ようこそ実力至上主義の教室へ~ジェネレーションネクスト~   作:たけぽん

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13話 先人 それは必ずしも知恵があるものではない

翌日。俺は重い体を引きずりながら登校し、教室へと入った。なぜ俺の体が重いのかはさておき、やはり今日もDクラスの生徒は半分もいない。唯一救いなのは昨日ダウンした高円寺が登校してきていることだろう。昨日の事など無かったようにクラスの面々と明るく会話している。そんな様子を見ながら、俺は教室の扉を閉める。その音で、やっと俺はクラスメートたちに認識されたようで、同時に全員がざわめきだす。

 

「き、霧咲君!?どうしたんだいその怪我!?」

 

真っ先に駆け寄ってきたのは高円寺だった。それに続いて朝日や檜山も近づいてくる。

こいつらが驚くのも無理は無い。今の俺は腕や頭に包帯を巻き、さらに顔にはいくつものアザができているのだから。

 

「どうした霧咲、誰にやられたんだよ!?」

 

檜山が心配そうに俺の腕を掴む。それと同時に俺の神経に鈍い痛みが走る。流石に表情に出ていたらしく檜山が申し訳なさそうに手を離す。

 

「いや、ただ階段から落ちただけだ。むしろ骨折もして無くてよかったって堀北先生も言ってたぞ」

「で、でも……その怪我で生活できるの?」

 

朝日がおどおどした様子で尋ねてくる。まあ実際結構不自由ではある。ここまで歩いてくるのもかなり大変だったしな。

 

「い、いやそれよりも……」

 

高円寺の震えた声に全員が注意を向ける。

 

「その怪我で、交換試験は受けられるのかい……?」

「そ、そうだよ!もし試験が体育とかだったら……」

 

朝日の発言に檜山も頷く。唯一この状況に騒いでいないのは教室の隅に座る高橋だけだ。とはいえその高橋も訝しげな目で俺を見ているが。

 

「試験が筆記であることを祈るしかないな」

「祈るしかって……そ、そうだ試験を延期してもらうとか、それも駄目なら僕が代わりに……」

「試験の延期も、代理もこの学校では認められていません」

 

高円寺の言葉を遮るように教室に入ってきたのは堀北先生だった。

 

「そ、そんな!それじゃあ霧咲君は圧倒的に不利じゃないですか!こんなの公平じゃありません!」

 

高円寺は尚も抗議する。

 

「では高円寺君。ひとつ尋ねますが、あなたは自分が最高のモチベーションで勝負に挑んだ時、相手が『いま体調が悪いから勝負は延期、それか別の人とやってくれ』と言われて納得できますか?」

「そ、それは……」

「霧咲君がこのまま試験に出れば確かに公平な勝負はできないでしょう。ですが霧咲君の一方的な事情だけで試験を延期するのは相手にとっても公平ではありません」

 

堀北先生の言うことも最もだ。それに今回の場合、「階段から落ちる」という俺の不注意から招いた怪我なのだから、非は俺にしかない。だが高円寺はまだ納得できないようだ。

 

「そ、それならネクストポイントで……」

「残念ですがこのルールはネクストポイントと同じく『絶対』です。何をどうやっても覆ることはありません。霧咲君に渡した試験要項にも同じことが書いてあります」

「そんな……」

 

高円寺は膝を落とす。朝日や檜山も悔しそうに俯いている。そんな中、教室の入り口から声がした。

 

「――おいおい鈴音、あんまり生徒をいじめてやるなよ。人気落ちるぜ?」

 

その声の主はゆっくりと教室に入ってくる。長身で、赤いジャージに赤い髪。生徒の中には既にその正体に気付き歓喜の声を上げているものもいる。

 

「別に私は生徒からの人気にこだわっているわけではないわ。誤解されるようなことを言わないでくれる?須藤君」

「へへっ、相変わらずお前は変わんねーのな」

「す、須藤健!?あのプロバスケットプレイヤーの須藤健かよ!」

 

大きな声を出したのは、池田だった。なんかすごく久しぶりに声を聞いた気がするがきっと気のせいだな。

 

「おー。俺のこと知ってんのかー」

「あなた、自分がプロの選手だって事忘れてない?」

 

堀北先生がジトーっと須藤健の方を見る。

 

「なんか、仲いいですねお二人」

「そりゃあ、鈴音と俺は高育時代からの深い付き合いだからな!」

 

女子たちがそう尋ねると、須藤健は笑顔で答える。

 

「え、ええ!堀北先生って高育の生徒だったんだ……」

「というか深い付き合いって……ひょっとして……」

「ちょっと須藤君。きて早々、バカな事を言うのはやめてもらえるかしら?」

 

須藤健は「わ、わりい……」と詫びる。この時点でこの二人の関係は大体お察しだな。

 

「それで、須藤さんは何をしに来たんですか?」

 

高円寺が少しいらつきながら尋ねる。たしかに、須藤の登場で話の腰はぽっきり折れてしまっていたからな。

 

「おっと。そうだった」

 

須藤はきょろきょろと教室を見まわすと何かを見つけた様子で頷いた。

 

「あいつだな、鈴音」

「ええ、彼よ」

「えっと、先生?」

「須藤君は怪我をした霧咲君のトレーナーとして今日から試験まで彼のサポートをしてくれることになっています」

「ええ!あの須藤健が!?」

 

再び教室がざわつく。テレビで見るような有名人が目の前に来た挙句、自分のクラスメートのサポートをすると言っているのだから当然か。

 

「よろしくな、霧咲」

「……よろしくお願いします」

 

 

その日の授業も終わり、俺は寮へ……ではなく体育館へと向かっている。今朝言われた通り、俺は須藤コーチのもとリハビリを受けることになっているからだ。

 

「あ、霧咲君!」

 

誰かに呼ばれたような気がする。俺を呼ぶとなると朝日か檜山か、はたまた高円寺か。辺りを見渡すが彼らは見当たらない。どうやら気のせいだったようだ。

 

「ちょ、ちょっとまってまって!」

 

どうやら気のせいじゃなかったようだ。声の主は少しオーバーなアクションで俺の前に出てきた。

 

「お前は……山の上?」

「おしい!……って全然おしくないよ!私は山崎!山崎志穂だよ!」

 

現れたのはBクラスの山崎だった。そう言えばこいつとはお茶会であってたんだっけな。

 

「山崎さん。声が大きいです。おかげでほとんどの生徒が僕らの方を見てるじゃないですか」

 

泉も一緒のようだ。二人揃って俺に何の用だろうか。

 

「特に長い用では無いのですが、あまり聞かれたくは無いのであっちの木陰でお話しします」

 

そのまま俺は二人について木陰へと歩いて行く。ひょっとしてこれはカツアゲとかそういう類のものだろうか。

 

「どうするつもりなのかな?」

「どうする、とは?」

「Dクラスの現状ですよ。聞くところによると半分以上の生徒が授業を欠席しているとか」

 

昨日の出来事にしては随分と噂が回るのが早いな。誰だ?そんなペラペラ喋ってると足元すくわれるぞ?

 

「あ、ちなみにこのことは朝日さんから聞いたんだけど、まずかったかな?」

 

朝日だったか。それなら仕方ないな。だって朝日だし。

 

「いや、遅かれ早かれ判明することだろうし良いんじゃないか?」

「そして、霧咲君はCクラスから交換試験を挑まれてるんでしょ?」

「ああ、そうだ」

「でも、怪我してるんでしょ?」

 

山崎は俺の腕や顔を確認する。

 

「話は終わりか?それならもう行くぞ?」

「まって!その怪我じゃ試験が体育系だったら勝ち目がないよ?」

 

今朝の朝日たちと同じ意見。確かに俺も他人がこんな状況なら同じ事を言うだろう。

 

「一応、トレーナーについてもらうことになってる」

「須藤健、ですね」

 

これに関しては、朝日が言わなくてもすぐに分かることだろう。なにせプロの選手が校内にいるんだしな。

 

「でも、その怪我が試験までに治るとは思えないよ……試験っていつなの?」

「来週の頭だ」

「ええ!全然時間無いじゃん!」

「まあ、そうだな」

「とても落ち着いているようですが、何か策があるんですか?」

「少なくとも俺には策は無いな。高円寺や高橋ならなにか思いつくかもしれないが」

「無策なのにその態度って……霧咲君って変な人だね」

 

そうです。俺が変な人です。そんな寒い事を俺が考えていると、山崎は何やら鞄を探り出し一冊のノートをとりだした。

 

「それは?」

「署名だよ。生徒の3分の2の署名を集めれば学校側と対等な立場で意見することができるの、知らなかった?」

 

そんなルールがあるのか。といっても、一学年30人×4クラスだとして、3学年なら360人。その3分の2となると240人分だ。あまり現実的じゃない。

 

「署名を集めてどうするんだ?」

「もちろん、交換試験の延期や代理を認めてもらうんだよ」

「別のクラスの人間に対してそこまでするメリットは無いんじゃないか?」

「別に霧咲君だけの為ではありません。これから交換試験を受ける生徒が何人も出てくるはずです。その時の為でもあるんです」

 

泉の言葉に山崎は大きく頷く。

 

「なるほど、でも流石に来週の頭までに240人分も集めるのは無理なんじゃないか?」

「それでも、可能性が0じゃない限りやってみるべきだと私は思うんだ」

 

なんというか、これは善人を通り越してお人好しってレベルだな。

 

「そうか。それじゃあ俺も期待しとくよ」

「うん。それで話を戻すけど、Dクラスの現状、高円寺君や高橋さんはどうするつもりなのかな?」

「高橋はもともとクラスポイントを上げることには興味が無い。逆に高円寺はクラスポイントにこだわってるから、動くとしたら高円寺だろうな。それ以上は俺には分からない」

「そっか~。それじゃあ高円寺君に、私たちに出来ることがあったらいつでも言ってくれて良いよって伝えておいてくれる?」

「わかった。伝えておく」

 

ちょうどその時、学生証端末が鳴った。見てみると内容は須藤コーチからのメッセージで、『おせえぞ!』との事だった。そういえば結構話しこんでしまっていたか。俺は山崎たちに別れを告げ、体育館へと足を速めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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