ようこそ実力至上主義の教室へ~ジェネレーションネクスト~ 作:たけぽん
探索、と言ってもDクラス、いや他のどのクラスにしろ無人島を探索した経験者なんているのだろうか。ただでさえ携帯ゲームやネット環境が発達した現代で夏休みに山にキャンプするならまだしも無人島に旅立とうなんて思うアウトドア派の高校生なんて百人にきいても一人いない方が確率が高いだろう。そういう意味では、この試験はAクラスでもDクラスでもスタートラインはほぼ平等と言えるだろう。
「うん。このあたりならスポットにちょうどいいね」
と、思っていたのだが我らがDクラスのリーダー高円寺はなんなく川辺のスポットを発見した。
「すごいな斉人。森もあっさり抜けたし、どうやったんだ?」
松風の問いに高円寺は快く答える。
「うん。無人島ってわけじゃないけど小さいころから父さんの所有する島でよく探検してたからね。それにこの森はどうやら人工のものみたいだから、ちゃんと見れば迷う事もないんだよ」
確かに、船の上から島を見ていた時も高円寺は熱心だったし高円寺コンツェルン程の大企業なら島を所有していてもおかしくは無い。
「それじゃあ、さっきの浜辺に戻ってみんなに伝えよう……と思ったけどまだ少し時間があるし、少し休憩していこうか」
そんなわけで、休憩時間になった。特にやることもないので切り株に腰かけもう一度辺りを見渡してみる。周りには木が生い茂ってはいるが、テントやトイレなどを設置するためのスペースは十分にある。川の水も綺麗だし、飲み水にも困らないだろう。そして、雄大な自然環境の中にぽつんと置いてある機械、これがスポットを占有するための装置なんだろう。
「霧咲君、ちょっといいかな?」
顔を上げると高円寺と高橋が傍にいた。佐藤と松風は少し離れたところで休憩している。結構なペースで歩いてきたし疲れても仕方ないか。
「ちょっと、霧咲君。聞いているのかしら?」
「聞いてるって。それで、何の用だ?」
「俺は今回の試験、手塚君の一件で失ったポイントを取り戻せるチャンスだと思うんだ。だから、霧咲君の聞かせてほしいんだ」
高円寺の言葉に高橋も頷く。
「めずらしいな、高橋が高円寺と協力しようなんて。クラスポイントには興味無かったんじゃないのか?」
「別に。今回の試験ではネクストポイントも大幅に増えるからってだけよ」
「ですよねー」
「それで、あなたはこの試験どうやって突破するつもりなのかしら?」
「正直、俺には何も思いつかない。無人島なんて始めて来たし、サバイバル知識もない。完全にお手上げだ」
だが、その発言に対して高橋は眉をひそめる。高円寺もあまり納得出来ていない様子だ。
「おい、なんだその反応は」
「あなたが嘘を言ってると思っているからよ」
「それは誠に遺憾だな。何を根拠に……」
「どの口が言ってるのかしら。これまであの手この手で課題を突破しておきながら」
「ま、まあまあ高橋さん。落ち着いてよ」
高円寺が高橋をなだめるも、高橋はまだ言葉を続けようとする。
「強いて言うなら、お前たちにはリーダー当てのルールの利用はおススメ出来ない」
「と言うと?」
「厳密には利用できないってことだ。まず確実にリーダーは名乗り出ないからな」
「確かに、だまっていたほうがリーダーになった人の得るものは大きいからね」
「そうだ。だからやるべきことはポイントの節約くらいだと俺は思う」
クラス内のリーダーが誰かを探そうとすれば恐らくは言い争いになり最悪の場合クラスが崩壊する可能性もある。そして、他クラスのリーダーを当てることも不可能に近い。仮に当てようとして外した場合はクラスポイントも大幅にマイナスされる。そうなれば二学期以降Dクラスは機能しないだろう。一つ上のクラスはもちろん大きく差が開いているBクラスとAクラスにはほぼ勝ち目が無くなるわけだからな。
「……そうだね。リーダー制は当てにせずにポイントを多く残す事を考えたほうがよさそうだ」
高円寺も俺の言いたいことが分かったらしく、賛同してくれる。だが高橋はなぜか神妙な顔をしている。
「なんだ高橋、どうかしたか――」
「おーい斉人~!そろそろ戻ろうよ~!」
俺の問いかけは松風の呼びかけによって遮られてしまった。ネクストリングを見てみると、出発してから40分程度過ぎている。そろそろ他のグループも浜辺に戻り始めていることだろう。
「うん、そうだね。それじゃあ戻ろうか」
高円寺を先頭に俺たちは再び来た道を戻ることにした。
それにしても、高円寺によるとこの森は人工的に作られたものらしいがそんな島を管理するのには一体どのくらいの資金が必要なのだろうか。堀北先生はこの試験は以前もあったという旨の事を言っていた。そこから察するにこの無人島試験は高育の創立から何年かおきに行われていたことになる。少なく見積もっても10年以上はあったはずだ。そんな資金が高育にるとも思えない。つまり、この学校のスポンサーのどこかがその資金を援助してくれているということになる。となるとやはり……。
「なあなあ霧咲」
唐突に松風が声をかけてくる。
「どうした?」
「あれだよあれ」
松風が指をさした方向には一本の木があるだけだ。
「あの木がどうかしたのか?」
「木じゃなくて、その下の地面だよ。ほら、なんか光ってるでしょ?」
確かんに、木の根元の地面から何かが太陽の光を反射している。近づいて見てみるとそれはカメラのレンズだった。
「これは……監視カメラだな」
そう言えば堀北先生が島にはカメラが設置されていると言っていた。暴力行為や略奪行為を防止するために。そしてマニュアルには器物損壊はマイナス査定と書いてあった。その器物というのがこれな訳だ。
「やっぱりか。先生の脅しかな―とも思ったんだけどね」
「まあ、これで夜道を一人で移動してても他クラスから攻撃される心配も消えたな」
「うんうん。安心だ」
「それにしても良く気付いたな。松風って視力いいのか?」
「普通だよ。左右ともに1,2」
確かに普通だ。だが、それにしても周りに相当気を配らなければ地面のに埋まっている監視カメラになんて気付かないだろう。松風の周囲への注意力は大したものだと言える。
「おーい京介~霧咲君!」
遠くで高円寺が手を振っている。危ない、危うくはぐれてしまうところだった。松風との会話を打ち切り、俺たちはかけ足で向かう。
***
「おおーここめっちゃ良いでしょ!流石斉人クンだわ~」
その後、一度浜辺に集合したDクラスは各自が見つけたスポットを順に周り、最後に高円寺が見つけた川辺のスポットへやってきた。
来るや否や高円寺をほめたたえる草薙の言葉に周りの面々もうんうんと頷き、当たりを見渡す。
「すごーい!この川の水凄くきれい!」
朝日が川の水に手を突っ込みながら感嘆の声を漏らす。
「確かに!この綺麗さなら魚も食えるだろうな!」
檜山もそれに続き川へ歩み寄る。無人島に来ても料理人魂は何ら変わりないらしい。
「それじゃあスポットはここで決まりで良いかな?」
高円寺の問いかけに全員が賛同の声を上げる。
「それじゃあこのスポットを占有するけど、俺の名前で登録してもいいかな?」
「え?でもリーダーが占有すれば後でポイントを大幅にゲットできるんじゃ?」
池田が疑問を投げかける。
「そうだね。池田君の言うとおりリーダーがスポットを占有すれば試験終了後にポイントがもらえる。でもそれにはリーダーが名乗り出る必要があるよね?」
高円寺は池田だけでなくクラス全員に向かって話を続ける。
「でもリーダーは責任重大だ。もし他クラスに当てられればクラスも自分も大きな被害を受けてしまう。俺はこの試験、誰にもそんな責任を与えたくないんだ。だから、この場でリーダーが名乗ることを強制はしないよ」
高円寺の言うとおり、ここで自分がリーダーだと名乗り出て万が一他クラスにそれが漏れた場合、リーダーはポイントを失うだけでなくクラス全員から恨まれることになる。それなら、リーダーを特定せずに試験を進めたほうが結果として二学期以降のプラスに繋がるだろう。
「流石斉人クンだわ~周りへの気遣い半端無いわ~」
「そうだね、斉人の言うとおりだと俺も思う」
草薙と松風が同意したことで、周りからもポツリポツリと肯定的な呟きが聞こえだした。
「ありがとうみんな。それじゃあ俺の名前で登録するね」
高円寺はスポット占有の機会にネクストリングをかざし登録作業を始める。
その間に草薙と松風がみんなを集め、ポイントで買うものを選び始めた。
俺はそれに混ざるわけでもなく、先ほどと同じ切り株に腰掛ける。
「おかしいと思わない?」
高橋がいつのまにか俺の横に腰かけそんなことを言ってくる。どうやら切り株に座ると高橋に話しかけられるフラグが立つらしい。気をつけよう。
「聞いてるの?」
「聞いてるよ。なにがおかしいって?」
「リーダー制度の事よ。一見高円寺君の策は正しいように見える。下手にリーダーを特定して口の軽い誰かがうかつにそれを言ってしまったらどこで聞かれていいるか分からないもの」
多分高円寺はそんな意図で言っているわけじゃないだろうけどな。
「ただ、それで正しいなら全クラスがそうするはず。このまま節約して試験を終えれば結果として各クラスのポイントの差は変化がないもの」
「そうだな」
「でも、それならそもそもリーダー制度そのものが必要ないことになる。つまり、リーダ制度にはなんらかの意味があると捉えるべきよ」
「なんらかの意味って?」
「それは……分からないけど」
「高橋、推測だけでリーダー制度を利用しようとすればDクラスは内部から崩壊しかねない。それにいまやDクラスは他クラスにとって要注意な存在だ。下手に仕掛ければ逆に蜂の巣にされかねない」
「Dクラスを要注意にのし上げたのは誰だったかしらね」
「お前もその一端を担っているんだ。同罪だろ」
「……」
高橋は不満そうにこちらを睨むがそれ以上はなにも言ってこなかった。