その日はエヴァンジェリンさんは風邪で休んでいました。当然従者である茶々丸さんもいません。でも不死の吸血鬼が風邪になるなんて有り得ないし、お見舞いと証して一度エヴァンジェリンさんの家まで行ってみよう。
この前は従者だからって茶々丸さんを襲いそうになってしまった。士郎さんが話しかけていてくれて、その間に茶々丸さんが逃げ出してくれたから何にもなかったけれど、それがなければ僕は茶々丸さんを襲っていたと思う。本当の相手はエヴァンジェリンさんなのに、茶々丸さんには悪い事をしてしまった。一緒に謝らせてもらおう。そしてエヴァンジェリンさんには不意討ちじゃない。堂々とした戦いを挑もう。
エヴァンジェリンさんの家は森の中にある。敵地に1人で乗り込んでいるんだから何があってもおかしくはない。それは分かっているのに、なんだか怖くなってくる。
「……よし! エヴァンジェリンさん、お見舞いに来ましたよ!!」
「はーい」
あれ? 思っていた反応と違う。それに今の声は男の人の声? ここに住んでいるのはエヴァンジェリンさんと茶々丸さんだけじゃないの?
「お待たせ。悪いねネギ君。わざわざお見舞いなんて」
「えっ、えぇぇっ!!? 士郎さんがなんでいるんですか!!?」
ここは敵地。何があってもおかしくはない。でもこれは流石に予想外すぎます。
ーーーーーー
エヴァは朝から風邪だった。魔力が封じられているから免疫力とかも下がっているんだとか。吸血鬼って大変だな。そんなエヴァの世話を茶々丸としているとネギ君がやってきた。担任ってのはこういう時お見舞いとかしないといけないのか。大変だな。
そのネギ君は有り得ないものを見たかのような顔で俺を見ている。
「とりあえず上がるか?」
「ハイ、オジャマシマス」
とても固くなっている。大丈夫かこれ。
「エヴァは風邪で今は寝ているよ。お茶飲む?」
「本当に風邪なんですか?」
「はい、マスターは風邪にもなりますし花粉症にもなります。全ては呪いのせいです」
「あっ、茶々丸さん……この間はすみませんでした!!」
深々と頭を下げるネギ君に茶々丸も困惑していた。被害がなかったから茶々丸は気にしていないのだけれど、ネギ君としてはあれを企んだだけで十分謝罪に値する事みたいだ。そういう気持ちは大切だと思うぞ。
「……あの、士郎さんの前で呪いとか言っていいんですか?」
「はい。士郎さんもマスターの従者なので大丈夫です」
「へー、士郎さんも従者…………えぇえぇぇぇぇっっ!!!?!?」
「落ち着け」
「落ち着けませんよ!! 騙し、てたのは士郎さんはやらなそうですけれど、どうして教えてくれなかったんですか!?」
「あの場で教えると襲われそうだったし」
「うっ……すみません」
うん、素直な子だ。少し責任感を持ちすぎなところがあるみたいだがな。
「安心してくれ。今回は俺はどちらに協力する事もない。ただの中立だ」
「でも、エヴァンジェリンさんの従者なのにいいんですか?」
「従者が味方とは限らない。まあ普段は味方なんだけれど、今回はエヴァのやる事が良い事とは思えないから手伝わないんだよ」
ネギ君は俺の考えを聞いて不思議そうな表情を浮かべていた。彼にとって従者と味方はイコールだったんだろう。
「おい、煩いぞ……」
「マスター! 起きてきては」
「少しくらい、平気だ。さてネギ先生、わざわざ我が家までやってきたんだ。手土産の1つくらい」
「これ、お見舞いのフルーツ盛り合わせです!」
「あったな、手土産」
「とても良い手土産です。ネギ先生、頂戴致します」
「……本当に見舞いに来ただけか?」
「いえ! 果たし状もあります! 僕が勝ったらみんなを襲うのを止めて、授業にも参加してください!」
「ほう……茶々丸を襲った先生が真正面から勝負を挑むとは意外だったぞ。良かろう。時間はこちらで決める。いいな?」
「構いません」
「ふっ、それまでせいぜい従者でも用意しておく事だ……ああ、怠い」
「マスター、お部屋までお付き合いします」
決闘か。実力差は明確。まともにやり合えば敗北は免れないぞ。しかしこう頑張っている男の子を見ると応援したくなっちまうな。どっちかに肩入れするつもりはないんだが……
「ケケケ、ナギノガキラシクモネェ」
「だ、誰ですか!?」
「チャチャゼロ、それはどういう事だ?」
「昔御主人ガナギニ負ケタ日ノ話、シテヤロウカ?」
「お父さんの話ですか!? 是非!!」
警戒していたのに父親の話になったら目を輝かせたな。しかし残念ながら内容はネギ君の期待外れなものだった。ナギ・スプリングフィールドはエヴァを水の溜まった深い落とし穴に嵌め、ネギやニンニクを投げ込み、最後には適当な呪文でエヴァに呪いを掛ける。思っていた父親像と違ったネギ君は凹んでいるが、俺は感心していた。
「凄いな、ナギって人は」
「えっ? 今の話のどこが凄いんですか?」
「ネギ君、エヴァは600年生きた吸血鬼だ。数々の敵を屠ってきている。そんな経験値の塊なエヴァに、ナギさんは封印以外は魔法を使わずに勝ったんだ。誰にでも出来る方法で誰も倒せなかったエヴァを倒す。俺は凄いと思うな」
「居候モ面白レェ事言ウナ。デモマア事実カ。コレナラソノガキデモ御主人ニ勝テルカモナ」
「流石に同じ手は食わないだろ。でもねネギ君、お父さんの戦い方をカッコ悪いと思わず、参考にしてみるといい。勝つ為に策を弄するのは決してカッコ悪い事じゃない。それともネギ君はエヴァ相手に手段を選んで勝てるのかな?」
「……無理です」
「なら何でも活用するのがいい。頑張れよ男の子!」
「士郎さん……はい! 頑張ります!」
結局アドバイスしちまった。心のどこかで彼が負けて傷付くのを見たくなかったのかもしれない。やっちまったもんはしょうがないし、ここからどんな手段を選ぶかはネギ君次第だ。さて、ネギ君に一度肩入れしたしエヴァの言う事も何か1つくらい聞いてやるか。
この後寝ぼけたエヴァの抱き枕にされるとは思いもしなかった。
次回の更新、1日空くかもしれません。プライベートでカードゲーム大会に出てきます!