだろう。
そう言えば、グリフィンの同僚や指揮官にも部隊の配属当時は結構心配された
単に
「よっ、朝の体操かい。お疲れっ!」
食堂の扉を開けると、そこには第二鎮守府の秘書艦である摩耶さんが椅子に座っていた。食堂内の炊事場からは朝食の調理中なのか、ふわりと良い匂いが漂ってくる。早くごはんごはん。
「そうだぜ! 摩耶ねーちゃんも来れば良かったのにさー」
「ごめんなー。ちょうど仕事があってな」
そう言って摩耶さんは近寄ってきた佐渡ちゃんの頭をわしわしと撫でた。
撫でられてきゃっきゃとはしゃぐ佐渡ちゃんは本当に楽しそうだ。
「きゃはははっ、くすぐったーい!」
「ふふ、佐渡ねえさんたら……」
「お、羨ましいならお前の頭も撫でてやろうか?」
「いえ、私は遠慮しておきます」
「ちぇー、つまらん」
対馬ちゃんに丁重にオコトワリされて口をすぼめる摩耶さん。いつの間にか腕の中に収まっていた佐渡ちゃんをより一層強くわしゃわしゃと撫でる。
もみくちゃにされた佐渡ちゃんが疲れ果ててへとへとになるまでそれは続いた。
*
「――というわけで、ウチら“第二”の本日のお仕事は、近海警備となる」
「近海警備ですか。つまりは
「そういうこった。あとここにいない五十鈴と磯波、浦波は既に出撃済みだ。あいつ等は北東方面に向かったから、うちらは逆方向を警備だな」
出来上がったばかりの朝食を食べながら、摩耶さんが今日の予定について
摩耶さんの説明にうんうんと頷きながら佐渡ちゃんと対馬ちゃんも朝食を食べる。
そして私はその横で黙々と朝食――“ワショク”を美味しくいただいていた。
炊き立ての白いご飯に、ニホンの調味料であるミソを溶かしたミソスープ。
おかずとして海藻で出来た薄いシート……“アジツケノリ”と、綺麗な形をしたフライドエッグ……“メダマヤキ”が並んでいる。
使い慣れないハシで千切ったアジツケノリの欠片を口に放り込むと、甘辛い味が口の中に広がる。あ、オセンベイに似た味で好きかもしれない。
その様子を見ていた対馬ちゃんに指摘され、今度はシートでオチャワンのご飯をちょびっと巻いて、口の中へと誘う。
ゆっくりとそれを噛み締めると、一つに纏まったノリとご飯がほろほろと崩れつつも、混然一体となっていく……その味を私は楽しんだ。
メダマヤキも美味しそうだ。真っ白な白身の真ん中に、こんもりと盛り上がる黄身は半熟で、ハシで突くととろんとした中身があふれ出て、周りの白身を黄色に染めていく。付け合せにちょこんと置かれた千切りキャベツに絡めて食べるのも“オツ”だ。
メダマヤキの食べ方は人それぞれ。摩耶さんはソースをかけているし、対馬ちゃんは塩コショウをかけてちまちまと食している。
佐渡ちゃんは、ショウユをかけたメダマヤキをそのままオチャワンの上に載せて、“メダマヤキドン”を作って食べていた。卵の黄身とご飯とショウユが混ざり合うのが好きなんだって。
「これも美味いんだぜー」
黄身で黄色く染まったご飯粒をほっぺたに付けながら、佐渡ちゃんは私に向かってにひっと笑った。
私も次回は試してみようかな。
*
……そう言えば。
「あの、ところで私はどうすればいいんでしょーか?」
摩耶さんに佐渡ちゃん、対馬ちゃんはこれから出撃だ。五十鈴さんたちも既にいない。
“第九哨戒艦隊”の皆が出撃してしまっては、私は今日はどうすればいいんだろう。
「ああ、“ふー”についてはだな……」
そう言って、摩耶さんがポケットからメモ帳を取り出して、パラパラとめくる。
「――今日は
「……提督さんが?」
私は首をかしげた。