ようこそ実力至上主義の教室へ~ジェネレーションネクスト~ 作:たけぽん
試験二日目。初日はスポットを占有したのち、高円寺を中心にポイントで買うものについての話し合いが成された。結果として選ばれたのは仮設トイレ、魚をとるための網、檜山が食材を調理するための最低限の道具、テント、洗面道具、そして一番安い栄養食と飲料水のセットとなった。これらで試験用のポイントを約半分使っているが、クラス全員が問題なく試験を過ごすには必要経費だろう。
そして今日はそのテントやトイレを設置したのち、高円寺の提案により早めに休むこととなった。
男子のテントでは各々が寝言を言ったり寝がえりをうったりいびきをかきながら寝ている。これがただのキャンプならトランプで遊んだり夜通し話し込んだりするんだろうか。こういうふうに大勢で夜を過ごすことは久しぶりなので正直残念だ。
そんなことを考えて睡魔がやってくるのを待っているのだが、一向に眠れる気がしない。仕方ないのでみんなを起こさないようにテントから出る。
南の島だけあって肌寒さは感じず、とても過ごしやすい気候となっているようだ。夜空に広がる星もきらびやかに輝いている。
そんな空を見上げながら切り株に腰掛け、ボーっとしていると男子のテントから出てく人物がいた。
「あれ、霧咲?」
「松風か。寝れないのか?」
「あー、うん。枕がないと寝られないんだよ俺」
松風は少し恥ずかしそうに笑い、俺の座る切り株の反対側に腰掛ける。
「霧咲も寝れないの?」
「そうみたいだ。俺も環境が変わると寝れないらしい」
「じゃあ中学とかの修学旅行とか大変だったでしょ」
「……まあ、そうだな」
適当に濁してしまったが松風は特に追及してくることもない。
「今回の試験さ、なんかすごく大変そうだよな」
「まあ、1週間も自分たちで、それも無人島での生活だからな」
「正直どうやったら他のクラスよりポイント取れるか分かんないんだよね。俺、役にたてるかな」
「それは大体みんな同じだろ。他のクラスの連中だってほとんどがサバイバル未経験者だろうしな」
「やっぱすごいな霧咲は」
唐突な賛辞にどう返答すればいいか分からないでいると松風はそのまま言葉を続ける。
「他のみんなはこの状況で自分たちの事しか考えられて無いのに他のクラスの状況まで予想してるなんて普通はできないよ」
「それは高円寺や高橋と一緒に行動してたから、それに影響を受けただけだ。今回も多分あいつらにおんぶにだっこだろう」
「そうかな?交換試験の時なんてすげーって思ったけど」
「昔から悪運だけは強いんだ」
「……そっか。まあ、それはいいや」
松風はそこで話を切るが、テントに戻ろうとはしない。枕がないから今日は寝ないつもりなのか、それともこれからの事が不安で寝られないのか、どちらにせよ今現在松風はすぐに就寝することは無いようだ。
「なあ、松風」
柄にもなく俺は自分から会話を再開する。
「どうしたの?」
クラスでも高円寺と仲が良いだけあって松風はやわらかな返事を返してくれる。
「昨日の昼間の監視カメラの話なんだが、やっぱりあそこ以外にも仕掛けられてたか?」
「……それを聞いてどうするの?」
「深い意味は無い。強いて言うなら他クラスから何らかの違反行為をされた時にカメラの場所がわかっていれば安心だと思ったくらいだ」
略奪行為や暴力行為は違反であり、ポイントがマイナスされると説明は受けている。だが、それを立証できなければ知らぬ存ぜぬで押し通されるかもしれない。そうなるとカメラの設置個所は重要なポイントだ。
「なるほどね、それは確かに」
「教えてくれるのか?」
「霧咲の言うとおり、みんなで共有するべき話だと思うし、俺もみんなの役に立ちたいからさ」
「そうか」
「えっと、取りあえず俺が把握している限りだとこのスポットには監視カメラが4つ仕掛けられてる。この分だと他のクラスのスポットにも同数のカメラがあると思う。そして、森の中には特にたくさん設置されてる。昨日の昼間確認できただけで30個はあったよ」
やはり森の中は木や岩などの障害物が大いだけあって監視は厳重、ということだろう。
「なるほどな。それじゃあ基本的にどこに居ても教師陣の監視の下ってことだな」
「そうなるね。だから霧咲の懸念している事態にはならないと思うよ」
「それはよかった。それにしても本当によく見てるんだな」
少なくともこの観察力はAクラスの生徒でもそうは持っていないだろう。
「まあ、ね」
そう応える松風の言葉はどこか弱弱しかった。
「俺、そろそろテントに戻るよ」
「寝られそうか?」
「うん。霧咲と話したら緊張も少し和らいだし」
「そうか。それじゃあ、おやすみ」
「うん、霧咲もあんまり夜更かししない方がいいよ」
そう言い残すと松風は切り株から腰を上げ、テントへと戻っていった。それを見送った後、俺も切り株から腰を上げる。
「その辺散歩するか」
誰に言うわけでもない言葉を呟き、俺は森の中へと入っていく。
森の中は当然ながら真っ暗だが、だんだんと目が慣れてきたため歩くことに不自由は感じなかった。当然だが辺りは静まり返っており、生徒の姿は無い。その静寂は、俺にとって心地がよかった。
いや、それは少し違うかもしれない。静寂が心地よいのではなくて、オレには静寂以外がすべて居心地の悪い空間なのだ。何か音を聞いたり、誰かと話していると、その都度『あの時』の事を思い出し、『アイツ』の顔が、言葉がフラッシュバックし、気持ちが揺らぐ。
俺がオレであることがとても気持ち悪くて、憎くて、おぞましくて。
だから、この静寂の中は俺に少しばかりの安らぎを与えてくれるのだろう。
「……?」
歩き続けていると、俺の視界には人影が入り込んだ。一瞬他クラスの生徒かと思ったが、その体格は高校生の様には見えなかった。
「……」
「……」
無言。だが、向こうもこの暗闇の中で俺の存在をはっきりと認識しているようだ。そうなると、教師だろうか。
「安心しろ、オレは生徒じゃないし教師でもない」
その声で人影が男性であることは認識できた。
「その状況が逆に安心できないんだが」
「そう警戒するなよ。オレはお前に何もしない」
そういいながら人影は俺の方へと近づいてくる。それに伴い、その姿が月明かりに照らされあらわになる。
身長は一般的な成人男性と同じくらい。だが、その体、特に筋肉の発達は成人男性のそれより一回り大きい。とはいっても、身にまとっているコートによりそれはあまり目立たず、一見細身に見える。茶色い髪、そして世間的には整った顔立ち、眠そうな眼。
「だれだ、アンタは」
この島に居ると言う事は少なくとも高育の関係者であることは間違いない。だが、オレは教師陣やその上層部の連中の顔は全て憶えている。この男はそのどれにも該当しない。ただ一つ言えることは、オレはこの男に懐かしさの様なものを憶えていると言う事だ。
「オレは……まあ、お前の先輩、卒業生だ」
卒業生?それはすなわちゴールデンヘアー社長や堀北先生と同じ立場の人間ということだろうか。
「この場で言う卒業生ってのは二重の意味でだけどな」
二重。その意味が俺には瞬時に理解できてしまった。それはつまり、『あの場所』で育った人間と言う意味であり、『アイツ』とオレの事も知っているという事だ。
「アンタは……」
「慌てるなよ、霧咲勝真。……いや、AK002って言うべきか?」
「……その名前を知っているってことは、『アイツ』の手先なのか?」
「それは違う。オレはお前の敵じゃない」
「だが、味方でもない……か?」
「それはお前次第だ。お前が『アイツ』への復讐を本気で臨むか否か。それによってオレ達とお前の関係は変わる」
オレ『達』。その言葉の裏には恐らくこの男以外にもオレと『アイツ』の事を知っている人間がいるという意味が込められている。
「それで、アンタは何をしに俺に接触してきたんだ?」
「一つはお前の様子を見るためだ。お前がどれだけ『あの計画』の影響を受けているか。それを確かめに」
「……」
「もう一つは……。まあ、懐かしいこの場所を見に」
そう告げる男の眼にはとてもじゃないが感傷に浸っているような色は感じられなかった。目の前にいる俺すら見ていないような眼をしている。それはこいつが『あの場所』で育ったという言葉を裏付けるものだった。
「アンタの名前は?」
そう尋ねた瞬間、俺は首元に強い衝撃を受けた。それはこの男の手刀であり、それはこのオレでさえ認識できないほど素早く、重かった。
「なに……を……」
そのまま意識を失っていく俺が最後に聞いたのは、その男の短い一言だった。
「綾小路清隆。お前を一番知っている人間だ」