ようこそ実力至上主義の教室へ~ジェネレーションネクスト~   作:たけぽん

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7話 日常 その中に解法はある

楪と読書に没頭する時間も終わりがやってきたので、俺は何冊か本を借りて寮へと戻り、自室のベッドでメールで送られてきた今日の小テストの結果を眺めていた。

1位は高橋。発言通り相当の高得点だった。そしてその高橋と数点差で高円寺が2位にランクインしている。俺はというと20位、可もなく不可もなくといった感じだ。これでも300ポイントは入るらしいが、それでも1位の1500ポイントとは圧倒的な差がある。そして最下位は朝日と檜山。二人とも一問も解けなかったと言っていたので奇跡の同率最下位だ。29位の生徒と比べてもかなり点差が大きい。

 

「あなた、本当にたいしたこと無かったのね」

 

同じく結果を見ていたであろう高橋が蔑むようにそう言う。

 

「最初からお前と勝負になるなんて言って無いだろ」

「てっきりそう言って油断させるつもりだと思っていたわ」

「それなら敵が一人減ってよかったな」

「そうね……」

 

高橋は何かぶつぶつ言っていたがまた俺の方へ視線を向ける。

 

「それはそうと、あなた何か隠していない?」

「だれにでも隠しておきたいことのひとつやふたつあるだろ」

「そういうことじゃなくて、今この場で私に隠していることよ」

 

随分と鋭いな。これが女の勘というやつなのだろうか。確かに隠していることはあるが、それももうすぐ明らかになる。わざわざ言わなくてもいいだろう。というか言ったらおしゃかになる。

 

「そういえば図書館に本返してきたぞ」

「そう、御苦労さま」

「かなりいい施設だなあそこは、お前が毎朝行くのもうなずける」

「……なんで私が毎朝行っているとしってるの?ストーカーなの?」

 

高橋は冷たい視線を俺に向ける。

 

「いや、図書館をよく利用する人がお前をよく見かけるって言ってたから」

 

それは当然楪のことだ。

 

「ほんとかしらね、大体あなたは……」

 

よし、時間稼ぎはこんなもんだろ。後はこのまま高橋に喋らせておけばいい。

 

「ちょっと、聞いているの?」

 

高橋の問いと同時に部屋のドアが開けられる。高橋は勢いよく振り向くがもう手遅れだった。

 

「よう霧咲、高橋。邪魔すんぜ」

「……え?高橋さん?」

 

来客は檜山と朝日だった。檜山はもはや高橋の存在に何も言わないが、初めて訪れる朝日は違った。手に持っていた参考書を床に落とす。

 

「ちょっと!どういうことよ!」

 

高橋は慌てふためいている。あまりにレアな光景なのでずっと眺めていたいがこのままでは他の生徒にも気付かれかねない。なので俺は二人に呼びかける。

 

「俺が呼んだ。とりあえずドアを閉めたいから二人とも部屋に入ってくれ」

「はあ!?あなた何考えて……これを隠していたのね!?」

「えっと、高橋さんは遊びに来てるの?」

 

朝日はなんとか状況を解釈しようとしているようだ。

 

「いや、高橋と俺はルームメイトだ」

「ちょっ!黙りなさいよ!」

 

高橋は尚もあたふたしている。

 

「と、とりあえず落ち着けって二人とも、ほら霧咲、ちゃんと説明してやれよ」

 

さっきから空気だった檜山がフォローする。そろそろ話を進めたいので俺は朝日に説明を始める。これで二度目なのでもう慣れたものだ。

 

「―――というわけだ」

「まじなの?」

「まじだ」

 

前にもしたような会話を終えると、朝日は納得したようにうんうんと頷く。

 

「そっか、だから霧咲君と高橋さんは仲がいいんだね」

「朝日さん。ジョークでも趣味が悪いわよ。私たちはけして仲良くなどないわ」

「え~?でも今日も休み時間に楽しそうにお喋りしてたじゃん」

「確かに。俺はお似合いだと思うぜ」

 

檜山まで便乗してくる。高橋は相当不機嫌になってしまったようで仏頂面でなにも喋らない。だが、ずっとこのままでいる訳にもいかないと思ったのか、二人に問いかける。

 

「それで?あなたたちは何しに来たの?」

「え?ひょっとして霧咲君、何も言ってないの?」

 

高橋はどういうこと?といわんばかりの視線を向けてくる。

 

「朝日と檜山の勉強をお前に見てもらおうと思ってな。それで呼んだ」

「それなら断ったはずよ」

「お前が教えれば誰でも頭が良くなるんだろ?それとも自信がないのか?」

「そんな幼稚な煽りに私がのるわけないでしょ」

 

なかなか強情だな。まあ、こちらにもまだ手段はある。

 

「なあ、朝日。俺たちが同室だってことを言いふらしたりはしないよな?」

 

朝日はおバカだが空気は読める人間だ。ならばこの問いかけには望み通りの答えが返ってくるだろう。

 

「うーん。でも私口が軽いからポロっと言っちゃうかも」

 

ナイスだ朝日。100%俺の期待通りの答えだ。

 

「それは困ったな。このままだと高橋の秘密は漏洩するかもしれないな」

「……私を脅しているの?」

「無条件で秘密を守ってくれるわけないだろ。檜山だってあの約束が無ければどこかで漏らしていたかもしれないぞ」

 

さあ、どうする高橋茜。

高橋はしばらく俺の方を睨みながら考え込んでいたが、やがて答えを出したようだ。

 

「……わかったわ。そのかわり今回の中間テストだけよ」

「やったー!ありがとう高橋さん!」

 

 

 

***

 

そして、高橋によるテスト勉強が始まった。流石に部屋はせまいので勉強会は毎晩食堂で行われる。それに加えて、朝は図書館で、昼休みは教室で、開いている時間はすべて勉強に費やされることになった。少しきついんじゃないかと高橋に聞いたところ、

 

「今までの人生でさぼっていた分を取り返すにはこれくらいやらないと意味ないわ」

 

とありがたいお言葉をいただいた。檜山と朝日はひーひー言いながらそれでも頑張って勉強している。人間、窮地に追い込まれると自分でも計り知れないような力を出せるんだな。

俺も一応高橋に教えてもらっているが、確かに高橋の教え方はとても上手くてそうとう勉強しているんだとわかる。

 

 

そんな生活が始まって2週間。テストまではあと数週間だ。

 

「だから、ここでこの式を展開すると……」

「わあ、すごい!解けた!」

 

朝日も檜山も始めた時より格段に良くなっている。とはいってもこのままテストに挑んでも最下位を回避できるかは微妙なラインだ。

 

「このままのペースではテストに間に合わないわね」

「え!そうなの?めっちゃ頑張ってるのに!」

 

朝日は悲鳴を上げる。だが高橋はお構いなく話し続ける。

 

「あたりまえでしょう。頑張るだけで高得ポイントがとれるなら全員同率一位よ」

「もう、正論やめてよ高橋さん!」

 

その様子を見ながら俺は自分のやっている問題に目を移す。だが、それと同時に腹の虫が鳴いてしまう。

 

「腹減ったな」

「確かに!もう2時間もやってるし!」

「そう言うと思ったぜ、ほらよ」

 

さっきまで皿洗いをしていた檜山がおにぎりののった皿をテーブルに置く。

 

「わあ、ありがとう檜山君!きれいな三角だ……本当に上手だね!」

「まあ、これくらいなら言ってくれればいつでも作るぜ。米が余ってればな」

 

そんな会話をしながら朝日はおにぎりに手を伸ばす。高橋も流石に腹が減ったのか、ひとつ手にとって食べ始める。俺も手前のおにぎりをひとつとり、食べる。なるほど、確かにきれいな三角だ。それでいて食べてもぼろぼろ崩れない。具無しの塩むすびでもこれほど美味くなるのか。

 

「檜山君、あなたって実家は飲食店なの?」

 

高橋の質問に檜山はにっこり笑って答える。

 

「ああ、定食屋をやってるぜ。卒業したら俺が後を継ぐんだ」

「へえ、なんかかっこいいね!後継ぎ!」

 

朝日が無邪気に褒める。檜山は少し照れているのか頭をかいている。

 

「それにしても、高橋が言う通りなら俺らまだ全然なんだろ?どうしたらいいんだろう」

 

「過去問、とかあれば出題傾向とかわかるかもな」

 

俺が何気なく呟いた言葉に朝日はオーバーに反応する。

 

「それだ!過去問!先輩に頼めば手に入るかも!同じ問題は出ないかもだけど出題形式くらいならわかるかも!霧咲君ナイス!」

「でも確か制度関係のことは下級生には教えてくれないんじゃなかったか?」

「いや、過去問に関してはグレーゾーンだと思うぞ。聞いてみて違反なら上級生が駄目だと言うだろうし聞くだけ聞いてみてもいいかもな」

「そうね、過去問を使った勉強も有効な方法だし、いいと思うわ」

 

高橋も承諾してくれたので、明日朝日が2,3年の先輩に掛けあってくれることになった。

その後、高橋によるスパルタ指導は夜中まで続き、俺が眠りについたのは朝方だった。

 

***

 

翌日の放課後、高橋たちが帰った後俺は楪に借りた本を返すために図書館へ足を運んでいた。楪から少し遅れるとメールが来たので、ラウンジの椅子に腰かける。ぼーっとしていると、近くの机から話声が聞こえてきた。

 

「いやーやっと試験問題作り終わったな」

「本当につかれたぜ、じゃあ原本の保管は頼むぜ吉田」

「う、うん。わかったよ……」

「絶対無くすなよ?」

「わかってるよ……」

「しっかりしろよ、試験監督だろ?」

 

どうやらDクラスの3年生のようだ。試験問題の話をしているようだ。下手に聞き耳を立てていると、試験要項にあるように罰則を受けかねない。仕方なく俺はその場を立ち去った。

 

 

その後、楪に本を返して俺は寮に戻った。既に朝日が手に入れた過去問で勉強会が始まっているはずなので、少し急いで着替えて食堂へ向かう。

 

「あ、霧咲君……」

「すまん、遅くなった。過去問はどうだった?」

 

その問いに対して朝日は無言だった。高橋や檜山も同じ反応。

 

「どうかしたのか?」

「過去問は手に入ったのだけれど……見てもらった方がはやいわね」

 

そういって高橋は俺に過去問を渡す。受け取った俺はざっと目を通す。

 

「これは……あまり有益には使え無さそうだな」

 

過去問の難易度はすべてバラバラ、出題形式も毎年変わっている。これでは今年のテストを予想することはまず無理だろう。

 

「仕方ないわね、これでも無いよりはましだわ」

「そうだな、もう死ぬ気でやるしかねえだろ!」

 

そして、再び勉強会は再開される。

 

 

 

 

その夜、ベッドに入った俺はなかなか寝付けなくて学生証端末を眺めていた。『高度育成高等学校』か、本当に謎の多い学校だ。楪や檜山の様に少し変わった生徒がたくさんいる。この分だとBクラスやCクラスも相当へんな奴がいるのだろうか。

 

「もうすぐテストね」

 

隣のベッドで寝ていたはずの高橋がそう呟く。ひょっとしてこいつも寝られなかったのだろうか。

 

「そうだな、だがこの調子だと檜山たちは最下位ぎりぎりだろうな」

 

二人も頑張ってはいるが、他の生徒とはスタートラインが違う。全員が同じだけ努力すれば結果的に順位は変動しない。

 

「そうね……」

「まあ、なんとかする方法はあるけどな」

「え?この状況はもう覆らないと思うけど、どういうこと?」

 

俺は高橋に自分の考えを伝える。こいつに最初に話した方が何かと楽だしな。

 

「―――を――――する」

 

高橋は俺の発言に目を丸くする。

 

「本気なの?本気でそんなことを?」

「やる」

「あなた、ちょっと変よ……」

 

困惑する高橋をよそに、俺はある人物に電話をかける。

 

「俺だ、今から話せないか。……そうだな、物置の前で待ってる」

 

 

はたして上手くいくだろうか。五分五分ってところだな。

 

 

 

 

 

 

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