場所は博麗神社の母屋の中。
この中には4つの声が聞こえていた。
さらに言うと、そのうち2つは人ではなくカードから聞こえるものだ。
アポローン「もしやとは思ったがお前までこちらの世界に来ているとはな……『アルテミス』。」
アポローンは向かい合って浮かんでいるカードをそう呼んだ。
アルテミスと呼ばれたカードはクルクルと回りながら答える。
アルテミス「ホンットにびっくりしたわよ……戦場でいきなり空間が割れ始めて気づいたらこっちなんだもの。どうなってんのかしらこれ。」
アポローン「それに関してはこちらも原因究明中でな……そうだ。後はヘルメスの奴も来ているぞ。」
アルテミス「へー……アイツがいるとこは大変そうねぇ。」
アポローン(どの口が言うのやら……。)
アルテミス「何?」
アポローン「いや、何も。」
そう話しているのを横で見ながら、2人の少女がお茶を飲んでいる。
霊夢「……アンタも貧乏くじ引いたものねぇ……。」
「あ、あはは……でももう慣れたので大丈夫ですよ。」
同情するような言葉を投げる霊夢。そしてそれに苦笑いをする、長い髪を後ろで結んだ少女。
霊夢「慣れていいのかしらそれ……ところで、こっちにはどんなようで来たのよ?『依姫』。」
依姫と呼ばれた少女は、霊夢にここに来た目的を聞かれると、急に俯き始めた。
霊夢「……?どうしたのよ。言っとくけどアレを引き取れってのは勘弁よ。」
霊夢はアルテミスを指さしながら釘を刺す。
依姫は数秒間目を伏せて俯いたままで、その後顔を上げて口を開いた。
依姫「……ここに来た理由を話す前に、霊夢に話しておきたいことがあります。」
霊夢「……その話が目的と関係ある感じかしら。」
依姫「えぇ。むしろ、霊夢ならばこの話をするだけで目的を察してもらえるかと。」
霊夢「何よその自信……いいわよ。話してみて。」
霊夢が促すと依姫は頷き、同時にアルテミスが2人のもとに寄ってきた。
アルテミス「よっちゃん、私も手伝うわよ。補足しなきゃ行けないこともあるかもだし。」
依姫「………あの、そろそろ普通に『依姫』と読んでもらえませんか?その呼び方、少しむず痒いものが……。」
アルテミス「こっちの方が可愛げあっていいじゃない。それより話をしましょ。話。」
依姫「はぁ……わかりました。では、まずは今から約1ヶ月ほど前まで遡ります────
時を遡り、1ヶ月前の夜。
依姫は体を伸ばしながら自室へと向かっていた。
依姫「ふあぁ……疲れた……。」
この日、彼女はとんでもなく疲れていた。
それと言うのも
依姫「お姉様もいい加減月の技術で遊ばないで欲しいですよ………。」
彼女の姉である『綿月豊姫』が技術部に作らせた防衛ロボが暴走して市街地で暴れ回ったため、それの討伐だの後処理だので1日の大半を使ったからである。
依姫は自室にたどり着き、ドアを開ける。
その瞬間、視界が少し歪んだ。
依姫「ッ……!!」
なんとか踏みとどまる。これは疲れているな、と思いつつ、着替えもせずにベッドにダイブした。
依姫「………もう寝「おーい。」ん?」
声が聞こえ、なんとか体を起こして辺りを見回すも、人影は皆無。幻聴かと思ってまた寝ようとしたが
「おーい!!上!上よー!!」
依姫「……?」
依姫は声の通りに上を見上げると、カードが浮いていた。
カードが浮いていた。
依姫「……は?」
「うっわぁ、初対面で『は?』って言われちゃったわ……ショック……。」
わざとらしい口調の声が聞こえる。
カードの方から。
カードの方から。
依姫「………え、ちょっ………えっ?」
「何よ、カードが話してるのがそんなにおかしい?」
依姫「おかしいも何もどう考えたって普通じゃありませんよ?」
カードはふぅん……などと言いつつ、依姫の目線の高さまで降りてくる。
「ま、私もホントの姿はあなたと同じ人型なんだけどね。訳あってこんなんになってるのよ。」
依姫「は、はぁ……。」
よく見るとどことなく神力を感じるので言っていることは本当なのだろう。
「私の名前は『アルテミス』。機獣達の創界神よ。」
依姫「……そう、かい、しん?」
アルテミス「そ。簡単に言うと世界の創造主サマよ。少し前までは自分の世界の住民引き連れてドンパチしてたんだけど、気がついたらここに居たのよねー。」
適当な世間話をするかのように自分の身の上を話すアルテミス。
依姫「えーと……アルテミス、さん?」
アルテミス「何?」
依姫「私、今現在の状況がよく分からないんですが……。」
アルテミス「簡単に言うと別世界から飛ばされたのよ。というわけで帰れる目処が立つまでここに居るから。」
依姫「は、はぁ…ってはぁ!?」
アルテミス「えっ?」
依姫「えっ?じゃないですよ!いきなり『ここに居る』なんて言われても……」
アルテミス「だって他に宛もなさそうだし。その様子だとこの世界に『創界神』って言葉は馴染みがなさそうだしね。」
依姫「まぁ、聞いたこともないですけど……。」
アルテミス「ってわけで、ポニテ仲間としてここはひとつ!ねっ?」
依姫「え、えぇ……。」
アルテミス「別にこんな体だからご飯も寝る場所もいらないし、人にバレて面倒ならカードのフリすればいいだけじゃない。ほら、デメリットは別にないでしょ?」
依姫「そ、それはそうですけど……。」
依姫はだんだんと頭痛がしてきた気がした。
その間にもアルテミスは必死に頼み込んでくる。
依姫「……はぁ、わかりました。ここに居ていいですから、変なことしないでくださいよ?」
アルテミス「やったー!!」
ピョンピョンして喜ぶアルテミスに深いため息をつく依姫。
すると突然、アルテミスはなにかに気づいたように依姫の方を向く。
アルテミス「そう言えば名前聞いてなかったわね。改めて、私は『創界神アルテミス』。呼ぶ時は呼び捨てで呼んで頂戴。」
依姫「……私は『綿月豊姫』。ここ、月の都の……まぁ、多少は"お偉いさん"という立場になるのでしょうね。これからよろしくお願いします。アルテミス。」
アルテミス「えぇ!よろしく!」
依姫「……これが、私たちが初めてあった時のことです。」
霊夢「創界神って図々しい奴しかいないの?」
アルテミス「何その評価!?酷いわよれーむ!!」
アポローン「コイツはこういう性格だからな。依姫、心中察するぞ。」
依姫「あはは……とりあえず、続けますね。」
霊夢「ん。」
翌日。
依姫「んっ………ふあぁぁ………。」
アルテミス「あらおはよう。早いのね。」
依姫「おはようございます…今日も今日で仕事がありますから……。」
アルテミス「ふぅん……ついていってもいい?」
依姫「……服のポケットの中でじっとしていてくださいね?」
アルテミス「はーい。」
依姫は手早く準備を進める。
そんな中、自室の戸が叩かれた。
依姫「……?どうぞ。」
依姫がそう言うと、1人の兎が入ってきた。
依姫「どうしました?レイセン。」
レイセンと呼ばれた兎は苦笑いをしながら答える。
レイセン「いえ、昨日すごくお疲れのようでしたから……もしかしたら寝ていらっしゃるかな、と……。」
余談だが、依姫は昨日のように突然忙しくなって体力を使い切った翌日は寝坊する事が稀にあるのだ。
依姫「ふふっ、大丈夫ですよ。」
レイセン「あはは、ならよかったです。アルテミス様はまだご就寝中ですか?」
依姫「いえ、彼女ならもう………え、レイセン、今なんと?」
依姫は驚きのあまり聞き返す。アルテミスも驚いた様子であるように見える。
レイセン「え?ですから、アルテミス様はまだご就寝中かと……。」
依姫・アルテミス「「……………えっ?」」
霊夢「……なるほどね。そっちもか……。」
依姫「ということは、霊夢も?」
霊夢「ええ。なんでか分からないけどアポローンが人里の方に認知されてたわ。お賽銭が増えるようになったのはいい事だけどね。」
アポローン「月の方でも、となると、俺の予想は合っていると見ていいだろうな……。」
アルテミス「世界同士の自然融合なんて、そうそう起こることじゃないんだけどね……。」
依姫「なるほど……では、ここからが本題です。」
霊夢「……目的に直接関わる部分って事ね。」
アルテミス「……よっちゃん、やっぱり私が話すわよ?」
依姫「いいえ、これは私の口から話すべきです。……大丈夫ですよ。アルテミス。」
アルテミス「……そう。分かったわ。」
依姫「では、続けますね────
アルテミスと出会ってから約2週間。
依姫は兎達の訓練の指導をしていた。
この2週間で分かったことがいくつかあった。
まず、アルテミスが月の都の皆に知らぬ間に認知されていたこと。
次に、アルテミスが神として、昔よりこの月の都から信仰を受けている事になっていたこと。
最後に、アルテミスと共にいる依姫の持つ権限が強くなっていたこと。
全て、アルテミスと会ったあの夜から、次の日依姫が目覚めるまでの間に変わっていたことだ。
依姫(仕事の合間を縫って原因を探しては見たものの、ほとんど収穫なしのままはや二週間……。)
依姫「アルテミスの様子を見る限り彼女の仕業とは思えませんし……。」
「どうしたの?そんな難しい顔して。」
依姫が声の方に振り向くと、彼女の姉である豊姫が立っていた。
依姫「いえ、その……アルテミスのことで。」
豊姫「なるほどね……確かに、私もいきなり周りが変わっていたのは驚いたわ……。」
豊姫は、依姫とアルテミスの周りで唯一この変化の影響を受けなかった者である。
よって、依姫は豊姫にだけはこの事を打ち明けていた。
豊姫「彼女自身が原因ってのは……あ、ないんだっけ。」
依姫「はい。嘘をついているようには思いませんし、先日神を降ろした状態で脅しをかけてみても知らないの一点張りだったので。」
豊姫「聞き出し方が物騒過ぎない?」
依姫「……コホン。お姉様はどう思いますか?」
豊姫「うーん……なにせ情報がねぇ……。」
依姫「はい……。」
豊姫「……っと、私これから用事だから、そろそろ行くわ。」
依姫「はい。また。」
豊姫が去っていくのを見届けると、依姫は訓練をしている兎たちの方に向き直った。
依姫(……とりあえず、今は目の前のことに集中ね。)
数時間後、訓練は終了し、依姫は自室に戻っていた。
アルテミス「あら、お疲れ。」
自室に入ると、くるくると回っていたアルテミスが居た。
依姫「はい。ありがとうございます。」
アルテミス「……で、なにか分かった?」
依姫「……いいえ、何も。」
アルテミス「そうよね……てことはまた明日も───
─────瞬間、警報が鳴り響いた。
依姫「!?」
アルテミス「なにこれ!?」
依姫「この警報音は……敵襲です!!行きましょう!!」
アルテミス「りょーかいっ!!」
2人は窓から外に出る。
周囲を見回すと、街の中で大きい建物が何軒か、燃えていた。
全速力で向かうこと十数分。
建物のうちの1つの前に着地する。
「依姫様!」
依姫「遅れてすみません!!状況はどうなっていますか!?」
「あ、相手は1人で、目の前の建物の中に居ます!顔は仮面で隠され、人物の特定は出来ていません!!」
依姫「わかりました。ひとまず警戒態勢のまま待機を。」
依姫(それにしても、なぜ自分で燃やしたであろう建物の中に……?)
依姫が思考を巡らせていると、突然──
───燃えていた建物が全て吹き飛んだ。
依姫「───ッ!?」
爆風がこちらにくる。さらに、破片が近隣の建物に飛び、何軒かに燃え移り始めた。
依姫「まずい!!」
アルテミス「全員消火に向かってちょうだい!!相手は私たち2人で抑えるから!!」
「「「はい!!!」」」
アルテミスが指示を出すと、兎達はそれぞれ燃え移った建物の消火に向かった。
アルテミス「これでいいでしょ?」
依姫「ありがとうございます、アルテミス。」
アルテミス「まさか信仰されてるのがここで役に立つとはね……さて、お相手さん出てくるわよ。」
依姫「……!!」
依姫は建物があった場所──今はただ炎と煙が立ち込めているだけだが──を見据えて構える。
そしてさほどの間もなく1つの影が見えた。
依姫「これをやったのは貴方か!!都でこのような企てを起こすのがどういうことか、分かっ……て………。」
依姫の言葉は最後まで続かなかった。
アルテミスも、炎の中から出てきた人物を見て絶句した。
なぜなら、その人物は───
「───嫌ねぇ。話す時は最後までハッキリと話しなさいと、八意様にそう教わったじゃないの。ねぇ、依姫?」
────依姫の姉、豊姫だったのだから。