ようこそ実力至上主義の教室へ~ジェネレーションネクスト~ 作:たけぽん
「というわけなんだけど、協力してくれないかな、朝日さん?」
昼休み、食堂。高円寺と一緒に尋ねた佐藤のルームメイトはなんと朝日だった。俺がクラスメイトに関して無知なのは知っていたがまさか朝日のルームメイトだったなんてな。
「うん。わかった!秘密にするよ!」
佐藤の件もそうだが、高橋を泊めてくれているのも朝日のやさしさゆえだな。そう思い朝日の方に視線を向けるも、あっという間に逸らされてしまった。
「それで?結局その場しのぎで根本的な解決になっていないと思うのだけど?」
朝日と一緒に昼食をとっていた高橋の発言に高円寺は苦笑いする。相変わらず言いにくいことをズバッという奴だな。
「そうだね。確かにこのまま放置したらよくない方向に事態が進むのは分かり切ってる。だから、俺たちで佐藤さんの体調回復の為に何かしてあげようよ」
「あ、それいいね!看病してあげたりおかゆ作ってあげたり!ね、高橋さん?」
「いや、私は……」
「よーし、ガンバろー!」
高橋の返答を待たずに朝日は話を進める。これで高橋も参加が決定した。
「よし、取りあえずこの四人でやっていこうか」
4人、という言葉に朝日と高橋は俺の方を見る。
「意外ね、あなたが人助けに参加するなんて。またなにか企んでいるのかしら?」
「ちょ、ちょっと高橋さん!」
朝日はまだしも高橋は俺への敵意と警戒が丸出しだ。まあ、こいつは俺が裏でしたことを全部知ってるわけだし、当然といえば当然か。
「別に大した理由は無い。行きがかり上参加することになっただけだ」
「どうでしょうね」
「そんなに警戒しなくても、なにもするつもりはないさ」
「それはそれでどうなの……」
高橋があきれた表情で俺を見ている間、朝日は何か頭を捻っていた。
「どうした、朝日?」
「え?ああ、うん。どうやったら麻優佳ちゃんの体調が良くなるかなって考えててね」
確かに、残り10日程度の期間すら登校しない方がいいといわれている彼女の体調をどうやってよくすればいいのだろうか、俺には想像もつかない。
「それでさ!美味しいもの食べたら元気出るんじゃないかな~って思ったの!」
「それはあなたが食べたいだけじゃないの?」
「うぐっ」
高橋の指摘に朝日は言葉を詰まらせる。だが、アイデアとしては悪くないんじゃないだろうか。例えば、Dクラスの生徒で今日まで体調を崩した生徒は佐藤以外いない。その要因の一つとして食事があるとしたら。以前檜山が言っていたが、食堂のおばちゃんの料理は健康をかなり意識しているらしい。
「いいんじゃないか。食事は元気の源だしな」
「だよね!じゃあ美味しいもの作戦でいこ~!」
朝日が視線で「ありがとう」と言ってきたので頷くことで返答する。
「となると食材と、後は作り方を調べないと」
「いや、高円寺。食材はともかく作り方は大丈夫なんじゃないか?」
「え?」
「うちのクラスには適任がいるだろ」
俺は食堂の中の一人の生徒に目を向ける。高円寺もその視線を追う。
「そっか!檜山君だ!」
「そうだ。実家が飲食店の檜山なら健康に良い料理も知ってるはずだ」
「へえ、檜山君って飲食店の息子さんなんだね」
そういえばその話をした時、高円寺はその場にいなかったな。俺たちに話題にされている事に気付いたのか、檜山が「何?」とジェスチャーで示してくる。
「俺たちは食べ終わってるから、檜山君に話してみるよ。二人ともお昼中に話聞いてくれてありがとう」
「ううん。何かあったら言ってね!」
朝日たちの向かいの席を立ち、俺たちは檜山の席へと向かった。こちらを気にしていたせいで檜山の周りの生徒は先に食べ終わり席を立っていた。ゆえに、檜山の周りはほとんど人がいない。ここだけ切り取ると俺と大差ないようにも見えるが、檜山は料理の話題でかなりコミュニケーションをとっているし、やっぱり俺とは違うか。
「どうした高円寺……と霧咲」
檜山も俺を警戒している状況に変化は無しか。まあ、高橋と違って表面上はいつもどおり接してくれてるわけだし贅沢は言えないか。
「実はね、内密にしておいてほしいんだけど……」
高円寺が檜山にいきさつを説明している間、俺はさっきの社長と堀北先生の会話を思い出していた。あの時、社長は大した事では無いと言っていたが、先生は大した用事だから呼んだと言っていた。社長クラスの人間にとっては大した事じゃないが先生からすれば重要ってことだろうか。以前の須藤もそうだが、休みの日でもないのに卒業生が出入りするのは何故か。須藤だって試合や調整があるだろうし社長だって普通は忙しいはずだ。となれば、彼らには共通の目的があると考えるべきだろうか。
「というわけで、檜山君の力を貸してほしいんだ」
考えていたら、説明が終わったようだ。果たして檜山の反応は。
「おう、いいぜ。俺の料理で絶対に佐藤を完治させてやるぜ!」
「ありがとう檜山君!助かるよ!」
「取りあえず放課後までによさげなメニュー考えて放課後食材買って調理と行くか!」
頼もしい限りだ。このまま檜山に任せていれば問題ないだろう。さて、昼休みもあと半分くらいしかない、少しやることもあるしここで失礼させてもらうことにしよう。
「悪い高円寺、次の時間の予習がしたいから先に教室に戻ってもいいか?」
「え?ああ、うん。構わないよ。それじゃあ放課後、モール行きのバス停に集合ってことでいいかな?」
「了解だ、それじゃあな」
「……」
檜山は黙って俺と高円寺の会話を聞いている。今、なにか疑われるような事を言っただろうか?そうは思っても本人に直接「お前、何を疑ってる」なんて聞いたらさらに溝が深まりそうだ。仕方ないので俺は特に何も言わずに食堂を出ることにした。
寮から校舎へ戻り教室へと向かっていると、廊下に何か落ちているのに気がついた。近づいて確認して見ると、一冊のノートだった。落し物のようだな。拾い上げ、パラパラとめくって中身を確認して見る。
「……これは」
取りあえずノートを閉じる。そして表紙を確認してみる。名前くらい書いてあるはずだ。だが表紙には1年Bクラスとしか書いていない、というよりは名前の部分が消えている。何か食べ物をこぼした跡がある。どうする?職員室に届けるべきだろうか。だが、落とし主としてはこのノートは一刻を争うのではないだろうか。そう思っているとノートに挟まっていたであろう一枚の紙が落ちてきた。
「写真?」
落ちてきたのは一枚の写真だった。写っているのは皿に乗ったチーズケーキ。1年Bクラスの生徒のノートにチーズケーキの写真。俺の少ない人脈から持ち主に該当しそうな人物を探し出すと、答えにたどり着くのは容易だった。
***
学校生活の中で、人間関係を構築するのはとても大切なことだ。授業を休んだ時にノートを見せ合ったり、スポーツなんかで切磋琢磨出来る友人がいることは、まさに青春の必須事項と言える。そして、その関係は時にクラス内だけではなく、他クラスとの間にも生まれる。体育祭や修学旅行で同じグループになったりして、そこからできる人間関係もある。
ただ、この高度育成高等学校のシステムからして、他クラスの生徒と仲良くするのは結構ハードルが高い。つまりなにが言いたいかというと、ボッチの俺が他クラスの生徒にノートを届けるというのは卒業論文で好きなアイドルについて語るくらい困難だってことだ。
そう思いながらも、俺はBクラスの教室へとやってきた。青い制服の生徒たちがにぎやかにしているのが目に入る。取りあえずドアの陰から目的の人物を探す。
……っといたな。
「おい!お前!」
後ろから唐突に呼ばれたので、振り向いてみるとそこにはBクラスの男子が3人立っていた。
「お前、Dクラスの生徒だな?Bクラスの偵察にでも来たのか?」
「あ、いや俺は……」
「怪しい奴め!取り押さえろ!」
理不尽にも俺は男子たちに拘束されてしまった。このままだと目的の事を達成する前に昼休みが終わってしまうな。さて、どうするか。
「どうしたの?教室の前で騒いだら駄目だよ?」
半開きになっていたドアが開く。
「や、山崎さん!」
そこに立っていたのは山崎だった。山崎は俺を見ると不思議そうに首をかしげた。
「霧咲君?何してんの?」
「何もしていなかったってのが正解だな」
「え、こいつ山崎さんの知り合いですか?」
俺を取り押さえていた手が取り払われ、男子たちが山崎に尋ねる。
「そうだよ。こないだみんなにも言ったでしょ?彼こそが交換試験でCクラスの生徒を打倒した霧咲勝真君だよ!」
「え、ええ!こいつがあの霧咲勝真!?」
急に男子たちがオーバーなアクションで俺の前に整列する。
「き、霧咲さん!手荒なまねをして申し訳ありませんでした!」
何だこの手のひら返し。コントか?俺が困惑しているのを察してくれたのか山崎が説明してくれた。
「この子たちはあの杉森君と同じ部活だったんだけど、彼の暴力的な態度に困っててね。霧咲君が交換試験で勝ってから杉森君が大人しくなったから感謝してるんだよ」
「そうなんですよ!ありがとうございます霧咲さん!」
「お、おう。というかあれは杉森の調子が悪かったからだぞ。山崎は知ってるだろうけど至近距離の相手にパンチが当たらない程だったんだ」
「それでも勝ちに変わりないですよ!」
大分俺を崇拝してくれてるようだ。まあ、内輪で言ってるだけなら全然いいんだが。
「ところで、霧咲君は何しに来たの?」
「あ、そうそう。これ、山崎のノートじゃないかと思ってな」
俺はノートを差し出す。すると山崎は目を輝かせる。
「わー!これ無くしたと思って探しまわってたんだ!見つけてくれたの?ありがとう!」
「どういたしまして」
「え?でもどうして私のだって分かったの?名前のところ汚れちゃってたのに」
「ノートに挟まってたチーズケーキの写真。こないだのお茶会でお前が同じの食べてるの思いだしてな」
俺の発言にたいして山崎は一瞬間をあけてから、すぐに笑顔に戻り、ノートを受け取った。
「なあ、山崎」
「なにかな?」
「ノートを拾ったからというわけじゃないんだが、質問に答えてもらってもいいか?」
山崎は頷く。その表情は少し険しくなっているようにも見えた。
「お前、料理って好き?」
「え?」