ようこそ実力至上主義の教室へ~ジェネレーションネクスト~ 作:たけぽん
教室に戻ると朝日と檜山が駆け寄ってきた。
「き、霧咲君!先生なんて言ってた!?」
「なんか救済措置とかねーのか!?」
なんで俺の試験なのにこいつらが必死なんだ。
「別に何も。試験要項を渡されて授業で説明されたことを再確認しただけだ」
「霧咲……今日はお前好きなエビフライ作ってやる……たくさん食えよ……」
「霧咲君……中間テストの時はありがとう……わたし、勉強頑張るね……」
おい、なんか既に俺が退学する流れになってるんだが。こいつらは心配してくれてるのか?それとも追悼してるのか?
「霧咲君、少しいいかしら」
気付くと高橋がこちらに歩いてきた。俺がそれに返答しようとしたところで、教室の扉が勢いよく開いた。ボロい天井からほこりが降ってくる。
「ゲホゲホ……ちょっとなんなん?学校のビヒンは大事にしなきゃだめっしょー」
誰かがそんな事を言っていたが、生徒たちの視線は扉を開けた来訪者に向いていた。緑の制服で、ポケットに手を入れた生徒が3人。いわずもがな、Cクラスの生徒だ。
「へー。ここがDクラスの教室か。ぼろっちくて、まるで馬小屋だな」
真ん中に立っている坊主頭の生徒がげらげらと笑う。こいつは確か以前手塚と喧嘩していた奴だな。
「おい!なんだお前ら!教室間違ってるぞ!」
檜山、ひょっとしてそれはネタで言っているのか?どう考えても用事があってきてるだろこれは。
「ああ?なんだお前?」
坊主がメンチを切っていると左隣にいた眼鏡の生徒が何やら書類をとりだした。
「1年Dクラス、檜山優輝。料理部に所属しており、実家は飲食店を経営している」
「え?なんでそんなこと知ってんの?超能力?」
眼鏡は咳払いをする。
「前回の試験の結果から、Dクラスの生徒は全員マークしております。ちなみに檜山君。君は評価Cマイナスです」
「なんだとこのやろう!」
檜山が憤慨する。この眼鏡の評価が何段階あるのか知らないが、Cマイナスはきっと低いんだろう。
「そんで、柳川。杉森さんの試験の相手はどいつだよ?」
右隣の生徒が尋ねる。どうやら坊主が杉森で眼鏡が柳川というらしい。
「そこの彼ですね」
柳川が俺を指差す。それを見て杉森が俺の方へ寄ってくる。目の前で見ると、こいつかなり身長が高い。そして制服の上からでも鍛えられているのが分かるほどだ。
「お前か、俺に負けて退学になるのは。おい柳川!こいつのデータを教えろ!」
「1年Dクラス、霧咲勝真。小テストや入学試験の結果を見ても特筆するところは特になし。部活にも所属しておらず、評価としてはEマイナスでしょうか」
「はっはっは!文字通りの落ちこぼれじゃねえか!どうやらこないだの試験は百パー高円寺のおかげらしいな!」
杉森がまたしても大声で笑う。
「ちょっと、彼の評価はどうでもいいけれど、高円寺君は私より小テストの点が下よ」
高橋が反論する。反論するのは良いんだがせめてフォローくらいしてほしいもんだ。
「なんだお前は?」
「高橋茜。中学時代から文武両道で様々な賞やコンクールで入賞している。入学試験では体調不良でDクラスに配属。評価はBプラスでしょう」
「B?あなたたち、一体何をみて評価をつけているのかしら?」
「あなたは確かに優秀ですが、現在のDクラスの状況をみればあなたの欠点もおのずと見えてきます」
柳川は教室を見渡しながら答える。
「確かに、手塚によるポイントマイナスを止められなかった挙句クラスは半壊、高円寺もぶっ倒れちまってる状況を見りゃあお前がリーダーとしての実力が無いことは一目瞭然だよなあ!」
「……」
杉森の言葉に高橋は反論できない様子だった。
「そんで霧咲だったか?退学する前に言っときたいことはあるか?」
ものすごく煽ってくる奴だなこいつ。高橋じゃなくても反論したくなるきもちは分からんでもないな。さて、退学する前に言っておきたいこと、だったか。
そうだな、俺の答えとしては……。
「特にないな」
「ははは!なんじゃそりゃ、かっこいいとでも思ってんのかよ!」
ちょうどそこで昼休みの終了を告げるチャイムが鳴る。おい、俺昼飯食べてないんだが。
杉森たちはさらに一言二言罵倒してから教室を出て行った。高橋や檜山たちは無言のまま席に着いたが内心でははらわたが煮えくりかえっていることだろう。
***
その日の授業は終わり、俺は高橋と帰路についていた。一応言っておくと別に俺が高橋を誘った訳ではない。いつぞやのごとくこいつが勝手についてきているだけだ。今回は何の用なんだか分からないが、面倒な質問をされることだけは予想できる。
「……」
「……」
沈黙のまま、俺たちは歩を進める。
「おい、いつまでついてくるつもりだ」
「ついてきている?だれがかしら。私はただ寮に向かっているだけ。その道中にあなたがいるだけよ」
「……そうですか」
屁理屈もここまで自信たっぷりに言われると筋が通っているように聞こえるから恐ろしい。
「道中であったついでに聞いておくけど、交換試験、あなたはどうするつもりなの?」
「どうする何も出来る範囲で何とかするしかないだろ」
「……あなたはとっくに気付いているでしょうけど、今回の試験、杉森君に有利な内容になるわ」
「その心は?」
「杉森君の得意分野は運動系。逆に座学に関しては檜山君たちと大差ないわ」
なんでこいつはさっき会ったばかりの奴の得手不得手を把握してるんだ。脳みそに巨大な本棚でもあるのか。
「あなた、学生証端末使ってる?各クラスのテスト結果で上位10名は名前が出てるのよ?」
そうなのか。今までメールにしか使って無かったから全く知らなかったな。
高橋は尚も話を続ける。
「そしてCクラスのランキングに彼は名前がなかった。そんな人物が仮にも全員が満点をとったDクラスの生徒に何の警戒もなく挑んでくるとは思えない」
「単にバカなだけじゃないのか?」
「あなた、もうお茶会の事を忘れたの?Cクラスを取りまとめているのは伊野ヶ浜君なのよ?彼がクラス内のバカの暴走を見過ごすような無能には見えないわ」
つまり高橋はこの交換試験には伊野ヶ浜が一枚噛んでいて、何らかの手段で試験内容をCクラスに有利なものに変更していると言いたいのだろう。普通に考えれば考えすぎもいいところだが、その考えには俺もほぼ同意だ。
「それで、あなた運動はできるの?中学の時に陸上を一年やっていたと言ってはいたけれど」
そういえば入学して間もないころの体育の授業でそんな事を言った気がする。
「運動に関しては平均的ってところだな。お前もあの時見ただろ?俺は高円寺や手塚と一緒に走ったけど結果は3位だった」
「そうかしら?あなたの言うことはどうにも信用―――」
並木道の真ん中で、高橋がそう言ったところで俺はとっさに回避動作をとった。後ろからものすごい殺気を感じたからだ。その手刀は俺のすれすれのところで空を切った。
回避しながら相手を確認すると、そいつはキャップを深くかぶり、上下ジャージを着ている男だった。
「だ、だれ!?」
高橋の問いに男は答えず、再び俺に向かってくる。そのこぶしは的確に俺の腹を狙っていた。かなり早く、それでいて重い一撃ではあるが、俺はそれをすんでのところで受け止める。
「へえ、やるねえ」
男は俺から距離をとりつつ、そんなことを口にした。
「いい加減にしろ、欠席どころか退学するつもりか。手塚」
俺の呼びかけ男は「ほう」と感心した様子でキャップをとる。その顔は今朝方、授業放棄を宣言した手塚優正だった。
「よく俺だってわかったねえ」
「俺の知ってる中でそのメーカーのジャージを着てるのはお前しかいなかったからな」
「流石だねえ霧咲勝真……いや、AK002って言った方がいいか?」
その言葉と同時にオレの体は動いていた、わずかな時間で手塚に迫り、拳を叩きこむ。とはいっても、殺す気は無いので俺の拳は手塚の頬を掠めただけだが。
「どこでその名前を知った?」
オレはゆっくりと、冷たい口調で尋ねる。だが手塚はいつものへらへらした態度をくずさない。
「愚問だろそりゃ。この名前を知ってるやつが大勢いると思うか?」
「お前、『アイツ』の手ゴマだな?」
「さあ?アイツって誰でしょー?優正クンわかんなーい☆」
「この場でお前を再起不能にしてもいいんだぞ」
「こんな誰が見てるとも分からない場所でか?退学するつもりかとはよく言ったもんだねえ」
確かに、こいつの言うとおりだな。オレはゆっくりと拳を下ろす。
「まあ、今のはほんのご挨拶程度だ。今度の交換試験の余興みたいなもんだ。おっと心配すんなよ?流石に寮では大人しくしてるつもりだからよ」
手塚はにやりと笑うとそのまま校舎の方へと歩いて行った。後には俺と茫然と立ち尽くす高橋の二人だけになった。
「さて、帰ろうか」
アスファルトに落ちた鞄を拾い上げ、俺は再び寮へ歩きだす。
「待って!」
だが高橋がそんな俺を呼びとめる。
「今のは何?なんで手塚君があなたを……それにAK002って何?」
手塚のやつ、また随分と面倒な置き土産をくれたもんだな。聞き間違いだと言ってもこいつは信じないだろうし、隠しても今後しつこく聞かれることになる。
「ちょっと、聞いてるの?」
「高橋、俺はお前の障害になるような事をするつもりは微塵もない。だから……」
今のオレは高橋にどう見えているだろうか。きっと、冷たく、感情なんて微塵もないような男の表情がその瞳に映っているのだろう。
「オレの詮索はするな」
その言葉に高橋は後ずさる。まるで天敵と相対した時の草食動物のように。その額には冷や汗が流れている。
「わ、分かったわ。その代わり確認するけど、あなた、運動は……」
「平均だ」
「もはやあなたの発言全てが信用できなくなってきたわ……」
高橋は頭を押さえる。
「ところで高橋。お前に頼みがある」
「な、何かしら?」
「今からオレが良いと言うまでオレを殴り続けろ」