ようこそ実力至上主義の教室へ~ジェネレーションネクスト~   作:たけぽん

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22話 誰がサイコロを振っても出目は6通りしかない

ジャージに着替え、高円寺や草薙たちとデッキに出てみると、なるほど確かに大きな島が見える。どうやらこの船は島の外周をゆっくりと回っているようだ。

 

「うわ~大きな島!」

 

先に来ていた朝日が佐藤とはしゃいでいる。その近くには檜山や高橋をはじめとするDクラス、さっき話していた伊野ヶ浜たちCクラス、そしてBクラスとAクラスの生徒が同様に島の方を見ている。俺たちもそれに混ざり島を眺める。とはいっても俺にはこの島の風景が普通の島と同じなのか、はたまた違うのかわからない。

 

「高円寺、この島を見てどう思う?」

 

隣の高円寺に聞いてみる。

 

「……そうだね。結構大きいし、森が多いみたいだね。でも……」

「でも、なんだ?」

「とてもじゃないけど100人そこらで楽しめるような島には見えないよ」

「ということは伊野ヶ浜の予想が濃厚になってきたわけだ」

 

高円寺はそれには返事せずに、島の方を熱心に眺める。なるほど、これは確かに意義ある景色と言えるな。取りあえず島の事は俺には分からないし、適当にしていよう。そう思っていると、後ろから肩をたたかれた。

 

「こんにちは霧咲君」

「楪か。島を見るのはもう飽きたのか?」

「それはお互いさまじゃないですか」

「違いないな」

「お友達とは仲直りできましたか?」

 

そう尋ねる楪の視線は高円寺たちに向いているように見える。

 

「そもそも俺は喧嘩したつもりは無い。元凶はお前たちだろ」

「ふふ、それは申し訳ありませんでした」

「反省してるやつの態度じゃないだろ……」

「聞かないんですか?」

 

急に楪が真剣な表情になる。

 

「聞くって、何を?」

「霧咲君の秘密についてです」

「おととい購買であんパンを買ったらクリームパンだった話しか?」

「それは非常に興味がありますが、私が言っているのは霧咲君の経歴についてです。誰かに言いふらされてるかとか心配じゃありませんか?」

 

やっぱりあんパンじゃうまく脱線はしないか。

 

「別に、俺は自分の経歴を隠す気はない。いずれは全校生徒に知れ渡ることも想定済みだ。それに……」

「それに?」

「知ったところで誰も信じやしないさ」

 

それくらい俺の経歴はぶっ飛んでるわけで、誰かに言ってもやばい妄想だとしか思われないだろう。その答えを聞いて楪は再び笑みを浮かべる。

 

「そうですか、でも安心してください。霧咲君の秘密を知っているのは1年生では私と霧咲君のお友達だけですので。生徒会としても現時点で発表するつもりはありません」

 

現時点でというのが非常に胡散臭いが、生徒会も俺の正体について詳しく知っているわけではないから下手にちょっかいを出すのは避けているということが分かった。

 

「さてと。そろそろ上陸ですね。霧咲君。またお話ししましょう」

 

楪はそう言い残すとAクラスの集団の方へ戻って行った。

 

 

 

それからほどなくして、俺たちは島へ上陸することとなった。その際学生証端末は回収され、ネクストリングの装着の確認がなされた。上陸するとすぐに砂浜にクラスごとの列を作らされた。生徒たちはしばらくの間ざわついていたが、茶柱副校長がメガホンを持って前に立つと、すぐに静かになった。副校長の横には堀北先生をはじめとする各クラスの担任たちが並んでいた。副校長は生徒たちの様子を一通り見ると、メガホンに向かって話し出した。

 

「まずは長旅ご苦労だった。本日この場に1年生全員が来れたことを嬉しく思う」

 

しばらくはそんな社交辞令のような挨拶が続いていたが、副校長が一度話すのをやめた。それはまるでこれから重大なことを話す事を俺たちに伝えているようだった。

 

「それではこれより、特別試験を開始する」

 

その言葉に対して驚く生徒が半分、動じない生徒が半分、といった感じだった。おそらく、特別試験というワードは俺たち以外にも1学期の間に浮上していたのだろう。それこそ伊野ヶ浜のように時期まで把握している生徒もいるくらいなのだから。

 

「特別試験の内容は、これから一週間、この島でサバイバル生活を送ってもらうことだ」

「さ、サバイバル!?」

 

列の一番前にいた池田が驚きの声を上げる。池田だけではなく、こればかりは他の生徒たちも動揺が見られる。

 

「動揺するのは分かる。お前たちの多くは船での豪華な施設や娯楽に目を引かれ、今この場で試験が始まるなど思いもしなかっただろう。試験について感づいていた者もいるようだが、試験内容がサバイバルだなどとは思わなかっただろうな」

 

副校長は表情一つ変えずに話し続ける。何気なく辺りの様子を伺うと、佐藤と目があった。とはいってもこちらを見ていたのではなく不安そうにあたりを見回しているところで偶然俺と目があっただけのようだが。心配そうな表情をする佐藤に何か気のきいたサインをしてやりたいが、生憎そんなサインは知らないので小さく頷くことにした。すると佐藤はほっとしたような表情をする。今ので伝わったのか?同じことを朝日にしても頭の上に?マークが浮かぶこと間違いないだろうに。

 

「試験の内容に関してはこの後マニュアルを配布しクラス担任から通達される。私からは以上だ。では、後はクラス担任に任せる」

 

そう言って副校長はメガホンを下ろし、横にいる教師陣に目で合図する。それに伴い担任たちが各クラスを等間隔に離し、マニュアルを配布しだした。回ってきたマニュアルに適当に目を通してみる。取りあえず流し読みで分かった点は

 

・試験のテーマは「自由」

・この試験においては各クラスに試験専用のポイントが300支給される。マニュアルに記載されているものはこのポイントを使用することで手に入れることができる。(食糧や飲料水、さらにはバーベキューの機材や食材等も)

・試験終了時に残っているポイントをクラスポイントに反映する

 

といったところだろうか。まあ、どうせすぐに詳しい説明があるのだろうが試験の概要は何となく理解できた気がする。一週間この島でポイントを使い生活し、残ったポイントが二学期からクラスポイントに反映される。つまり、ポイントを節約できればクラスポイントが大幅に上がり、上のクラスとの差を縮めることができる。他にも、自由というテーマの通り、バーベキューや海水浴を楽しみ夏休みのバカンスにすることもできる訳だ。

 

「全員に回ったようなので、説明を始めます」

 

堀北先生が説明を始める。最初の内は俺が思ったことと大体同じような事が説明された。

それを聞いた生徒たちは各々様々なイメージを思い浮かべる。

 

「てことは、食糧や寝床を自分たちで確保すれば300ポイントまるまるゲットてことか!」

 

そんな声が上がるが堀北先生は首を横に振る。

 

「残念ですが、それはほぼ不可能です。マニュアルにも載っていますが、『調不良や怪我で試験の続行が不可能と判断されたものはマイナス30ポイントおよびリタイア』『環境を汚染する行為に関してはマイナス20ポイント』『毎日午前8時、午後8時に行われる点呼に不在の場合、一人につきマイナス5ポイント』です。つまり、無理な生活は自分たちの首を絞めるということです」

 

マニュアルの該当箇所をみると他にも『器物破損は一か所につきマイナス50ポイント』『他クラスへの暴力行為、略奪行為は即失格』というものがあった。

 

「そして、この後皆さんは島を自由に移動できますが、島の各所にはスポットが設けられています。それらには占有権があり、占有したクラスが使用できる権利を与えられます。ただし、占有できるスポットは一か所、変更もできません」

 

生活区域は一か所で固定というわけだ。拠点選びも重要になる。

マニュアルを読み進め、最後のページをめくると、そこには『追加ルール』と記載されていた。先生の話と同時に目を通す。

 

 

・スポットは誰でもネクストリングを専用の端末にかざすことで占有可能。その場合、占有者の名前がデータとして記録され、ネクストリングをかざす事で確認可能。

・生徒個人が他クラスの占有するスポットに入る際は占有しているクラスの許可が必要となる(専用となる端末に音声認証することで可能)

・試験開始の1時間後に、ネクストリングを介して各クラスに一名、リーダーの権利が与えられる。

・リーダーになったものはそれをクラスに申告するかどうかは本人の判断に任せる。

・試験終了時に他クラスのリーダーを指名し、的中させた場合1クラスにつきクラスポイント50ポイント、リーダーにはネクストポイント5000ポイントが与えられる。だが、外した場合クラスポイントがマイナス50される。

・リーダーがスポットを占有しており、試験終了時に的中されなければクラスポイント100ポイント、クラス全員に1000ネクストポイント。

・試験終了時にリーダーが的中されなかった場合リーダーにネクストポイント1000、的中された場合マイナス1000ポイント

 

なるほど、リーダーを的中させることで大きなアドバンテージを得られるのか。だが外せばクラスポイントがマイナスされる。さらに重要なのが、このリーダー制度、リーダーが自己申告制という点だ。リーダーであることを誰にも言わなければ、何もしなくてもネクストポイントが手に入る上に、クラスで共有し万が一他クラスにばれればリーダーは他の生徒より大きなダメージをうける。まったく嫌なところをついてくるルールだ。

 

「そして過去の試験の結果から本年度より追加されたルールがあります。まず、リーダーは何があっても変更はできません。リーダーが離脱した場合はリーダー制度による恩恵は一切受けられません。次に、無人島内には監視カメラが設置されているので違反行為はすぐに見つかります。最後に、他クラスと協力することも一切制限はありません。以上で説明を終わります」

 

なんだかよくわからない追加ルールだな。一体過去の試験で何があったのやら。

説明も終わり、Dクラスの面々は高円寺を中心に砂浜で作戦会議を始める。

 

「取りあえず、必要最低限のものはポイントで購入した方がいいと思うんだけど、みんなどうかな?」

 

高円寺がみんなを見回す。

 

「斉人クンの言うとおりだわ~。体調不良によるリタイアはマイナス査定な訳だし、トイレとか食糧くらいはしゃーないべ」

 

草薙が同意を示す。長い目で見れば確かにその方がはるかに効率的だ。ポイントをある程度使うことが最終的にポイントを残すことに繋がるだろう。

 

「俺もさんせー」

「私もー」

 

周りからも賛同の声が上がる。やはりDクラスの中心には高円寺がいるわけで、逆に言えば高円寺がいなければこの試験は高円寺の力なしでは突破不可能だろう。

 

「リーダー制度に関しては、一時間後通達されてから話しあおう。今は活動拠点になるスポットを探そう。何組かに分かれて、島を探索。1時間後にここに集合にしよう」

 

高円寺の言葉にクラス内で探索グループが作られていく。朝日や檜山も既にグループが決まり始めているようだ。一方俺はというと、完全にボッチだ。ビッグウェーブに乗り損ねた。どうしよう。

 

「あわれね」

 

後ろにいた高橋が罵ってくる。

 

「お前だってボッチだろ。朝日もほかの奴と組んでるみたいだしな」

「もともと私は集団行動が苦手なのよ」

「自信満々にそんな事言われてもな……」

 

高橋との会話はそこで切り上げ、俺もどこかに混ざろうと歩き出すと、唐突に腕を引かれた。

 

「あ、あの……」

「佐藤か。俺を脱臼させてどうするつもりなんだ?」

「ち、違うよ!その、よければ私と一緒にグル―プ組んでほしいなって……」

「いいぞ」

「え!?いいの?」

「ちょうどボッチで困ってたんだ。ありがとう」

「う、うん!」

 

佐藤は嬉しそうな顔で頷く。なんというか、異常によくしてもらっているんだが、これあとで友達料金とか発生しないよな?

 

「あ、でも二人じゃグループにならないね……」

「確かに……」

 

最低でもあと2、3人は欲しいところだ。

 

「あれ、霧咲たちも余ってんの?」

 

そんな俺たちに声をかけてくれたのは松風だった。隣には高円寺もいる。

 

「ああ、そうだが……なんでお前たちが余ってるんだ?」

 

クラスの中心の高円寺とその友人がグループ分けで余るなんて事があるだろうか。

 

「いや、まあ、どこかに積極的に入ろうとするとみんなもめちゃうからさ……」

「斉人はモテモテだからねえ」

 

なるほど。人気者には人気者なりの苦労があるわけだ。

 

「それじゃあ俺たちと組んでもらえないか?」

「もちろんだよ。えーっと、霧咲君と佐藤さんと高橋さんだね?」

「え、ちょ、ちょっと私は一言も……」

 

たまたま近くにいたため高橋もグループに加わることになった。本人の意思は知らんが。

 

「それじゃあ、行こうか!」

 

高円寺の声によって、Dクラスの各グループは島の探索へと向かった。

 


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