ようこそ実力至上主義の教室へ~ジェネレーションネクスト~ 作:たけぽん
「と、父さん!?」
高円寺がそう発したのはどう考えても聞き間違いでは無かった。そしてそれを疑う余地もなかった。やってきた人物の体格や顔つきは高円寺に似ていたし、何より日本人であの金髪がそうそういるとも思えない。そう考察しているとその人物は高円寺の方へぐいぐいと近づいて行き……抱きしめた。
「ハッハッハ!元気だったか愛する我が息子よ!」
「と、父さん!苦しいから!こんなところでやめてよ!」
そうは言っているが高円寺の表情は晴れやかなもので、俺が今まで見てきた中で一番うれしそうだ。どうやらこの親子はかなり仲がいいらしい。
「フフン、その分だと大丈夫なようだ。ソーリーマイサン、久しぶりの再会に心が躍ってしまってね」
その親バカ加減に俺が呆れたような視線を向けているのに気付いたのか、高円寺が少し恥ずかしそうに俺に説明してくれる。
「霧咲君。こちらは俺の父で高円寺コンツェルンの総帥、高円寺六助だよ」
まあ、言われなくてもその顔や情報はネットで見たことがある。高円寺父はその紹介にドヤ顔を示してくる。なんというか、癖が強い。今までのやり取りらしてこの父親の遺伝子からよくこんな真面目な息子が生まれたもんだなと思ってしまうのは仕方ないんじゃなかろうか。
「父さん、こちらは俺のクラスメイトの霧咲勝真君だよ」
その紹介に高円寺父は興味深そうに俺を眺める。そしてふうっと息を吐くと、再び大きな声で話し出した。
「そうか、君は幸運にも我が息子と友人になれたようだねぇ。それは人生でまたとない幸運だ。誇りに思いたまえ、ミストボーイ」
ミストボーイとは俺のことか。おそらく霧咲の霧からとったんだろうな。
「よろしくお願いします。ゴールドヘアー社長」
相手があだ名で呼ぶ場合、自分もあだ名で呼ぶことで互いの距離が縮むんだと以前読んだ本に書いてあったし、これはボッチの俺としてはかなり上手い返しだろう。そう思い少し満足していたのだが、高円寺と社長は目を丸くしている。何かおかしかっただろうか。全く分からない。しばらくして、社長が笑い出す。
「ハッハッハ!この人生の中で他人にあだ名をつけられたのは初めてだねぇ。ミストボーイ、君は実にユニークだ。これからも我が息子と友人でいることを許可しようではないか」
もしかして大失敗したのかと危惧したが、社長は喜んでくれたようだ。何というか、裏表が無くて今まで見てきた大人のなかでトップクラスに親しみやすいな。
「ところで父さん、どうやってここに?確か家族でも長期休み以外は学校に出入りできないはずだけど」
「良い質問だ我が息子よ。そしてそのアンサーは単純明快だよ。この学校の卒業生は申請さえ済ませればいつでも入校出来るのさ」
そういえば社長もこの学校の卒業生だったな。以前体育の時に短距離走のベストタイム保持者の中に須藤と並んで名前を聞いた。
「そんなルールがあったんだ。でも、わざわざ申請までしてなんでここに?」
「少し用事があってねぇ。なーに大したことではないから心配ご無用だよ、我が息子よ」
「大した事だからわざわざ呼んだのだけれど?」
急に話に割り込んできたのは堀北先生だった。どうやら社長がやってきたのは先生の要請らしい。そういえば彼女と社長は同期だったか。
「おやおや、ひさしぶりだねぇツンデレガール」
その呼び名にあやうく噴き出すところだった。隣を見ると高円寺も少し口角が上がっている。
「あって早々、へんな名前で呼ばないでくれるかしら」
「そうかい?端的に君を表した実にハイセンスなネーミングだと思うんだが」
先生は大きくため息をつく。
「それはもういいわ。取りあえず応接室まで来てもらえるかしら?」
「了解だ、ツンデレガール」
そう言って社長と先生はその場から去って行った。再び俺と高円寺は佐藤を待つことにした。
「変わってるでしょ、俺の父さん」
高円寺が話題を提供してくれたので、俺もそれに乗っかることにした。
「そうだな」
「昔から唯我独尊って感じでさ。かなりの自由人なんだ。だけど父さんが社長に就任してから高円寺コンツェルンの業績は右肩上がりでね、俺の最も尊敬する人だよ」
珍しいな、高円寺がこんなに熱く語るなんて。気のせいか少し早口になっているようにも感じる。
「そうだな、俺もああいう大人になりたいもんだ」
すると高円寺は驚いたような表情をする。
「俺、なんか変な事言ったか?」
「い、いや。霧咲君が父さんみたいにって全然想像できないからさ」
「あくまで志だ。流石にあんなにしっかりはできない」
「霧咲君はどうして父さんがしっかりしてるって思ったの?」
「誰が相手でも態度が一貫しているからだな。普通の人間なら相手によって態度を変えたり、自分の本音を隠したりする。でも社長はそんな感じが一切ない」
高円寺は素直に感心しているのかうんうんと頷く。
「俺としては霧咲君が父さんにあだ名をつけたことに驚いたよ。今までそんな人はみたこと無かったからね」
「なんかまずかったか?」
「ううん。父さんも喜んでたみたいだし良いんじゃないかな?」
「そっか。ならよかった」
俺たちが話に花を咲かせていると、保健室の扉が開いた。佐藤が出てくるのだと思ったが、出てきたのは保健室の先生だった。
「先生、佐藤さんは?」
高円寺が尋ねると、先生はため息をつく。
「今はベッドで休んでもらっています。でも今日はもう早退した方がいいでしょう。かなり熱がありましたし」
そうなのか。さっき触れていた時はあまり熱を感じなかったが、平熱が低いということなのかもな。
「そうですか。じゃああとで女子の誰かに送ってもらうように頼みます。一日二日もあれば元気になりますよね?」
高円寺の見立てはいたって普通だが、先生は首を横に振る。
「通常ならそうなんですがどうにも彼女は体が弱いようで、今まで結構我慢していたみたいです」
まあ、Dクラスの教室はぼろくてホコリなんかもまってる。からだが弱い人からすれば劣悪な環境だ。それでも今までちゃんと授業を受けていたのだからそこは評価するべきとも言える。
「えっと、それじゃあ佐藤さんは?」
「一学期が終わるまでは安静にしていたほうがいいでしょうね」
「そんな……」
高円寺が落胆しているのは単に佐藤の容態が悪いからだけでは無い。1学期が終わるまで後2週間。登校日に換算して10日。その間佐藤が欠席するということは当然クラスポイントにも影響する。高円寺はそんなこと気にしないだろうがクラスメイト達は少なからず佐藤に否定的な感情を持つだろう。なにせせっかく団結してポイントを上げてきたのだから。
「すみません、体調不良の場合でも欠席はポイントマイナスになるんでしょうか?」
俺は念のために確認して見る。
「そうですね。学校のルールだと欠席に例外はありません。交換試験や特別試験などでも同様です」
特別試験?そんなものがあるのか。だがそれよりもこれで佐藤の欠席によるポイントマイナスが確定した。体調不良も自己責任というわけか。
「ほら、彼女の事は私にまかせて君たちは授業に戻りなさい」
「……はい。佐藤さんのことよろしくお願いします」
高円寺と一緒に俺も頭を下げる。
「みんなにどう説明しようね」
教室に戻る途中、高円寺が俺に尋ねてきた。佐藤を守ることも大事だが、そのためにクラスメイト達の頑張りを無駄にすることもできない。高円寺にとっては苦渋の決断だろう。
「取りあえず、佐藤が体調不良だって事は伝えたほうがいい。でも、2週間の欠席に関してはどうだろうな。取りあえず今は2日くらいってことにしてあとで容態が悪化したってことにするとか」
「やっぱり、その方がいいよね」
「問題は佐藤のルームメイトがそれを理解して協力してくれるかどうかだな」
「ああ、それは心配ないんじゃないかな?」
「え?」
高円寺が何故そこまで自信満々なのか、俺には分からなかった。