衛宮士郎は困惑していた。処刑される筈の自分が何故かパラシュート無しのスカイダイビングを体験しているのだ。このまま落下すればどうやっても即死は免れないだろう。しかし彼は普通の人間ではなく魔術使いだ。
「
冷静に肉体と衣服に魔力を流し込み強化する。これまで幾度となく死に瀕する場面には遭遇してきた。それに比べれば高々上空からの落下程度どうという事はない。それに眼下には森林。これらは都合のいいクッションになってくれる。
「くっ……!」
バキバキッと音を立てて木々を貫いて地面へと叩き付けられる。ただ突き抜けるだけでなく太い枝を掴み、無理矢理減速したので、落下によるダメージはそれほどない。
森林の外には街があるのは確認済みだ。目的地もない為、まずはそこで体を休め、また移動しながらでも現状を整理する事とした。だがそれは何者かの気配によって中断される。
ーーーーーー
それを見たのは偶然だった。僕は普段通り深夜の見回りに参加していたのだ。特に侵入者の気配もなく、ふと見上げた夜空と満月が綺麗だったので見とれていると、満月に小さな影が現れて落下していった。あれは間違いなく人だ。転移魔法による侵入者かもしれない。だとすると何故落下している? 転移が可能な魔法使いなら空を飛ぶ事くらいは容易い筈。
「! 事故か!?」
空を飛べない侵入者ならば地上に現れるだろう。空を飛べる侵入者ならばそのまま空を飛ぶだろう。では落下するしかないのに空に現れたあの人影は転移の失敗か、もしくは何者かによって強制的に飛ばされた人と考えるのが妥当だ。
誰かが怪我をするのは見過ごせない。仮にあれが侵入者だとしてもそのまま捕らえればいい。だがもしも、もしもあれが一般人だとしたら、考えるまでもない。即死だ。僕は自身の持てる全速力を出して駆け出した。遠くから聞こえる木々が折れる音。間に合わなかったか? いや木々がクッションになって辛うじて生きているかもしれない。ここで諦めるなんて事は出来ない。
そうして到着した落下点には男が1人。服は枝で引っ掻けたのかボロボロだが、目立つ怪我はない。気でも使って肉体を強化したのか。何にせよ無事で良かった。そしてあの高さから落下して無事だったのを見るに、彼は一般人ではないのだろう。
男の姿をよく観察する。身長は180~190と長身。筋肉はしっかり付いていてよく鍛えているのが窺える。髪は白、というより銀かな? 肌は浅黒い。だが顔立ちは何処と無く東洋人のように見える。ハーフだろうか? 服は上下白と酷く簡素で囚人のようだ。そして荷物らしい荷物もない。武器もなく、杖の代わりとなるような指輪もない。侵入者だとしてもあまりに奇妙だ。そもそも言葉は通じるのだろうか。
「えっと、こんばんは。怪我はないかな?」
「……まさか第一声で怪我の心配をされるとは思わなかったな。ああ、擦過傷や打撲はあるが、重傷と呼べるものはないな」
「それは良かった。あんな高さから落下したから怪我をしていたらどうしようかと思ったよ。なら遠慮なく質問しよう。君の名前は? この学園に何故侵入した?」
「学園? ここは私有地だったのか……」
どうやらここが何処かは知らずに来てしまったらしい。一般人ではないようだけれど、事故か何かで偶発的に転移してきたようだ。彼の言葉を素直に信じれば、だけれどね。感じる彼の気配は尋常ではない。下手すると僕では勝てないかも……
「まずは謝罪を。俺の意思ではないとはいえ、勝手に侵入してしまってすまなかった。質問の答えだが……エミヤ、という名前を聞いた事は?」
「それが君の名前かい? 僕は知らないが、有名人かな?」
「あまり、よくない方面でな。テロリストや戦争の首謀者などと呼ばれていたよ」
テロリスト? 戦争の首謀者!? そんな人物なら間違いなく僕も知っている筈。いや、もしかすると極々狭い地域での話かもしれない。
「ここに侵入した理由は先程言った通り俺の意思ではない。有り体に言えば事故かな」
「事故、か……なら続けて質問しよう。君は魔法使いの関係者か?」
「いや、流石に……待てよ。あの時聞こえた声が幻聴ではなくあいつのものとすると、まさか第二に到ったのか?」
「おーい、考え込んで大丈夫かい?」
「あっ、すまない。魔法使いに知り合いはいない。魔術師ならいくらでもいるのだが」
「魔術師って西洋魔術師? 魔法使いの事だろう?」
「いやいや魔術師と魔法使いは別物だろう」
「何か? 君は物事の細分化が好きな人間かな?」
「全くの別物じゃないか」
何だろう。会話が噛み合わない。彼がこっちをおちょくっているとかそういうのではないのだけれど、何かが致命的にズレている。
でも彼は何か考え込み、何かを思い出すかのように独り言を呟いている。何か思い当たる事があるのかもしれない。それについても追及したいが、次をこの場での最後の質問としよう。
「最後に、君は敵かな?」
「違う、と思う……話した限り貴方は相当なお人好しだ。そんな人と敵対したくはない」
「そうか。うん、分かった。信用しよう」
「いいのか? 自分で言うのもなんだが、不審者だぞ」
「確かにね。でも争うつもりはないんだろ?」
「やっぱりお人好しだな」
「自覚しているつもりだよ。っと、名乗り忘れていたね。タカミチ・T・高畑だよ」
「俺もフルネームは名乗っていなかったな。衛宮士郎だ」
これが僕と正義の味方との初めての出会いだった。
当時は色んな士郎がいましたね。チートな強さの士郎、未熟な士郎、そもそも表であんまり活躍しない士郎。ちなみにこの士郎はチートよりです。自分が滅茶苦茶強いキャラが好きなんです。