ようこそ実力至上主義の教室へ~ジェネレーションネクスト~ 作:たけぽん
一週間はあっという間に過ぎ、ついに交換試験の日がやってきた。俺は須藤のコーチのもと、怪我をある程度まで治癒することができた。とはいっても腕や顔のあざは消えてはいない。
交換試験当日と言ってもいつも通り授業は行われる。俺もいつも通り寮を出て校舎へと向かっている。いつもなら特に変わったことのない気持ちのいい朝なのだが、今日はそうもいかないらしい。
「あいつだろ?交換試験を挑まれたDクラスって」
「さえない顔してんなー。どう考えても負けるだろ」
顔と試験にどういう関係があるか知らないが、さっきからそんな話声がちらほら聞こえてくる。まあ、俺は高円寺たちとは違って誰かに注目されるようなことは何一つない。誰がどう見たって俺が負けるという予測になるだろう。
たくさんの視線を浴びながら校舎に入り、教室へはいる。今日も大半の生徒は欠席……と思ったが、何故か教室にはDクラスの全員がいる。高円寺が説得に成功したのだろうか。
いや、だが手塚の姿は無い。ということは心を入れ替えて登校してきた訳ではなさそうだな。
何の気なしに教室を見まわしていると、俺の存在に気付いたクラスメイト達が近寄ってくる。
「お、おはよう霧咲君……」
いつも元気な朝日すらお通夜モードだ。
「霧咲……」
それは檜山も同様らしい。檜山は無言で弁当箱を渡してくる。これを食べて交換試験を頑張れという気遣いなのだろうか。取りあえず弁当箱を受け取る。
「霧咲君……すまない。何度も学校に掛け合ったんだけど、何もできなかった……」
高円寺が申し訳なさそうに深々と頭を下げる。
「斉人クンのせいじゃねーって!」
「斉人君は頑張ったよ!」
周りの生徒が高円寺を励ます。
「高円寺、お前が俺のために頑張ってくれたことは感謝するよ。だから頭を上げてくれ」
その言葉に高円寺は頭を上げる。だがその表情は曇ったままだった。そんな中、無情にもチャイムは鳴り、堀北先生が入ってきた。
「みなさん、おはようございます。これから朝のホームルームを始めます」
先生はそのままホームルームを進行していく。この光景だけ見れば、生徒の半数が授業放棄しているクラスには見えないだろう。
「――最後に、今日の4時間目は霧咲君とCクラスの杉森君の交換試験が行われます。学園のルールで交換試験の受験者のいるクラスの生徒は出席が義務付けられています。これに反した場合、ネクストポイントの5割を没収します」
なるほど、それで全員いる訳か。手塚に関しては、あいつ自身がネクストポイントに関心が無いことの裏付けにもなった。
「それではホームルームを終わります」
交換試験に関する話題はそれだけのようで、先生は教室から出て行った。後に残された生徒たちはそわそわしながらも一時間目の準備を始めた。それと同時に俺は、今日は窓際の最後尾に座っている高橋にメールを送った。高橋はすぐにそれに気付いたようで、しばらくしてから返信を送ってきた。
これで打てる手はすべて打った。後は、どこまで思い通りに行くか。それだけだ。
***
そして、授業は淡々と進んで行き、ついに四時間目になった。Dクラスの生徒は交換試験への出席が義務付けられているため、全員で会場となる体育館へと向かった。
廊下の途中でCクラスの生徒の列も目に入った。その中には当然、Cクラスのリーダーである伊野ヶ浜の姿もある。
体育館に入ると、教師たちからその場での待機が命じられた。その間辺りを見回すと、CクラスとDクラス以外にも生徒がいることが分かった。Bクラスの山崎や泉、上級生らしき人物や楪までいる。楪はこちらにたいして視線を送ってきたが俺は気付かないふりをすることにした。他にも須藤の姿もあった。
「それではこれから交換試験を開始する」
沈黙を破って生徒たちの前に現れたのは以前楪と一緒に俺を尋ねてきた生徒会長の涼野だった。
「受験者は前に」
涼野の声に従い、Cクラスの列から杉森が意気揚々と出てきた。俺も立ち上がり、涼野の前へと向かう。
「杉森と霧咲で間違いないな?」
「おうよ!」
「はい」
「今回は一年生にとって初の交換試験だ。受験者はもちろんのこと、見ている者たちも気を引き締めるように」
涼野の一言一言に生徒たちは耳を傾ける。明日は我が身、ここで交換試験についてしっかり知っておくことがは今後大きなアドバンテージにつながる。
「それでは、試験内容について副校長の茶柱先生より発表していただく」
涼野が一礼すると、教師陣の中からポニーテールの女性がでてくる。茶柱佐枝、入学前にホームページで見たことがある。まだ30代だというのにその類まれなる才能で副校長までのし上がったらしい。
もっとも、オレの中にある印象はもっと違うものだが。
「それでは、今回の特別試験の内容を発表する」
茶柱副校長は、ゆっくりと落ち着いた口調で話し始める。
「今回の試験の種目は、ボクシングだ」
「は?」
「え?」
「うん?」
Dクラスの生徒の中から気の抜けた声がちらほら上がる。
「聞こえなかったか?今回の種目は、ボクシングだ」
「は、はああああああああ!?」
驚いた声を上げたのは檜山だった。俺も少し驚いた。体育館に連れてこられたことや高橋の予想から体育系の内容であることは予測できていたがまさかここまであからさまに杉森に有利な種目になるとは。
「ま、まってください!試験の内容は受験者の能力に応じて決められるのではないのですか!?」
高円寺が異議を唱える。だが、茶柱副校長はそれを意に介せずに話を進める。
「ルールを説明する。今回のボクシングは二本先取のマッチ戦になる。つまり、先に2回勝った方の勝利となる。勝利条件は、相手をKOすること、またはどちらかが試合続行不可能とこちらが判断した時の二つ。また、相手を怪我させるような危険なプレイなど、スポーツマンシップに反する行動をした場合はその時点で失格とする。また、降参は自由だ。以上」
隣で杉森がフン、と鼻を鳴らす。この様子からして相当自信があるのだろう。
「茶柱副校長、ありがとうございます。では、交換試験を開始する」
「待ってください」
涼野の言葉に対し、口を開いたのは高橋だった。
「お前は?」
「Dクラスの高橋茜です。今回の試験について、提案させていただきたいことがあります」
涼野は茶柱副校長とアイコンタクトをとった後、「よかろう」と高橋に伝えた。
「今回の試験の受験者、霧咲勝真君はスポーツの経験がほぼない上に、階段から落ち怪我をしています。どう考えてもこのまま試験を開始するのは平等ではありません」
「ああ!?だったらなんだ?俺が手加減でもすればいいのか?」
杉森が挑発するが、高橋は気にも留めない。
「試験を平等にするために、Cクラス側に一つ条件を提示します」
「条件?」
「霧咲君が勝利した場合、Dクラスの要求を2つ聞いてもらいます」
「要求とはなんだ?」
「それを今言うと、試験に支障をきたす可能性がありますので、霧咲君が勝った場合にお話しします」
「だそうだが、Cクラス、どうする?」
涼野がCクラス側に尋ねると、すぐに伊野ヶ浜が返答する。
「うちらはかまいまへんで。なあ、杉森はん?」
「もちろんです!俺がこんな奴に負けるわけがない!」
「わかった。高橋、お前の提案を受け入れよう」
そう言って涼野が指を鳴らすと、急に体育館の中央の床が動き出した。ごごごという音とともに、床が開き、下から何かが出てきた。
「おいおい……こりゃすげーな……」
杉森が感嘆の声を上げている。下から出てきたのは、よくテレビなどで見かけるボクシングのリングだった。流石2030年の最先端技術を取り入れた学校、ということだろうか。
「霧咲、杉森。お前たちには向こうでハーフパンツとグローブを身につけてもらう」
ハーフパンツということはテレビで見るように上半身は裸になると言うことか。それは少し拙いな。そう思いながら用意された更衣室へと向かう。
「すみません、あまり人前で肌をさらしたくないので、tシャツ着ててもいいですか?」
更衣室の前で俺は涼野に聞く。
「ふむ。わかった。では念のためボディチェックを行う。問題無ければtシャツの着用を許可する」
涼野が体育教師に呼びかけようとするが、そこへ須藤がやってきた。
「ボディチェックなら俺がやってやるよ」
「……そうですか。では須藤さん、お願いします」
その後、ボディチェックは特に問題なく終わり、俺はtシャツにの着用を許可された。
「それでは、両者、リングへ」
その声に応じて、俺と杉森はリングへ上がる。
「体調管理の為、お前たちのネクストリングからデータをコピーする」
やっとこのリングの出番か。今まで時計くらいにしか使っていなかったためすっかり忘れていたが、本来このリングはネクストポイントと密接な関係にある。交換試験で使われないわけがないか。
しばらくするとデータのコピーは終わったようで、レフェリーと思われる人物がリングに上がってきた。
「それでは、第一ラウンドを開始する。両者、準備はいいか?」
俺は頷く。
「はは!覚悟しろよムシケラ!今日でお前の学園生活は終わりだぜ!」
杉森のその言葉を了承と判断したのか、レフェリーが笛を鳴らした。それと同時に杉森が一気に距離を詰めてくる。フォーム、フットワークどれをとってもとてもきれいだ。
そして先制パンチ。オレはなんとかガードするが、かなりの衝撃が腕に響く。それと同時に、腕のアザに鈍い痛みが広がるが、杉森の連続攻撃はそんなことを考えさせてくれる余地もない。なんとかガードを続ける。
「ほー、ムシケラにしてはなかなかいい動きじゃねえか!」
調子に乗った杉森はそんな煽りを飛ばしてくる。それから二、三発しのいだところでオレは後ろへ下がり、距離をとった。
「おお!いいぞ霧咲!反撃だ!」
リングの外から檜山らしき声がするが、生憎オレは反撃する気は無い。そのまま手を上げる。
「降参します」
その発言に落胆の声が聞こえるが、レフェリーはそこで試合を止めてくれた。オレは一端リングの端へ移動し水を飲む。
「へっビビったか!どうやらこのまま楽勝ムーヴのようだな!所詮ムシケラはムシケラってこった!」
杉森は大笑いする。その間にオレは周りの様子を確認する。Cクラスの生徒は笑ったりしながらオレの方を見ている。Dクラスの面々も落胆した様子だ。山崎と泉は心配そうな表情をしている。楪は相変わらず笑顔のままだ。よし、取りあえず第一段階は完了だ。誰がどう見てもオレは腰ぬけのヘタれだ。
そして第2ラウンドが開始される。杉森は最初と同じく一気に詰め寄り、パンチを出してくる。第一ラウンドを見た観客からは、オレがまたガードするように見えるだろう。だが、オレのとった行動は――
「えっ!」
「は?いまどうなったんだ?」
「杉森が、外した?」
杉森の拳はオレのほほを掠めたが、そのまま通り過ぎ空を切った。その後も杉森はパンチを繰り出すがそれは全てオレのぎりぎりを通り過ぎる。
「クソっ!なんで当たんねえんだ!」
杉森の攻撃をかわしながら、オレはレフェリーの方を見る。そのレフェリーはというと、杉森の方をじっと見ている。理由は簡単だ。今この状況で、オレがパンチをかわしていると認識出来ているものはほとんどいない。大半は杉森がパンチを外しているようにしか見えない。それはオレがパンチを紙一重でかわしているからに他ならない。須藤とのリハビリも案外役に立ったようで、当初よりオレの体は言うことを聞いてくれる。
「ストップ!このラウンド、霧咲勝真の勝ちとする!」
「はあ!?なんでだよ!まだどっちも倒れてねーぞ!」
「杉森君、君は一度目の検査をしてもらうよ」
あれだけパンチを外せば、誰だって杉森の不調を疑う。レフェリーはその原因が目にあると判断したらしい。どちらかが試合続行不可能と判断された時、そのラウンドは終了する。副校長が言った通りだ。
杉森はわめきながらもリングを降り、医療班に目を検査される。とはいっても結果は分かり切っている。問題なしだ。
「んだよ!ふざけんな!1ラウンド無駄にしちまったじゃねーか!」
悪態をつきながら杉森はリングへもどる。本人は気付いていないだろうが、先ほどのラッシュでかなり息が上がっている。
「それでは第3ラウンド、開始!」
「おら!いくぜムシケラ!」
ここまでくればもう問題ない。杉森、確かにお前は運動能力に秀でている。パンチもかなりのスピードと威力だった。
だが、それは――
「ぐほおおおおお!」
それは――普通の人間の力でしかない。
オレがはなったパンチは杉森の顔面にヒットし、杉森は大きく倒れた。
つまり、オレの勝ちだ。
「……」
「……」
「……き、霧咲君の勝ち?」
朝日がぽつりと呟く。
「お、おおおおおお!霧咲の勝ちだああああ!」
それを皮切りにDクラスの面々が大歓声を上げた。檜山と高円寺がリングに飛び込んでくる。
「すげーぞ霧咲!あの脳筋野郎を倒したぜ!」
「たまたま杉森が不調だっただけだろ。運だよ」
「運も実力のうちだぜ!」
「そうだよ霧咲君!あの怪我でよく頑張ったよ!」
高円寺は涙目になりながら喜んでいる。それをみて、オレはひょっとしたら笑っているkかもしれない。
「っ!?」
それと同時に、急に全身から力が抜けるのを感じた。なんだ?何がおこった?訳が分からないまま俺は高円寺の方へと倒れた。
「き、霧咲君!?大丈夫かい?」
「あ、ああ。気が抜けたみたいだな。ちょっと肩を貸してくれ」
「う、うん」
高円寺と檜山に肩を貸してもらい、俺はリングを降りる。
「待てよ?霧咲が勝ったってことは、Cクラスに昇進じゃねーか!」
檜山の声に辺りがざわつく。負けたら退学ということに意識が奪われてはいたが、これは「交換」試験。当然クラス入れ替えがおこる。
「そ、そんな!俺がDクラスに……?いやだあああ!」
喜ぶ檜山たちと対象的に杉森は頭を抱えてわめいている。しかし、非常にもCクラスから杉森に駆け寄る生徒はいない。
「い、伊野ヶ浜さん……」
杉森は伊野ヶ浜の方を見る。
「ふ、ふふふ」
だが、伊野ヶ浜は不敵にも笑い出した。
「はははははは!おもしれえじゃねえか!まさか格下に勝負挑んで負けちまうとはなあ!はーまじでウケるぜ!」
伊野ヶ浜の急な変化にDクラスの生徒は何が起きているか全く分からないようだが、俺は憶えている。手塚ともめていた時の伊野ヶ浜に似ていた生徒もこんな雰囲気だった。つまりあれは伊野ヶ浜本人で、それが伊野ヶ浜の本性だったのだ。
「伊野ヶ浜さん……!俺は!」
「負けは負けだ。お前は今日からDクラスの落ちこぼれってわけだ!」
「待ってもらえるかしら?」
笑い続ける伊野ヶ浜にたいして、高橋が落ち着いた様子で話しかける。
「何だよ?勝負はお前らの勝ちだ。もっと喜べよ?」
「忘れていないかしら?私が条件を出したことを」
「ああ、要求を2つ聞けってやつか?いいぜ言ってみろよ」
高橋はその言葉に対して複雑な表情をしながら答える。
「まず、今回の試験によるクラスの入れ替えを無効にしてもらうわ」
「は?それじゃあお前らにプラスは一つもないぜ?」
Cクラスの誰かがそう尋ねる。
「その代わり、Dクラスの手塚優正君をCクラスに昇格させてもらいます」
その言葉に体育館は沈黙する。誰ひとりとして高橋の意図がつかめていないからだ。
「どういうことだ?」
伊野ヶ浜が尋ねる。
「高橋、説明をしろ」
涼野の言葉に高橋は話を続ける。
「まず、手塚君は課題も提出せず、現在授業を放棄しています。つまり、彼にはDクラスで学ぶ意志がありません」
果たして手塚に意志が無いかは分からないが、そう捉えるのが普通だろう。
「そして、今回の試験。Dクラスの受験者はランダムに決められたはず。つまり、Dクラスの誰でも試験を受ける可能性はあった。さらに、怪我をした霧咲君でも勝利できたことを考えれば運動が得意な手塚君なら勝利の可能性は高いでしょう」
「つまりお前は、霧咲が試験によって得た権利を全て手塚に譲るということだな?」
「そういうことです」
高橋の出した条件に対して、教師陣はざわめきだす。おそらく、この前代未聞の提案がルール上まかり通るのかを議論しているのだろう。すると、茶柱副校長が手を上げた。
「高橋のだした条件は学校のルールには違反していない。そしてCクラスはそれを容認した。後は霧咲の返答次第だ」
その問いに対する答えは決まっている。
「俺はそれで構いません」
こうして、手塚はCクラスに昇格となり、杉森のネクストポイントの7割が譲渡されることになった。
***
「いやあ、それにしても霧咲が勝ってくれてよかったなあ!」
帰り道、檜山が嬉しそうに話す。
「そうだね。手塚君がCになったからポイントもマイナスされないしみんな授業に来てくれるね!」
朝日もとてもうれしそうだ。
「でも。どうなんだろう。本当に手塚君を無理やり昇格させてよかったのかな……」
「気にすんなよ高円寺!あいつはどうやったって更生なんてしねーよ」
檜山が高円寺の肩を叩く。そしてその三人の後ろを歩く俺と高橋は特に何も発言しない。
まあ、いつもどおりだ。
「まて」
唐突にうしろから呼ばれた気がして振り返ると、そこに立っていたのは涼野と楪、そして数人の生徒だった。この感じからして、生徒会の面々だろう。
「なんですか会長。俺らこれから寮で打ち上げするんですけど」
「すまない。用件はすぐに終わる。すこし我慢してくれ」
そう言って涼野は俺の方へと近づいてくる。俺の目と鼻の先に立ったところで涼野は俺のシャツをまくりあげた。
「きゃっ!」
「まあ!」
朝日と楪が声を上げる。だが涼野はそんなことは気にしていない様子だった。
「霧咲、お前は階段から落ちて怪我をしたと言ったな?」
「そうですね」
「階段から落ちて怪我したのが腕と足だけだというのか?」
「……」
「え?どういうこと?」
朝日が全くわからないと言った表情をする。それは檜山も同じようだった。高円寺と高橋は把握しいるだろう。
「つまりですね」
楪が説明する。
「霧咲君は階段から落ちてなどいなかった、ということです」
「ええ!そうなの霧咲君!」
「彼の怪我は全て手塚君を昇格させる条件をのませるためのフェイクだった。とはいっても腕や足、顔の傷は本ものみたいですけど」
楪の視線は高橋に向いたようだったが、すぐに俺の方へともどってきた。
「つまり、すべてお前の手のひらの上だったと言うことだ。須藤さんとのリハビリもただのフェイクだった。そうだろう?」
「どうでしょうね」
「霧咲、俺はこう見えても観察力には自信がある」
「それがなにか?」
「お前は嘘をつく時、左肩がわずかに上がる。以前話した時もそうだった」
「以前?」
「そう。お前に初めて会ったとき、お前にいくつか質問したのを憶えているか?」
「まあ、一応」
「その中にも嘘があった。それは、『お前は学園によってDクラスに配属された霧咲勝真、で間違いないか?』という質問と『入学試験。どの教科が難しいと感じた?』という質問への答えだ」
「何故嘘だと?」
「何故?それは―――」
「お前は入学試験を受けてないからだ」
***
某日、ロンドンにて。
「つーわけで、あいつは難なく突破したみたいだぜ?」
耳に当てる携帯からは須藤健の声が聞こえてくる。最近は全くあっていなかったので随分懐かしく感じる。
「もう一つの件はどうだ?」
「あーわりい、そっちは収穫ゼロだ」
須藤は申し訳なさそうに言う。こういうところはあの時より格段に成長してるな。堀北さまさまだな。
「んじゃあ、そろそろ飛行機の時間だから切るぜ?」
「ああ。また何かあったら頼む」
「お前たちもたまには戻ってこいよ?」
「気が向いたらな」
そう言ってオレは電話を切り、ホテルのロビーを出る。
「お疲れ。須藤君なんて?」
「霧咲勝真に関しては問題ないそうだが、もう一つは収穫なしらしい」
「そっかー。じゃああたしたちが行くしかないかな?」
「そうだな」
「日本に帰るの久しぶりだな~」
隣を歩く軽井沢恵はうきうきした様子だ。ここのところ忙しかったからな、仕方ないか。
「それじゃあいこっか。清隆」
「ああ」
綾小路清隆はその晩の飛行機でイギリスを後にした。