それではプロローグご覧下さい。
ある男が絞首台へと歩みを進める。名は衛宮士郎。戦争を発生させた張本人として死刑が執行される。集まった人々はありったけの罵声を浴びせ、時には物も飛ぶ。それでも男の脚は止まらない。確実な死を目の前にしても男は絶望した素振りすら見せない。
本当は男は戦争など起こしていない。寧ろ戦争に巻き込まれた人々を助けていた。各地を駆けずり回り、無償で人々の為に戦った。見返りを求めない男の働きは見る人によっては聖人だっただろう。だが大半の人々はその働きに恐怖心を感じた。そして男はあまりにも強すぎた。その強さがもしも自分達に向けられたら……
男は見返りを求めない。金では動かないが、何かの拍子に敵に回るかもしれない。行動原理も分からない狂った男の制御は出来ない。だったら自分達に危害が加えられる前に男を消すしかない。男に助けられた人々はそう考え、そして実行に移した。
(これで戦争は終わるだろうか。これでみんな幸せになれるだろうか)
絞首台に立った男はどこか他人事のようにそう考えていた。自身が助けた人々に罵声を浴びせられるのは辛い。だがこれで戦争が終結し、人々が幸せになるなら死んでも構わない。自分の生死よりも他人の感情を優先する。人々の思っていた通り、この男は狂っているのだろう。
男は正義の味方になりたかった。自分の見える範囲だけでいい。その範囲の人だけでも幸せにしたかった。しかし少し救うと視野が広がる。広がった範囲の人々を助けると次の人々が目に入る。そうして男は延々と人々の為に戦い続けた。その結果救った人々に裏切られ、処刑される。
足元の土台が取り除かれ、体が落下する。首に縄が掛かるまでコンマ数秒もないだろう。目を閉じ、死を待つ。しかしその僅かな時間に聞こえる筈のない声が男の耳へと届いた。
ーーこんな終わり、絶対に認めないんだからね。衛宮君
懐かしい女性の声。ああ、確かに彼女がこの場に居たのならそう言って男を蹴飛ばしてでも処刑を止めただろう。浮遊感を味わいながら、男は思わず笑ってしまった。
。
(ごめんな、遠坂。結局師匠であるお前の指示を聞かず、勝手に動いて最期はこれだ。せいぜい笑ってくれ…………? おかしいな。死ぬ間際には一瞬が永遠に感じるとはよく言うが、長過ぎやしないか?)
あまりにも長い浮遊感に違和感を覚える。不可思議な事に服も強風ではためいている。あんな僅かな距離の落下で服がはためく筈がない。閉じていた目を開けると空は暗く、眼下には森林が広がっていた。少し離れた場所には街も見える。
「……なんでさ」
長らく使っていなかった口癖が漏れてしまった。
プロローグなので短めに。
この士郎はどのルートという事ではなく、このまま突き進むとアーチャーや無銘になっていたような士郎という設定で進ませて頂きます。