ようこそ実力至上主義の教室へ~ジェネレーションネクスト~   作:たけぽん

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3話 戦場にて、誰もが戦いに来ているわけではない

その後、入学式はつつがなく行われ授業もオリエンテーションで終わり、放課後となった。

特にやることのない俺は教室の隅で学生証端末を眺めていた。

端末には各教科の成績(まだ空欄だが)と生徒のプロフィール、そしてプライベートポイント、ネクストポイントが表示されていた。クラスポイントに関しては、学校側が管理するらしく生徒には公開しないそうだ。それぞれのポイントに関してはまだ謎な部分もあるが、生徒がもっとも注目しているのはネクストポイントだろう。あの後の校長の説明でわかったこととしては、

 

・ネクストポイントは授業やテスト、各行事で増減する

・ネクストポイントが一定値まで上がると好きな組に移動できる『交換試験』を受けられる

・ネクストポイントが組で一番低いと『交換試験』の対象となり結果によって組を移動させられる

・ネクストポイントは譲渡も可能

・ネクストポイントはこの学校では絶対の力を持つ

 

といったところだろうか。そして俺に与えられたネクストポイントのスタート値は100ポイント。これが多いのか少ないのかはわからない。プライベートポイントに換算すると5000ポイントなのだから低いのかもしれない。校長の話によればスタート値は入試の結果に応じているらしいので他のクラスの人間ならもっとあるのかもしれない。

 

「……結局現時点だとこのくらいしか情報がないか」

 

上のクラスを目指すにしてもなんにしても今すぐに動ける生徒なんてのはいないだろう。今必要なのは情報収集だ。俺は鞄を持ち教室を出る。今日はさっさと寮に帰って寝よう。

 

 

 

玄関から外に出ると檜山が緑の制服、つまりCクラスの生徒数人と一緒に校舎横の林に入っていくのが見えた。

 

「どう考えてもおかしいよな」

 

入学式早々、ほとんど面識が無いはずの他クラスの生徒と林の中に入っていくなんて。しかも相手は複数で檜山は一人。なにか良からぬことがおこっても不思議じゃない。

 

「……見てしまった以上は放置もできないか」

 

俺は檜山たちの後をこっそり追って林の中へ入っていく。さっそく今日の予定がおしゃかになってしまった。

 

林の中は意外と歩きやすく、動物の気配もない。人工の林なのか、単に整備されているだけなのだろうか。ともかく、こんなに綺麗だと身を隠しにくいことこのうえない。それでもなんとか木陰に隠れながら後を追う。しばらく歩いているとCクラスの生徒たちが足をとめ、檜山も足をとめる。俺は数メートル離れた所からその様子をうかがう。

 

「えーっと、何か用か?俺腹減っててさ、今日の晩飯はエビフライだっておばちゃんが言ってたからはやく帰りたいんだけど」

 

檜山は能天気にそんなことを言っている。確かにエビフライは魅力的だが今はそんなことを言っている場合なのだろうか。すると、Cクラスの生徒の一人が、檜山の胸倉をつかみ大声で話し始める。

 

「てめーの晩飯なんざどうでもいいんだよ、問題なのはDクラスの落ちこぼれがこの俺をバカにしたことだ」

「バカになんてしてねーよ。ただせっかく買ったパンを口に合わないって理由でゴミ箱に捨てるなんてバチあたりだって言っただけさ」

「それがバカにしてるってんだよ!この落ちこぼれの分際で!」

 

そう言ってそいつは檜山に殴りかかる。とはいっても喧嘩慣れしていないのか、誰でも止められそうな一撃だ。

 

「ぐはっ」

 

だが、檜山は手でガードもせずに顔にこぶしをくらっていた。

 

「おらおらどうしたなんとか言ってみろ!」

 

Cクラスの生徒は檜山を殴り続ける。だが、檜山は決してわびようとはしない。ただされるがままだ。

 

「ほら、お前らもこいつを痛めつけてやろうぜ!」

 

その言葉に他の生徒も攻撃態勢にはいる。このままだと檜山が大けがをしかねない。流石にそれは見過ごすわけにもいかないだろう。俺は大きく息を吸い込み声を出す。

 

「先生、こっちです!こっちにCクラスの生徒とDクラスの生徒が入って行きました!」

「っ!?」

「やべえ、逃げろ!」

 

Cクラスの生徒たちは走って逃げていく。檜山は近くの木にもたれかかり息を切らしている。

俺は木陰からでて、檜山のもとへ向かう。

 

「大丈夫か檜山」

「えっと、お前は確か……」

「Dクラスの霧咲勝真だ」

「そっか。助けてくれてありがとうな霧咲。てか、先生は?」

「先生はいない、ただの虚言だ」

 

それを聞いた檜山は大きな声で笑い出す。

 

「随分思い切ったことするなー。あいつらが引っかからなかったらお前も袋叩きにされたろうに」

「そういうお前こそあれくらいなら誰でも反撃できたと思うんだが」

 

そう言って俺は手を差し伸べる。檜山はそれを掴み立ち上がった。制服の汚れを払いながら檜山は真面目なトーンで話す。

 

「俺の手は飯を食い飯を作るためにある。安っぽい喧嘩なんかに使えない」

 

見上げた根性と信念だ。相当料理が好きなんだろう。

 

「取り合えず寮に戻ろう。手当もしないとな」

「それもそうだな。本当にありがとうな霧咲!」

「気にするな」

 

 

***

 

寮に戻ってから、檜山は適当な理由をつけて救急箱をもらい、自室へ入っていった。それを見送った後、俺も部屋に戻った。

 

「あら、帰ってきたのね。てっきり野宿に切り替えたのかと思ったのに」

「ご期待に添えなくて悪かったな」

 

高橋の言葉を聞き流し、制服から着替えベッドに横になる。少し疲れたな、飯は後にするか。高橋はというと、同じく自分のベッドに横になっているようだ。やることないのか……俺もないな。

 

「ねえ、あなたは上のクラスに上がりたい?」

 

唐突に高橋が問いかけてきた。声のトーンからしてかなり真剣なようだ。

 

「さあな、そもそも簡単に昇格できるならNSシステムなんて大層なものはつくられないだろう」

 

当たり障りのない答えを返す。

 

「随分と適当な考えね。何のためにこの学園を受験したのか理解に苦しむわ」

「そういうお前はどうなんだ」

「私はAクラスに上がるわ。そこが本来の私の居場所だから」

 

本来のとはどういうことだろうか。単に自意識過剰なのだろうか。しかもCとBを須っ飛ばしAクラスとは。

 

「あなた、今私をバカにしたでしょう」

「そんなことはない。単純によくわからなかっただけだ」

 

すると高橋は少し沈黙する。なにか考えているようだ。まあ、放っておいて少し寝るとしようか。いい感じに眠気もきたしな。そうして俺は目を閉じる。

 

「バカにされたままでいるのは苦痛だから言うけど」

 

が、俺の睡眠はその声によって妨害されてしまった。仕方なく話に耳を貸す。

 

「私は入試の日、体調を崩していたのよ」

 

なるほど、どうやら高橋は入試の日の体調不良で本来の実力が出せなかったためにDクラスに配属されたと言いたいようだ。そんな漫画みたいなことが本当にあるとは思わなかった。

 

「それは大変だったな」

「そう言うあなたは本気でやってDクラスだったようね。まったく憐れだわ。そもそもあなた試験会場にいたかしら?、存在感までもDクラスなのね」

「ほっとけ、俺は少し寝るからな」

 

このままだと永遠に悪態をつかれそうなので寝る意思をしっかり伝えておく。

今度こそ眠気がやってきた。俺はそっと目を閉じる。

 

「おーい霧咲!食堂行こうぜ!エビフライ……」

 

急に扉が開き、檜山が入ってきた。そういえば疲れてて鍵を閉めてなかった。檜山は室内を見渡し、高橋の存在に気付いたのか絶句している。

 

「えっと……」

「す、すまねえ霧咲、邪魔したな!」

 

そう言ってドアを閉めようとする檜山だったが、高橋が機敏な動きでドアの間に足を挟む。

その間わずか数秒。流石Aクラスを目指すだけあって迅速な対応だ。

 

「ちょっと待ちなさい、この部屋に入ってただで出れると思わないで」

「いや、そんなこと言われても……うわっ」

 

高橋によって檜山は部屋に引きずり込まれる。そして部屋には鍵がかけられた。檜山は状況がわからないようで、俺に視線を向けてくる。

 

「霧咲君、このノックという文化も知らない野蛮人はあなたの知り合い?」

「野蛮人って、そりゃひどいな」

 

檜山がそう呟くと高橋は鋭い視線で睨みつける。檜山は早く助けろと言わんばかりにさらに強い視線を向けてくる。

 

「えっと、こいつは同じクラスの檜山だ。さっきちょっとした事で知り合った」

「そう。では檜山君、あなたは何か誤解しているようだけど私とそれは学校側の都合で無理やり同じ部屋に入れられたの。いい?」

 

それ呼ばわりとは、まだ変態の方が人要素があったんじゃないだろうか。

檜山は半信半疑のようだ。仕方ないので俺は詳しく説明することにした。

 

 

「―――というわけだ」

「まじか」

「まじだ」

 

10分くらい説明すると、檜山はようやく理解してくれた。これが全く面識も無い人物だったとしたらもう10分はかかっただろう。

 

「まあ、事情はわかったぜ」

「そう、ならよかったわ」

「でも、だまっている代わりに一つ条件がある」

 

檜山は真剣な顔でそう言ってきた。条件とはなんだろうか。高橋は警戒しているようだ。確かに、こいつにとっては檜山は初対面で得体のしれない異性だ。そういう目的の条件を提示されるかもと思ってもおかしくない。

 

「……一応内容はきいてあげる」

 

あくまでこちらが上、というスタンスを崩さずに返答する。状況的には圧倒的にこちらが不利なのだが高橋の喋り方や雰囲気によってそんなことは関係ないかのようになっていた。

 

「俺の飯を食ってくれ」

「……はい?」

 

高橋は目をぱちくりさせる。

 

「いや、だからさ。自己紹介でもいったけど俺料理が好きなんだよ。だから夜食とか作ってやるからさ、食って感想を言ってほしいんだ」

「それ、あなたに大したメリットが無いように感じるけど?」

「そんなことねーよ。高橋はズバッと思った事言ってくれそうだし、すげーメリットだって」

「あなた、ちょっと変な人ね」

 

高橋は呆れたように言う。だが檜山は無邪気な笑顔を浮かべている。

 

「俺からすれば男子との相部屋に適応してる方が変……ごめんなさい謝るから殴らないでください」

 

檜山は高橋の恐ろしさを痛感したようだ。俺はふと疑問に思ったことを聞いてみる。

 

「でも、料理なんてどこで作るんだ?」

 

部屋にはコンロもなにもない。唯一料理ができるとすれば食堂くらいだが、生徒が使えるのだろうか。

 

「大丈夫。食堂のおばちゃんに皿洗いを条件に自由に使っていいって言われてるから。といっても食材は余りものと自分で用意したものだけだけどな!」

 

まだ学校に来て二日目だと言うのになんと素早い交渉術だ。俺にはとても真似できない。

 

「あなたよっぽど料理が好きなようだけど、それなら専門の学校があったんじゃないの?」

 

確かに、料理に関して言えばAクラスでもDクラスでも受けられる恩恵は無い。それなのに檜山がこの学校を選んだ理由とはなんだろうか。

 

「いや、実はこの学校の料理部は最先端の設備といろんな地域や国から取り寄せた食材を使えるらしいんだ。そんな環境で料理ができるなんてわくわくしてたまんねーよ!」

 

「ということはあなたにとってはDクラスでも支障はないと?」

「まあそうだな。料理部にさえ入れれば文句なしだ」

 

初日に檜山があんなに元気だったのはそのためだったのだろう。珍しい奴もいるもんだな。

 

「で、どうすんだよ?条件飲んでくれるのか?」

 

高橋はしぶしぶ頷く。俺も特に断る理由もないので承諾することにした。檜山はとてもうれしそうに部屋へ戻っていった。俺を食堂に誘いに来たんじゃなかったのか。

 

 

 

「変わった人もいるのね」

 

高橋はぽつりと呟く。

 

「Aクラスを目指すための敵が一人減って良かったじゃないか

 

一連の言動からして高橋はクラスポイントを上げるよりネクストポイントを上げて交換試験でAクラスを目指そうとしているのだろう。

 

「あなた、やっぱりバカにしているでしょ」

「いや、そんなことは」

「だったら次のテストで私と勝負しなさい。思い知らせてあげるわ」

「は?いや、なんでそうなる」

 

高橋は俺の話など聞く耳を持たずそのままイヤホンで音楽を聞き始めてしまった。

 

***

 

 

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