ようこそ実力至上主義の教室へ~ジェネレーションネクスト~   作:たけぽん

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11話 罪悪感の無い裏切りものは、他人の罪悪感すら奪い取る

翌日、今日から7月なので、クラスポイントが発表される。4月から目立った減点もなく、中間テストで好成績を収めたDクラスのポイントは1500以上に跳ね上がっている。

 

はずだった。

 

「はあ!?」

「え、どういうこと?」

 

生徒たちがざわめく。それもそのはず、堀北先生が張り出した紙のDクラスの欄には380と記載されていた。

 

「以上で今月のクラスポイントの発表を終わります」

「待ってください先生!」

 

高円寺が先生を呼びとめる。

 

「なんでしょうか」

「今回のポイントの減点理由は何でしょうか?俺たちには身に覚えがありません!」

「本当にそうでしょうか」

「どういう……事ですか?」

「高円寺君。あなたは確かに上手くクラスをまとめています。ですが、そんなあなたをよく思わない生徒もいるということです」

 

その言葉を聞いた生徒たちが一斉にある生徒の方を見る。

 

「なんだよおまえら、やっと気付いたのか?」

「手塚君……」

 

高円寺の消え入るような声に対して手塚は不敵に笑う。こいつがDクラスに配属されたことが気に食わないというのは周知の事実だったが、まさかこんな妨害をしてくるとは誰も思っていなかったのだろう。

 

「手塚君は授業内の課題を一切提出せず、さらに先日、Cクラスの生徒と暴力沙汰を起こしたことが報告されています。幸い、Cクラスの生徒が大事にはしたくないと申し出たため、両クラスの減点に留まりました。他にも色々ありますが、それを説明する時間はないのでこれでホームルームを終わります」

 

そう言い残すと堀北先生は教室を出て行った。後に残された生徒たちは手塚に詰め寄る。

 

「手塚!どういうつもりだよ!」

「あんたのせいでポイント下がっちゃったじゃない!」

「斉人クンもなんか言ってやれよ!」

「ちょ、ちょっとみんな!」

 

高円寺があわてて割って入る。

 

「手塚君。どうしてこんなことを?」

 

高円寺の問いに対して手塚はフン、と鼻を鳴らすと椅子から立ち上がった。

 

「高円寺クン。お前がクラスで仲良しごっこしてAクラスを目指すなんて本気で言ってんのかしらねーけど、それに俺が協力する義理はねえよなあ?」

 

手塚の言葉には一切の迷いが無い。つまりウソでは無いということだ。

 

「でも、クラスポイントが減ればプライベートポイントも減る。そうなれば君も困るんじゃないのか」

「ご心配どうも。だがな、この学校のシステム通りならプライベートポイントなんざなくてもなんら不自由はねーんだよ」

 

確かに、学費さえ払っていれば食事は寮で3食出るし、必要最低限の生活だけしていればプライベートポイントは無くてもなんとかなる。だが、高校一年生が一切の娯楽無くして3年間も過ごせるだろうか。

 

「でも、中間テストのときは協力してくれたじゃないか」

「もしあそこで俺が反発してたらお前らに警戒されてこんな簡単にクラスポイントを下げることはできなかったんだよ。気付かなかったのかい?高円寺クン?」

 

そう吐き捨てると手塚は教室を出ようとする。

 

「まてよ手塚!これから授業だぞ!」

 

檜山がそう引きとめるが手塚は笑う。

 

「もうサービス期間は終わりだ。俺は今日から授業には出ない。その意味がわかるか?」

 

手塚が授業を欠席すればするほどDクラスの査定状況は悪くなり、最終的にクラスポイントは0になる。そう言いたいのだろう。

 

「ま、まてよ!斉人クンのおかげでネクストポイント1500も手に入れといてそりゃないっしょ!」

「そうだな、あれが本当に高円寺クンのおかげなら、だけどな」

「は?何言ってんだよ?」

「じゃあな、意味のない授業に取り組んでくださいな」

 

今度こそ手塚は出て行こうとする。だが、その手を高円寺がひっぱる。

 

「待ってくれ。最後に聞かせてほしい。君はなんでこんな事を?」

 

手塚は高円寺の方に向き直ると、一言だけ発した。

 

「お前にはわからない」

 

と。その表情は相手を煽るようなふざけた笑顔ではなく、何か得体のしれない感情を孕んでいるように見えた。

 

 

手塚が教室を出た後、教室には沈黙が訪れた。だが、一人の男子生徒が立ち上がり、鞄を手に取った。

 

「どこへ行くんだい?」

 

高円寺の問いにその生徒は申し訳なさそうに答える。

 

「高円寺君には悪いけどさ、手塚が授業に来ない限り俺たちがいくら頑張ってもプラスになることは何もないよ……だから、ごめん!」

 

そう言って彼は走って教室を出て行ってしまった。それを皮切りに何人かの生徒が教室を出て行ってしまった。後に残ったのは高円寺グループの生徒、あまり目立たない何人かの生徒、高橋、朝日、檜山、そして俺だけ。もはや半分程度しか残っていない。

 

「ちょいちょいこれまずいっしょ!早くみんな連れ戻さないと!」

「でも、なんて言ったら戻ってくるんだよ……」

 

高円寺グループの面々は状況を何とかしようとしているがどうにもならない様子だった。

 

「斉人クン!どうするよ?」

「……」

 

だが高円寺は答えない。

 

「斉人クン?」

 

もう一度呼ばれたその時、高円寺はふらふらとたおれだした。すんでのところで俺がそれを支える。どうやら高円寺はかなり衰弱しているようだ。

 

「ちょ、高円寺君大丈夫!?」

 

あわててみんなが駆け寄ってくる。高円寺はそれに答える余力もないようだ。

 

「俺が保健室につれてく」

 

支えてしまったわけだし、俺以外が行くのも変だろう。周りの生徒は俺に任せて席に戻って行った。

 

高円寺に肩を貸しながら保健室に向かっていると、途中で高円寺が我に帰ったようで、口を開いた。

 

「……霧咲君、ありがとう。でも俺は大丈夫だから、教室に戻ろう。授業が始まっちゃうよ」

「大丈夫な奴があんな倒れ方するわけないだろ。一時間以上は寝たほうがいいぞ」

「でも、俺のせいでマイナスをかさねる訳には……」

「落ち着け、既に半分以上の生徒が授業放棄している時点で俺たちが戻ってももうマイナスは止まらない。それに、だれもお前のせいだなんて思うわけないだろ」

 

取りあえず高円寺を近くのベンチに座らせる。高円寺も状況を理解してくれたようで無理に教室に戻ろうとはしなかった。

 

「……」

「歩けないなら、ここで休むか?」

「……俺は、完璧じゃなきゃ駄目なんだ」

 

完璧?なんの話だろうか。俺が尋ねる前に高円寺は話し出した。

 

「俺は、高円寺六助の息子として高円寺家に生まれた。父さんは少し変わった人だったけど、忙しい中毎日俺との時間を作ってくれた。父さんは全てにおいて完璧だった。でも俺は何の才能もなかった。勉強も、スポーツも、何もかも平均的だった」

 

それは意外だ。てっきり高円寺は生まれながらの天才だと思っていた。

 

「それでも俺は父さんみたいになりたかった。父さんの期待に応えたかった。だから、必死に努力した。みんなが毎日1時間勉強するなら俺は10時間勉強した。そしてやっと俺は完璧になれたと思った。でも、俺はDクラスだった……」

 

普段はおくびにも出さないが、高円寺もやはりDクラスに配属されたことにショックを感じていたようだ。それも他の生徒の何倍も。それでも、高円寺は懸命に戦った。クラス全員で、力をあわせて、みんなを引っ張って上を目指そうとした。だが結果はこれだ。

 

「高円寺……」

 

だが、俺はなんと言えばいいんだ。高円寺の苦悩も葛藤も言葉として理解はできる。だが、オレにはそれにたいして同情することもできない。

 

「ごめん。こんなこと霧咲君に言っても仕方ないよね」

「……」

「俺は保健室に行くから、霧咲君は教室に戻ってていいよ。どうもありがとう」

 

そう言って高円寺は立ち上がり、保健室の方へと歩いていった。このまま放置するのは少々不安だが、今の高円寺と一緒にいて俺ができることは何もない。俺は教室へと戻ることにした。

 

「霧咲君!大変だよ!」

 

教室に戻るやいなや朝日が俺の方へと駆け寄ってきた。もう授業が始まっていると思っていたが、また何か良からぬ事があったんだろうか。

 

「どうかしたのか?」

「朝日さん、詳細は私から話しますから席に戻ってください。一応授業中なんですから」

 

教壇に立っていた雪坂先生の注意に従い、朝日は席に戻る。それと一緒に俺も席についた。

 

「霧咲君がもどってきたのでもう一度伝えますが、Cクラスから交換試験が申し込まれました」

 

ついにか。先日のお茶会の時点でまだ交換試験はおこなわれていなかったことからして、1年生では初の交換試験ということになる。しかも、噂通り、Dクラスに対しての挑戦だ。

 

「なに落ち着いてんだよ霧咲!」

 

後ろの席にいた檜山が背中をつついてくる。

 

「いや、なんで俺が慌てなきゃきけないんだよ」

 

すると隣の席にいた高橋が大きくため息をついた。

 

「Cクラスの生徒と交換試験を行うのはあなたなのよ、霧咲君」

「は?俺?」

 

なるほど、確かに交換試験の対象になるのはクラスで一番ネクストポイントが低い生徒だ。つまり前の中間テスト以降ポイントを消費していないDクラスの生徒は全員が一位であり、同時に全員が最下位でもある。つまり、俺が選ばれても何ら不思議はない。

 

「先生、参考までに聞きますが、なぜ俺なんですか?」

「本来ならポイントが一番低い生徒は多くても2人くらいなものですが、今回は30人もいるので、無作為に君が選ばれたんですよ」

 

雪坂先生は特に難色を示すことなく答えてくれた。無作為に30の束から1つ引いてそれが俺である確率は当然だが30分の1。果たして本当に無作為という言葉を信じていいのだろうか。

 

「先生。私からも質問してよろしいでしょうか」

 

高橋が手を上げる。先生は頷いた。

 

「今回、CクラスからDクラスへの挑戦という形になりましたが普通に考えるとCクラスの生徒が勝ったところで何のメリットもない気がするのですが」

 

高橋の言うとおり、交換試験が文字通り交換する試験なら、俺に勝った生徒はDクラスに、俺はCクラスに移動することになる。自ら降格を望む生徒がいるとは思えない。つまり、この挑戦には狙いがあるということだ。

 

「最もな疑問ですね、高橋さん。交換試験が発生した場合、対象のクラスには試験の詳細を伝えることになっていますのでこの場を借りて通達します」

 

先生はチョークをもち、黒板に書き始めた。

 

 

「まず一つ。交換試験の試験内容は原則学校側が指定します。これは各生徒の得手不得手や過去のデータをもとに決定されます。そして内容が通達されるのは試験当日になります」

 

隣を見ると高橋がものすごいスピードでメモをとっている。

 

「次に、交換試験に勝利した生徒は、敗北した生徒のネクストポイントの7割を手に入れることができます」

 

勝利報酬ということか。

 

「そして最後に、通常、交換試験の結果によってクラスが入れ替わることは皆さんご存じでしょうが、Dクラスの生徒が他クラスから仕掛けられた交換試験に敗北した場合、クラスの移動は行われず、その生徒は退学となります」

 

雪坂はそこでチョークを置く。

 

「は、はあ!?退学!?」

 

檜山が驚いた声を上げる。周りの生徒たちもざわめきだした。たった一回の試験に負けたら退学になるというぶっ飛んだルールが発表された訳だし、無理もない。

 

「そ、それじゃあ、負けたら霧咲君は退学……?」

 

朝日が冷や汗を流しながら俺の方を見てくる。

なるほどな、これが毎年Dクラスが交換試験を挑まれる理由か。格下相手なら楽に勝利しポイントを獲得できるうえに高円寺の様な優秀な生徒を早急に消しさる事も出来る。

 

「それじゃあ授業を始めます。霧咲君、後で試験要項を渡すので職員室に来てください」

 

雪坂先生はそう言って教科書を開き、さっさと授業を始め出した。他の生徒も俺に同情の視線を送りながら教科書とノートを開く。

 

 

***

そして昼休み。俺は職員室へ足を運んだ。試験要項をもらうためだ。

俺に対応するのは寮長の雪坂先生か担任の堀北先生かどちらだろうと思っていたが、どうやら堀北先生のようだ。出来れば雪坂先生がよかった。あくまで相対的にだが。

 

「あからさまに嫌そうな表情をしているけれど、残念ながらあなたの要望は通らないわ」

 

ばれてーら。さすが堀北鈴音、慣れてるな。

 

「それで、なんで生徒指導室なんですか?試験要項を渡されるだけだと思っていたんですけど」

「他にもあなたに用事があるのよ」

「俺、年上には興味ないんですよね」

「苦しみながら後悔するのと絶望しながら後悔する、あなたはどちらが好みかしら?」

 

よくわからないがどっちも嫌です。というかコンパスをこっちに向けるのはやめてくれ。なんでコンパス常備してるんだこの先生は。

取りあえず両手を上げて降伏する。

 

「それじゃあ用件を伝えるわ。あなたに言うことは全部で3つ」

 

3つもあるのか。早いとこ昼飯にしたいんだがな。

 

「1つ目は、次の交換試験。絶対に勝ちなさい」

「常識的に考えて格上のクラスの生徒に勝つなんて難しいと思いますが」

 

先生は俺を睨む。

 

「……善処します」

「そして2つ目は、その試験に置おいて全力を出してはいけないということ」

 

俺に勝ってほしいんじゃなかったのかーい。というツッコミは野暮だな。

 

「そして3つ目は、Dクラスのポイントマイナスを止めなさい」

「手塚を更生させろってことですか。それなら教師の仕事でしょう。1年D組堀北先生」

「随分古いドラマ知ってるわね。……ゴホン。別に更生させろとは言っていないわ。やり方はあなたの自由よ」

 

更生以外に手段なんてかなり限られているんですけどー。

 

「わかったかしら?」

「最初の2つは理解できます。俺も流石に入学早々退学はしたくないんで。ただ、3つ目は俺が応じる義務は無いと思うんですが」

 

Dクラスを救済することに得があるかは俺の考えた方次第だ。仮に俺が交換試験で勝てば俺はCクラスに昇格なのだからDクラスを助けても何の意味もない。得があるとすれば俺の人望が上がることだが、そんなことはどうでもいい。

 

「義務は無いけど、必要性はあるわ」

「というと?」

「あなたも気付いているんでしょ?」

「……」

 

またオレの都合の悪いところをついてくるなこの人は。

 

「それで霧咲君。返事を聞かせてもらえるかしら」

 

ここまで来ると俺の答えは一つに絞れられる。

 

「……わかりました。今回はアンタに従ってやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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