「迎えに来たよ士郎君」
「遅い時間に迎えに来てもらって悪いなタカミチ」
「お願いしていてるのはこっちだからね。それに今日は僕も士郎の相手を出来るから楽しみなんだ」
「さっさと行け。くれぐれも私に迷惑が掛からないように気を付けろよ」
時間は深夜0時。今から学園の魔法使い達と士郎の顔合わせが始まる。エヴァンジェリンは動くつもりがないらしく、一応は玄関まで見送りに来ていた。
タカミチの案内でやってきたのは世界樹前広場。人払いがなされているらしく、魔法関係者のみが集まっていた。
「皆の衆、既に見知っておる者もおるかもしれんが、彼が衛宮士郎君じゃ。用務員をする傍ら、エヴァンジェリンの監視役としても働いてくれておる。衛宮君、挨拶を」
「衛宮士郎です。まずは本日まで身分を隠していた事をお許し下さい。学園においては若輩者ですので、ご指導ご鞭撻、よろしくお願い致します」
士郎が頭を下げると拍手が起こる。どうやら概ね好意的に受け入れてもらっているようだ。
「ハハハ、まさか衛宮さんが魔法関係者だったなんて気が付かなかったなぁ」
「あー、すみません。名前が思い出せないので、教えてもらえませんか?」
「思い出せないも何も、一度修理をお願いした時に名乗ってなかったからね。瀬流彦だよ。よろしく」
「こんばんは、衛宮さん。葛葉刀子と申します。刹那の稽古相手をして下さっていたと伺っています」
「刹那の師匠ですか?」
「そんな大層なものではありません。少し剣を教えていただけです」
士郎自身が知らなくとも意外と繋がりはあったようで、ワイワイと盛り上がっていた。そんな中黒人の教師、ガンドルフィーニが学園長へと質問を投げ掛けた。
「衛宮君の人柄が良いのは分かりました。しかし闇の福音を監視する程の実力はあるのでしょうか? いくら封印状態とはいえあれは酷く手強いですよ」
「その質問を待っておった。タカミチ君、衛宮君、準備を」
「お手柔らかにね、士郎君」
「こちらこそ」
にこやかに笑っている2人だが、タカミチは両手をポケットに収め、士郎は弓矢を投影している。士郎の実力を知りたかった者は大勢いるが、まさかいきなりタカミチが相手とは誰も考えはしなかった。
「このコインが落ちたら開始だ。いくよ」
コインが宙を舞い、地面へと触れた瞬間に2人は動き出す。士郎は跳び上がり、上空から大量の矢を放つ。戦闘機による機銃掃射のようなそれをタカミチはポケットの中で加速させた拳で打ち落としていく。
「くっ!」
しかし全ては無理だ。矢ががむしゃらに放たれているのであれば自分に当たるものだけを落とせばいい。だが士郎の矢は全てが必中。それも威力も異常なほどに高い。打ち落とせないものは避けるしかない。
着陸した士郎は上空に数発の矢を放ったのち、今度は真正面から矢を放つ。タカミチは空から降ってくる矢と真正面からの矢。その両方を何とか捌ききる。
「フゥー、参った参った。正直ここまでとは思わなかったよ。この距離だから対処出来たけれど、何キロも離れた場所から今の攻撃を受けたらとてもではないけれど死んでしまうね」
「俺も驚いたよ。居合い拳や抜拳術とか呼ばれる技術だっけか。実際に見たのは初めてだったが、随分と連打が出来るんだな。しかも見えない拳圧まで飛ばせるなんて、こっちが先手を取らなかったらやられていたかもしれないな」
僅かな攻防だが、それだけでも双方の実力が分かる。タカミチはやりすぎだと考えていた関係者も、士郎の攻撃を捌けるのはタカミチか学園長くらいしかいないだろうと考えを改めた。
「なら今度はこっちの番だ。シッ!!!」
「! ハァッ!!」
即座に干将莫耶に持ち変えた士郎は見えない拳を切り落とす。攻防が入れ替わり、タカミチの苛烈な攻めが士郎を襲う。何度も居合い拳を放ちながらもタカミチは徐々に間合いを詰めていく。無論、距離が狭まればそれだけ攻撃が当たるまでの感覚も短くなる。士郎はそれをポケットから抜かれる拳を見て、そこから攻撃を予測しながら防ぎきる。
「おいおい、かなり速くやったのに無傷かい」
「威力を低くしただろ? それにもっと速い攻撃を知っていてな。連打の類いはあれを常に想定して鍛練してきた」
「ランサー、だったっけ」
「ご名答」
「そこまでじゃ。衛宮君の攻撃力と防御力、どちらも見せる事が出来たじゃろう。皆の衆、これでも不満はあるかな?」
自分達では太刀打ち出来ないタカミチと対等に打ち合う士郎の実力に文句を言う者は誰一人としていなかった。
「すまないな衛宮君。君は闇の福音の監視役として相応しい実力のある人物だったよ」
「素晴らしい弓術に剣術でした。刹那が敵わないとは言っていた理由も分かります」
「衛宮さんは凄いな! この上物の修理や料理もやれるんだろう? 万能超人だね!」
「料理! ピザマンなんかも作れるかね!?」
「弐集院先生は黙っていて下さい」
どうやら皆を認めさせるにはあれだけでも十分だったらしい。無論士郎の普段の働きぶりも評価されての事だろう。
「衛宮さん、初めまして。高音・D・グッドマンと申します。先程の魔法は転移魔法でしょうか?」
「そんなところだ」
「こんばんは、衛宮さん」
「愛衣じゃないか。君も魔法関係者だったんだな」
「あら愛衣、衛宮さんとはお知り合い?」
「中等部なら大概の人がお世話になっていると思いますよお姉様」
「まあ。衛宮さん、愛衣は私の従者でもありますの。これからもよろしくお願い致しますわ」
「ああ、学園内では基本的に用務員として接する事となると思うが、よろしく」
「さて衛宮君の紹介もこれで終わりじゃ。エヴァンジェリンの監視役という都合上、普段の警備に衛宮君は参加出来ぬが、何かあれば昼間に用務員として働いておる彼に話し掛けると良いじゃろう。ではこれにて解散とする」
ーーーーーー
帰宅した士郎を待っていたのはワインを傾けるエヴァンジェリンとチャチャゼロ、そしてどこか不機嫌そうな茶々丸だった。
「おぉ士郎、若い女とイチャついてきたようだな」
「居候モ隅ニ置ケネェナ」
「高音や愛衣と話していた事か? あれはそんなんじゃ、いてっ!? ちゃ、茶々丸? なんでつねるんだ?」
「…………知りません。お風呂は沸いています。早く入ってお休み下さい」
「お、おい、待ってくれ」
茶々丸は士郎と目を合わせようともせず、そのまま立ち去っていった。士郎は何かしてしまったのだと思い、そんな茶々丸を追い掛けていった。
「見たかチャチャゼロ、今の反応。明日は赤飯だな」
「ケケケ、人形ガ人間臭クナリヤガッテ。妹ノ成長ッテノハ嬉シイモンダナ御主人」
茶々丸大好き。甘やかしたいし甘やかされたい。