剣と杖と先生   作:雨期

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第33話『癒しのKiss』

 初めてこのシロウという男を見た時から異常な存在というのは認識していた。千草を何の感慨もなく殺そうとした様は人とは、いや生き物には見えなかった。腹を満たす為に獲物を殺す動物なら歓喜するだろう。ネギ・スプリングフィールドのような善人ならば後悔や懺悔で押し潰されそうになるだろう。月詠のような狂人ならば殺す事に快感を覚えるだろう。何れにせよ生きているなら、相手を殺す際に何らかの感情を見せるものだ。だが彼にはそれはなかった。まるで造られた存在、ロボットなんかが当てはまるだろうか。

 

 また彼の異常性はそれだけではない。そのあまりに高過ぎる戦闘能力。ろくな強化を行わずその身体能力は高位の魔法戦士をも凌駕する。剣技や体術はとても天才とは言えないが、人として限界近くまで鍛え上げたような洗練さがある。更には数多もの修羅場を潜り抜けたのだろう。異様なほどの察知能力も冷静さもある。どこからか取り出す様々な武具は並みのアーティファクトなどと比べ物にならない魔力を放ち、また性能も極めて高い。

 

 特に問題は武具だ。彼自身も強いがあの武具のお陰で万能性がある。近衛詠春の石化を解いたのも恐らくは彼だ。底の見えない彼だが、弱点は見えた。その身に装備している魔道具は魔法対策のもの。彼自身に魔法耐性がないと言っているようなものだった。だから僕は攻めた。石化させれば勝ちだと。そして彼が攻撃をする前に石化の邪眼を放った。本来、これで僕の勝ちだった。だが彼をまだまだ甘く見ていたようだ。放った筈の攻撃は放たれておらず、後出しで撃たれた彼の鉄球は閃光となり、僕の胸を貫いていた。

 

 

ーーーーーー

 

 

「何を……したんだ……?」

 

「後出しじゃんけんと言ったところだ。しかし案の定分身だったか」

 

 姿が朧気になり、水となって溶け始めている。これだけの力を持った分身まで作り出せるというのは脅威という他ないな。

 

「ふっ……じゃんけん、ね。次は、気を付けよう……それと安心するといい……もう、今日は手を出さない、よ…………本体にダメージは、なくとも……精神が疲れてしまって、ね。ふふ……初めてだな。戦いで楽しいと感じた、のは……サーカス、手品……そういうのを、見て、楽しむのは……こういう気分、なのかな」

 

「そうか。手を出さないというのが本当なのかは知らないが、俺もいい経験だった。お前のような魔法使いもいるんだな。今後魔法使いと戦う上で参考にさせてもらう」

 

「それは、光栄だね……僕は、フェイト・アーウェルンクス……いずれ、また会おう」

 

 完全に消滅したか。ふぅ、まさか二度も真名解放をさせられるとはな。フラガラックまで使うつもりはなかったんだが、やらなければ石にされていただろう。

 ん? 何か音が聞こえる。これは……茶々丸のジェットの音か。

 

「士郎さん、ご無事で……」

 

「? どうかしたか? 俺は大丈夫だぞ」

 

「その手!! すぐに治療しないといけません!! ああ、でも応急処置でどうにかなるようなものでは……どうすれば良いのでしょう……」

 

 手? あっ、フラガラックを撃った反動で黒焦げだ。痛みすら感じていないのを考えると相当ヤバイな。

 

「! そういえば……士郎さん、失礼します!」

 

「えっ、うぉっ!?」

 

 茶々丸は俺を軽々と抱えると空を飛んだ。正直少女に抱えられるのはみっともないような感じすらある。こっちは、ネギ君達の方か。そういえばリョウメンスクナはもう影も形もないな。無事倒したようだな。

 

「近衛木乃香さん! お願いがあります!」

 

「ほぇ? 茶々丸さんどないしたん? あっ! 士郎さんやん、って手ぇどうなっとるん!?」

 

「焦げた」

 

「そんな軽いものではありません!!」

 

 怒られてしまった。魔法か何かで治せないもんかな。生憎とアヴァロンはもう俺の中にはない。いつの間にか消えてしまっていた。

 

「士郎、みっともない姿だな。茶々丸も茶々丸で慌てすぎだ」

 

「しかしマスター……」

 

「エヴァ、あいつは強かったぞ」

 

「だろうな。リョウメンスクナよりもそっちを選ぶべきだったかもしれん。あれでは運動にもならん」

 

「なぁ茶々丸さん。ウチ何をすればええん?」

 

 ああ、そういえば茶々丸は木乃香に頼みがあるって言っていたな。何だろう。

 

「士郎さんと仮契約をして下さい」

 

「かりけーやく?」

 

「ほう、考えたな茶々丸。確かにそれなら士郎の手も即座に治るな。ま、わざわざそこまでしなくとも時間をかけてじっくり癒せば済むだろうに」

 

「お嬢様と仮契約を? あの、それは長が反対するかと」

 

「いいえ、そんな事はありませんよ刹那君」

 

「長! 無事でしたか」

 

「老けたな詠春。不意討ちを喰らったと聞いたぞ。情けない」

 

「返す言葉もありません。さて、木乃香が仮契約をするかは木乃香自身が決める事です。私が口出しするような事ではありませんよ」

 

「あのー、木乃香と仮契約すると何が起こるんですか?」

 

 仮契約がもたらすものはアーティファクトくらいなものと思っていたんだが、今のエヴァの様子を見る限りはそうではないらしい。

 

「仮契約を行うとその瞬間、その人の潜在能力を引き出す事があります。近衛木乃香さんは莫大な魔力に治癒の力があるとマスターから聞いております」

 

「治癒……ウチが仮契約したらみんなを治せるん?」

 

「恐らくは」

 

「木乃香、仮契約を行うともう日常には戻れないと考えるべきだ。魔法のある世界で生きなくてはならない。そこには危険が多く潜んでいるんだ。命にだって関わる」

 

「だからお父様はこれまでウチに魔法について教えてくれんかったん?」

 

「そうだよ。木乃香には普通の生活をしてもらいたかった。でも子供の可能性を親が狭めるべきではなかったと反省しているよ。木乃香、この先は自分で決めてみなさい。私はそれを精一杯サポートするから」

 

 父親としての葛藤はあるだろう。娘に危険な道を歩んでほしくない。爺さんも俺が魔術を習おうとした時、同じような気持ちだったかもしれない。それを考えれば俺は木乃香の選択に口出しは出来ない。俺も歩んだ道だ。木乃香が同じ道を選んだとして、それを否定するのは自分を否定するのと同じだ。

 

「ウチな、危険とか言われてもまだよう分からんよ。でもネギ君や明日菜はウチを助ける為に戦ってくれた。せっちゃんは隠しておきたかった秘密をさらけ出してでもウチを救いに来てくれた。士郎さんは自分が傷付いてもみんなを守ってくれた。そんなみんなに恩返ししたいんよ。仮契約をまずその一歩とするわ。士郎さん、お願いします。ウチと仮契約して下さい」

 

「……いいよ。俺の事まで考えてもらって断るなんて出来ないな」

 

「士郎の旦那! このか姉さん! 準備できやした!」

 

「早いなカモミール」

 

「そういえば仮契約って何するん?」

 

「キスっすよ」

 

 カモミールの言葉に木乃香が固まって、すぐに顔を真っ赤にしていた。仮契約を知らなければ年頃の女の子はこういう反応になるよな。あれ? 俺が木乃香とキスするんだよな。俺でいいのか?

 

「そっ、そっかぁ。キスするんやなぁ。うん、士郎さんならファーストキスあげてもええかな」

 

「俺の怪我なら他の方法でも治せるから無理しなくてもいいんだぞ」

 

「無理なんてしとらんよ! ウチ士郎さんの事好きやし!」

 

 まあ、無理していないなら……なんか背後から威圧感を感じる。

 

「士郎さん、どういう事でしょうか? 木乃香さんと何があったのか仮契約が終わり次第、詳しく聞かせて頂きます」

 

「私も父親として非常に興味があります。士郎さん、私も話し合いに参加します」

 

 あ、これは茶々丸も詠春さんも何か盛大に誤解していそうだ。こういう時はどうせ誰も助けてくれないよなぁ。もう分かってるよ。

 

「ほな、いくで士郎さん」

 

「ああ、いいぞ」

 

 魔法陣の上で木乃香とキスをする。するとこれまで感じた事のないほどの魔力の光が巻き上がり、俺らを包み込んだ。光が収まった時には俺の手も、細かい怪我も全て完治していた。木乃香が狙われるのも納得がいく。

 

「えへへ、これからよろしゅう」

 

「終わりましたね。行きますよ」

 

「お手伝いしましょう」

 

 2人に両肩を掴まれて引き摺られる。きっと朝陽が見えるまで解放されないんだろうなぁ……ハハ……はぁ。




士郎、遂に歳も見た目も少女な木乃香に手を出してしまう。これは言い逃れが出来ない完璧なロリコンですね。
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