剣と杖と先生   作:雨期

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お、歴代最長の文字数になったかな? それでも5000文字越えていないのでスナック感覚で読んでね!!


第25話『殺意』

 関西呪術協会の奇妙な妨害を受けた3ーA一行は無事宿泊先のホテル嵐山に到着した。一応護衛をしようと気を張っていた士郎も子供騙しのような妨害に完全にやる気を削がれてしまった。

 士郎は他の生徒や教師が来る前に温泉に入り、体を伸ばす。こうしてゆっくりと温泉に入るというのはいつぶりか。だが何かの気配を感じ緩んだ気を引き締める。

 

「士郎の旦那! 久し振りっす!」

 

「なんだ、カモミールか。お前ならただのオコジョの振りをして女湯に行くと思っていたんだが、良心でも働いたか?」

 

「いやいや、士郎の旦那に聞いてみたい事があったんすよ。桜咲刹那の事っす」

 

「刹那が何かあったか?」

 

「あいつ関西呪術協会のスパイじゃないっすか? 兄貴にも敵意たっぷりみたいっすし」

 

「刹那が? くくっ、ははははは! あいつに隠し事は向いてないよ」

 

 カモミールの言葉に士郎は思わず笑ってしまう。これまで刹那と何度も手合わせをしているが、彼女は非常に真っ直ぐな少女だ。それにもし関西呪術協会のスパイだとするならば、新幹線で燕を斬った時に一緒に親書も斬ってしまえば良かっただけの事。それを聞かされたカモミールだが、何か納得出来ていないようだった。

 確かに士郎にも腑に落ちない所がある。刹那がネギを見た時の目は酷く苛立っていた。あれを敵意と感じても仕方ないだろう。

 

「直接話を聞いてみるか。カモミール、一緒に来いよ」

 

「うっす!」

 

 

ーーーーーー

 

 

 士郎さんに話があると呼び出されてしまった。もうすぐお嬢様がお風呂に入る時間だ。なるべく手短に済ませてもらおう。

 ロビーに着くと人の気配がない。近付くと近寄ってはいけないという感覚に襲われる。しかし酷く微弱なもの。ちゃんと目的地に向かおうと意識していれば無視出来るものだ。しかし逆に言えば無意識だと遠ざかってしまう。関係者以外を近付けたくない時には良い結界だ。

 

「突然呼び出してすまない刹那」

 

「いえ。何があったのでしょうか?」

 

「こっちは何もないんだが、刹那ってネギ君が嫌いか? どうにもネギ君に対して苛立っていたように見えてな」

 

「えっ……」

 

 恐らく新幹線での事だ。あまり先生を威圧しない為にも、心のうちに秘めておいたつもりだったのに……

 

「はい、その……そういう気持ちはありました」

 

「理由を聞いてもいいかな?」

 

「先生は親書を持っているというのにあまりに無用心です。それにお嬢様の件もあります。あれでは守れる力があっても何も守れません。もっと気を引き締めてもらいたいのです」

 

「だそうだぞカモミール」

 

「そう言われちまうと、何も言えねぇや……」

 

「貴方は先生の使い魔の……」

 

「でも今回はまだ許してやってほしい。ネギ君にとってもこの修学旅行は楽しいものなんだ。警戒なら俺がしっかりと、っ!!!」

 

「あっ、士郎さん!?」

 

 突然駆け出していった士郎さん。直後に温泉の方からお嬢様達の悲鳴が響いた。しまった! まさかもう温泉に入っていらっしゃるなんて! 私も瞬動で士郎さんを追い掛けるも全く追い付けない。魔力で強化しているだけなのになんて速度!

 私が追い付いた時には既に事は終わっていた。女湯の外で士郎さんは息を整えながら立っていた。

 

「こ、ここ女湯だったな……男の俺が飛び込むべきじゃなかった。明日菜! 木乃香! すまなかった!!」

 

「助けてくれたんだから気にしてませんよー! でも裸見たなら忘れてくださーい!」

 

「うちも大丈夫やでー」

 

「あの、士郎さん……ありがとうございます。こんな事にならないように私がいるのに……」

 

「いいんだ。しかし直接手を出してくるとは……気を緩め過ぎたな」

 

「何があったのでしょうか?」

 

「猿の式神っていうのかな。あれが複数体いたんだ。力は大した事なかったから、風呂桶を投げ付けて倒しておいたよ」

 

 いくら力の弱い式神でも風呂桶程度で倒せるとは思えないのですが、どんな力で投げたのでしょうか?

 

「皆さん! 何があったんですか!?」

 

「先生、遅すぎます」

 

「こりゃ呆れられてもしょうがないぜ兄貴」

 

「え、えぇっ!?」

 

 

ーーーーーー

 

 

 部屋で寝転がり仮眠を取る。起きた時には40分経過していた。これなら今晩活動を続けるのに支障はないな。

 

「早イオ目覚メダナ」

 

「これくらいでいいさ」

 

 僅かな睡眠時間でも質を高くすれば問題ない。今日は新幹線や観光先、そしてホテルと何度も襲撃を受けている。大半が悪戯のようなものとはいえ、こうも何度も受けていては警戒せざるをえない。

 

「居候、暇ナラ酒ヲ注ゲ」

 

「暇じゃない。これから見回りだよ。付いてくるか?」

 

「オウ!」

 

 ピョンッと頭に乗ってくるチャチャゼロ。こんな小さな姿でも現在ホテル嵐山における戦力としてはエヴァ、俺に続くナンバー3と言ってもいい。一緒に行動して損はない。ちなみにエヴァは何もするつもりがないらしく、超やハカセと遊んでいる頃だろう。

 チャチャゼロと共にホテル周辺の見回りをしていると、何かがホテルから飛び出してきた。チッ、既に従業員として紛れ込んでいたか。先に従業員のチェックをするべきだった。なんて迂闊な。

 着ている猿の着ぐるみは鎧のようなもの。腕には気絶した木乃香を抱えている事から身体能力の強化も予測される。だが弱い。

 

「同調(トレース)、開始(オン)」

 

 肉体を強化し、飛行している着ぐるみを追走する。下手な攻撃は木乃香を傷付けかねない。直接捕縛する。

 

「投影(トレース)、開始(オン)」

 

「鎖カ。イイ趣味ダナ」

 

「ただの鎖だが、こういう時に便利でな!!」

 

 鎖を投げつけ、着ぐるみの脚に絡ませると一気に手繰り寄せる。ふむ、女だったか。

 

「な、何すんねん!!」

 

「木乃香を返してもらうぞ」

 

「お嬢様を? はんっ、折角誘拐した人質をはいどうぞ、って渡す間抜けがおるかい! お札さんお札さん、ウチを逃がしておくれやす!」

 

「遅いな」

 

 札から溢れる大量の水を確認すると同時に空中へと退避し、黒鍵を札目掛けて投げ付ける。引き裂かれた札は効力を失ったのか、水は出なくなった。

 

「んなっ!? まさか連続で使わされるようになるなんてな。お札さんお札さん、ウチを逃がしておくれやす!! 喰らいなはれ!! 三枚符術京都大文字焼き!!!」

 

 この炎は流石に飛び越えられないな。

 

「ドースンダ?」

 

「こうする」

 

 干将莫耶を炎の中へと投げ込む。当然それだけで炎は消せはしない。だから軽く一帯を吹っ飛ばす。

 

「壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)」

 

 干将莫耶に籠められた神秘を暴走させ爆発させる。ランクが低くとも干将莫耶は宝具。爆発させればその威力はかなりのもので、一部地表ごと炎を消し飛ばした。

 

「ウチの大文字焼きがあないな剣程度で……」

 

「あれが最強の技とするなら諦めろ。大人しく木乃香を返せば怪我はさせない」

 

「そ、そないな事出来んわ!!」

 

「なら、むっ!?」

 

 背後から殺気を感じ対応する。首狙いの一撃を干将で弾く。

 

「どうも~神鳴流です~」

 

「神鳴流、刹那と同じか。二刀流もあったんだな」

 

「うふふ~、今時野太刀なんて化け物相手のもんより、こっちのが使えるんですわ~。うちは月詠、どうかよろしゅう。貴方は~?」

 

「生憎と敵に名乗るつもりはないし、お前の相手をするつもりもない」

 

 名が呪いや暗示の発動キーになるという事も多々あった。敵に名乗りを挙げるのはそういったものに対して対抗する自信のある者だけでいい。

 

「そないないけずな事言いはるなら~、力づくで聞かせてもらいます~。らーいめーけー「フッ!!」あごっ!?」

 

「ヒャッハー、クリーンヒット! イイパンチダゼ」

 

「剣には剣、魔法には魔法で対応する必要もない」

 

 一気に間合いを詰めてストレートを顎へと叩き込んだ。意識を刈り取るならこれ以上ない一撃だ。どこぞの執行者(ボクサー)にこれでもかと喰らったから、完璧にトレースしてやろう。だがこんな不意打ちはもう通じないだろうな。この少女はそれだけの実力者だ。こっちが何でもありと知ればそれ相応の対応はしてくる筈だ。

 

「月詠はんが一撃!? 鎖も剣も拳も使えるなんて、ホンマ何者なんや!? 西洋魔術師ちゃうんか!?」

 

「魔術師だよ。いや魔術使いか」

 

「木乃香さんを返せー!!」

 

 ネギ君に刹那、明日菜も一緒か。こいつもいい加減観念してもらいたいものだ。

 

「貴様、よくもお嬢様を!!」

 

「ぐ、ぐぐぅ……」

 

「観念して下さい! 戒めの風矢!!」

 

「ひゃあっ!?」

 

「あ、危ない!!」

 

 ネギ君が捕縛の為の魔法の射手を放ったが、それを女はよりにもよって木乃香を盾にしやがった。恐怖心もあったのだろう。何かを盾にするのは人として自然な行動だ。だがそれで人質を利用しやがった。

 ネギ君は咄嗟に魔法の射手を曲げて木乃香への直撃を避けた。そんなネギ君の判断を見た女は何かを思い付いたようににやついた。

 

「そうか、そりゃそうやな! あんたらがお嬢様を傷付けるなんてできへんもんなぁ!! 最初からこうすれば良かったわ!! あはははは!!」

 

「ズルいわよあんた!! 木乃香を放しなさいよ!!」

 

「お断りどす。さーて、お嬢様の莫大な魔力で何をしてやろうかな。極東一の魔力源やし、限界まで活用せんとな。大量の鬼を関東にけしかけるのもええな。あ、その前にお嬢様を傀儡にせなあかんか。呪術と薬漬けにすればええやろ」

 

 こいつ、なんと言った? 木乃香をただの魔力源として活用する? 傀儡にする?

 記憶がフラッシュバックする。俺を慕っていた後輩、家族同然だった後輩、海外へ向かう俺を涙を流しながらも笑顔で見送ってくれた後輩、あれだけ近くにいながら俺が苦しみ見抜けなかった後輩、大聖杯の器として使われ、俺が殺した……桜。ああ、今の木乃香は桜と同じ状態になろうとしている。なら助けないと。桜のようにさせない為にも、あの女を殺してでも助けないと。

 

「? 居候、ドウシタ?」

 

「来れ(アデアット)」

 

 名も無きアーティファクトを呼び出す。自身の動きが速すぎてまるで時が止まったようにも感じる。女へ近付き木乃香を捕らえる腕を切り落とす。いけない。木乃香に返り血が付いてしまう。血が飛び散る前に木乃香を女から引き剥がし、離れた場所へと寝かせる。これで安心だ。っと、安心したらなんだか一気に疲れが襲ってきた。活動時間は10秒だった筈だが、精神と何か連動しているのだろうか。でもどうでもいい。今は木乃香を助けられた事が何よりも大切だ。

 

「去れ(アベアット)」

 

「アァァアアァアアアアアアアッッッ!!!?!? 腕がぁぁああっっ!!?!!」

 

「ひっ!? な、何!?」

 

「明日菜さん! 見ないで!!」

 

 しまったな。みんなは人のこういう場面に慣れていないよな。さっさと片付けてしまおう。

 

「し、士郎、さん? トドメを刺すつもりですか!? 人を殺すなんて駄目ですよ!!」

 

「ああ、そうだネギ君。俺は悪い事をする。でもそうしないと木乃香が危ないんだ。あいつを残しておくと木乃香が狙われる。なら、ここで殺しておかないといけないんだ。桜のようにしない為にも」

 

「さ、くら……?」

 

「いやいやいやいやいやいや!!!! し、死にとうない!!!! 誰か助けて!!!!!」

 

 ? 女の背後に、子供? 地面に水溜まりが広がる。エヴァの影を使った転移と同じか。逃げるつもりだろうが、それでは間に合わ……

 

「エヴァ、何故喚び出した? あいつを」

 

「戯け! 近衛木乃香と間桐桜を重ねるな!!」

 

「エヴァ……悪い、俺は……」

 

 怖かった。またあんな事になるんじゃないかって。それから逃げる為に、人を殺そうと……

 

「……済んでしまった事だ。坊や達には私から話をつけておこう。貴様が行ったところで怯えさせるだけになるだろうからな。休め。これは主人としての命令だ」

 

「……ああ」

 

「士郎さん、お部屋までお連れします」

 

「ありがとう茶々丸……エヴァも、ありがとう。俺を止めてくれて」

 

 一晩、頭を冷やそう。今冷静に物事と向き合う自信がない。




士郎の過去についてちょっと触れる為、千草がゲスっぽくなってしまった。ファンの方々、申し訳ありませんでした。うーん、何かしらフォローは入れなくては。
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