霊夢「……はぁ。」
神社の縁側にて、霊夢はため息をつく。それに対して反応する声がひとつ。
「どうした?人間の世界ではため息をつくと幸運が逃げるんだろう?」
霊夢「そのため息はアンタのせいなんだけど……。」
「俺か。」
霊夢「アンタよ。えっと……なんだっけ?」
「『アポローン』だ。創界神アポローン。娯楽としてスピリット達の存在が知れ渡っている世界の住人なら、聞いたことくらいはあるだろう?」
霊夢「全く。」
アポローン「む……そうか。」
アポローンは先程本人が言ったように人ではなく、神である。
しかし、その五体は神社のどこにもなく、カードから声が聞こえてくるのみだ。
霊夢「……とりあえず洗いざらい話してもらおうじゃないの。何が何だかわかりゃしないわ。」
アポローン「そうだな……ならまずは俺達の存在から話そう。」
霊夢「えー……創界神、だっけ?」
霊夢の問にアポローンは少し考えた後、口を開く。
アポローン「創界神というのは、文字通り世界を創る神。俺以外にも何人か存在していて、それぞれの創界神が自分の世界と、とある種族達からの信仰を持っている。」
霊夢「へぇ。規模が違うだけで、在り方は普通の神様と大差ないのね。」
アポローン「まぁな。そして、俺達創界神はそれぞれ『化神』という切り札がある。」
霊夢「化神?」
アポローン「そう。例えば──」
アポローンはそう言うと、光に包まれながらくるりと一回転する。
すると、アポローンは赤いドラゴン(のカード)に姿を変えていた。
霊夢「ふぅん……。」
アポローン「これは俺の化神、『太陽神星龍アポロヴルム』だ。本当は実物を見せられればいいんだが、生憎このザマだ。」
霊夢「なるほどね……アンタがどういう存在なのかは概ね把握したわ。じゃ、もう1つ質問。」
アポローン「あぁ、構わないぞ。」
霊夢「その創界神サマがなんで私の神社の物置小屋にいたのよ。」
アポローン「あぁ、それなんだが───
───俺もさっぱり分からん。」
霊夢「は?」
アポローン「ここに来る前は戦場で別の創界神やその軍勢と、自分の軍を率いて戦っていたんだがな……相手の創界神と1対1の勝負をしている際に、突然戦場、というかその空間が急に崩れはじめた。」
そして気がついたらここに居た、とアポローンは説明を終える。
霊夢はそれを聞き終えると、首を傾げたまま黙り込んだ。
アポローン「……どうした?お嬢さん?」
霊夢「……おかしいのよ。」
アポローン「おかしい?」
霊夢「仮にアンタがここにその"事故"で入ってきたとすると、私が気づかないのはおかしいの。」
アポローン「何故だ?」
霊夢「これでも私、この世界の管理に当たってる1人でね。神様レベルの存在がいきなりこの幻想郷に入れば、流石に結界に異常が出る。それを見落とす私じゃないのよ。」
アポローン「……俺が事故でここに来たのは嘘、と?」
アポローンの声が少し険しくなる。が、霊夢は動じずに話を続ける。
霊夢「可能性としては無くはないけど……人為的に入ったならそんな動きづらい体にならないでしょうし、そっちの可能性は今は外しとくわ。」
アポローン「そうか……ところでお嬢さん。」
霊夢「私の名前は霊夢よ。あとダメね。」
アポローン「そうか、じゃあ霊夢……って、何がダメなんだ?」
霊夢「どうせ居候のお願いでしょ?面倒なことになりそうだから嫌よ。」
アポローン「む、神の思考を先読みとは……霊夢、お前巫女か何かに向いているんじゃないか?」
霊夢「私自身その巫女よ。第一ここ神社じゃないの。」
アポローン「そうか……だが、神の気配が感じられない神社というのはどうなんだ……?」
アポローンの問に黙る霊夢。彼女自身、巫女になってから1度もここの神様のことなど聞いた経験がないので、なんとも言えないといった様子。
アポローン「よし、なら俺がここの神になろう。それならここにいる理由があるだろう?」
霊夢「………。」
霊夢はジト目でアポローンを見る。
アポローン「それに霊夢、これは俺の予測だが、お前は星竜達に少なからず関わりがあると見た。」
霊夢「…まぁ、一応星竜使いだけど。」
アポローン「なら丁度いい。お前のデッキ?とやらの戦力になろうじゃないか。化神共々、な。
これならお互いに利益があるんじゃないか?」
霊夢「………全く、なんでそうもこだわるのかしら。他に場所もあるでしょうに。」
アポローン「新天地では最初に会った者と縁を結んでおけば何かと利があるからな。それで、返事はどうだ?」
霊夢は十数秒ほど黙っていたが、やがて諦めたかのようにため息をついた。
霊夢「……はぁ。しばらくの間だけよ。」
アポローン「話がわかるな。では、よろしく頼む。」
霊夢「えぇ、まぁそれなりにね。」
星竜の創界神、アポローン。
博麗の巫女、博麗霊夢。
異変の中心となる者達のうち一組が、ここに誕生した。
アポローンが居候をはじめて数日後の昼頃。霊夢は鼻歌を歌いながら賽銭箱の中を確認していた。
霊夢「あら、今日も結構入ってるわね!!おっけーおっけー!」
霊夢は中身を取り出すと、縁側から居間に上がってお茶を入れ始める。
アポローン「上機嫌だな……。」
霊夢「も~!!アンタこういう力あるなら先に言いなさいよ~!おかげでお賽銭ガッポリだわ!!」
博麗神社というのは立地条件のせいか、お賽銭が極端に少ない。しかし、ここ最近は毎日一日半ほどの生活ができるくらいの量が入ってきているのだ。
霊夢「やっぱり持つべきは神様よね!」
お花畑気分とでも言うかのようなテンションでお茶を啜る霊夢。
アポローンは”ここまでゲンキンな巫女初めて見た”と思いつつも口には出さない。言わぬが花である。
霊夢「さて……と。アポローン、出かけるわよ。」
いきなりテンションを戻して立ち上がり、外出の支度をする霊夢。
アポローン「でかける?どこにだ?」
アポローンが問いかけると、霊夢は依然準備を進めながら答えた。
霊夢「人里。今朝見たら食材切らしてたのよ。その買い出し。」
アポローン「そういうことか。分かった、俺も同行しよう。」
霊夢とアポローンは人里に到着する。アポローンは霊夢の懐のデッキの中にいる。
霊夢「……?」
アポローン『どうした?』
アポローンが念話で話しかけてくる。霊夢は少し驚きながらも、口に出して答えた。
霊夢「……周りの視線に違和感がある。」
アポローン『違和感?』
霊夢「えぇ。人里には何度も来てるから顔は広い自覚あるんだけど……なんか妙なのよね。」
アポローン『もう少し具体的に話せないか?妙と言われても俺もわからん。』
霊夢「そうね……敵意の視線が半分、尊敬や羨望の視線が半分、ってとこかしら。」
霊夢「後者は子供達からたまに向けられることはあったけど、今は大人達からも多少感じる。前者は初だわ。」
アポローン『なるほどな……とりあえず早めに用事を済ませるべきだ。普段とは違う環境なら、トラブルに会う前に帰って、何故こうなっているか考えた方がいい。』
霊夢「そうね……。」
霊夢はよく野菜を買いに行く店に行く。
そこは親子で経営しており、買い物ついでに話などをすることも時々あった。
霊夢「久しぶりね、お婆ちゃん。野菜買いに来たわよ。今朝見たら切らしてたのよねー。」
霊夢が高齢の女性に話しかけると、女性は一瞬驚いたような顔をした後で、言葉を返した。
「何言ってるんだい。巫女様からお金なんて取れないよ。要るだけ持ってって頂戴。」
霊夢「ちょ、どうしたのよいきなり。この前まで名前で呼んでたじゃない。それに、今までだってお金払ってきたでしょ?」
霊夢がそう言うと女性がまた言葉を返す。
霊夢はその言葉に目を見開いた。
「──変なこと言わないでください。昔っからアポローン様に仕えて、妖怪退治して。そんな巫女様からお金を取るなんて、出来るわけないですよ。」
霊夢「───!」
アポローン『霊夢、どこに向かってるんだ?』
霊夢は人里のすぐ上を普段より速めに飛びながら、ある場所を目指していた。
霊夢「知り合いのとこ!ソイツに聞けば何か分かるかもって!」
アポローン「さっきの人は俺の名前を口に出したが、この幻想郷じゃ俺の事は知られてないんじゃなかったか?」
霊夢「そのはずなのよね………居た!」
霊夢は地面に着地し、すぐ先に居た女性に話しかける。
霊夢「慧音!」
上白沢慧音。人里の寺子屋教師の半人半妖。
彼女は霊夢に気づくと、駆け寄ってきた。
慧音「霊夢か!ちょうど良かった!」
霊夢「?」
慧音「最近人里がおかしくてな。聞いたこともない者達の名前を、いきなり皆言い出すようになってるんだ。しかもそれについて話していたら争いに発展した者達も居るんだ……。」
霊夢「………その聞いたことないやつらの1人に、『アポローン』って奴が入ってるでしょ?」
慧音「なっ、知ってるのか!?」
霊夢「この前そう名乗るカードに会ったのよ。今はデッキの中だけど「さて、慧音、と言ったかな?」ちょっ!?」
いきなり霊夢の服の中からアポローンが飛び出してきて、慧音に問いかける。
慧音「貴方がアポローンか。」
アポローン「その通り。なんでここでは知られてない俺が、ここまで有名になっているんだ?」
慧音「分からない。ただ、突然貴方達を崇めるかのような風潮が出来てな……。」
霊夢「達?」
慧音「あぁ、名前を聞くようになったのはもう3人居るんだ。いずれも皆信仰に近い態度を取り始めていて……訳がわからん。」
アポローン「その名前は?」
慧音「名前か……あなた以外では確か………『オシリス』、『セト』、『ヘルメス』。この3人だ。」
アポローン「!!」
霊夢「ちょっと、勝手に進めるんじゃないわよ。で、アポローン。その反応からしてソイツらも創界神なの?」
アポローン「霊夢は察しがいいな……。ヘルメスは味方の創界神だが、セトとオシリスとは敵対している。」
慧音「一部の者達の間で争いが起こっていたのはそのせいか……。」
アポローン「……とりあえず情報を整理したい。どこか落ち着いて話せる場所はあるか?」
慧音「それなら私の家にしよう。お互いに情報交換といこうじゃ「あら、こんなところで星竜の創界神に会えるとは、光栄ね。」
慧音と霊夢、アポローンは、突然聞こえた声に振り返る。
そこには銀髪にメイド服を着た少女が。
慧音「咲夜……?」
十六夜咲夜。紅魔館という場所で働くメイドだ。
咲夜は慧音を一瞥すると、すぐにアポローンと霊夢に目を向ける。
咲夜「お嬢様から命令を受けて、とりあえずはここにと来てみれば……ドンピシャね。」
霊夢「命令?なんの命令よ?」
霊夢の問に昨夜は笑って答える。
咲夜「あら、分からないかしら───
───創界神と接触したのは貴方だけじゃない。私達紅魔館も、今現在創界神を擁しているのよ。」