剣と杖と先生   作:雨期

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私は今、書くのが楽しくてしょうがない


第2話『覗かれた記憶』

 タカミチという男性と出会えたのは僥倖と言えるだろう。冷静だがとても温厚で実力もある。こちらの力も見抜いているのか下手に動こうとはしなかった。戦闘になるような事がなくて良かった。

 しかし魔法使いと魔術師の区別がないのには驚かされたな。可能性としては考えていたが、平行世界の確率は高いようだ。

 

 今はこの学園の長の所へと案内をしてもらっている。悪意ある侵入ではないとはいえ侵入者に変わらない。謝罪をしなくてはならないだろうし、俺としてもこちら側の情報は知りたい。

 

「凄い街並みだな。これが学園の中か?」

 

「学園都市だからね。衛宮君も日本で暮らした事があるなら麻帆良って聞き覚えない?」

 

「いや、初めてだな」

 

 西洋風の街並みが広がる。学園都市とはいえ、これは破格だ。そして目につくのが巨大な樹木。あれからは魔力も感じる。ある種の神木だろうが、あんなものがある学園都市ならばもっとニュース等で取り上げられても不思議ではない。

 考え事をしているうちに辿り着いたのは深夜の校舎。タカミチに続いて入る。

 

「ここだよ。学園長、侵入者を連れてきました」

 

「うむ、入っても良いぞ」

 

 老成した声が聞こえた。学園長とやらは老人らしい。学園長室と書かれた部屋に入ると中には3人の人が待っていた。いや、人か? 老人、恐らく学園長なのだろうが頭部の骨格が人のものとは思えない。そう、例えるならば妖怪のぬらりひょんだ。他には金髪の少女。この子は見た目通りの年齢ではないだろう。感じる魔力は微弱だが、その雰囲気や佇まいに一切の無駄や隙がない。どんなに濃い人生を送ったとしても10歳程度の女の子に出せる空気ではない。そしてその少女の隣に立つ少女。オートマタか? よく出来ているな。

 

「電話で聞いておるよ。君が衛宮士郎君じゃな。ワシはこの学園の学園長、近衛近右衛門じゃ。立っておるのもなんじゃし、そこに座ってくれい」

 

「いえ、このままで結構です。話を……!?」

 

 頭の中に、靄が……とてつも、なく、眠……やら、れ……

 

 

ーーーーーー

 

 

 突然倒れた士郎を支えるタカミチ。そんな彼から怒号が飛ぶ。

 

「エヴァ!!! いきなり魔法を掛けるとはどういう事だ!!!」

 

「落ち着けタカミチ。少し試しただけだ。しかしこの程度もレジスト出来んとはな。実力があるくせにおかしな奴だ。さて、眠ってくれたのならそれはそれで都合がいい」

 

 少女、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルは士郎に近付き呪文を唱え始める。その呪文にはタカミチも学園長も聞き覚えがある。他人の記憶を覗き見る魔法だ。確かに士郎が何者か知るには一番手っ取り早い手段だが、本人の許可なく記憶を見る事に2人は抵抗があった。

 

「なんだ貴様ら、見ないのか?」

 

「……見させてもらおうかの」

 

「学園長!? あなたまで」

 

「ワシは学園の長として彼を見極めなくてはならぬ。確かにこれは良くない事じゃ。終わってから衛宮君に謝罪をしても遅いし、許しを貰えんかもしれん。じゃが彼が学園の脅威になるか否か見極める最大の機会を逃す訳にはいかんのじゃ」

 

「……なら僕も彼を連れてきた責任があります。いざという時には衛宮君を止めないといけない。その為に、彼を知ります」

 

「ふん、御託を並べたところでただこいつの記憶が見たいだけだろう。まあいい。茶々丸、見張りは頼んだ。終わるまで邪魔を入れるなよ」

 

「はい、マスター」

 

 エヴァンジェリンの魔法によって3人は士郎の記憶へと意識を潜らせる。その直後、3人の異変を緑髪の少女、絡繰茶々丸は感知した。3人から流れる滝のような汗。何かに苦悶しているような表情。特に顕著なのはタカミチで今にも泣き出しそうに見えた。すぐにでも呼び戻そうと考えた茶々丸だが、マスターたるエヴァンジェリンからは邪魔を入れるなと命令されている。ここで自分が手を出すのも命令違反だと判断した茶々丸はただ待つしかなかった。

 

 

ーーーーーー

 

 

「う……ん……っ!!」

 

 目が覚めると即座に立ち上がり戦闘体制に入る。突然眠らされたのだ。何をされていてもおかしくはない。くそ、聖骸布を着ていない弊害がいきなり出るなんてな。

 

「すまんかった衛宮君!!」

 

「……えっ?」

 

「僕からも謝らせてほしい。本当に、本当に申し訳ない」

 

 えーと、何故謝罪されているんだ? さっきのは2人の意図するものじゃなかったのか? となると、こっちの少女達の仕業となるが……なんか金髪の子は薄ら笑いを浮かべていて怖いぞ。

 

「衛宮士郎、だったな。お前を眠らせたのは私だ。そしてその間に、記憶を覗かせてもらったぞ。まさか異世界からやってきた魔法使い、いやそちらに合わせるなら魔術師か」

 

「……魔術師を理解できるって事は本当に記憶を見たんだな。それにやっぱり世界が違ったのか。2人も記憶を?」

 

「うむ……」

 

「ごめん、衛宮君」

 

「他には?」

 

「他、とは?」

 

「記憶を覗く以外に何かやったのか?」

 

「記憶を覗いただけじゃ。嘘は言っておらん」

 

 寝ている間にやったのがそれだけか。記憶を覗いたなら俺がどんな人間か分かっただろうに、拘束も洗脳もないなんてお人好し過ぎやしないか?

 

「まあ記憶だけなら構わないか。こっちも説明する手間が省けたし、これで明確に別世界とも分かった。それで、敵対するのか?」

 

「そんな事は絶対にせんぞ。むしろ君を歓迎したい。ここでいくらでも骨休めしていってくれい」

 

「僕らにやれる事があれば遠慮なく言ってくれ。全力で手助けさせてもらうよ」

 

 本気、みたいだな。そうだな、ここは少し甘えさせてもらおう。いきなり戦地に向かって人助けをしていたらまた遠坂に異世界へと飛ばされそうだ。暫くはお世話になろう。

 

「分かった。なら寝床が欲しいな。どんな場所でもいい」

 

「それならばうちを使うといい。面白いものを見せてもらった礼だ。茶々丸、先に戻ってこいつの寝床を用意しておけ」

 

「はい、マスター」

 

 そんなに面白いものでもないとは思うんだが……

 

「ここで暮らすというならば職を斡旋しよう。麻帆良は広いからの。好きな仕事をやってもらって構わん。決まらんようならワシからいくらか提示させてもらおう」

 

 そうだよな。暮らす以上は金がいる。処刑直前だったから生憎と無一文だ。少なくとも居候するならば家賃くらいは出さないと。衣食も自腹が好ましい。

 

「服、ないだろ? 僕のもので良ければ譲るよ。スーツなんかが多いけれどね。エヴァ、後でお邪魔させてもらうよ」

 

「好きにしろ。行くぞ衛宮士郎。ふぁぁ、ねむ……」

 

 ああ、深夜だったのにもう日が昇っている。どれだけ眠らされていたのやら。でも久しぶりによく眠れた。それに……

 

「学園長、タカミチ、無断で記憶を覗かれたのは少し怒っていますけれど、それ以上に感謝しています。記憶を掘り起こされたからか夢で家族や友人、忘れかけていた色々なものを思い出せました。ありがとうございます」

 

「礼ならばエヴァに伝えてくれんかの。ワシらは彼女に便乗しただけじゃ」

 

 

ーーーーーー

 

 

 士郎とエヴァンジェリンが立ち去った後、タカミチは崩れ落ちるようにソファーに座った。

 

「……正義って何でしょうね」

 

「タカミチ君……」

 

「彼の記憶、かなりショックでした。世界が違うから魔法の形態が違う。魔法使いの在り方が違う。そういうのは、仕方がないと思います。でも一般社会はこちらと大差はない。衛宮君は正義の為に動いたのに、その一般社会からも弾かれた。助けた人に殺されかけた……こんな事があるなんて……」

 

「…………衛宮君はこちらでは間違いなくマギステル・マギと呼ばれるに相応しい。しかし世界が違ったのが問題じゃったのかもしれん。衛宮君はたった1人のマギステル・マギじゃ。その在り方を理解する者も、応援する者もどれだけおったのやら……こちらの世界のように協力者が何人もおれば、こうはならんかったのかもしれんのぉ。確かに彼は自分を顧みておらんかったが、正義の味方としての活動は間違ってはおらん………そう思いたいものじゃ」

 

 この世界の多くの魔法使いが目指す『立派な魔法使い(マギステル・マギ)』。それに相応しい生き方をしながら世界から拒絶された士郎。そんな彼の記憶を思い返し、正義とは何か、それを2人は考えさせられていた。




士郎君、エヴァの家に居候決定。鉄板だね!
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