剣と杖と先生   作:雨期

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やっと本編主人公の登場です


第9話『騒がしい初日』

 朝の通学時間で道が混む前に家を出る。普段のエヴァならまだ寝ている時間だけれど、今日は俺に付き合ってくれている。

 

「ふぁ~~~」

 

「眠いなら無理しなくて良かったんだぞ」

 

「んー、用務員室で寝る」

 

「おいおい……早起きした意味ないだろ。俺は学園長のところに行くけれど、ちゃんと教室に行くんだぞ。茶々丸、エヴァを見張っておいてくれ」

 

「畏まりました」

 

 エヴァは茶々丸に引き摺られていってしまった。見張りをお願いしただけでそこまでやってくれとは言っていないんだが……まああれで教室に着くからいいか。

 

「学園長、衛宮です」

 

「おお……普段通りじゃよね?」

 

「? どういう事か分からないですけれど、体調はいい方ですよ」

 

「うむうむ、良かったわい」

 

 あー、もしかしてこの前木乃香のお見合いの件で話したのが効いているのかな。慣れないけれどアーチャーの口調を真似したのは成功だったらしい。あいつ言葉に刺ばっかだったもんな。

 

「今日からよろしく頼むぞ。これは今のところ修理・改善をしてもらいたいもののリストじゃ」

 

「はい、確かに。質問なんですが、なんでこんな中途半端な日に働く事になったんです?」

 

 今日は水曜日だ。普通は働き始めるとしたら週始めの月曜日なんかが基本になると思う。

 

「実は来週からテスト週間が始まるんじゃよ。生徒にはテストに集中してもらいたいから、早めに働き始めてもらう訳じゃ。ここの生徒は皆元気じゃし、お主のように新しい職員が来ると騒がしくなるからのぉ」

 

「そういう事でしたか」

 

 確かに転校生や新しい職員なんてのは生徒達の注目を受けやすい。つまりは生徒達はそっちばかりに集中してしまうのだ。この時期だと期末テストか。三年生にとっては中学生最後のテスト。集中させてあげたい気持ちは分かる。

 

「この後、放送で自己紹介をしてもらいたいのじゃが、良いかな?」

 

「分かりました」

 

 こういうのって全校集会みたいので紹介するものかと思っていたけれど、よくよく考えれば別に生徒と直接関わりのある職員が増えるわけでもないからわざわざ集会するものではないのだろう。俺が学生だった頃も知らないうちに知らない清掃の人がいたりした記憶がある。自己紹介があるだけ優遇されている方か。

 

 

ーーーーーー

 

 

 軽快なチャイムが鳴り、放送が開始される。こういうのはどうにも苦手だ。でも仕事の一環として、ちゃんと自己紹介させてもらおう。放送係の生徒が新しい職員の紹介です、と言ってからマイクを手渡される。

 

「えー、皆さん初めまして、衛宮士郎と言います。えー、事前にプリントで配布されているようですが、本日付でこの麻帆良女子中等部の用務員となりました。えー、男なので取っつきにくいかもしれませんが、えー、物の修繕等があれば気軽に声を掛けて頂ければと思います。えー、これにて挨拶は終わりとさせて頂きます」

 

 ふぅ、これでいいかな。やっぱり難しいな。ん? 放送係の子がクスクスと笑っている。おかしなところでもあっただろうか。でもまあ、終わったから用務員室で仕事を始めよう。

 

 折角気合いを入れて仕事を始めようとしたのだが、用務員室ではエヴァが布団を敷いて寝ていやがりました。こいつ、授業をサボるにしてももう少し遠慮ってもんがあるだろ。頬っぺたつついてやる。

 

「んん……やぁ……」

 

 柔らかいな。そして起きそうにない。全く、早起きしてもまた寝るなら意味ないじゃないか。もう放置して仕事をしよう。えっと、まずは……

 

 

ーーーーーー

 

 

 昼休みのチャイムが鳴り響く。もうお昼か。我が家の吸血姫様はまだ寝ている。流石に起こしてやるか。

 

「おーいエヴァ、起きろ。昼だぞ」

 

「ん、むっ……ふぁ、士郎、邪魔するな」

 

「お昼だって。いい加減起きろよ」

 

「何? そんな時間か……やはり布団で寝るとよく眠れるな。士郎、飯を作れ」

 

 本当に我が儘だな。いつか痛い目に……いや今の登校地獄を掛けられている状態が既に痛い目か。仕方ない。軽く作ってやるか。っと、外が騒がしいな。昼休みだからかな? それとノック音が聞こえる。

 

「はい、何かご用です……か?」

 

 なんだが凄い数の生徒がいるんだが……俺の顔を見るなりキャーキャー言っている。これは、どうすればいいんだ? 動物園の動物ってこんな気分なのかな? いやいやそんなのはどうでもいい。まずは誰がノックしたかだ。何か修理の依頼かもしれない。

 

「初めまして衛宮士郎さん!! インタビューさせて下さい!!」

 

「えっと、君がノックしたのかな?」

 

「はい!」

 

「何か直すとかは」

 

「いえインタビューに来ました!」

 

 どうしよう。放送よりも更に苦手な要求が来てしまった。適当に流して終わりにするか? 俺にそれがやれるか? 誰か救いの手を!

 

「朝倉さん。士郎さんが困っています。どうか止めて下さい」

 

「えっ、絡繰、さん?」

 

 茶々丸ナイス! と言ってやりたいが、少し態度が冷たくないか? 普段俺と話す時にはもっと柔らかい雰囲気がするんだが……

 

「士郎さん、近衛木乃香さんが修理の依頼があるそうです」

 

「こんにちは士郎さん。おもっとったより早く仕事始めたんやね」

 

「ああ、テスト週間にみんなの気を散らせない配慮らしい。修理なら中に入ってくれ。流石にこの状態じゃ話しづらい」

 

「友達もおるけどええ?」

 

「構わないさ」

 

「えへへ、お邪魔しまーす。明日菜、ネギ君、入るよ」

 

 木乃香と一緒に用務員室に入ってきたのはツインテールの少女と赤毛の少年…………はっ? 少年? いやもしかすると男っぽい女の子かもしれない。

 

「士郎さん、失礼します」

 

 茶々丸が扉を閉める。どうやら外で野次馬と依頼の対応してくれているのが声で分かった。茶々丸に感謝し、今は木乃香を優先する。そういえばエヴァは……なんか布団を被って丸くなっていた。

 

「そっちの2人は初めましてだな。衛宮士郎だ」

 

「神楽坂明日菜です。木乃香、あんたの話よりカッコいいじゃない」

 

「ネギ・スプリングフィールドです。明日菜さん達の担任をしています」

 

「……担任? 先生?」

 

「はい!」

 

 この麻帆良で信じられないものや俺の世界の常識では有り得ないものはいくつか見てきた。だが今が一番驚いているかもしれない。こんな子供が先生だと?

 

「歳は?」

 

「数えで10歳です!」

 

 9歳じゃねぇか!! 頭が痛くなってきた。

 

「士郎さん、お願いしてもええ?」

 

「ん? ああ、そういえば何か直してほしいんだっけ?」

 

「これなんやけど」

 

 ローラースケートか。どれ……ローラーが1つ動かなくなっているな。

 

「今朝通学中に壊れてしまったんよ。直るかな?」

 

「大丈夫。部品がイカれているだけだ。交換すれば元通りだよ。お茶を淹れるからゆっくり待っていてくれ」

 

 手早く3人分の緑茶と茶菓子を用意してから修理に入る。ローラー部分を分解し、中で欠けていたベアリングを新しいものに取り替える。ちょうど良く合う大きさのものがあって良かった。

 

「何これ美味しい。用務員さん! このお菓子どこのですか?」

 

「士郎でいいよ。それは手作りだ。安くて量が作れるからな」

 

「手作り!? 男の人なのにすごいのね」

 

「親父が子供みたいな味覚の人でさ。健康的な食事をさせる為に料理をやっていたら自然と上手くなったんだ」

 

「お茶も美味しいわぁ」

 

「僕、緑茶ってあんまり得意じゃないんですけれど、これなら頂けます」

 

「水出し緑茶なんだ。だから苦味が少なくて飲みやすい。室内は暖かいから多少冷たいお茶もいいと思ってな。それにしてもネギ君、だったな。君はどうして先生になっているんだ?」

 

「えっ!? あっ、その、大学の卒業試験なんです! 僕飛び級で大学に入ったんですよ!」

 

 真実を混ぜて分かりにくくしようとしているが、動揺して考え込んだ時点で嘘だと分かる。後で学園長にでも聞いてみるか。

 

「はい、終わったぞ。問題があったらまた来てくれ」

 

「ありがとう士郎さん。ほなまた来るで」

 

「用もなく来るのは勘弁してくれよ。ここは遊び場じゃないんだ」

 

 未だに布団を被っているエヴァをチラ見しながら言う。起きている筈なのに人前に出るのが嫌なのか?

 

 その後も色々と修理の依頼がきたが、どれも比較的容易なものばかりだった。中には時間が掛かるものもあったので、それは預からせてもらった。しかし茶々丸がいなければもっと混雑していただろう。本当にありがたい。

 

「終わったか?」

 

 昼休みも終わり、人がいなくなって漸くエヴァが顔を出した。

 

「ああ、一応な。何か作るから待っていてくれ」

 

 さっと作れる野菜炒めにしよう。ご飯はもう炊けているし、野菜はカット野菜だから短時間で作れる。

 

「士郎」

 

「何だ?」

 

「あの坊やに何か感じたか?」

 

「…………これといって、ないかな」

 

 エヴァは実力的な話をしているのだろうが、強いという感じは全くなかった。力を隠せるような子とは思えないし、魔力はかなりありそうだから今後に期待という程度か。

 

「そうか……腹減ったな」

 

「だから待ってろって」

 

 どうやらエヴァはあの子が伸びると思っているらしい。それほどまでに素質がある子なのかな?

 

 ここから週末まで見物客やら何やらでだいぶごった返したが、週が明けるとテスト週間が始まった為にそういった人は少なくなった。俺も修繕に集中出来るような環境になっていた。お陰で帰りが遅くなる事も増えたけれどな。そんな遅くなったある日の夜、ネギ君が数人の生徒と夜道を歩いているのを目撃した。




次回、図書館島編!
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