ようこそ実力至上主義の教室へ~ジェネレーションネクスト~   作:たけぽん

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6話 学ぶ そして得る

初めての休日はあっという間に終わり、それからしばらく平穏な日が続き、学園生活が始まってから1カ月が経過した。だが現状、ネクストポイントが動く出来事は何も起きていない。料理部に入った檜山に聞いてみても、文化系運動系に関わらずネクストポイントが増減したという話は無いとの事だった。

そんなある日の朝、先に部屋を出たはずの高橋が珍しく時間ぎりぎりで教室に入ってっきた。Dクラスは常に自由席なのだが、高橋以外の生徒は既に着席しており開いている席は廊下側最後尾の俺の隣だけだった。高橋は息を切らしながら着席する。

 

「珍しいな、お前がぎりぎりなんて。何かあったのか?」

 

一応隣に座っている身なので、そう尋ねてみる。

 

「別に、あなたには関係ないでしょう」

「そりゃごもっともで」

 

なら聞くな、と目で訴えかけてくる高橋だったが呼吸を落ち着けると今度はむこうから話しかけてきた。

 

「おかしいと思わない?」

「何が?」

「この現状がよ。学園側は『NSシステム』を提示してきたのにそれに則した出来事が何もない。あるとしてもせいぜい今度の中間試テストくらいしかない」

「確かにそうだが、何も起きていないと思っているのは俺たちの持つ情報が少ないからかもしれないぞ」

「どういうこと?」

 

高橋は首をかしげる。

 

「俺たちが知っているのは1年Dクラスの生徒としての情報だけだ。上級生や他の組の生徒には何らかのネクストポイント増減イベントが起きているかもしれない。もしくは生活態度なんかで増減していて、学園からの発表がまだなだけかもしれない」

 

とはいっても全部推測にすぎないが、可能性としては十分にあり得る話だ。

 

「なら聞いてみればいいじゃない。あなた上級生に知り合いは……いないでしょうね」

「おい、勝手にジャッジをくだすな」

「じゃあいるの?」

「いない」

「なんで見栄はったのよ……」

 

すると、俺たちの話が聞こえたのか、前の席に座る朝日が振り向いた。

 

「それ、私も気になっててね、こないだ仲良くなった先輩に聞いてみたんだけど、なんかそういう制度の事は原則的に下級生に言っちゃ駄目なんだって」

 

流石朝日。もうすでに上級生とのつながりがあるとは。だが、原則口外禁止とは、随分厳しいな。この分だと情報を漏らした場合は何らかのペナルティがあるということもありそうだな。まあ、一年生なら特に気にすることでもないな。

そうこうしていると堀北先生が教室に入ってきたので、俺たちの会話は中断された。

 

 

「―――ということで、今日の連絡事項は終わりです。それと、もうすぐ中間テストなので、しっかり努力してください。」

 

そういって先生はプリントを配り始める。どうやらテストに関係するもののようだ。

 

「一応同じ内容のメールを送っておくので、そちらも確認してください」

 

プリントを受け取った生徒たちはざわめく。俺も受けとったプリントを見てみる。

その内容はテストの順位によるネクストポイントの増減に関してのものだった。内容としては。

 

・Dクラス30人で各教科合計点で上から1位から30位の順位がつく。

・1位 1500ポイント 2位1000ポイント 3位 800ポイント 

・4~10位 500ポイント

・11位~15位 400ポイント

・16位~20位 300ポイント 

・21位~25位 200ポイント 

・26位~28位 100ポイント 

・29位、30位 600ポイント『マイナス』

・テスト問題は3年生が作成。これは3年生の試験も兼ねているので原則情報のやり取りは禁止とする。これに従わなかった場合、中間テストの全教科の取得ポイントを無効とする。

 

との事だった。Dクラスのネクストポイントの平均を考えれば1位を取れば他の生徒に対して大きな差をつけることができる。だが、最下位と29位は大きな減マイナスをくらうことになる。この書き方からして、同率最下位でも全員減ポイントをくらうのだろう。

 

「そして、テストの結果はクラスポイントにも影響します。心して望んでください。それから……」

 

先生が黒板に何かが書かれた紙を張り付ける。

 

「これは5月の各クラスのクラスポイントです。先月の行動によって査定されていますが、今月はどのクラスも変動していません」

 

黒板の容姿を見ると、なるほど確かに全クラス1000ポイントのままだ。

 

「先生。つまり俺たちの行動にマイナス要素は無かったということですか?」

 

高円寺が質問する。

 

「ええ、そうなります。歴代のDクラスの中ではなかなかよい結果と言えるでしょう」

 

その言葉に生徒たちは笑みを隠せないようだ。まあ、しょっぱなから0ポイントとかになってたらクラス崩壊もありえたし全員で上のクラスを目指そうとする高円寺たちにとっては順調な滑り出しだな。

 

「再三言いますが、中間テストに向けての努力は欠かさないでください」

 

そう言って先生は教室を出ていく。

 

「やっと本格的に始まるのね」

 

高橋がそんなことを呟く。

***

 

一時間目は数学で、担当は寮長でもある雪坂先生だ。教室に入ってきた先生の手にはプリントの束があった。

 

「はいみなさん。今日は中間に向けた小テストを行います。これはポイントに直接影響はしませんがしっかりやりましょう。制限時間は授業いっぱいとるので最後まであきらめずに頑張ってください」

 

先生はテスト用紙を配り始める。ぼーっと待っていると隣の高橋がペンでつついてくる。そちらを見ると、高橋は口パクで「勝負よ」と言ってきた。そもそもの話、こいつはどうして俺が自分と勝負になるレベルに達していると確信しているんだろうか。

 

「それでは始めてください」

 

先生の合図によって生徒たちは用紙を表にし、テストが始まる。勢いよくかつかつとペンの音が……聞こえない。それもそのはず、テスト用紙の一番上、つまり最初の問題には難易度の高い複雑な証明問題が記載されていたのだから。とてもじゃないが高校一年生で解けるレベルではない。そもそも授業でもこんな内容はやっていない。前の席の朝日は頭を抱えている。これは何かのミスだろうか。だが先生は特になにを言うわけでもなく、いすにすわって本を読んでいる。

 

 

しばらくして、ペンを動かす音がする。こっそり見てみると、それは高円寺だった。勉強は苦手ではないと言っていたが、これを解けるほどだとは思わなかった。あまり他人を気にしていても仕方ないので問題に意識を向ける。よく見ると高難易度の問題だけで作られているわけではなく、しっかり考えればわかる問題も結構あった。次第に周りからもペンの音が聞こえてきた。

 

 

 

「はい、そこまで」

 

授業終了5分前に、先生が手をたたく。生徒たちはおおきなため息をつく。

 

「ちょっと、難しかったですかね?まあ、あくまでこれは難易度の指標なのでこれから勉強すれば何とかなりますよ。それに、やり方次第で点はいくらでも伸ばせますからね」

 

生徒たちはげんなりした表情を浮かべる。たとえ本番では習った範囲から出るとしてもこの難易度は厳しいだろう。

 

「ちなみにこの小テストの結果ですが、放課後までにランキングをメールで送っておくので参考にしてください。それでは、一時間目はここまでです」

 

そして休み時間、教室内ではさっきの小テストの話題でもちきりだった。

 

「いや、あれ難しすぎでしょ。俺5割くらいしかできなかったし」

「それな。難易度の指標って言ってたけど、あんなん毎回出てきたらいつ最下位になってもおかしくないわ」

「でも600ポイントマイナスは痛いよねー」

 

そんな会話をききながら俺は次の時間の準備をしていた。この分だと今日は小テストが続きそうだ。

 

「ぐふううううう」

 

朝日がへんてこな声を出す。よっぽど小テストが駄目だったのだろうか。

 

「おい、大丈夫か?」

「き、霧咲君……それが、一問も解けなくて……なんでみんな5割とか出来てるの?天才なの?」

 

やはり初めてあったときの印象通り朝日は俗にいうおバカ系女子だったようだ。

 

「情けないわね。そもそも5割なんて普通にやれば簡単に取れるじゃない」

 

やめろ高橋、朝日に追い打ちをかけるな。もう半泣きだぞ。

 

「うう……凄いな高橋さん……」

「当然ね」

 

そんなやり取りが何回か続いた後、突然朝日の表情が変わった。

 

「そ、そうだ!高橋さん、私に勉強教えて!」

「お断りするわ」

「そ、即答!?」

 

相変わらず元気だな朝日は。

 

「当り前よ。私が教えれば誰でも頭がよくなるもの。わざわざ自分の敵を育てるわけ無いじゃない」

 

確かに、『NSシステム』でAクラスを目指す高橋にとっては朝日の学力アップは何の得にもならない。むしろ損になる可能性を孕んでいる。とはいっても一朝一夕で朝日が高橋のレベルになるとも思えないが。

 

「じゃ、じゃあ霧咲君、教えてよ~」

「悪いが俺は高橋と違って教えるなんてできない。自分の事で手いっぱいだ」

「そ、そんな~」

「心配しなくても高円寺辺りが勉強会を始開くと思うぞ」

 

高円寺が困っているクラスメイトを放置するとも思えない。もっともこの学園だとかなり損な性格だとも言えるが。

 

「つまり、あなたはさっきの小テスト、あまりできなかったということね?」

「まあ、そうだな。4割くらいかな」

「なら私の勝ちね、ということで、はいこれ」

 

高橋は俺に一冊の本を差し出す。取りあえず受け取って表紙を見る。どうやら推理小説のようだ。

 

「これをどうしろと?」

「それ、今朝図書館で何冊か本を借りた時に間違って借りてしまったの。放課後にでも返してきて」

 

それで今朝はぎりぎりだったのか。

 

「いや、なんで俺が」

「敗者は勝者に従うものよ」

 

そもそも俺は勝負にのった憶えは無いんだが……。

だが、図書館には行ったことがないし、少し興味がある。せっかくきっかけもできたし行ってみるか。

 

「わかったよ、そのかわりこれで勝負は終わりだからな」

 

 

***

 

放課後、俺は図書館へ足を運んだ。図書館は校舎と別に独立しており、かなり大きい建物だった。入口の自動ドアをとおり、中へと入ると涼しい風が吹いてきた。どうやらエアコン完備のようだ。Dクラスの寮にもぜひとも欲しいもんだ。カウンターで高橋から預かった本を返却してから適当に館内を見て歩く。こんなに大きな図書館を訪れるのは初めてなので、少しテンションが上がる。案内板を見るとこの図書館は3階建てで、一階は専門書などが置いてあり、2階は小説、3階はラウンジになっており自由に休憩できるようだ。

2階に上がり、適当に本棚を見て回る。

 

「これ借りてみようかな」

 

そう思い、本に手を伸ばすとバサバサっと大きな音がした。そちらを見ると、どうやら誰かが本をたくさん落としてしまったようだ。

 

「あちゃー、やっちゃいましたー」

 

落とした本人が本棚の陰から出てきた。髪をみつあみにした女子だった。制服の色が黒なのでAクラスの生徒だろう。流石に放っておくこともできないので俺はそちらへ向かい本を拾う。

 

「あ、どうもすみません」

「いや、別にたいしたことじゃ……随分多いな」

 

散らばった本は全部で10冊を超えている。これを一人で読むのだろうか。

 

「いやあ、気になる本を片っ端から手にとったらこんな数に……すみません」

 

どうやら相当の文学少女らしい。落ちている本もジャンルはバラバラで見聞の広さがうかがえる。しばらく本を拾い続け、やっと全て回収することができた。

 

「本当にありがとうございます。それでは」

「いや、それ多分また落とすぞ。半分持つよ」

「いや、しかしそこまで迷惑をかけるわけには」

「それじゃあこの『ABC殺人事件』を俺に譲ってくれ。これでウィンウィンだろ」

 

そういって本を手に取る。女子の方は、くすりと笑い頷いてくれた。

 

「あなた面白いですね。私は1年Aクラスの楪柚子(ゆずりは ゆず)といいます。」

「同じ学年だったのか。俺は1年Dクラスの霧咲勝真だ。よろしく」

「Dクラスの方ですか。いいですよね、その制服の色。なんでAクラスは黒なんでしょう。理解に苦しみます」

 

そういう見方もあるのか、というかむしろDクラスを褒める要素なんてそれくらいしかないよな。

その後俺たちは三階のラウンジで本を読みながら雑談をしていた。楪は最近は特に恋愛小説に興味があるらしく、その中でも非日常的な設定のものが好きらしい。

 

「なあ、俺と一緒に話してていいのか?」

「といいますと?」

「いや、Dクラスって落ちこぼれ扱いだし、楪の評価にも影響してくるんじゃないのかと」

 

実際このラウンジにはDクラスの生徒はほとんどいないし、さっきから変な視線を感じる。なんだか出ていけといわんばかりの雰囲気だ。

だが楪はほほ笑みながら俺に語る。

 

「確かに一部の生徒はそう思っているかもしれませんが、私はそうは思いません。Dクラスというにはあくま試験の結果によるもので落ちこぼれとは違うと認識しています。そもそも『NSシステム』の中では私たちは追われる存在。いつDクラスに足元をすくわれるかわかりません」

 

確かに、高橋みたいな生徒もいるし、そうやって常に警戒するに越したことは無いだろう。まあ高橋は性格に難ありだが。

 

「となると俺は特に警戒する対象ではないってことか」

「あ、それはちがいますよ。もちろん霧咲君にも警戒はしていますよ。しかし、それと本の事をお話しできる友達は別ということです」

 

どうにも楪は読み切れないな。しかし他の組の人間と関われる機会も大事だ。

 

「そういえばもうすぐ中間テストだけど、他の組ってどんなテストなんだ?」

 

答えてもらえないことも想定していたが、楪は特に難色をしめさず答えてくれた。

 

「そうですね。どのクラスも筆記試験なので、大きな違いはありません。授業でやった小テストくらいの難易度でしょうか。しっかり勉強すれば点はとれるでしょう」

 

あのテストに対してそんな自信があるのはやはりAクラスのレベルが高いからだろうか。

 

「そういえば、試験の問題は3年生が作ってるんだってな」

「ええ、それが各組の3年生の中間試験にあたるそうです。」

「てことは期末も上級生が作るってことか?」

「いえ、どうやらそれは各学期で一回だけの様です」

 

ということは2学期は中間か期末に3年生の問題がでるのか。

 

「いろいろと教えてくれてありがとう。参考にする」

「参考に、ということは霧咲君も下剋上を狙っているのですか?」

「大半の生徒はそう思ってると思うけどな」

「それもそうですね。すみません、愚問でした」

 

 

それからしばらく、俺たちは読書に没頭していた。とはいっても、俺はまだ一冊目の半ばだ。それにひきかえ楪は既に4冊目に突入している。ものすごい集中力だ。流石Aクラスの生徒といったところだろうか。

 

「あー駄目だ、全然わかんねえ!」

 

ふと、大きな声が聞こえた。そちらを見ると、いつの間にかDクラスの生徒たちが机に向かっていた。10人くらいだろうか。その中には朝日と檜山、高円寺の姿もあり、さっきの声は檜山のものだった。楪の邪魔にならないように席を立ち、そちらへ行ってみる。

 

「なにしてるんだ、檜山?」

「お、おう霧咲……実は今日の小テスト一問もできなくな、高円寺に教えてもらってるんだが」

「それでもやっぱりわからなくて!」

 

朝日も会話に入ってくる。ひょっとしなくても最下位争いはこの二人だろう。

それに様子を見たところ高円寺が一人でみんなに教えているようだ。これではいくら高円寺が頭が良くても全員分はカバーできないだろう。

 

「なあ二人とも、俺が講師を紹介してやろうか?」

 

流石にしょっぱなからこいつらを見捨てる訳にもいかないだろうしな。

 

 

 

 

 

 

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