ようこそ実力至上主義の教室へ~ジェネレーションネクスト~   作:たけぽん

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10話 喋るということは、自らを晒し他をも晒す

ある休日、俺は特に用もなくショッピングモールをうろついていた。ウインドウショッピングなんてくだらないという先入観は早々にこわれ、俺はいろんな店を見て回る事が趣味の一つになっていた。

この学園は私物の持ち込みが厳重に制限されているが現金の持ち込みは一定値まで許されているので生徒によってはポイントを使わなくても何一つ不自由はない。とはいってもそれだけ学費は高いが。

だがしかし、この学園は一体どうやって運営されているのだろうか。ショッピングモールや学生寮、最先端技術の食材の仕入れなど、いくらなんでも生徒の学費だけでは成り立たないだろう。とても大きなスポンサーがついているということだろうか。

 

「まあ、考えても仕方ないか」

 

まだ1年のそれも1学期だ。こんな時期から考えてもベストな答えは出ないだろう。複雑な思考回路を振り切って俺は近くのスポーツ用品店に入る。休日だけあって結構混んでいる。特に何も考えずに見て回っていたが、ふとこの前の朝日との会話を思い出す。

 

「部活動か……」

 

俺自身は部活動に入る意思はないが、この学園の部活動がどういうレベルで、どういう指導をされているのかには大いに興味がある。部活で得られるポイントの内訳がわかれば、高橋に情報を提供してやることもできる。まあ、そんなことしなくても高橋なら自力で調べそうだが。

 

考えながら歩いていると、体に強い衝撃をうけた。どうやら誰かとぶつかってしまったようだ。だが、俺も相手も一切声を出さなかった。それは偶然かなんなのか、とりあえず俺は謝ろうと相手の方を見る。

 

「どうもすみません」

「いえ、こちらこそ」

 

ぶつかった相手はショートカットで上下ジャージを着た女子だった。運動部だろうか。だがそれ以上特に何も言わず俺たちはすれ違った。

 

その後スポーツ用品店をでた俺はいい時間なので寮へ帰ることにした。今日の晩御飯はもはや恒例になった月に一度のエビフライだ。檜山が毎月献立を見ながらカウントダウンするので俺もエビフライの日を憶えてしまうくらいだ。それくらい食堂のおばさんが作るエビフライは絶品なのだ。

 

「……それにしても」

 

さっきから、具体的にはショッピングモールに来てからずっと張り付くような視線を感じる。それも一つ二つでなくたくさんの視線を。ずっと監視されているようでとても気持ちが悪い。相手を探そうにもショッピングモールは混雑していて困難だ。やりようによっては特定できるがそうすると否が応でも目立ってしまう。俺は現段階で目立った行動をするわけには行かない。幸い向こうも危害を加えようとしているわけでは無さそうなので、放っておいても大丈夫だろう。

バス停までくると、視線は消えた。流石にこんなところまでついてくれば正体が割れてしまうだろうし妥当な判断だ。それにしても複数人で俺の監視とは一体どういうことだろか。

 

「あら、霧咲君じゃないですか」

「げ」

「げ?」

「げ……元気か楪?」

 

とっさに誤魔化す。別に楪を避けているわけではないがあまり噂になるのも彼女に悪い。取りあえず一定の距離をあけて隣に立ちバスをまつ。とはいっても乗るバスは違うのだが。

 

「ご機嫌はいかがですか?」

「まあ、平常運転だ」

「ふふっ、そうですか」

「楪は何か買いに来たみたいだな」

 

事実、楪の手には紙袋がもたれている。なんだかおしゃれな紙袋だが、何を買ったのだろうか。

 

「ええ。明後日のお茶会に向けてお菓子を」

 

そういえば明後日だったか。場所はAクラスの寮だと言われたが、一体どれほど豪華な寮なのだろうか。少し楽しみだ。

 

「それにしては少し少ないんじゃないか?」

「いえ、他は彼が持ってくれていますから」

「彼?」

 

誰のことだろう。楪以外は全く関係ない人しかいないように見えるが。

 

「あ、楪!ごめんごめん、少し手間取っちゃってさ」

 

その声は俺の後方から聞こえてくる。振り向くと高円寺に負けないくらいのイケメンが走ってきた。

 

「いえ、注文が少し多かったので仕方ありませんよ」

「確かに、こんなにケーキを買ったのは生まれて初めてだよ……ん?」

 

イケメンは俺の存在に気付いたようだ。

 

「こちらは私の読書友達の霧咲勝真君です」

 

楪は俺を紹介する。イケメンの方はそれを聞いて、笑顔で自己紹介を始めた。

 

「僕は1年Aクラスの高須賢吾(たかす けんご)。サッカー部に入ってるんだ。よろしくね霧咲君」

 

名前に自己PR、そしてよろしくとは絵に描いたような素晴らしい自己紹介だな。俺も会釈する。

 

「高須君はAクラスでもトップクラスの成績で、前回の中間テストでも1位だったんですよ」

「いやいや、楪が数学で一問落としてなかったらわからなかったよ」

 

Aクラスのトップ。つまりは1年生の中では総合力トップのエリートだな。楪にしても成績が良いとは聞いていたがまさかトップと肉迫出来るほどだとは思わなかった。なんというか、傍目にみて俺とだと完全に不釣り合いだよな。

 

「霧咲君もお茶会に参加してくれるんですよ」

「へえ、そうなんだ。それは楽しみだね」

 

イケメンってのはやっぱり性格も良いんだな。うらやましい限りだ。

 

「そういえば、今日変なことはなかったか?」

「と、言いますと?」

「いや、例えば誰かに見られているような気がしたとか」

 

楪は少し考え込む。

 

「そうですね。多少そんな気はしましたが、買物に夢中で忘れていました」

「いやいや気を付けなよ?もしかしたら変質者かもしれないし」

「おや、でもその時は高須君が守ってくれますよね?」

「人使い荒いな―もう」

 

なんで目の前でいちゃついてるんだ。

 

「それで、どうかしましたか霧咲君?」

「いや、高須の言うとおり変質者の目撃情報を聞いたから心配になっただけだ」

 

適当に理由をつける。

 

「あら、優しいんですね」

「ありがたきお言葉で」

 

ちょうどバスがきたので楪たちに別れを告げ、バスに乗り込んだ。

帰ってエビフライ食うか……。

 

 

 

 

 

 

 

***

 

そして2日後、放課後を迎えた俺は高橋と高円寺と一緒にAクラスの寮を目指していた。とはいってもAクラスの寮はどの組よりも学校に近いのでそんなに歩くわけではない。

 

「他の組の寮へ行くなんて初めてだよ」

 

無言で歩いているのも居心地が悪いと感じたのか高円寺が話題を提示してくる。高橋は何も言わないので俺が応じることにした。

 

「確かに。そもそもDクラスは他組にとってはいつ自分たちの立場を脅かすかわからない厄介な存在とも言えるから普通招待しようなんて考えないだろうしな」

 

入学当初なら良かったかもしれないが、中間で明らかにおかしい結果を出した以上は警戒が強くなっていてもおかしくない。それなのになぜ楪はお茶会なんて開いたんだろうか。

 

「それなのに私たちを招いたということは、中間テストの結果を導いた誰かさんをあぶり出すためかもしれないわね」

 

やっと喋ったと思ったら高橋はそんな言葉を浴びせてきた。まあ実際楪は何の根拠があってか知らないが俺に目をつけているようだし、間違っていない。だが、俺もバカじゃない。通話やメールの履歴は逐一消しているし、どんなに調べても俺につながる明確な証拠は出ないようにしている。

 

「大丈夫。考えたのは霧咲君でもやったのは俺だ。上手く対応するよ」

 

高円寺は試験監督買収の時も驚きはしていたが俺について詮索はしてこなかった。やはり人づきあいがうまいと線引きも上手いということか。

 

「まったく、人を隠れ蓑にしてまで何がしたいのか理解に苦しむわ」

 

だが、それとは対照的に高橋はしょっちゅう詮索してくる。人づきあいが下手なのだろう。実際、高橋が朝日以外の女子と親しくしているところを見たことが無い。

 

 

そうこう言っていると、Aクラスの寮が見えてきた。

 

「……これは、本当に差別ってレベルだな」

 

目の前にあるのは俗に言う洋館というものだった。大きな建物に白い外壁、近くには綺麗な池まである。総じてDクラスなんて比にならない程の豪華さだ。隣を見ると高橋も少し驚いているようだ。

 

「さて、確か楪さんの使いの人が案内してくれるはずだけど」

 

それにひきかえ高円寺は冷静そのものだ。その言葉どおり、俺たちのもとにAクラスの生徒が近づいてくる。

 

「こんにちは。Dクラスの方々ですね、お待ちしておりました」

 

生徒は俺たちについてくるように促す。それに従い俺たちはAクラスの寮に足を踏み入れた。漫画やアニメであるような富豪の家のような作りと言ったらわかりやすいだろうか、とにかく寮の中は別世界とも言えるものだった。これは設備目当てで交換試験を希望する生徒もいそうなもんだ。

 

「こちらの部屋になります」

 

手で示された部屋のドアをあけ、中に入ると、高そうなソファに大きなテーブル、さらには赤い絨毯が敷かれていた。本当にどこからこんな金が出ているのか不思議なものだ。

 

「お待ちしてましたよ、霧咲君」

 

テーブルの一番奥のソファに座る楪が俺たちを歓迎してくれる。見渡すと、既に他の組の生徒はソファに座っている。どうやら俺たちが最後のようだ。

 

「すまん、時間通りだと思ったんだが、遅かったか?」

「いえ、時間どおりですよ。単純に教室からの距離の問題でしょう」

 

俺たちは取りあえずソファに座った。ものすごくふかふかで、きっとこういうのを人を駄目いするソファというのだろう。

 

「とりあえず、自己紹介しましょうか。私たちAクラスから順番で。まず私は1年Aクラスの楪柚子です。お見知りおきを」

 

楪の言葉に従い、自己紹介が始まる。とはいってもAクラスは楪と高須だけなので、俺にとって特に目新しい情報は無い。

そして自己紹介はBクラスに回る。

 

「1年Bクラスの山崎志穂(やまざき しほ)でーす。今日はお招きいただいてどうもありがとー。こんなにおいしそうなケーキまで用意していただいて……ぐへへ」

 

山崎と名乗った女子はテーブルの上のケーキにくぎ付けになっている。檜山と話が合いそうだな。

隣の男子が大きく咳払いする。山崎ははっとしてケーキから目を離す。つぎは彼の番だ。

 

「同じく、泉亮太(いずみ りょうた)です。今日は有益なお茶会にしましょう」

 

何ともシンプルな自己紹介だ。無駄もなく、聞いていてとても良い印象がもてる。ぱっと見ガリ勉のイメージがあったがコミュニケーションもしっかりしている。

 

「次は俺らですな。自分は1年Cクラスの伊野ヶ浜猛(いのがはま たける)と申します。内うちのクラスの連中はけんかっ早い奴が多くてご迷惑をかけることもあるかもしれませんがよろしゅうお願いしますわ」

 

この伊野ヶ浜という生徒は前に手塚ともめていた人相の悪い生徒だろうか。声や見た目はそっくりだが、表情や喋り方はあの時とは打って変わって礼儀正しい。

 

「Cクラスの坂上千尋(さかがみ ちひろ)です。……よろしく」

 

その女子生徒は昨日スポーツ用品でぶつかった生徒だ。だが、向こうは俺の存在に特に反応を見せない。忘れているのだろうか。

 

Dクラスの番が回ってきたので、俺と高橋が順に当たり障りのない自己紹介をする。最後に高円寺の番にまわる。

 

「Dクラスの高円寺斉人です。まずは今日出会えたことを嬉しく思います。これから親睦を深めていきたいです。よろしくお願いします」

 

そのあいさつに反応したのは意外にも高須だった。

 

「え、ひょっとして高円寺コンツェルンの斉人君?」

「うん、そうだけどなんでそれを……まさか高須賢吾って、あの賢吾!?」

「そうだよ、久しぶりだね斉人!」

 

二人はなにやら盛り上がっているが、事情を全く知らない俺たちはポカーンとしていた。

 

「高須君。嬉しいのはわかりましたが、みなさん何がなんだかわからないようですよ?」

 

楪が立ち上がっている高須をたしなめ座らせる。しかし、今の言い方だと高円寺と高須は知り合いということだろうか。その疑問に答えるように高円寺が説明する。

 

「俺の家と賢吾の家は昔から付き合いがあってね、小学校がいっしょだったんだよ」

「ひょっとして高円寺はんはあの有名な高円寺コンツェルンのご子息なんでっか?」

 

伊野ヶ浜が問いかけると高円寺はうなずく。

「さて、ではお互いに顔もわかったところでお茶会、始めましょうか」

 

その言葉で、1年生では初めてのお茶会が始まった。高円寺たちは早速雑談を始めた。俺は特に何もしゃべらずに出されたケーキと紅茶に手をつける。どうやらケーキに関してはランダムに置かれているらしく、俺の前にはモンブランが用意されていた。たしかこれはショッピングモールでも結構高い店のものだったはずだ。それをここにいる全員分とは、Aクラスも太っ腹だな。

 

 

 

「それにしてもDクラスの中間テストの結果には驚きましたわ。いったいどんな手を使つかいはったんですか?」

 

しばらく雑談を聞いてたが、唐突に伊野ヶ浜がそう切り出してきた。当然俺は何も答えない。高橋も高円寺に返事をまかせ、紅茶を飲んでいる。それにしてもこの紅茶、いいな。雑談中に楪は「いもくりかぼ茶」と言っていただろうか。鼻からぬけるかぼちゃの香りがとてもいい。今度買ってみよう。それはともかく、高円寺は特に慌てることもなくいつもの調子で答える。

 

「あまり詳しくは言えないけど、クラス皆のネクストポイントを使ったんだ」

 

これくらいなら言っても問題ないラインだ。ネクストポイントの力については伊野ヶ浜たちも理解しているだろうし、あとは各自勝手に想像してもらえばいい。

 

「ほう、なるほどですわ。それ、高円寺はんが一人で考えはったんですか?」

「うん、そうだよ」

「そらすごい、Cクラスもうかうかしていると『交換試験』仕掛けられてまいそうですな」

 

『交換試験』の言葉を聞くと、全員の雰囲気が変わった。お互いに腹を探り合おうとする意志が感じられる。

 

「そうですね、Dクラスには気をつけないといけませんね。ところで、Dクラスのみなさんからは何か聞きたいことはありますか?」

 

その中で最初に口を開いたのは楪だった。確かに、中間テストの結果を考慮してもネクストポイントや情報で大きく不利な位置にいるDクラスからすればここで聞けることをできるだけ聞いておきたい。

 

「えっと、じゃあ質問するけど、Dクラス以外のクラスはどんな授業を受けているのかな?」

 

高円寺はあらかじめ質問を考えていたようで、すぐに問いかけた。Dクラスでは一般的な高等教育程度の授業しか受けていないが、他の組はもっと別の教育を受けているはずだ。

 

「そうだね、Aクラスは普通の高等教育に加えて発展的な内容の座学、スポーツに関してはスポーツ選手レベルのメニューでトレーニングしているよ。他にも、グループディスカッションみたいにアクティブラーニングも頻繁にやっているかな」

 

高須が答える。やはり総合力トップを有する組だけあってかなり良質な教育だ。

 

「とはいっても全てを受ける訳ではなく、卒業要項を満たせれば授業は自由に選んで受けられます。例えば私はスポーツに関しては最低限しか受けていません」

 

大学生のようなものだろうか。自由に受けられる代わりに自己管理がしっかりできないと破綻するわけだ。朝日とかには難しそうだな。

 

「BクラスはAクラスと同等の座学をうけてて、あとは大学進学に向けての勉強をしてるよー」

「月一で模試もやっています」

 

山崎と泉も特に嫌がらずに教えてくれる。なるほど、スポーツは一切無いようだ。そこまで人材や器具を提供できないのか、それとも段階的に上がって行くのだろうか最初から学力による有名大学への進学狙いということか。

 

「Cクラスは、Aクラスと同等のスポーツ教育を受けていてプロ入りやスポーツ推薦を狙う奴が多いですわ。まあ当然座学もありますがレベルとしてはDクラスと変わりません」

 

伊野ヶ浜は笑顔で答える。この流れから察するにBクラス、Cクラスにもそれぞれ特色やアドバンテージがあるようだ。そしてDクラスにはそれが一切ない。だがそれでもAクラスで卒業しなければ100パーセントの恩恵は受けられない。これで各組の実情は把握できた。これはおいおいDクラス全員で共有すべきだろう。

 

「それともう一つ聞きたいんだけど、『交換試験』について知っていることは無いかな?」

 

高円寺の表情がすこし深刻なものになる。さっきまで黙っていた高橋もすこし前のめりになっている。

 

「『交換試験』に関しては私たちも詳しい事はわかりません。なにせ制度に関しては上級生からは原則聞けませんし、教師たちも教えてくれません。ただ、『交換試験』を希望する場合は担任に相談すれば必要なネクストポイントや試験内容について教えてくれるそうです」

 

楪の言葉通りなら、希望の意志を見せればいつでも聞くことは可能ということか。だが、現段階では希望する1年生は出ていないので全貌は謎のままということか。

 

「ということは『交換試験』を受けるよりクラスポイントをあげてみんなで上を目指した方がいいのかな?」

 

高円寺は少し嬉しそうな表情で尋ねる。

 

「ううん。Bクラスでも一人でAクラスに行きたいって言ってる子もいるからそんなことは無いと思う。単純にトップバッターになるのが怖いんじゃないかな」

 

山崎の言葉に高円寺は少し落胆しているように見える。

 

「霧咲君は何か質問はありますか?」

 

唐突に楪が俺に話をふってきた。確かにここまで俺はただ紅茶を飲みケーキを食べるだけで、何も発言をしていない。高橋と違って興味があるようなそぶりもしていない。このままだと逆に怪しまれるかもしない。

 

「そうだな……噂で聞いたんだが毎年Dクラスに交換試験をしかけてくる生徒がいるって本当なのか?」

 

以前朝日から聞いたことを話題にする。

 

「確かに、それは先輩が言っていたし本当だと思うよ」

「高須はんのおっしゃるとおり、Cクラスの先輩方も言ってましたわ」

 

これで噂はより真実味を帯びてきたな。そしてやはりDクラスの生徒に『交換試験』を仕掛けてくることには何らかの意味があるということだ。

 

「私からも質問してもいいかしら」

「どうぞ、高橋さん」

「他の組のネクストポイントのスタート値と現在値の平均を教えてくれないかしら」

 

あえてここにいる者の点数を直接聞かないのは牽制の意味もあるのだろう。

 

「なかなかいいとこついてきはりますな。Cクラスは最初は1300くらいが平均でしたかねえ。今は3000くらいですかね」

「BクラスもCクラスとあんまりかわらないかなー」

 

さらりと言っているが、Dクラスとは大きすぎる差だ。しかも1300から3000ということはおそらく中間テストで得られるネクストポイントもDクラスとは別次元ということだろう。圧倒的にDクラスは不利な位置ということが改めてはっきりした。

 

「Aクラスはスタートは3500でしたね。現在は7000前後が平均でしょうか」

 

そしてそれを大きく上回るAクラス。実力主義とはよく言ったものだ。

 

「それは中間テストだけでそこまでのびたの?」

「いえ、中間以外にも先生によっては授業内で加点してくれるかたもいらっしゃいますよ」

「雪坂先生とかは結構くれるねー」

 

俺の推測通り俺たちの知らないところでネクストポイントは動いていた。だが、Dクラスでは起きていない。それは何故だろうか。

 

「……そう。わかったわ。どうもありがとう」

 

高橋はメモを取りながらお礼を言う。

 

 

それから2時間ぐらい他愛のない話が続き、お茶会はお開きになった。別れ際、参加者全員でメアドを交換し、今後もよろしくと社交辞令の様な綺麗な挨拶をかわし俺たちは帰路に就いた。

 

「それにしても、凄かったね」

 

行くときと同様高円寺が話を切りだしてくれる。

 

「そうだな、凄く美味しいモンブランだった」

「あなた、高円寺君がそんな話を切りだしたと本気で思っているの?」

 

さーせーんと心の中で謝っておく。

 

「確かに、彼ら一人一人からものすごいプレッシャーを感じたわ」

「うん。やっぱり中間の結果から警戒されているようだね」

 

まあ、圧倒的に格下だと思っていたものに急に迫られるというのはあまりいい気分ではないだろう。高須なんかはそうでもなさそうだったが。

 

「ねえ、高橋さんと霧咲君はやっぱり、ネクストポイントをあげて交換試験で上をめざすのかな?」

 

そんな中、高円寺は珍しくためらいながら聞いてきた。

 

「俺はやっぱり、クラスポイントをあげてみんなで上にいきたいんだ。高橋さん達が協力してくれればきっとできるよ!中間テストだってそうだった!」

 

俺はともかく、高橋は何と答えるだろうか。いや、そんなのは分かり切っているか。

 

「お断りするわ」

 

ですよねー。

 

「で、でも中間の時は檜山君たちに勉強を教えてくれてたじゃないか」

「あれは少し事情があったのよ。それに、私が教えなくても誰かさんの作戦でみんな中間を突破できたわけだし」

 

高橋はこちらに視線を向ける。そんなに見つめられると恋に落ちたり……しないな。

 

「……霧咲君は、霧咲君はどうだい?」

「高円寺、あまり俺を買いかぶるな。中間テストに関してはたまたまあの策を思いついただけで、俺自身は凡庸な人間だ。お前の期待には答えられない」

 

高円寺には悪いが俺にも目的がある。それなのに毎回全員を救済するのは効率が悪い。というのが今のところの見解だ。

 

「そっか……でも考えが変わったらいつでも言ってね。俺たちは待ってるから」

 

普通なら怒りをぶつけられても文句は言えないがさすが高円寺は寛大だ。

みんなで協力してAクラスを目指すか一人の力で目指すか。どちらが正しいかは現状では分からない。最も、俺は目的を達成できればクラスはどこでもいいんだが。

***

 

その夜、寮に帰った俺は晩飯を済ませベッドで横になっていた。よくよく考えると俺の学園生活は飯を食い学校へ行き帰ってくるという単純なサイクルだ。もっとも、今日のようにイレギュラーがあったり檜山と釣りに行ったりもするわけだが。

それにしたって高校生というのはもう少しなにかするのではないだろうか。もっとも、檜山は料理男子で高円寺はイケメンリア充。一般的な男子高校生の過ごし方の見本が俺の周りには無いのだが。

そんな事を考えていると、メールの着信音が鳴った。

 

差出人は『unknown(アンノウン)』。誰かのいたずらか?そう思ったがその内容を見てその考えは消えた。

文面には「who are you?(お前は誰だ?)」と書かれていた。この学園の中で、オレについて詮索している人物がいるのか?堀北鈴音がオレの事を知っているのは分かるが、この人物の意図は何だ?思い浮かぶのは先日ショッピングモールで感じた視線。あの何人かの中にこのメールを送った人物がいるということだろうか。

 

「霧咲君、どうかしたの」

 

唐突に高橋が声をかけてくる。

 

「いや、別に」

「それなら返事をしてくれるかしら。さっきから12回も呼んでいるのだけど」

 

まじか。というか回数数えているとかまじか。

 

「悪い。気付かなかった。何の用だ?」

 

高橋は呆れたようにため息をつく。

 

「今日のお茶会で得た情報をまとめたメールを送ったからしっかり目を通しておいて」

 

メールボックスをみると高橋からのメールが10件も来ていた。これ全部同じ時間に送信されているんだが、リアルタイムに打ったのか?などと疑問に思ったが取りあえず「わかった」と返事しておいた。

今日ももう遅い、細かいことは明日以降考えよう。

宿題を後回しにする小学生の様な言い訳をして、俺は眠りに就いた。

 

 

 

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