ようこそ実力至上主義の教室へ~ジェネレーションネクスト~ 作:たけぽん
翌日、目が覚めた俺は大きくあくびをする。今日から学園生活が本格的にスタートするわけで、時計をみると登校までは結構時間がある。
床がきしむ音がしたのでそちらを見ると、既に制服に着替えた高橋が部屋を出るところだった。
「あら、おはよう。今から学校へ行くから10分たつまで部屋から出ないで」
そう言って高橋はドアをあけ周囲を見渡す。随分警戒しているようだが、この時間なら大抵の生徒はまだ寝ているだろう。
高橋が部屋を出た後、俺はベッドから出る。特にやることもないので昨日配られたパンフレットを見ながら時間をつぶす。表紙には
『革新的な教育指導は次世代のエキスパートを作り上げる』
と大きく書いてある。とはいってもパンフレットに書かれているのは外部からでも調べられるような基本的な内容だけ。詳しくは今日説明されるのだろう。
次に学生証端末の電源を入れる。今のところ使える機能は学内のマップと通話、メール機能くらいだ。だが、わざわざこんな端末を用意するのだから他にも使える機能は増えていくのだろう。俺のアドレス帳には当然だが誰の名前もない。昨日の自己紹介の場にいれば誰かとアドレスを交換できたのかもしれないな。そして、このブレスレット。指示があるまでつけるなと言われたが今のところ用途は一切不明。これも今日説明があるのだろうか。
一時間ぐらい時間をつぶし、いい時間なので制服に着替えることにする。次に、鞄に物を入れていく。とはいっても今日は入学式とオリエンテーションが大半なのでそこまでたくさん入れるものは無い。
「こんなものか」
鞄を持ち、部屋の外から鍵をかけ、食堂へ向かう。
食堂には結構な数の生徒がいた。昨日とは違い、各自楽しそうに会話している。たとえDクラスの所属でもこれから高校生活が始まるのだから浮かれる気持もあるのだろう。
俺はお盆をもち、食事を受け取りに行く。
「おはよう、今日も一日がんばってね」
食堂のおばさんはにこにこ笑いながらご飯を盛ってくれる。今日の朝ご飯は白米、豆腐とわかめの味噌汁、味のり、サバ味噌だ。昨日よりは良質の様な気もするが、それでも見ただけでは特段美味そうには見えない。
適当に空いてる席に座り、割り箸をわって食べ始める。やはり、見た目の印象より美味い。
「あ、霧咲君!おはよー」
目の前に座ってきた人物の声に、いったん箸をおく。
「おはよう朝日」
「今日から高校生活の始まりだね!」
「そうだな」
朝からこんなに元気なのは素直に尊敬する。
「Dクラスだって言われた時はどうしようって思ってたけど、みんないい人だし、なんとかやっていけそうだよー」
やはり朝日もDクラスに配属されたことは少なからずショックだったようだ。
「まあ、Dクラスでも特に気にすることは無いと思うぞ」
「だよね!これから3年間Dクラスで生活するんだし、住めば都っていうしね!」
俺の言いたかったこととずれているが、前向きなのはいいことだ。
食事を終え、俺は食堂を後にする。朝日は他の女子と喋りだしたのでもう少しかかるだろう。玄関で靴を履き、外へでる。ここからでも見えるほど校舎は大きい。だがそれでもこの寮からは結構遠いが。15分ほど歩き、なんとかたどり着く。玄関に入ると、よりその大きさがわかる。この学校は10年前に大幅な改装工事と制度改革を行なったとパンフレットに書いてあった。ひょっとすると寮や制服の色分けもその時に変わったのだろうか。
そう思いながら、俺は教室へと向かった。
結論から言って、Dクラスの教室はひどいものだった。机やいすは木造でとても古く、物を置けばがたがたするもので、扉も建てつけが悪く、あけるのに苦労する。さらにはとてもほこりっぽく天井には蜘蛛の巣が張っていて、ここだけ別の学校といわれても疑いを持たない程だ。10年前の改装工事とはなんだったのか。
黒板には座席自由と書いてあるので俺は窓際の最後尾の席に座る。先に来ていた高橋は真ん中の列の一番前に座っていた。しばらくするとDクラスの生徒が続々入ってきた。それにともない教室は騒がしくなっていく。いろいろなところから教室に対する不平不満が聞こえてくる。
10分後、始業をつげるチャイムが鳴る。それとともに教室のドアが開き、担任と思われる女性が入ってきた。その瞬間、生徒たち、特に男子の視線はその人物にくぎ付けになった。長い黒髪、整った容姿、そして何より歩き方から感じる気品と迫力。その人物は教壇に立つと、凛とした態度でこう言った。
「Dクラス担任。堀北鈴音(ほりきた すずね)です。これから朝のホームルームを始めたいと思います」
***
堀北と名乗った教師は教室を見渡し、咳払いをしてから話し始めた。
「まずは、入学おめでとう。この学校ではクラス替えは無いので3年間私が担任となります。みなさんが未来を支えていくエキスパートになれるように指導していきたいと思います」
「でもセンセー。落ちこぼれのDクラスから未来を支える人材なんて輩出できるんですかねー」
一人の男子生徒が野次を飛ばす。
「あなたは……」
「手塚優正(てづか ゆうせい)です。試験は頑張ったけどDクラスに配属された落ちこぼれでーす」
よくみるとそいつは昨日のキャップをかぶっていた男だった。今日はかぶっていなかったので全く気付かなかった。そして、手塚の発言に、多くの生徒が敵意をみせる。手塚の発言はDクラス全員が救いようのない落ちこぼれだと言っているようなものだし、当然か。
「手塚君ね。あなたは勘違いしているかもしれませんが、学校側はDクラスを落ちこぼれとは認識していないわ。単純に試験の結果から振り分けただけです」
「それを落ちこぼれって言うんじゃないんすか?」
手塚は尚もへらへらとしている。すると先生は真剣な顔で手塚だけでなく俺たち全員に向けて告げた。
「この学校で問われるのはDクラスかどうかではない、とだけ言っておきます」
その言葉に教室は静まり返る。その言葉はDクラスの生徒にとって希望を持たせる一言に聞こえたが、生徒たちは疑わしくも思っているようだ。あげて落とすなんて事はよくある話だし、無理もない。
「さて、もうすぐ入学式が始まりますので準備してください。」
***
この学校でも入学式というのは同じようなことをするらしく、俺たちは普通に体育館に入場し、教師たちも普通に生徒を座らせ、今はステージの上に校長がたち、歓迎の言葉を述べている。ちなみに、制服の色分けだが黒がAクラス、青がBクラス、緑がCクラスらしい。俺たちDクラスが赤なのはレッドゾーンという意味もあるかもしれない。
「では、歓迎の言葉は以上として、ここからは本校の独自システム、『NSシステム』について話したいと思います」
校長の言葉に生徒たちは疑問を浮かべる。校長はそれに答えるように話を続ける。
「ネクストSシステム、通称『NSシステム』とは、実力で生徒をはかるためのシステムです。この学校では、クラスの成績、評価がプライベートポイントとクラスポイントに反映されます。プライベートポイントとは、生徒一人一人に与えられるポイントで、これをつかって敷地内の店で買い物をしたり、娯楽施設で遊んだりもできます。原則として、このポイントで買えないものは無く、またこの学校では絶対の力を持ちます。君たち新入生にはいまこの場で、10万ポイントが支給されます。1ポイントで1円の価値となります」
生徒たちはざわめく。10万ポイントということは日本円で10万円。とても高校生のもつ額では無い。そして、校長の言うクラスの成績評価が反映されるということは、当然授業態度や生活態度も査定に含まれるということになる。
「そして、クラスポイント。簡単に言うとクラスに与えられるポイントです。入学時点で各クラスには1000クラスポイントが与えられています。このポイントはテストや行事等で変動し、それによって1カ月に振り込まれるプライベートポイントが変動します。」
クラスで団結してクラスポイントを上げれば、その分裕福に生活できるということか。
「そして、クラスポイントが上位のクラスを上回ればそのクラスは昇格し、下回れば降格します」
校長の発言に大半の生徒は驚きの声を上げるが、良く考えればわかることだ。試験の結果が悪い、手塚の言葉を借りれば落ちこぼれの集まりで構成されたDクラスなんてものはどう考えても必要ない。それなのにクラスが4つ存在する理由はただ一つ。下剋上制度の存在だ。
「そしてもう一つ。この二つのポイントのほかに、テストなどの結果によって個人に与えられる『ネクストポイント』が存在します。ネクストポイントは1ポイントにつき50プライベートポイントに変換可能で、このポイントが一定値を超えると、個人によるクラス替え、『交換試験』を受けることが可能となります。この試験によって、クラスポイントを上げなくても上のクラスを目指す事が可能となります」
校長はいったん話を切って俺たちの反応を見る。いきなりたくさんの情報を受け取った生徒に、整理する時間を与えてくれているのだろうか。
「そして、皆さんが期待する卒業後の高い進学、就職率の恩恵を受けることができるのは、Aクラスだけです」
周囲が再びざわつく。BでもCでもDでもそのままでは何の意味もなく、さらにAも気を抜けば立場をひっくり返される。そのために取れる手段は2つ。全員で頑張るか、一人で頑張るか。どちらにせよこの学校は……。
「そう、この学校は完全なる実力至上主義なのです」