ようこそ実力至上主義の教室へ~ジェネレーションネクスト~   作:たけぽん

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8話 表と裏 それは一体なにをもって定義されるものであろう

そして、あっという間に時は流れ俺たちDクラスは中間テスト当日を迎えた。朝日や檜山だけでない、全員が最下位を恐れる地獄の時間が始まった。一見絶望的な状況の中、教室には生徒全員のペンの音がかつかつと鳴り響いた。

 

 

 

 

数日後。玄関口の掲示板には各クラスのテスト結果が張り出されていた。名前、合計ポイント数、順位の全てが記載されているその板の前には、たくさんの生徒が群がっていた。

 

「おいおい嘘だろ!?」

「あ、あり得ねえ……」

 

驚きの声が上がる。それもそのはず、1年Dクラスのテスト結果は――――

 

「全員満点で、全員同率一位!?」

 

そう、俺たちDクラスの生徒は全員全教科満点をとり、全員が同率で一位を取っていた。つまり最下位は存在せず、全員がネクストポイント1500ポイントを獲得していた。

 

「おはようございます。霧咲君」

「楪か、おはよう」

「凄い騒ぎですね。Dクラスがここまでできるとは思いませんでした」

「頑張ったからな」

 

すると楪は不敵な笑みを浮かべる。

 

「これはとても努力でできる結果じゃないと思いますが?ひょっとしてあなたが――」

「悪いがホームルームに遅れそうだからここで失礼させてもらうぞ」

 

楪の言葉を遮り、掲示板を後にする。

 

 

教室に入ると、クラスメイト達は歓喜の声をあげていた。こんな好成績を収めたのだから喜ぶのも無理はないか。

 

「いやあ、見たかよ他の組の奴らの驚いた顔!」

「ホントマジ斉人クンのおかげっしょ!」

「まったくだ、あんな奇策を思いつくとは!」

 

クラスメイトに囲まれて困惑気味の高円寺をながめながら、俺は適当な席に着席する。

 

「あなたの作戦どおりってわけね」

 

運悪く高橋のとなりに座ってしまい、そんなことを言われる。

 

 

 

――試験一週間前――

 

その日の授業も終わり、生徒たちは帰ろうとしていた。だがそれを制止する声が上がる。

 

「みんな。ちょっといいかな」

 

その声の主はクラスでも人気の高円寺のものだった。生徒たちは驚く。今まで高円寺が放課後に全員に話しかけることなどなかったのだから当然の反応とも言える。

 

「どしたの、斉人クン?」

 

高円寺と仲のいい男子がそう尋ねる。高円寺は息を大きく吸い込む。これから自分が言うことの重大さを彼自身がよく理解している証拠だ。

 

「みんなのネクストポイントをすべて俺に預けてほしい」

「「「「「「!?」」」」」」

 

教室中から驚きの声が上がる。それくらい高円寺の発言は常軌を逸していたからだ。確かに学校のルール上、ネクストポイントの譲渡は許されている。だが、ネクストポイントが個人の運命を大きく左右する『NSシステム』の中で、そのルールを利用しようなどとは誰も考えていなかったのだ。

 

「ちょいちょいどゆことよ斉人クン?」

「いくら高円寺君の言うことでもそれは……ねえ?」

 

誰もが高円寺に異議を唱える。

 

「まあ落ちつけよお前ら。あの高円寺サンがそんなこと言うってことはなんか訳があるに決まってんだろ?なあ?高円寺サンよお?」

 

意外にもそれを言ったのはクラスでも孤立している手塚だった。

 

「ありがとう。手塚君。実は――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

―――試験4日前―――

 

高円寺斉人は校舎の横の森の中でとある人物を待っていた。あの後ネクストポイントは無事徴収でき、彼は様々な人脈を駆使してその人物を呼び出した。

 

「全く、無茶なことかんがえるよなあ彼も」

 

そう呟いている高円寺の前に、目的の人物が現れた。

 

「待ってましたよ。吉田先輩」

「僕に用って、何かな……?」

 

目の前にいるのは3年Dクラスの生徒、吉田だった。とてもおどおどしていて、仕切りに眼鏡をいじっている。

 

「今日も暑いですね。特に寮なんて、エアコン入れてくれたらうれしいんですけどね」

 

高円寺はそんなことをいって吉田とのアイスブレイクを図る。が、吉田は警戒したままだ。確かに、1年の中でもトップクラスの容姿、本来ならAクラスでもおかしくない程の立ち振る舞い。そんな人物がクラスでも目立たない自分をこんなところに呼び出すなんて普通に考えたらあり得ないことだ。

 

「よ、用を教えてくれないかな?」

「先輩にお願いがあるんです」

「お、お願い?」

 

「1年Dクラスの試験問題と解答の譲渡、そして試験中のカンニングの黙認をお願いしたいんです」

 

高円寺は笑顔でそう伝える。吉田はというと、高円寺の発言に大きく動揺している。

 

「ぼぼ、僕は試験問題なんて持ってないよ?」

「いえ、実はこの前図書館で先輩が原本を持っているところを目撃した生徒がいるんですよ」

「!?」

「その生徒によれば、試験監督も先輩がやるとか」

「し、知らないよそんなの!」

 

吉田は尚も否定する。だが、それは高円寺にも予測できていたこと。彼は切り札をだすことにした。

 

「先輩と取引がしたいんですよ」

「と、取引?」

「先輩がさっきの要求をのんでくれるなら、ここにあるネクストポイント20000ポイントを差し上げます」

「ええ!?」

 

吉田は驚きの声を上げる。ネクストポイントは1ポイントあたり50プライベートポイントの価値がある。それを20000ポイントということは実質100万円の価値がある。それだけではなく、受けられる恩恵も大きい。クラスの中でもあまり成績の良くない彼にとってはとても美味しい話だ。

 

「でも、試験に関する情報の交換はルール違反じゃ……」

「問題ありませんよ、試験要項には『原則』禁止とありますが、ネクストポイントはこの学校では『絶対』の力があります。つまりこれはルールにのっとった取引です」

「そ、それは……」

「先輩がどうしても無理というのなら俺も諦めますよ。でも、こんなチャンスは滅多にないのではないですか?」

 

高円寺は尚も笑顔を絶やさない。もう吉田には物事正確に判断する力はなくなっていた。もはや彼は目の前の餌にしか意識がいかない実験動物のようになっていた。

 

 

「……わかったよ。取引しよう」

「ありがとうございます」

 

 

***

 

――そして現在――

 

「まったく、あなたの悪知恵には舌を巻くわ」

「たまたま思いついただけだ」

 

俺は放課後の帰り道まで、ずっと高橋の質問攻めにあっていた。こいつもしつこいな。なんでそんなに聞いてくるのやら。「試験監督を買収する」そんなことは俺じゃなくても思いつくんじゃないのか。

 

「たまたま?それはちがうわ」

 

高橋は今までで一番冷たい目で俺を見る。

 

「あなたは最初から学校のルールに着目していた」

「そう見えたか?」

「ええ。入学式の後も、試験要項を受け取った時も、あなたは机に向かってなにか考えていた。そして、朝日さんによれば高円寺君のグループに接触してクラス内のネクストポイントの平均も理解していた」

 

接触というか、あれは単に誘われただけなんだが。

 

「朝日さんと檜山君を私に任せたのも、私に彼らへの情を持たせるためだった」

 

単にあいつらが心配だったからとは思ってくれないのか。

 

「そして過去問が使い物にならないとわかった時も、あなたの反応は冷静そのものだった」

 

昔から無表情って言われてるんですよ。

 

「そして図書館で吉田先輩を見た時、おそらくあなたは彼がクラスでも弱い存在だと感じ取った。普通会話を耳にしただけでそこまでは確信を持てるはずないわ」

 

人間観察が趣味なんです。

 

「そしてなにより、クラス全員を救済したその裏で自分も1500ポイントものネクストポイントを獲得している」

 

頑張ったから、少しくらいご褒美をもらってもいいでしょう。

 

「そして今の一連の話を聞いても動じないその態度。あなた本当は何者なの?」

「霧咲勝真」

「ふざけてるの?」

「悪いが、そうとしか答えられない」

 

高橋が何者かといくら詮索しても俺は霧咲勝真という答えしか持ってない。

 

「それで、お前の要求はなんだ?まさかそんな長ったらしい推理を聞かせるために俺についてきた訳じゃないだろう?」

「そうね、なら単刀直入に言うわ」

 

何を要求されるのかわからないがけっして良いことではないだろう。

 

 

「私と契約しなさい」

 

契約。どういう契約か知らないがそれは俺を利用しようということだろうか。なるほど、流石Aクラスを目指すだけはある。

 

「……わかった」

 

だがな、高橋。

 

利用されるのはお前かもしれないぞ。

 

 

 

 

***

 

その日の夜。俺はとある人物に校舎裏に呼び出されていた。常識的に考えて校舎裏に呼ばれる理由なんてものはロクなものがない。カツアゲとか罰ゲームによる告白とか。ただ、今回俺を呼びだした人物の目的はそんなことではないだろう。だからといって本気の告白……なんてバカな話でもない。そんなこんなで校舎裏へとやってきたわけで、待ち合わせの人物は既にそこにいた。

 

「待たせちゃいましたか?」

「ええ、3分遅刻よ。5分前行動を教わったことが無いのかしら?」

 

そこは今来たところとか言うのがデートの鉄板じゃ……ああこれデートじゃないんだった。

 

「生徒相手に容赦ないものいいですね。堀北先生」

 

堀北鈴音は風に髪をなびかせながらこちらを見ている。

 

「生徒も一人の人間よ。それなら気を使う必要なんてないわ」

 

教室で話している時と口調が結構違うが、おそらくこれが彼女の素なのだろう。

 

「まずはおめでとうと言っておくわ。あなたの策によってDクラス各生徒のネクストポイントおよびクラスポイントは大幅にあがるでしょうね」

「何の話ですか?」

「あなたは高円寺君を隠れ蓑にするつもりだろうけど、私にはそれは通用しないわ」

 

まるで自分が隠れ蓑を体験したかのような言い草だ。だが、ここで変に言い訳をしても後の祭りだ。この人には隠せないようだしな。

 

「どこでこの策を思いついたの?」

「最初に堀北先生が試験要項について説明した時、『努力』しろと言いましたが、普通なら『復習しろ』とか『勉強しろ』と言うはずです。そして雪坂先生が小テストの後に言った『やり方次第でいくらでも点は伸ばせる』という言葉。ここから正攻法では無いやり方があるのではないかと考えました。後は……たまたまピースが揃っただけです」

 

先生は大きくため息をつく。

 

「あなたを見ていると、昔の知り合いの事を思い出すわね」

「モトカレですか」

「今すぐ退学にするわよ」

 

職権乱用ですよ、それ。

 

「でも、当然のことかもしれないわね。だって……」

 

その言葉をさえぎるように俺は言葉を発した。

 

「それ以上口にしたらアンタの身の安全は保障できないぞ」

「……そう。ならやめておくわ」

 

やはりどこかで俺の情報が流れているようだ。やはり『アイツ』によるものだろうか。

 

「ではこれが最後の質問よ。あなたはこの学校で何を目的にするの?」

「俺の……オレの目的は、復讐。そして一番大切なものを取り戻すことだ」

 

それだけ言って俺はその場を後にした。

 

 

―――それから数分後、校舎裏にて―――

 

「やっぱり彼と話すのはつかれるわね……」

 

堀北鈴音はベンチに腰掛けると大きくため息をついた。

 

「だが、少なくとも彼の目的は確認できた」

 

そう言ってベンチに近寄ってきたポニーテールの女性に堀北は一礼する。

 

「そうですね、茶柱副校長」

 

茶柱は隣にこしかけ、煙草に火をつける。

 

「霧咲勝真……今の彼はあの時のあいつと同じ、扱い方を間違えれば全てを崩壊させるほどの欠陥品だ」

「分かっています。彼の今後の行動が、この世界の運命を決めるということも」

「どちらにせよ、今は見守ることしかできないがな」

 

 

茶柱がはいた煙草の煙が真っ暗な空へと昇っていく。

 

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