剣と杖と先生   作:雨期

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時事を書くのはどうかと思うけれども、皆さん、台風は大丈夫ですか? いやこんなの読んでるなら大丈夫だと思いますが、気を付けて下さい。自分は無事です。


第31話『一騎当千』

「ネギ君!」

 

 士郎と詠春が追い付いた時には敵は千草のみで、木乃香を拐ったであろうフェイトの姿はなかった。

 

「士郎さんに、詠春さんまで!?」

 

「石化は大丈夫なのですか? ってそれは夕凪!?」

 

「ええ、士郎さんに助けてもらいましたよ。これも士郎さんがくれました。千草君! いい加減諦めて木乃香を返しなさい! 君がこんな復讐をする事をお父さんやお母さんも望んでいない筈です!」

 

「うげ、なんで長がおるんや!? 石化された筈やろ!? このかお嬢様は返せへんわ!! それにあんたにウチの何が分かるんや!! オンッ!!!」

 

 千草が呪文を唱え始める。周囲に濃い魔力が溢れ、光の柱が無数に立ち上がり始める。全員が警戒した僅かな隙に呪文を唱えきった千草の周囲から、湧き出るように鬼や烏族が出現した。

 

「アーハッハッハッ!! 流石お嬢様の魔力や!! さあお前達、あの男2人以外は殺さんように相手してやりや」

 

「ほーん、殺さんかったらええんやな」

 

「やろー! このか姉さんの魔力で手当たり次第召喚しやがった!」

 

「ほなさいならー」

 

「! 千草君、まさか君の狙いは!! 待ちなさい!!」

 

 千草が逃げる方角を見た詠春は何か思い当たるものがあったのか叫んだが、千草は止まらない。追い掛けようにも鬼達の壁が邪魔をする。

 

「おうあんたら、悪く思わんといてや。どんな命令やろうと、召喚された以上は従わないかんのや。特にそこのお兄さんとおっさんは大人しく死んだ方が楽やで」

 

「こっちは貴様らに従ってやる道理はないんだ」

 

「それもそうやな。お前らやってまうで!!」

 

「させません! 風花旋風風障壁!」

 

 ネギの張った風の障壁が突撃してきた鬼達を吹き飛ばす。

 

「3分だけなら持たせられます。その間に作戦を立てましょう」

 

「ありがとうネギ君。鬼の足止めと女の追撃、この二手に別れるべきじゃないか?」

 

「はい、私も士郎さんの意見に賛成です。問題はどう別れるかですが……」

 

「ごめん、アタシこういうの全然分かんないからみんなに任せるわ」

 

 この場で鬼を逃せば千草を追撃した者が襲われるだろう。またこの数を相手にしなくてはならない。スタミナも相当必要となるし、攻撃も複数同時に行える人物が望ましい。

 千草を追うのは速い者がいい。単純に考えれば長距離飛行が可能なネギが第一候補となる。敵が千草以外に見えていない事を考えると他にも何人か一緒の方がいい。そして何より、敵を倒す必要はないのだ。木乃香の奪還だけでいい。

 

「俺、詠春さんがここを片付ける。その間に3人は木乃香を助けてきてくれ。戦う事は考えるな」

 

「君達が帰ってくる前にはこの鬼は我々が殲滅しますよ」

 

「……分かりました」

 

「そうと決まればあれ行っときましょうぜ! 刹那の姉さんの仮契約!! ほれ、兄貴とぶちゅーっと!!」

 

「ええっ!? ね、ネギ先生と仮契約ですか!?」

 

 戦力増強という点において、仮契約による魔力供給での強化とアーティファクトの存在は間違いなく有用だ。カモミールの考えも間違ってはいない。

 

「し、しかし……いえやります。お嬢様の為です」

 

「い、いいんですか?」

 

「大丈夫です。カモミールさん、魔法陣を」

 

「ほいきた!!」

 

 一気に魔法陣を描き上げるカモミール。その上でネギと刹那はキスをした。光が2人を包み、仮契約は成された。

 

「では行ってきます。ラス・テル・マ・スキル・マギステル」

 

「おっと、ネギ君は力を温存しておくべきだ。道は俺が切り開く」

 

 士郎は使いなれた黒い洋弓を投影し、詠唱を始めた。

 

「投影(トレース)、重装(フラクタル)。I am the bone of my sword.(我が骨子は捻れ狂う)」

 

 まるでドリルのような剣が矢としてつがえられる。その莫大な魔力に素人である明日菜すら震え上がった。敵である鬼達ですら驚愕し、硬直している。

 

「偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)!!」

 

 放たれた矢は敵を、地面を、空間を削りながら突き進み、敵陣の最後列で大爆発を起こした。この一撃でかなりの量の敵は消失していた。見た事のない魔法にネギは言葉を失い、若い頃は様々な戦場を渡り歩いた詠春も思わず息を呑んだ。

 

「行け!!!」

 

「! はい!!」

 

「もー! 士郎さんハチャメチャすぎ!!」

 

「長、士郎さん、どうかご無事で!!」

 

 開けた道を突き進む3人を見送り、士郎と詠春は剣を構えた。

 

「士郎さん、貴方が味方で本当に良かった」

 

「そういうのは全部終わってからにしましょう」

 

「何や兄さん!? さっきのはどないな魔法や!!?」

 

「見ての通り、剣を撃っただけだ!!」

 

 

ーーーーーー

 

 

「ハアァァァァァァッ!!!」

 

 敵陣の中心で剣を振り続ける。それは華麗とは言いがたいが、一切無駄のない確実に命を刈る動き。

 士郎が今振っている干将莫耶は普段使っているものとは違い、オリジナルに極力近付けたもの。本来の干将莫耶は退魔の剣。ゴルゴーンの怪物すら両断する対魔性宝具。普段使いの干将莫耶は投影しやすく、更に所有者の防御を高めるように改造が施されてあるが、これにはそんなものはない。

 だがこの場ではそれが何よりも有効だった。鬼も烏族も魔。一振りで何体もの鬼達が存在ごと掻き消されていく。

 

「お、おのれぇ!!」

 

「オォォッ!!」

 

 烏族が振り下ろした剣ごと烏族を消失させ、数メートルはある巨大な鬼も一突きで絶命させる。

 詠春も詠春で負けてはいない。現役を退いたとはいえ神鳴流のトップであった男。夕凪を軽々と扱い、鬼達を消し去っていく。

 

「百列桜華斬!!!」

 

 こちらは士郎と違い、一振り一振りが美しい。華麗に、舞うように敵を切り刻んでいく。

 

「ハァハァ、まだまだ、やれるものですね。体力作りをして現役復帰しましょうか」

 

「あまり無理はなさらないように気を付けて下さいね。投影(トレース)、開始(オン)」

 

 いくら切り刻んでも埒が明かないと判断した士郎は無数の刀剣の創造を始める。

 

「憑依経験、共感終了」

 

 金棒を鬼ごと切り捨て、複数の斬撃を捌きながら投影を進める。

 

「工程完了(ロールアウト)。全投影(バレット)、待機(クリア)」

 

 全ての工程が終わり、手を振り上げる。上空には今か今かと発射を待ちわびる聖剣魔剣が光り輝いている。

 

「てめぇら! 上がやべぇぞ!!」

 

「もう遅い。停止解凍(フリーズアウト)、全投影(ソードバレル)連続層写(フルオープン)!!!」

 

 士郎の手が振り下ろされると同時に発射される剣の群れ。直撃したものは勿論、衝撃波でも敵は消失していく。

 

「壊れた(ブロークン)幻想(ファンタズム)」

 

 トドメの爆発。最初は視界を全て覆うほどだった鬼達も、今では何とか数えられそうなほどまで減少していた。そんな中、爆発により巻き上がった砂煙から何者かが士郎に斬りかかった。

 

「お昼ぶりやな~お兄さん!!!」

 

「月詠……しつこいな」

 

「月詠君もそちら側でしたね」

 

「詠春さん! 他はお願いします! こいつを倒してすぐに手伝います!!」

 

「我々も参戦させてもらってもいいかな?」

 

「あんまり必要そうじゃないアルが、来たからには手伝うネ!!」

 

「古菲! と誰だ?」

 

「龍宮真名という。綾瀬に頼まれて応援に来たよ」

 

「楓も別の場所だけど来ているネ」

 

「木乃香の学友ですか。父の詠春です。いつも木乃香がお世話になっております」

 

 想定外の助っ人。ここまで来てしまった以上帰らせる訳にもいかず、2人が実力者だと判断した詠春はそのまま応援をお願いした。

 士郎は月詠の相手を始める。昼以上に苛烈な攻め。斬岩剣や斬空閃を交えた連撃は周りの鬼すら巻き込んでいく。

 

「お兄さんにはウチが弱いというのを訂正してもらいます~。ウチは強い。刹那センパイより~、長より~、お兄さんより~、ずっと、ずっと強いんや!!!」

 

「身の程知らずだな。剣の腕だけなら、まあ俺を超えているかもしれないが、刹那や詠春さんよりも強いとよく言えたもんだ」

 

「うるさい、うるさいわ!!! ウチが弱い言うなら、ウチを殺して証明せいや!!! 神鳴流決戦奥義!!! 真・雷光剣!!!」

 

「そうか」

 

 剣に溜められた気が電気となり、広範囲を爆発させる雷となった。周囲の鬼は消し飛び、離れた場所にいた古菲や真名もその衝撃に吹き飛ばされないように耐えていた。真正面にいた士郎の生存は絶望的。殺した。そう判断した月詠の口角が上がる。

 

「大した威力だ」

 

 だがその声が聞こえた瞬間、月詠の顔から笑みが消えた。士郎がいた場所には士郎を守るように突き刺さる剣の壁があった。どれも膨大な魔力を孕んでいる。それらが砕けちり、そこから飛んできたのは干将莫耶。

 

「神鳴流に飛び道具は効きまへん!!」

 

「知っているさ」

 

 干将莫耶を弾くと続いて士郎が斬り込んできた。それを受け流そうとしたが、威力がこれまでとは桁違いで受け流しきれずに体勢を崩す。月詠はここまで士郎が自分にどれだけ手加減をしているのかそこで理解してしまった。

 

「! 後ろ!?」

 

 弾いた筈の干将莫耶が背後から飛来する。無様でもいい。何とか逃げようとした月詠だが、動けなかった。膝を士郎が切り裂いたのだ。直後背中に突き刺さる干将莫耶。その痛みに悲鳴を上げる事すら出来ずに月詠は倒れた。だが彼女はこれでいいと感じていた。これまで人を斬ってきたのだ。自分が殺されてもしょうがない。それを行うのが士郎なら満足だと、そう考えていた。

 

「ハァッ!!!」

 

「……ぇ?」

 

 だが士郎は月詠を殺さなかった。それどころか完全に無視をしていた。それで思い知らされる。士郎にとっては自分などそこらの鬼と同じ有象無象の一部だったのだと。動けなくなったならどうでもいい。その程度の存在なのだと。

 

「ふ、ふぇ、うえぇぇーーーーん!!!」

 

 体の痛みはある。でもそんなもの以上に月詠は心が痛かった。思えばこれは初恋であり、失恋だったのかもしれない。月詠の初恋は相手に伝わる事なく終わり、その事実を突き付けられ、ただただ年相応の少女のように泣き叫んだ。

 

 

ーーーーーー

 

 

「やべぇ、やべぇぜ兄貴!! 流石にでかすぎる!!」

 

 僕らは木乃香さんを助ける為に誘拐した女の人を追い詰めた。途中小太郎君に邪魔されたけれど、それは楓さんが代わってくれた。でも今は白髪の少年が立ち塞がっている。そして女の人は木乃香さんの魔力を使って巨大な鬼を蘇らせてしまった。

 

「これが二面四手の巨躯の大鬼、リョウメンスクナノカミ。身の丈十八丈もあったと言うけど、そんなもんやあらへんな! これで東へ進行して、関東魔法協会を潰したるわ!!」

 

「残念だったね、ネギ・スプリングフィールド。君の頑張りもここまでだ。ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト! 小さき王、八つ足の蜥蜴、邪眼の主よ。その光、我が手に宿りし、災いなる眼差しで射よ!」

 

 この呪文、これは確か石化の呪文!! 駄目だ、阻止が間に合わない!!

 

ーードゴォッ

 

 でもそれを止めてくれた人がいた。蹴り飛ばされる白髪の少年。明日菜さんでも、刹那さんでもない。金の鎧を纏った頼もしい背中。

 

「去れ(アベアット)。すまない、遅くなった」

 

「士郎さん!!!」




ヒーローは遅れてやってくる。
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