ようこそ実力至上主義の教室へ~ジェネレーションネクスト~   作:たけぽん

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21話 緩やかなる序曲は波乱無くして奏でられない

「税金の無駄遣いですね」

 

太平洋のど真ん中を航海する豪華客船、ワルキューレ。その中にある無駄に大きな劇場では、無駄に凝ったセットと、無駄にいい声の役者たちが『イカロスの翼』を上映している。それを見ながら俺は隣に座る茶柱副校長に語りかける。100人以上を想定したであろう座席には、俺たち二人以外の姿は無い。

 

「その感想を聞いたのはかなり久しぶりだな」

「だれでもそう思うでしょう。そもそも高校生がイカロスの翼のミュージカルなんて好き好んでみませんよ」

「私は結構好きなんだがな」

 

副校長は皮肉交じりに笑う。正直に言うと、俺も結構面白いとは思う。だが、高校生向きでは無いのは確かだ。

 

「それで、何の用ですか?イカロスの翼の感想会なら堀北先生とでもしたらどうですか」

「あいつはああ見えてミュージカルは興味が無いんだ」

「意外ですね」

「自分から話を切りだしてすぐに脱線するのは何かのギャグか?」

「場を和ませようかと」

 

副校長はため息をつきながら煙草に火をつける。

 

「『アイツ』からお前への伝言だ」

「いいんですか?一応目上の人間なのに『アイツ』呼ばわりなんて」

 

俺の茶化しはスル―して副校長は話を続ける。

 

「『私に会いたければAクラスに上がってこい』とのことだ」

「Dクラスに配属しといてその発言は正気とは思えませんね」

「もともと『アイツ』は正気ではないだろう?」

「ごもっともで」

 

ちょうど公演が終わったので、俺は席を立ちあがる。

 

「まて、お前の答えを聞こうか」

 

副校長の問いに俺は背中を向けたまま答えた。

 

「オレの目的は復讐です。そのためならAクラスに上がります」

 

例えそれが『アイツ』の仕組んだ罠であっても。そのためにどんな犠牲を払おうと。

オレは、『アイツ』に復讐する。

 

***

 

常夏の海、晴れ渡る空。俺たち1年生の4クラスを乗せたワルキューレは太平洋を進んで行く。夏休みに旅行があるのは聞いていたがまさかこんなに整った設備を無料で使えるなんて思わなかった。

 

「檜山、実家はどうだった?」

 

船のデッキにあるプールサイドで、隣に座る檜山に話しかける。夏休みの前半、実家で修業していた檜山の実力がどれほどか興味がある。

 

「おう。かなりきつい修業だったぜ。毎朝3時に起きて仕込みしたり、一人で30人分の料理を時間内に作ったり」

「総合文化祭への意気込みはどうだ?」

「やる気満々だな」

 

それは楽しみだ。グレードアップした檜山の料理、絶対に逃すわけにはいかない。

そう思いぼーっとしているとプールから水しぶきが飛んできた。

 

「霧咲君、檜山君!せっかくのバカンスでなにたそがれてるのさ!遊ぼうよ!泳ごうよ!」

 

プールから朝日が呼びかけてくる。赤い水着が赤い髪とマッチしてるな。あと、朝日って意外とでかいんだな。何がとは言わないが。

 

「ね、麻優佳ちゃんも霧咲君と遊びたいよね?」

「え!?わ、私はその、あの……」

 

同じくプールの中にいる佐藤はものすごく動揺している。水着の色は白。あと、かなりでかい。何がとは言わないが。

 

「そうだな、せっかく来たんだし遊ばなきゃ損か!行こうぜ霧咲!」

「悪い、少し船酔いしたから部屋に戻る」

「え~なんだよ釣れねーなー。まあ、仕方ないか。ゆっくり休んどけよ~」

 

檜山はそう言い残しプールへと飛び込んで行った。……飛び込み禁止って書いていたような気がするんだが、まあいいか。

デッキを後にし、船内を適当に歩き部屋へと戻った。

 

「ああ、お帰り霧咲君」

 

同室の高円寺が二段ベッドから降りてくる。それと、同じく同室の草薙と、最近知り合った松風京介(まつかぜ きょうすけ)も出迎えてくれた。

 

「霧咲クンどうだった?女子たちの水着はさぁ?」

「どうって言われてもな……そもそも知りたけりゃ自分で行けばいいじゃないか」

「いやいや分かってないな霧咲クン。俺は高橋さん一筋な訳よ、だから他の女子の水着見にいったら怒られちゃうっしょ~」

 

草薙が若干悲しそうな表情をしているのは高橋をプールに誘って断られたからだろうな。

 

「あはは、拓哉は一途だねえ」

 

松風はにひひと笑う。松風は草薙と同じサッカー部で、かなり足が早いと評判だ。教室でも、草薙のしょうもない話に上手く相槌を打っていることから、かなりの聞き上手のようだ。

 

「だろー?やっぱ京介は分かってるっしょ~」

 

そんな二人のやりとりをなんとなく聞いていると高円寺が俺を手招きしていた。

 

「霧咲君、少しいいかな?」

「ああ、とくにやることもないしな」

 

俺と高円寺は部屋を出て、船内の休憩室へと足を運ぶ。俺がソファに座ると高円寺がその向かいに座る。

 

「率直に聞くと、霧咲君はこの旅行、どう思う?」

「どう思うってことは高円寺はこの旅行になにか思うところがあるってことか?」

「そうなるね。この船はほとんどの施設を無料で使えるようになっているけど、学校側はそのために莫大なお金を使っているはずだよ。それなのに、ただバカンスして帰るなんて絶対におかしい」

 

高円寺の疑問は誰でも思うことだが、ほとんどの生徒はプールやレストランを無料で使える事に気を取られすぎてその疑問を投げてしまっているのも事実だ。

 

「同感だな。俺もこの旅行には不信感がある」

「霧咲君もそう思うよね」

「――なんだなんだ、内緒話かよ高円寺クン?」

 

声のほうに振り向くと、やってきたのはCクラスのグループだった。Cクラスリーダーの伊野ヶ浜、それにつづいて杉森、柳川、それと……坂上だったか。お茶会で伊野ヶ浜と一緒にいたがほとんど喋らなかった生徒だな。そして声をかけてきたのはCクラスに無理やり昇格させられた手塚だった。

 

「や、やあ手塚君」

 

高円寺の顔が少しひきつる。まあ、クラスを半壊させた奴に笑顔で接するのも違和感ありまくりだが。

 

「お久しぶりですなあ高円寺はん、そして霧咲はん。交換試験の時はしてやられましたわ」

「伊野ヶ浜、邪魔すんなよ。今俺が高円寺クンと話してんだろうが」

「まあまあ手塚はん。そう声を荒げんといてくださいな」

「はいはい分かったよ、さーせんね」

 

意外だな、てっきり手塚はCクラスでも孤立すると思っていたがけっこう上手く馴染んでいるように見える。

 

「それで、伊野ヶ浜君たちはどうしてここに?」

「ああ、一応交換試験の後の挨拶と、あとは単にうちらも休憩ですわ。そう警戒せんでもええですよ」

 

そう言って伊野ヶ浜は俺の隣に腰掛ける。それと同時に手塚達もソファに腰を下ろした。何と言うか、圧迫感が凄い。どこぞの企業面接のようだ。

 

「ところで、お二人も話しとりましたが、この旅行どうにもきなくさいですなあ」

 

あの声量で聞こえてたのか、どんな耳してるんだこいつは。

 

「伊野ヶ浜君もそう思うかい?」

「当然だろ高円寺クン。どこのバカがこんな贅沢旅行考えるってんだ。ぜってー裏があんだろ」

 

手塚が足を組みながら伊野ヶ浜の代わりに答える。

 

「う、うん。そうだよね。この旅行は不自然だ」

「これは噂なんですが、毎年この時期には特別試験いうのがあるらしいんですわ」

 

特別試験。以前保険医の先生に欠席について尋ねた時にも出てきた言葉だ。

 

「伊野ヶ浜君たちは今回の旅行が特別試験だって言いたいのかな?」

「あくまで可能性の範囲ですわ。こんな海のど真ん中で出来る試験いうても限られてきますし、他の狙いがあるのかもしれません」

「でも、それを俺たちに言ってもよかったのかい?仮に特別試験なら敵同士ってことになるんだよ?」

「ま、それもそうですな。でもですな、うちらはDクラスとは仲ようしたいんですわ」

 

交換試験を吹っかけといて仲良くしたいってどういう風の吹き回しなんだろうか。だが、ここでそんなことを聞けば雰囲気が悪くなるどころか敵視される恐れもある。手塚が所属しているだけで面倒なクラスなんだ。できれば穏便に行きたい。

 

「ところで霧咲はん、少しお聞きしたいんですが……」

 

伊野ヶ浜がそう切り出したところで、船内に放送が流れた。

 

『これより、当学校が所有する孤島に上陸いたします。生徒のみなさんは、ジャージに着替え、学生証端末とネクストリングを忘れずデッキに集合してください。また、上陸するまでの30分間は、デッキから非常に意義ある景色がご覧いただけます』

 

「おや、もう上陸ですか。ほな、ジャージにきがえまっか。霧咲はん、話しはまた今度にしますわ」

「んじゃな、高円寺クン」

 

Cクラスの面々はソファから立ち上がり、休憩室を後にした。

 

「俺たちも行こうか。意義ある景色ってのも興味あるしね」

「そうだな、まずは着替えないとな」

 

俺たちも休憩室を出る。

この時、俺たち含め生徒たちは予想できていなかった。これから起る事の顛末を。

 

 

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