決闘の予定時間の20分前に士郎達はシネマ村へと到着した。念の為決闘の場となっている日本橋周辺を見て回っていると声を掛けられる。
「なんだ貴様らも来たのか」
「エヴァ? 観光か?」
「それ以外に何がある」
着物を着たエヴァンジェリンと茶々丸がそこにはいた。普段着ないような格好だが、2人共よく着こなしている。
「よく似合っているな」
「エヴァちゃんお姫様みたいやね」
「ふふん、もっと褒めろ。しかしここに来たというのに仮装もしないのは勿体無いぞ。茶々丸、連れていけ」
「はいマスター。皆さん、こちらです」
3人は茶々丸に押される形で貸衣装屋へとやってきた。こういう観光地なのだからしょうがないとはいえ、着なれた動きやすい服から着替えるのに士郎は躊躇したものの、茶々丸と木乃香に頼み込まれて着替えてしまった。
木乃香は町娘風の着物。刹那は新撰組の羽織。そして士郎は……
「なんでさ……」
神主の姿だった。動きやすい服装を頼んだというのにこれである。
「し、士郎さん、お似合いですよ」
「ありがとう刹那……」
刹那の気遣いもあまり響いていないようだ。しかし決闘まで残り5分を切っている。着替えている時間もなく、日本橋に向かう事となった。
「ふふふ、お待ちして、ブフォッ!!」
「笑うなら笑え」
士郎の姿に思わず吹き出す月詠。決め台詞も考えていたというのに全てが吹き飛んでしまった。
「プ、クク、お、お兄さん~。まさか精神攻撃まで可能とは思いませんでした~、フフ、せ、刹那センパイとこのかお嬢様も一緒なんどすね~。手間が省けましたわ~。お兄さんを切り刻んだら、お二人はウチが頂きます~」
「それなら切られるわけにはいかないな」
士郎は腰に差してあった干将莫耶を取り出す。月詠も刀と小太刀を構える。合図もなく始まった決闘。月詠がジリジリと距離を詰めるが、士郎はそれに対して反応しない。
「士郎さーん! 勝ってやー!!」
「……刹那、木乃香を安全な場所へ。どうせエヴァは仕事をしないからな」
「よく分かっているじゃないか。ま、そもそもこれは私の仕事ではないからな」
「お喋りしとるなんて、余裕どすな~」
一瞬で距離を詰め、間合いに入った月詠の連撃が始まる。常人の目には止まらぬ速度だが、士郎はそれを難なく捌き、時に反撃を加えていく。
「早く行け!」
「はい! お嬢様、参りましょう!」
「えっ、あっ、そないにはよう走らんでも」
刹那と木乃香が去ったが、月詠は士郎への攻撃を止めない。月詠の目的は士郎のみ。木乃香は他の誰かに任せればいい。
「て~、や~、と~」
気の抜けた掛け声から繰り出される剣はどれも一流。しかしそれが届く事はなく、途中から月詠は奇妙な感覚に襲われ始めた。
(技が出せへん)
神鳴流の技が一切使えない。正確には使わせてもらえないのだ。技を出そうとした瞬間に反撃を受けたり、体勢的に出せない状態が続いていた。大技を使えば前のように手痛い反撃を受けるかもしれないとなるべく小技で攻め、士郎の隙が生まれた瞬間に技を出そうとしているのだが、それがどうも上手くいっていない。
「お兄さん、人のコントロールが上手いな~」
「そういうお前は動きも分かりやすいし、何より弱いな」
「ウチが、弱い?」
「そうだ。お前は何人も人を斬っているようだが、それで強くなった気になっているだけだ」
「それは違います~。ウチより強かった神鳴流の剣士も斬ってきましたので~、ウチは強くなっているんです~」
「理解していないのか。お前が勝てた理由は単に神鳴流では有り得ない対人に特化した二刀流という事。そして人を斬る事に戸惑わない事が要因だ。二刀流に慣れていない相手は戦い方を知らず、逆にお前は相手の戦い方を知っている。そして人を斬るという時にはどうしても戸惑いが生まれ、動きが鈍るものだ。お前にはそれがないから相手よりも一手早く動けた。ただそれだけ。才能や強さで言えば、刹那とどっこいどっこいだ」
「戦いの最中に、長々とお説教どすか~? 苛つくお方やわ~」
士郎の言葉に苛立ちを隠せない月詠はより強く、より早く打ち込み始める。しかしその太刀筋は徐々に荒くなっていた。
「もう一度言おう。お前は弱いよ。自分が相手よりもアドバンテージの取れる分野でのみ勝ち続けているだけで強くなった気になっている。そんな子供だ」
「いい加減、黙ってや!! 神鳴流奥義!!」
「それが欲しかった」
「ほぇ?」
月詠が大技を放とうとした瞬間に腹部に激痛が走り、吹き飛ばされた。中国拳法でも最も威力のある技の1つ、崩拳が叩き込まれたのだ。何とか痛みに耐えているところを鎖でがんじがらめにされ、完全に動きを封じられた。
「挑発に乗ってくれて良かったよ。じゃあな」
「待っ……て……」
士郎は月詠の制止を無視して刹那達を追った。月詠は自分が本当に弱かったのか、はたまた挑発の為の嘘だったのか、それすら聞く事が叶わず、次に会ったら絶対に聞き出すと誓った。
ーーーーーー
木乃香と共に逃げていた刹那は敵に追われ、城のてっぺんまで来たところで白髪の少年に捕まった。木乃香は途中合流したネギの分身が守っているが、式神や弓を構えているせいで逃げる事も出来ない。
「動いたら矢が放たれるから、何もするんやないで」
矢の射出は女の意思によって行われる事ではない。ネギが動けば自動で行われるのだ。そして不運な事に突風が吹き、ネギの体がよろめいた。それを式神は見逃す筈もなく矢が放たれる。
「! お嬢様!!!」
木乃香の危機に、何とか白髪の少年の拘束を振り払った刹那は抱き締めるように身を挺して木乃香を守る。矢に貫かれる痛みが来るのを待ち構えたが、それが来る前に矢は何かによって弾かれた。
「悪い刹那、木乃香、遅くなった」
「し、士郎さん。月詠は?」
「拘束しておいた」
「ば、化け物! またウチの邪魔をするんか!?」
「月詠はしくじったか。いや彼相手にこれだけ持ったのを褒めるべきかな」
「フェイトはん!! 助っ人ならあいつを何とかしてや!!」
士郎を見てヒステリックに陥った呪術師の女、千草は白髪の少年、フェイトに助けを求めたがフェイトは首を横に振った。
「ここであれの相手をするのは得策じゃない。退くよ」
「あっ! こら!! くっ、化け物!! この腕の痛み、いつか味わわせたるさかい!! 覚えておき!!」
士郎の参戦に撤退を選んだ2人。転移の為追跡は士郎には出来ない。
「刹那、よくやった。木乃香、怖かったろ」
「ありがとうございます」
「へーきよ。せっちゃんと一緒やもん」
「さて、あんなのがいたらおちおち観光も出来ないな。落ち着ける、安全な場所があればいいんだが」
「ならお嬢様のご実家に向かいましょう。先生や明日菜さんもいらっしゃる筈です」
「なんや2人共おらん思ったらうちにおったんか。でもなんでなん?」
「ネギ君も教師だから色々とあるんだろうよ。木乃香、お前の実家で大丈夫か?」
「ええよ。ちょっと広いけど、驚かんといてな?」
一行はシネマ村を後にし、木乃香の実家、関西呪術協会の総本山へと向かった。
今週は一回休んだので土曜も投稿します