ようこそ実力至上主義の教室へ~ジェネレーションネクスト~ 作:たけぽん
中間テストも終わり、俺たちは再び平穏な日々を過ごしている。もっとも高橋からすると平穏では困るのだろうが、どうせすぐに期末テストがやってくる。俺は平穏に過ごせる時間を今のうちに楽しむ方針で日々を過ごすことにした。
「釣れねーな―」
「釣れんな」
そんなある日、俺は檜山と一緒にに釣りぼりに来ていた。普段はそこそこの数魚が釣れるので檜山が美味い魚料理を作ってくれるのだが、今日は全く釣れない。なので俺たちは2時間くらいこうしてぼーっとしている。
「なあ、霧咲は夏休みどうすんの?」
「俺は校内に残ろうかな。ぶっちゃけ外より過ごしやすそうだし。檜山は?」
期末テストが終われば、生徒たちは夏休みに入る。夏休みの過ごし方は基本的に自由だ。実家に帰ってもいいし校内に残ってもいい。以前は一度校内に入ると卒業まで外界とは一切の交流を遮断されていたらしいが、それが原因で鬱になる生徒が少なくなかったため改革されたらしい。もっとも夏休み中旬には学校主催のバカンスに連れて行ってくれるらしいのでそれまでには学校に戻ってこなくてはいけない。
「俺は、いったん帰る。総合文化祭の準備もしたいしな」
総合文化祭とはこの学園で年に1回行われる催しで、簡単に言うと文化祭がもっと大きくなった感じだ。校内の外部から客を呼び3日間盛大に行われるそうで、運営からそれぞれの催しまですべて生徒の自由にでき、聞いただけだとちょっとした無法地帯になりそうでもあるが、催しの成果によってネクストポイントやクラスポイントが支給されるらしい。なんでも普通の試験よりも多くのネクストポイントが動くといううわさもある。その祭りがが、夏休み明けに行われることがわかっている。檜山は料理店をだすためにせっせと準備しており、おそらく実家の定食屋で修業でもするのだろう。
「そっか、じゃあ夏休みはひまになるかもな」
「そうでもないぞ、夏休みは食堂のメニューも夏使用になるらしいし」
本当に檜山は飯に注ぐ熱が他人の比にならないくらい大きいな。それでいて特に太っているわけではないのはやはり食事をしっかり管理しているからなのだろうか。
「その前に期末テストな。中間みたい高円寺が助けてくれるとは限らないし、しっかり勉強しろよ?」
「ああ、とりあえず朝日には負けないぜ!」
その目標設定は随分控え目ですな。
その日はそれ以上釣れそうになかったので、俺たちはがっかりしながら寮へと向かっていた。物置にあったこのつりざおもそこそこには使えるが、やはりデパートのつりざおが魅力的に感じる。とはいっても中間以降Dクラスの生徒はネクストポイントを使わないようにしている。プライベートポイントに関してもネクストポイント同様何らかの取引に使えるかもしれないという高円寺の呼びかけによって散財する生徒もいない。それにネクストポイントはうかつに使うとあっという間にクラス最下位になってしまう。
「なんだとコラ!」
道の途中でどなり声が聞こえる。そちらを見ると何人かの生徒が言い争っていた。その中にはキャップを深くかぶった生徒、Dクラスの手塚優正の姿もあった。他の生徒は見たことが無いので他クラスの生徒だろう。
「たかが一回のテストで喜んでるなんて落ちこぼれらしいなって思ってよ。俺たちや他のクラスはすでにその上の上の領域だってのによ」
「おいおい、あんまりいじめてやるなって」
そう言って手塚を煽っている坊主頭の生徒を中心にいる人相の悪い生徒が制止する。
「まあ、そういうことだ。あんまり良い気にならないこった」
そう言って連中は去っていく。手塚はというと、そちらを見ていたがすぐに走ってどこかへ行ってしまった。
「あれは、風貌からしてCクラスの生徒かな?」
檜山の言うとおり、彼らは緑色の制服を着ていた。だがCクラスの寮からDクラス寮の近くまでくるのはそこそこ遠いはず。そこまでして一体何をしに来たのやら。
「今日はわかめご飯か!うまそー!」
晩御飯の食堂。俺の向かいではいつも通り檜山がメニューを絶賛している。その隣には朝日、俺の隣には高橋が座って食事をしている。高橋もなんやかんやで朝日に甘えられたり檜山に夜食を作ってもらうことに満更でもないようだ。まあ、一番の理由としては檜山たちと一緒にいることで自然に自室に入れることだろうが。
「そういえば霧咲君、ポイントで買い物とかした?」
何気なく朝日が聞いてくる。
「いや、してないな。現状だとポイントは使わないほうがよさそうだしな」
「だよねー。みんなそう言ってるし、やっぱり大事にするべきだよね」
「そうね、他の組では数千単位でネクストポイントが動いているようだし」
高橋も会話に参加してくる。さっきCクラスの連中が言っていたことは本当らしい。
「ほんとそれずるいよねー。このままだと『交換試験』なんていつまでも受けられないよ」
「まあそもそも何点で『交換試験』を受けられるかもわからない現状だし、言ってても仕方ないわ」
高橋の言葉に朝日はうんうんと頷く。
「そういえば、ポイントなんだけどな、体育系の部活は夏に対外試合があってその結果でネクストポイントがもらえるんだと」
一足先に完食した檜山が耳寄りな情報を口にする。
「とういうことはこれで部活動によるアドバンテージの存在もはっきりしたわね」
「部活か―私もなんかしよっかなー、霧咲君はなんかやらないの?」
「いや、これといってやりたいことがあるわけでもないし、中途半端にやってもアドバンテージにならないだろうし」
「でも霧咲君よく図書館にいくし、文芸部とかは?」
文芸部か。確かにそれなら多少は打ち込めそうだが、文芸部ってどうやってポイントをとるんだ?感想文……自作小説?どっちも俺には無理そうだな。
「図書館といえばー霧咲クンってAクラスの楪さんと付き合ってんの?」
唐突にそう言ってきたのは高円寺のグループの男子だった。名前は知らないが、たしかネクストポイントのスタート値が高円寺に次いで高かったはずだから俺以外には名は知れているのかもしれない。
なんてのんきに考えていると周囲の特に男子の視線が痛い。さっさと誤解を解かないとただでさえ危うい立場がさらに危うくなる。
「楪って?」
俺が話そうとしたちょうどそのとき檜山が余計に話を広げ出した。
「Aクラスの女子でさ、なんつーかこう清楚系?みたいな感じでAクラスでも成績めっちゃ良いらしいんよーその子がよく霧咲クンと図書館で喋ってるって噂があってさ」
「驚いたわね、まさか霧咲君にそんな不釣り合いな彼女がいたなんて。買収でもしたの?」
「いやいや買収ってそれ斉人クンのぱくりっしょー」
「……そうね」
高橋は適当に返事する。高円寺意外に唯一試験監督買収の真実を知っている高橋にとってはこれ以上深く掘り下げない方がいいと思う理由がある。それは俺との間にある契約の存在だ。
「そうなの霧咲君!彼女なの?」
朝日が目を輝かせて聞いてくる。女子がこういう話が好きというのはいつの時代も変わらないらしい。
「いや、楪は単に読書友達だ。面白い本を紹介してくれるんだよ。彼女じゃない」
しっかり否定しておく。楪本人は気にしないだろうがDクラスの生徒と付き合ってるなんて噂が広まったら迷惑になるだろう。
「えーそうなの?なんだー」
朝日は引き下がってくれる。
「じゃあじゃあ、高橋さんか美空っちと付き合ってんの?」
だがそれでも追従の手は緩まない。
「ちょ、なにいってんのさー。私と霧咲君が付き合ってるわけないじゃん」
「そうね、心の底から不愉快だわ」
もう少しオブラートにつつんで紙で巻いてラッピングして箱に詰めてリボンで縛って袋にいれてくれないか。いや、過剰包装だな。
「参考までに、何故そう思ったか教えてもらえるかしら?」
「えー、だって二人ともよく霧咲クンの部屋に入ってくの見るし、中間前とか一緒に勉強してたじゃん?」
「いや、俺もいたぞ……?」
檜山が悲しそうにそう呟く。だが、高橋と俺が同室という話は不用意に広がってはいないようだ。
そんなこんなで晩御飯は終わり、俺は自室のベッドでゆったりしていた。今日は珍しく檜山たちもさっさと部屋へもどってしまったので、部屋には俺と高橋しかいない。
「……」
「……」
だが、俺たちの間には特に会話が生まれる訳でもなく、互いに自分の世界に入っている。俺も学生証端末を開き、適当に見ることにする。
それにしても、俺のアドレス帳も潤ってきたな。最初は誰のアドレスも入っていなかったが、今では朝日に檜山、高橋に高円寺、そして楪のアドレスが入っている。少ないと思われるかもしれないが5件でも俺にしては頑張っているほうだ。
「ねえ、霧咲君」
唐突に高橋に名前を呼ばれる。
「契約に関しては忘れていないわよね?」
「……しつこいなお前も。ちゃんと契約書にサインもしただろ」
高橋と俺の間にかわされた契約は単純明快。それはネクストポイントの譲渡を条件に互いの要求を聞くことだ。高橋にとっては俺は未知だが利用できる存在であり、俺としてもこの契約には利得がある。だからこそ俺は契約に同意し、高橋がわざわざ用意した契約書にサインまですることになった。
「あなたはどこまで本気なの?」
またその問いか。契約を結ぶ時も同じ事を聞かれていて、その時も適当に返事したのだが、こんなにしつこく聞かれるなら素直に答えてしまおうか。
「それは……」
俺が話しだそうとすると同時に着信音が鳴りだした。どうやら俺の電話らしい。
「でていいわよ。この質問は後でも出来るし」
後でまた聞かれるのか……。
とりあえずお言葉に甘えて俺は電話に出る。
「もしもし」
『もしもし、こんばんは霧咲君』
電話の相手はさっき話題になった楪だった。いままでメールこそしていたが、通話は初めてだった。
「どうした、なにか面白い本でも見つけたのか?」
『人を本だけの女だと思わないでください』
「違うのか?」
『いえ、概ねあってますね』
なぜ見栄をはったのか。
「それで、本じゃないなら何の用だ?」
『実はですね、今度AクラスからDクラスの生徒でお茶会をしようと思うんです。それで霧咲君をお誘いしようと思いまして』
全組でお茶会とは、よくセッティング出来たな。素直に感心する。とはいってもAからDクラスがそろうならただのお茶会では済みそうにないな。
「でも、俺じゃDクラス全員を参加させるのは無理だぞ」
『いえ、人数は組ごとに2人か3人で大丈夫です。流石に100人超えのお茶会の幹事なんてできませんよ』
ということはおそらく各組のリーダー格が出てくるはずだ。そんなところに行ってもなにか上手い話なんて俺にはできない。なら高円寺に伝えてあいつに任せた方がいいだろうか。
『もちろん、霧咲君は決定ですよ』
「え、いやでも」
『女の子が勇気をだして誘っているのですから、霧咲君はそれを無下にしたりはしませんよね?』
「いや、おいそれはずるいだろ」
『では後で日時と場所をメールしますね』
楪は俺の反論を意図的に無視し話しを進めてくる。
『それじゃあ、楽しみにしていますね。おやすみなさい、霧咲君』
電話を切られてしまった。仕方ない、高円寺を誘ってあいつに丸投げしよう。俺はおいしいお茶を飲むだけ飲んで帰らせてもらおう。
「私も行くわ」
そう思っていると急に高橋が参加を宣言してきた。
「お前、どんな耳してんだよ」
「あなたの応答だけで大体予想はつくもの」
本当にスペックだけならAクラスレベルだな。問題は性格だろう。
その後高円寺にメールを送り、無事了承を得ることができた。あとは楪からの日時の通達を待つのみだ。