ようこそ実力至上主義の教室へ~ジェネレーションネクスト~   作:たけぽん

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17話 人が環境を荒らすのか、環境が人を荒らすのか

部屋に鳴り響くアラームの音で俺は目を覚ます。いつもと変わらない朝が今日もやってきた……らいいのになあ。隣のベッドにはルームメイトである高橋の姿は無い。あの交換試験の日以来、高橋は朝日の部屋に泊っている。朝日のルームメイトも承諾してくれているようなので、それ自体は問題ない。問題はその理由だ。あの日、涼野たち生徒会によって明らかにされた俺に関する情報。そして倒れた俺。この二つが原因で、高橋は俺をかなり警戒している様だ。高橋だけじゃない、接してくれてはいるが檜山や朝日も今までの態度とはやはり違う。つまるところ、俺は半ボッチから真ボッチにランクアップしたわけだ。

備え付けの洗面台で顔を洗い、制服に着替えて鞄を持ち食堂へと向かう。

食堂はDクラスの生徒の話声でにぎわっている。交換試験で高橋が提案した条件のおかげでポイントマイナスの根源であった手塚がいなくなったことで、授業を放棄する生徒はいなくなった。そして、先日行われた期末テストもDクラスの全員が受験した。よくわからないが、期末テストではポイントのマイナスは行われず、最下位の生徒にもネクストポイントが与えられていた。これをラッキーと考えるのは簡単だが、今後の為に学校がサービスしてくれたということかもしれない。まあ、あと2週間もすれば夏休みなんだし、ネクストポイントに関して心配はしなくてもなんとかなるのかも。

そう考えながら俺はおばちゃんから今日の朝食をもらって席に着いた。今日は生姜焼きか。以前のままなら檜山が生姜焼きの素晴らしさを語ってくれるのだが、檜山は俺とは離れた席でクラスメートと話している。朝日と高橋も別の席で食べている。

一瞬高橋と目があったが、すぐにそらされてしまった。

 

「霧咲君、向い座ってもいいかな?」

 

唐突な来訪者に玉ねぎをのどに詰まらせそうになったが、なんとかなった。箸をおき、相手を確認すると、高円寺だった。その後ろには高円寺のグループの男子が一人いる。高円寺はあの一件のあとも定期的に俺に話しかけてくれる。クラスの仲間を放っておけないと言うことだろうか。それはさておき高円寺は笑顔だが、グループの男子は少し真剣な面持ちだ。

 

「ああ、好きにしてくれて構わない」

「ありがとう」

 

高円寺たちは俺の向かいに座って食事を始めた。しばらく無言のまま、双方の箸が進む。

 

「えっと、何か用があって俺のところに来たんじゃないのか?」

「あ、ああそうだね。ほら、拓哉」

 

高円寺は隣の男子、拓哉の背中をたたく。

 

「えっと、その前に名前、教えてくれないか?」

 

今のところ拓哉という名前しかわからないが、俺にファーストネームで呼ばれることを嫌がるかもしれないしな。

 

「ちょ、まじかよ霧咲クーン俺たち友達だろ~?名前忘れるとかないわ~」

「お、おう。ごめん」

 

この男子と直接話したことはほとんど無いが、高円寺のグループとシショッピングモールにいった時なんかにかなり馴れ馴れしい感じだったのは憶えている。ただ、高円寺とは違う意味で別世界の住人だと思って名前を聞くことは無かった。

 

「霧咲君、彼は草薙拓哉。俺の友人でサッカー部だ」

「そうか。よろしくな草薙」

「よろしくっつーかもうよろしくしてんじゃ~ん。なあ?」

 

このままだと遅刻しかねないな。取りあえず話しをすすめるか。

 

「それで、草薙はどうしたんだ?」

「えっとそれは本人から聞いてもらうよ」

 

とのことなので俺は草薙の方を向く。草薙は辺りを気にしながら小さめの声で話し出した。

 

「あのさ、霧咲クンって高橋さんとは別れたん?」

「は?」

 

草薙の言葉の意味が分からなかった俺は取りあえず味噌汁を飲みながら具の豆腐と一緒に咀嚼する。

 

「いやちょっと霧咲クン落ち着きすぎでしょ~」

「急にそう言う事言われて困ってるんだって、少し段階を踏んで話せって」

 

高円寺の言うとおり、段階を踏んでいただきたい。が、取りあえず質問の内容は理解した。

 

「以前も似たような話をしたと思うが俺と高橋は付き合ってないぞ。別れる以前の問題だ」

「いやでもさ、交換試験のときとか、高橋さんめっちゃ霧咲クンのフォローしてたじゃん

?どうみても付き合ってるでしょ~」

「いや、どういう理屈だよ……」

「でも最近は高橋さん、霧咲クンのこと避けてるみたいだし、別れたんかなーって」

 

結局付き合ってる前提は変わらないのか……。取りあえず高円寺に助けを求める。

 

「だから言ったろ拓哉。二人は付き合ってないってさ」

「うーん、まあこの感じだと斉人クンの言う通りかー」

「それで、話しは高橋についてか?」

 

その言葉に草薙は目を見開く。

 

「え!?なんでわかんの?霧咲クンエスパーかよ~」

「今の流れで急に今日の晩御飯の話しとかにはならないだろ」

「ちょ、それウケるわ、霧咲クンユーモアセンスまじ神ってるわ~」

「おい、拓哉。早く話さないと学校に遅刻するぞ?」

 

高円寺のフォローが無かったら延々とこのノリに付き合うことになっていたと考えると恐ろしい。

 

「実はさ、俺、高橋さんにマジなんだよね」

 

草薙は真剣な表情で俺に告げる。

 

「それは、恋愛感情があるってことか?」

「そう、そゆこと。んでさ、霧咲クン高橋さんの好みとか知んない?」

「知らない」

「ちょ、即答とかマジかよ~ちょっとでいいから教えてくれよ~霧咲パイセン~」

 

なんだかこのテンションに酔ってしまいそうだ……。そもそも高橋の好みなんて俺が知るわけないだろ。ただのルームメイトだぞ?いや、今は別の部屋だからもはやそれですらない。

 

「霧咲ク~ン」

「……そういえばよく図書館に行ってるらしいし、文学男子とか好きなんじゃないか?」

「なるほ、文学男子か!霧咲クン、アザス!よーし今日から図書館通っちゃいますか!」

「まあ、頑張れ」

 

そう言い残して俺はお盆をもつ。話している間に全部食べてしまったせいで生姜焼きの味について考えることができなかったのは残念だが、取りあえず腹は膨れたな。

 

「あ、霧咲君!」

 

高円寺の言葉に振り向く。

 

「なんだ?」

「あ、いや……何でもないよ。それじゃあ学校でね」

「おう、後でな」

 

 

***

 

後でな、なんてのは単なる社交辞令でしかない。行けたら行く、くらいのものだ。だから、教室に入ってから高円寺はおろか俺に話しかけてくる生徒は0人だ。もしかして、こないだの交換試験のボクシングで勝った事でやばいやつだと思われているんだろうか。いや、だが俺のフェイクは完ぺきだったはずだ。

つまり、答えはひとつ。特に俺に興味が無いだけだ。よくよく考えると俺は檜山たち以外のクラスメイトの事を何一つ知らない。性格は愚か名前すら。それなのに話しかけてもらおうってのは、虫が良いか。

 

そう考えているとチャイムが鳴り、いつも通り堀北先生が入ってくる。

 

「おはようございます。これから朝のホームルームを始めます」

 

教室内は静かになる。手塚の一件で下がったクラスポイントを取り返すために、Dクラス全員が少しでもポイントを上げようとした結果だ。それを見て堀北先生は黒板になにかを書き出す。

 

「もうすぐ1学期が終わるので最終決算前のポイントを発表します」

 

その言葉に生徒たちは息をのむ。一学期ではもうクラスポイントが増える行事は無い。となればこれはほぼ最終結果発表と同じだ。

書きだされた数字を上から見て行く。

 

Aクラス 1730

 

Bクラス 1450

 

Cクラス 650

 

Dクラス 570

 

これは……随分離されたな。特にBクラス以上とCクラス以下の壁が大きい。Cクラスのポイントが低いのは以前先生が言っていた手塚との暴力事件のせいだろう。

だが、生徒たちの目は死んではいない。むしろ手塚の件の時より200ポイントくらい増えているわけだし、まだ一年の1学期、チャンスはいくらでもある。

その後、堀北先生はホームルームを終え、教室を後にした。しばらくたってチャイムが鳴り、1時間目、古典の雪坂先生が教室に入ってきた。

 

「はいみなさん。今日もやっていきましょうかね」

 

授業が始まっても、生徒たちの真面目な姿勢は変わらない。後2週間、されど2週間だ。1ポイントたりとも無駄にはできない。

 

「ええ、そしてここの表現は春が来たことの比喩表現でして――」

 

先生が指示棒を使って説明していると、急にガタン、と大きな音がした。流石に生徒全員が音の方へと視線を向ける。俺も振り返ってみると、朝日の隣の女子が椅子から落ちて倒れていた。

 

「ま、麻優佳(まゆか)ちゃん!大丈夫!?」

 

朝日がかけより、その女子の体を起こす。周りがざわめくなか、雪坂先生がやってくる。

 

「佐藤さん?大丈夫ですか?」

 

しかし佐藤からの返事は無い。

 

「これは、ちとまずいですね。保健室に連れて行きましょう。誰か彼女を運んでくれませんか?」

 

男女ともに反応が無い。それもそのはず、Dクラスの教室から保健室へはかなり遠いのだ。それを人一人背負って行くのはかなりの重労働だ。

 

「わ、わたしが……」

「いやいや朝日さん、あなたの体格でそれは少し厳しいでしょう。しかたありません、ここは私が……」

「いえ、先生。俺が行きます」

 

ここで手を上げたのはやはり、というか当然高円寺だ。

 

「そうですか、では高円寺君お願いします」

「えー!高円寺君に運んでもらえるなんてうらやましー!」

 

女子たちが騒ぎだす。

 

「でも俺一人じゃちょっと厳しいかな。運んでいる間は俺は佐藤さんに気を配らないとだし、だれかいっしょに 来てくれないかな?できれば男子が良いな」

 

 

だが、男子のなかから声は上がらない。女子に合法的に触れるチャンスなのに、やはり遠いのがネックか。高円寺が困った顔をしている。仕方ない、高円寺は普段よくしてくれるし恩返しするか。

 

「俺が行くよ」

「ありがとう霧咲君。じゃあ行こうか。みんな、俺たちは大丈夫だから心配しないで授業を受けててくれ」

 

そう言い残して高円寺は佐藤をお姫様だっこする。それを見て女子の中から黄色い声がする。高円寺は苦笑いしつつ教室を出る。俺もそれに続く。

 

 

佐藤を抱きかかえながら廊下を歩く高円寺の横を歩きながら俺は話しかける。

 

「この子……えっと佐藤はなんで倒れたんだろうな」

「うーん。確かに今まで佐藤さんが倒れたことなんて無かったし、なんでかな?なにか私生活にストレスがあったのかな」

 

今まで普通に過ごしているように見えた人物が急に倒れる理由としては妥当なところか。

 

「それとは別の事なんだが、聞いてもいいか?」

「ん?なにかな?」

「高円寺は普通に話してくれるんだな」

「ああ、そのことか」

「普通、得体のしれない人間にそこまで優しく出来ないと思うんだが」

 

高円寺は俺の言葉を聞いて笑う。

 

「そんなことないよ。霧咲君の過去になにがあろうと、今俺の前に霧咲君がいる事実は変わらない。それに、霧咲君が中間テストの時に助けてくれなかったら交換試験で朝日さんや檜山君が退学になっていたかもしれない。その恩もあるし、前に俺が倒れた時に話聞いてくれただろ?そんな人が得体のしれないなんて思わないよ」

 

流石大企業の跡取り息子。心の広さが半端ない。そうこうしているうちに保健室の前へとやってきた。長い道のりだった気もするが話していたせいであっという間だったな。高円寺派手が離せなさそうなので俺がドアをノックするが、返事は無い。先生が不在のようだ。

 

「仕方ない、俺が呼んでくるよ。霧咲君、佐藤さんをよろしく」

「え、いや、俺が呼びに行けば……」

 

言う間もなく高円寺は佐藤を俺に渡して職員室へ向かって行ってしまった。後に残されたのは佐藤をお姫様だっこした俺だった。

 

「なんだ、この状況」

 

このまま佐藤が目を覚ました場合、俺は何と説明すればいいのだろうか。最悪ビンタもあり得るな。頼む、目を覚まさないでくれ。

 

「ん……んん」

 

俺の願いは神には届かなかったようで、佐藤は目を覚ましてしまった。まぶたをこすっていた佐藤だったが、だんだん意識が覚醒してきたようだ。

 

「……え?」

「おはよう、佐藤」

「え!?ええっと、わ、わたし今浮いてる!?」

 

慌てながら状況を確認する佐藤だったが、ついに完全に把握できたようで、顔を真っ赤にしている。

 

「はわわわわ!き、霧咲君!?え、でもお姫様だっこ……ええ!?」

「落ち着け、頼むから落ち着いてくれ」

「は、はい!だから下ろして!」

「お、おう」

 

暴れる佐藤を怪我しないようにゆっくりと下ろす。佐藤は尚も顔を真っ赤にしている。高円寺のままだったらショック死していたかもしれないな。

 

 

「え、えっと霧咲君、いま、どういう状況なのかなっ?」

「憶えてないのか?授業中に倒れたんだぞ?」

「え!?そうなの!?げほっ」

「やっぱり体調不良か。なにかストレスでもたまってたのか?」

「う、ううん。そういうわけじゃ……」

 

佐藤が言いかけるのと同時に高円寺が先生を連れて戻ってきた。

 

「おそくなってごめんね……あれ佐藤さん気付いたんだね?」

「あ、う、うん……」

「まあ急に倒れた訳だし一応先生に見てもらった方が良いんじゃないか?」

「そうだね、俺たちもここで待ってるからしっかり見てもらいなよ」

 

高円寺と俺の言葉に頷いた佐藤は保健室へと入って行った。

その間、特にすることもない俺は学生証端末でクラスポイントを眺める。AからDクラス全てのポイントが変動しているということは、現状全クラスがクラスポイントを重視していることに他ならない。交換試験もあれ以来起きていないしな。となると楪や山崎、伊野ヶ浜がクラスをうまく回しているということか。

 

「なあ、高円寺―――」

 

俺が言いかけたところで大きな足音が聞こえた。

 

「ハッハッハ!このスクールも随分と変わってしまったようだねぇ」

 

 

その声の主は、隣にいる高円寺と同じ、綺麗な金髪をしていた。

 

 

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