新幹線。日本が誇る高速鉄道であり、その安全性の高さは世界随一だ。快適な長距離移動を約束してくれるそれは、見方によっては逃げ場のない高速移動する鋼鉄の箱。もし襲撃に遭おうものならどんな被害が出るか分かったものではない。だからこそ警戒は怠れない。
「士郎、お茶」
「なぁエヴァ、クラスのみんなと一緒の車両に居てくれよ」
「あんな騒がしい中で過ごしたくはない。折角の旅の風情が台無しになるだろう」
警戒は怠れないのだけれど、うちの姫様がこれだからろくに見回りに行く事も出来ない。この場で神経を研ぎ澄ましていても、新幹線全体の様子が分かるわけでもない。
「駅弁はいいな。旅をしている気分に浸れる。そうは思わんか士郎」
「それは同意する。料理にはシチュエーションも大切だ」
「そういうものなのでしょうか? 姉さんはどう思います?」
「普通ニ酒ヲ飲ムヨリモ、桜ヤ月ヲ見ナガラ飲ムトヨリ旨クナル。ソウイウモンダゼ。ヨーハ気分ダ」
「難しいです」
「ケケケ、イズレ分カル」
茶々丸にも感情がある以上、気分的なものを理解できるのも遠くはないな。
そんな会話をしていると何かが通路を通り過ぎていった。今のは燕? 微かに魔力も感じられた。呪術協会の妨害とみていいだろう。
「行ってくる」
「あの程度坊やでも何とか出来る。無視しておけ」
「そうはいかないさ。呪術協会の手口も少しは知っておきたい」
何をしてくるのか分からないと戦略の立てようもない。百聞は一見に如かずとよく言ったものだ。
燕を追い掛けていくと、3ーAの車両でカエルが大量発生していたが無視。害のない妨害なら気にしていられない。更に進むと刹那とネギ君が一緒にいた。傍には切られた紙が落ちている。式紙? いや式神だっけ? まあそんな感じの紙製の使い魔の類いだったようだ。
「ネギ君、親書は無事か?」
「は、はい。刹那さんが燕を切ってくれたので、取られた親書も取り戻せました」
「気を付けた方がいいですよ。京都に着いたらより強力な妨害がある筈です。この程度で苦戦していたら後が持ちません。では失礼します、先生、士郎さん」
敵の本拠地だしな。それに新幹線内は一般客もいる以上、派手な動きは控えたと考えられる……カエルは派手だったな。新幹線内でカエルが湧く筈ないし。何にせよ刹那の言うように気を引き閉めるべきだ。しかし刹那、かなり苛立っていたように見えたな。
その後無事に京都に到着して観光が始まった訳だが、落とし穴はあるわ、滝から酒が流れてくるわと何とも言えない妨害が続いた。子供の悪戯じゃあるまいし、これなら無闇に神経を研ぎ澄ます必要はないのかもしれない。
そんな僅かな気の緩み。それがその夜、致命的な油断となってしまった。
今後土曜日は投稿休みの日にしようかな。週休1日。