剣と杖と先生   作:雨期

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第26話『それもまた一面』

 ホテルの外で坊や達の帰還を待つ。思えば何故私はこんな真似をしているんだ? 士郎があいつらに嫌われようと構わない筈なんだが……

 

「……まあいい」

 

 少なくとも私は士郎がお気に入りだ。故に今回は手を貸す。坊や達が士郎に怯えたままではまともに仕事も出来ないだろう。うむ、主人として私ほど立派な者もおるまい。

 おっと、帰ってきたな。折角近衛木乃香を救出したというのに随分としけた顔をしている。

 

「帰ッタゼ御主人」

 

「ご苦労だったなチャチャゼロ。坊や達には話がある。近衛木乃香を寝かせたら私の部屋に来い」

 

 返事はない。どうやら相当気が滅入っているようだな。人の腕が斬り飛ばされる場面というのはどうにもこいつらには刺激が強すぎた……いいや別だな。恐らくは士郎の殺意に当てられたのだろう。

 

 坊や達はすぐに私の部屋にやってきた。だがその顔色に変化は見られない。

 

「そうも士郎が人殺しをしようとしたのがショックだったか?」

 

「エヴァンジェリンさん、士郎さんは……本当に殺そうとしたんですか? あの女の人を脅そうとしただけじゃ」

 

「馬鹿か小僧。あの腕の切断すら出血多量で死に至る怪我だぞ。殺そうとしていたに決まっている」

 

「ねぇ、アタシこういうの見るの初めてでさ……まだ現実味がないっていうか……さっきの士郎さん、本物だよね?」

 

「ああ、本物だ。あれも衛宮士郎の一側面だ。貴様もタカミチと坊やに対する態度が違うだろう。士郎のはそれをより極端にしたものだと思え」

 

 これまで接してきた士郎は日常での士郎。いや戦場であっても優しい態度を崩そうとはしなかった。もし士郎は一切の手段を選ばなかったら、呪術師の女も、神鳴流の娘も既に生きてはいまい。最後転移を使ったガキは生き延びそうだな。

 

「桜咲刹那よ。貴様はどう感じた?」

 

「恐ろしい、というのが率直な感想です」

 

「ケケ、素直ダナ。デモ間違イネーヤ」

 

 今回の士郎はトラウマを刺激されての暴走と言ってもいいが、それでも冷静だった。自分のこれから成す事を理解し、その上で殺しにいっていた。あんな人殺しは私も見た事がない。だからこそ恐怖の感情は感じて当然だ。

 

「だがあれは近衛木乃香を守ろうとしての結果だぞ? 貴様にとっては感謝すべき行為だろう」

 

「そう、ですが……あの時の士郎さんは、なんというか、お嬢様を見ているようで別のものを見ていたような……」

 

「サクラ、さん」

 

「? ネギ、誰よそれ」

 

「士郎さんが呟いていました。サクラのようにしない為にも、って。エヴァンジェリンさんは何か知りませんか?」

 

「知っているぞ。だがそれは私の口からは語れん。士郎に直接聞け」

 

 これはあいつの記憶の大切な部分。私が勝手に口にしていいものではない。そも、士郎の記憶は刺激が強すぎる。私もあれにはかなり動揺したし、影響もされた。ガキ共に容易に教えられはしない。

 

「士郎さんに、直接かぁ。正直まだ怖いわ」

 

「ふふ、ならばそれも伝えてやればいい。もう士郎は貴様らの側に寄り付かんさ」

 

「えっ?」

 

「士郎が怖いのだろう? あいつならそれを聞いたらもう二度と貴様らの前に姿を見せんだろう。ほら、これでもう恐怖の対象に会う事もないし、士郎も貴様らの御守りをせずに済む」

 

「ちょちょっ! 話が飛躍しすぎじゃない!?」

 

「いや、元より貴様らを集めたのはこの話をする為だ。恐怖の対象である士郎。それを受け入れるか否か。あいつならどっちの答えでも納得するだろうが、受け入れる自信もないのに受け入れるなどと言うなよ? 士郎なら必ず貴様らを助ける。自身がどんな危険な目にあってもだ。貴様らが早々に士郎から離れてくれれば士郎はいらぬ怪我をせずに済む」

 

 こう言ったものの、士郎は近くにこいつらがいる限り、必ず守ろうとするな。赤の他人であってもあいつにとっては守るべき対象だ。だが拒否すれば私がもうこいつらを士郎へと近付けさせないし、士郎も縛り付けてやる。

 逆にこいつらが士郎を受け入れたのなら、士郎はだいぶやり易くなる。近ければ近いだけ守りやすいからな。別にこいつらにメリットはないがデメリットもない。これまでと変わらない関係を続けていけるだろう。

 

「今すぐ結論を出せとは言わんが、明日の間には」

 

「いえ、私は決まっています。士郎さんへの恩を返さず、身勝手な理由で拒絶するなど出来ません。あれもまた士郎さんの一面だというのであれば、私は受け入れます」

 

「アタシも。確かにあの時の士郎さんは怖かったけれど、普段は優しいし、あの時だって木乃香を守る為にああなったんでしょ。ならあれだって優しい士郎さんよ」

 

「ほう、存外強いな貴様ら。坊やは明日にするか?」

 

「……はい。士郎さんと直接お話をしたいです」

 

「いいだろう。明日は1日士郎はホテルに閉じ込めておく。好きな時にでも話すといい。少し遅くなったか。明日の観光の為にも私は寝るぞ」

 

 坊やがどんな話をしてどんな結論に到るか少々興味はあるが、私が口出しするのはここまでだ。もうこいつらも十分落ち着いた。明日からは士郎に任せる。

 明日は奈良だったか。やはり東大寺の大仏がメインになるか。春日大社もいいなぁ。奈良公園にも向かうだろうから、鹿には気を付けないと。下手に煎餅を持つと襲われかねん。ふふ、いいな観光。心が踊る。




なんだかんだうちのエヴァちゃんは面倒見が良くて、とっても良い子。
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