ようこそ実力至上主義の教室へ~ジェネレーションネクスト~ 作:たけぽん
「お前は入学試験を受けていないからだ」
涼野が言い放った言葉を理解できたヤツは今この場にどれほどいるだろうか。当人である俺、発言した涼野、そして楪と生徒会の何人かは分かっているだろう。だが、他の人物、特に高円寺たちDクラスの面々は全くもって理解できていないようだった。
遅かれ早かれ誰かにばれるだろうとは思っていたがいくらなんでも早すぎる。情報源はどこだ?この学園でオレについて詳しく知っているであろう人物はほぼいない。しいてあげるとすれば堀北先生や茶柱副校長、そして手塚。だが仮にも教師である彼女たちがそれを生徒に話すことはあり得ないし、手塚に関しては生徒会と一切関係が無い。となれば「アイツ」が手塚に?いや、このことが広まって不都合なのは他でもない「アイツ」だ。ということは出所はオレと全く関係ないところだろう。
「どういうこと?試験を受けてないって、それじゃあ霧咲君がこの学校にいるのはどうして?あれ?んー。んん?」
朝日は必死に頭を捻っている。檜山や高橋、高円寺も同じようだ。
「どうして、そう言いきれるんですか?」
おそるおそると言った感じで高橋が尋ねる。
「お前は気付いているんじゃないのか?高橋。霧咲がDクラスに配属されるような人物ではないということが」
涼野は表情一つ変えないが、高橋は違う。得体のしれないものを見るような眼でオレを見る。
「どういうことだ?全然わかんねーよ?」
檜山が高橋にそう尋ねるが高橋は答えない。いや、答えられないのだ。それはおそらく、恐怖という感情が高橋を支配しているからだろう。
「仕方ない。ここにいる者には順をおって話そう」
涼野が話しだす。
「まず、今楪の隣にいる生徒会副会長の西影茂(にしかげ しげる)は類まれなる記憶力の持ち主だ」
楪のとなりにいた女子生徒が手を上げる。こいつが西影らしい。
「それが何の関係があるんですか?」
朝日が疑問の声を上げる。
「まあ待て。話を分かりやすくするためだ」
涼野はそう言って西影に合図を送る。すると西影はゆっくりと口を開く。
「『今回の試験の受験者、霧咲勝真君はスポーツの経験がほぼない上に、階段から落ち怪我をしています。どう考えてもこのまま試験を開始するのは平等ではありません』」
「!?」
それは数時間前に高橋が交換試験の場で言った言葉だった。それもカンペもないのに一言一句違わない。これで西影の記憶力は証明されたことになる。
「そして、西影は入学試験に試験官の一人として行っていた。だが、西影は試験会場で霧咲勝真という生徒を見ていない。尚、この学校の入学試験は年に一回、決められた日時でしか行われない」
「そ、それじゃあ霧咲はどうやってこの学校に……?」
檜山がオレに尋ねるように言う。
「それは本人に答えてもらおう。霧咲」
「……」
「沈黙は肯定として受け取っていいのか?」
涼野の声は冷淡だ。さて、どうするか。もう何と答えても100パーセント言い逃れはできないだろう。となると……
「……そうだ。俺は入学試験を受けないでこの学校に入学した」
俺が素直に答えることが意外だったのか、涼野の表情が少し崩れた。
「で、それがどうした?試験を受けていなくても俺の入学は学校が承認している。つまりなんの問題もない」
「いったんその話は置いておく。まだお前の友人たちに対する解答が終わっていない」
涼野は再び説明を始める。
「高円寺斉人。前回の中間テストでDクラス全員が満点をとったのはお前が策を労したからか?」
急に話を振られ、高円寺はわずかに動揺したが、すぐに答える。
「はい。俺がやりました」
だが高円寺。その時点でもうアウトだ。お前は答えるべきじゃなかった。
「本当は霧咲がお前に助言したのではないか?」
「いいえ。俺が考えました」
「残念だが高円寺、それは嘘だ。どうやらお前は嘘をつくと右足が少し動く」
「っ!?」
高円寺はとっさに足元を見る。
「高円寺、お前は少し純粋すぎる。今の反応でお前が嘘をついたことが確定した」
カマをかけられていたことに気付き高円寺は唇をかむ。だが、ここまで聞いても朝日と檜山はわからないようだ。
「つまり、あの中間試験で策を労したのは本当は霧咲だった。そして今回の交換試験で高橋が提示した条件も、霧咲が考えたものだ」
ようやく理解したのか朝日たちも驚いた様子を見せる。
「霧咲、俺たちが問題にしているのはどうしてお前が入学できたかでは無い。お前が一体『何者』なのかということだ」
涼野の言葉に、この場にいる全員の視線が俺に向けられることとなった。
答えるべきだろうか。いや、答えても多分こいつらは理解できない。というよりは信じないだろう。だが、俺は檜山たちの方を見る。こいつらがどう思っているか分からないが少なくとも俺にとってはこいつらは初めてできた友達だ。それなのに、こいつらを欺き続けていいのか。朝日も檜山も、高橋も高円寺も、俺にとって大切な存在だ。
でも、オレにとっては道具でしかない。
「お、おい霧咲?」
檜山の声が頭に響く。答えなくては。そう脳が命令を下し俺は口を開く。
「俺は……」
全員が俺の言葉に耳を傾ける。
「俺は……オレは……お、俺は……」
その瞬間、頭に大きな衝撃が走り、俺の意識は消えた。遠くで高円寺が呼んでいる気がしたが、それは俺の脳には認識されなかったようだ。
***
『勝真。お前は今から完璧な存在になるのだ』
「アイツ」の声がする。俺は薄暗い部屋でベッドに横になっている。いや、ベッドに拘束されていると言うべきだろうか。部屋の中にはたくさんの機械が置かれ、白衣を着たたくさんの人間が俺の事を見ている。
『それでは、これより最終段階に入る。これにより、私たちの計画はついに形となるのだ!』
そう言って笑う『アイツ』を、遠くなる意識の中で俺は見ていた。そんな俺が思ったことはたった一つ。
いつか、お前に復讐してやる。
そう誓い、俺は目を閉じた。