時は来た。苦節15年。私はこの時を待ち続けた。全ては貴様の責任だぞナギ。貴様が本来の約束通り呪いを解いていれば、貴様の息子が傷付く事はなかったのだ。
今晩は麻帆良で大規模な計画停電が行われる。私の魔力の封印は学園の結界によるもの。その結界に停電に合わせてハッキング? とやらをし、一時的ながら本来の魔力を取り戻せる。その力を使い坊やを打ち倒し、血を吸って呪いを解かせてもらおう。
「茶々丸、停電まで何分だ?」
「残り5分を切りました」
坊やには停電が始まる時間、この大橋に来るように伝えてある。士郎が何処からやってくるか監視しているので、転移魔法でも使わない限りは見つけられるだろう。
「ん、ネギ君が飛んできているな」
「なんだ、坊やだけなのか?」
「ああ。明日菜が従者になったと思ったけれど、どうやら巻き込む気にはなれなかったみたいだな」
「ふん、甘いな」
「俺は一般人を巻き込まないのは正しいと思うぞ。でもエヴァ相手には間違った選択かな」
士郎の言い分も分かるが、既に神楽坂明日菜はこちらにかなり足を踏み込んでいる。坊やの責任もあるが、あいつにはそこから離れるだけの猶予もあった。あいつが自身でこちら側を選んだ以上、もう一般人とは呼べまい。
「エヴァンジェリンさん! 勝負に来ました!」
「本当に1人か。嘗められたものだな。それともお姉ちゃんがいなくても1人で大丈夫という思い上がりか?」
「どちらでもありません! 僕は1人の力で勝ちます!」
それが思い上がりだと分からんのか? 魔道具はいくらか用意しているようだが、はっきり言って無駄だ。
「士郎は下がっていろ。茶々丸、そろそろ時間だな?」
「残り10秒、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0」
辺りの電気が消えていく。それと同時に私の魔力も戻ってきた。満月ではないし、呪いを完全に解いた訳ではないので完全に全盛期とは言えないが、この力は坊やからすれば圧倒的なものだろう。事実、坊やも目を丸くしている。
「士郎、茶々丸、観戦でもしていろ。さあ先生、少しは楽しませてくれよ?」
ーーーーーー
「魔法の射手! 連弾・光の27矢!!」
「ふふっ、魔法の射手、連弾・闇の27矢」
遂にエヴァとネギ君の戦いが始まった。まずは様子見の遠距離での撃ち合い。一見すると花火のようにも見えて美しい。ネギ君が必死になって放つ矢をエヴァは後から詠唱しながらも、ネギ君以上の速度で詠唱を済ませ、更に同数の矢を同威力でぶつけている。完全に遊んでいるな。
「風精召喚! 剣を執る戦友! 捕まえて!!」
「ほう、その歳で中位の精霊を従えるか」
魔法で作った自分の複製か。だがそれもエヴァの爪で引き裂かれる。おっ、ネギ君が持っているのは銃か?
「てぇぇえい!」
撃ち出されたのは魔力の塊。魔法の銃という事か。複数の複製を相手していたエヴァだが、それを難なく避けると一気にネギ君へと近付いた。
「このような玩具など無駄だ」
エヴァの爪で銃は弾き飛ばされ、ネギ君も大きく後退した。そこに追撃するような顎狙いの力任せの掌底。ネギ君は障壁で防いだものの、吹き飛ばされ、着地後よろめいていた。しかし俺から見れば不自然なよろめき方だ。思わずネギ君の周囲を解析し、納得した。
「早い幕切れだが、これで終わりとしよう」
まだふらつくネギ君へ近付いたエヴァの足元で、カチッと音が鳴ると結界がエヴァの動きを封じた。捕縛結界。解析通りのものだ。
「や、やった! 僕の勝ちです!」
確かにこうなれば普通は勝負あり。しかし浮かれているネギ君はエヴァがニヤリと笑った事にも、茶々丸が俺の隣から消えている事にも気が付かない。
「苦節15年。こんなものに何の対抗策も考えていないと思ったのか?」
「結界解除プログラム起動します」
「へっ?」
砕け散る結界を見て放心するネギ君。その隙はあまりにも大きすぎるぞ。案の定、茶々丸が近付き、ネギ君の杖を奪ってしまった。
「奴の杖か。捨てておけ」
「はい」
「ああ! 僕の何よりも大切な杖! うわあぁーーん!! ひどいですよー!! ズルいです!! 本当なら僕が勝っていたのにー!! もう一度1対1で「黙れ!!!」っ!?」
泣きじゃくるネギ君の頬を叩くエヴァ。そして倒れたネギ君の胸ぐらを掴んだ。
「男が自分から挑んだ勝負で納得がいかないから泣きわめくなど、情けないとは思わんのか!? 貴様の父親ならこの程度の苦境、笑って乗り越えたぞ!! 所詮はガキだったという事か……つまらん遊びだったな。血を頂いて終わりとしよう」
「待ちなさーい!!!」
「やはり来たな、神楽坂明日菜」
「マスター、ここは私が」
「させねぇぜ! オコジョフラーッシュ!!」
おお、あのオコジョ光るのか。目眩ましは茶々丸にも通じたらしく、その隙に明日菜がエヴァを蹴り飛ばした。また鼻血が出ているな。
「真祖の魔法障壁を貫くだと!? 神楽坂明日菜、貴様は一体……」
「どうやらここからが本番みたいだぞエヴァ」
「分かっている。そうこなくては面白くない。おい、契約更新なりなんなりあるならさっさとしろ。時間がないんだ」
「明日菜さん、その……」
「いいのよ。勉強以外で大変な時くらい頼りなさい」
キスをして契約をした2人。これで明日菜も普通の世界に戻るのは難しくなってしまったな……
「改めて来るがいい、ネギ・スプリングフィールド!!」
「契約執行90秒間! ネギの従者『神楽坂明日菜』!!」
魔力供給された明日菜の動きは凄まじい。茶々丸を完全に食い止めている。茶々丸の強さはたまにやる手合わせで知っているが、格闘技も何もやっていない一般人で止められるものではない。
そしてその隙にネギ君とエヴァは呪文を唱える。ネギ君はとても小さな杖を握っている。
「なんだその子供用の杖は! 私を笑い殺すつもりか? 魔法の射手、氷の17矢!」
「くっ、魔法の射手! 連弾・雷の17矢!」
明らかに威力が落ちている。杖の差が如実に出てしまっているな。
「雷も扱えるか。だが詠唱が遅いぞ!!」
その後も魔法の射手の撃ち合いは続く。先程まではネギ君にエヴァが合わせていたが、今はエヴァの詠唱に何とかネギ君が追い付いている形だ。
「フハハ! よく追い付いている!」
「ラス・テル マ・スキル マギステル 来れ雷精 風の精!!」
「リク・ラク ラ・ラック ライラック 来れ氷精 闇の精!!」
魔法の射手とは違う呪文。魔力もかなり高まっている。
「雷を纏いて! 吹きすさべ! 南洋の嵐!!」
「闇を従え、吹雪け、常世の氷雪」
詠唱が完了した。発動する!
「雷の暴風!!!」
「闇の吹雪!!!」
ぶつかり合う魔力の暴風。茶々丸と明日菜も動きを止めてそれを見守る。優勢なのはエヴァ。ネギ君は杖に力を籠めているが、その杖には罅が広がっている。
「僕は、もう! 逃げたくない!! へ、へ、へーっくしょんっ!!」
はっ? くしゃみと同時に魔法の威力が一気に上がってエヴァの魔法を押しきった? エヴァは無傷だが、服は無くなり、裸になっている。
「やりおったな……流石は奴の息子……」
ーーパリンッ
何かが砕け散った。同時に広がる刺激臭。これは料理をする身なら知っている。ネギとニンニクの臭いだ。しかもとてつもなく強烈に濃縮されている。離れていた俺も鼻を思わず摘まんだし、明日菜やオコジョも顔を覆うようにしてその場から離れている。ガイノイドである茶々丸すら顔をしかめており、そしてエヴァは……
「…………カハッ」
白目を剥いて倒れた。すぐにネギ君が予備の杖を構える。直後にエヴァは跳び跳ねるように起きた。
「くっさーーーっ!!!?!? ぼ、坊や何をしたーー!? うっ、息をするのも、辛い」
「濃縮したネギとニンニクを瓶に詰めておきました。最終兵器です」
「な、なんと極悪なものを……だがまだ、負けては」
「いやエヴァ。負けだよ。お前が意識を失った瞬間、ネギ君は攻撃が出来た。僅かだが生殺与奪権は彼にあった。決闘でそれを握られる意味。エヴァなら分かるだろ?」
そっと俺の上着を被せながらエヴァに告げる。
「……風よ」
へぇ、エヴァは風も操れたのか。その風が刺激臭を吹き飛ばしていった。
「坊や、今回は私の負けだ」
「ほ、本当ですか!? やったー!! じゃあ皆さんを襲わず、授業にも参加して下さいね!!」
「ふん、認めたくはないが約束だからな」
「えへへ、名簿にも僕の勝ちって書いておこー」
「おい! 誰がそこまでしていいと言った!!」
「へへー。エヴァンジェリンさんは呪いを解くためにこんな事したんですよね。やったのは僕のお父さんですし、責任を持って僕が呪いを解きますよ!! いつになるかは分からないですけど……」
「その必要はない。士郎、約束だ」
「ああ、
ルールブレイカーを投影する。解くのは登校地獄のみ。他の契約や術式には干渉をしない。
「
たった一点。それのみを断ち切る。対魔術宝具であるこれはあらゆる魔術を初期化するが、真名を解放すれば決して不可能ではない!!
「
エヴァの胸に突き立てられたルールブレイカーは確かに何かを断ち切った。周囲に悲鳴のような音が木霊する。そしてエヴァから立ち上る魔力は先程までよりも更に強大なものだ。
「登校地獄の精霊が泣いているな……」
「エヴァ、成功か?」
「ああ、茶々丸との契約も貴様との契約も残ったまま登校地獄はなくなった。見事だ士郎。いや、流石は宝具といったところか」
むっ、俺だって精神集中させて頑張ったんだけどな。まあ宝具がないとこんなのは出来ないから否定はしないけれど。
「エヴァンジェリン、さん?」
「坊や、見ての通り呪いは解けた。もう貴様の血を狙う必要もない。それと士郎」
「なんだ?」
「折角呪いが解けたのだ。記念に1つ、共に踊ってはくれんか?」
次回はエヴァ対士郎です