もうすぐ暑さも厳しくなるという事で今は校内全ての冷房器具の点検に当たっている。夏が来る前には終わらせる必要があるが、そう急ぐものでもない。のんびりと時間が余っている時を見計らっての仕事だ。
「やぁ衛宮さん、暇かな?」
「真名か。暇だったら仕事はしていない、と言いたいが時間が余っているからこれをやっているんだよな」
「なら付き合ってもらえるかな? 先の件での礼を頂きたい」
真名、クー、楓の3人は京都で協力してもらったという事で、俺が個人的にお礼をさせてもらう事を決めていた。まだ他の2人は何も言ってこないので、真名が初めてになる。
「何がいいんだ?」
「近くにケーキバイキングがあるんだ。そこに付き合ってほしい」
ああ、確かにこの中等部から歩いてすぐのところにケーキバイキングのお店が開店していた。戦闘慣れし、見た目が大人びた真名も年相応の少女という事か。それに俺にとっても都合がいい。あの店には興味があったが、一人では入れなかった。
「全く、カップル限定の日なんてものは作らないでもらいたいな」
「そう言うなよ。真名もその日限定のケーキ目当てなんだろ。俺も気になっていたんだ。礼を言うよ」
「それはそれは、どういたしまして」
毎週火曜日、あの店はカップルデーと称して男女のグループしか入れなくなる。まあ男女のグループなので男1人、女数人もその逆も構わない。しかしそのカップルデーという名称の為か、やはり男女のペアが圧倒的だ。
「いらっしゃいませ。お二人様ですか?」
「はい、席は空いていますか?」
「はい、すぐにご案内出来ます。当店のご利用は初めてですか?」
「「いいえ」」
「ではこちらの席へどうぞ」
このカップルデー以外なら来たことがある。真名も同じらしい。さて、限定のケーキとはどういう……あれか。巨大なハート型のイチゴのムースケーキか。普段からあるケーキにもハートのデコレーションが目立つ。流石はカップルデー。
「行こうか衛宮さん」
「ああ」
存分に解析(食事)させてもらおうか。
ーーーーーー
目の前でケーキを黙々と食べている衛宮さん。とても京都で見た人と同一人物とは思えない。鬼を屠っている時やあの神鳴流の剣士を切った時には私と同じ、いや私以上の暗く濃い戦場の匂いを感じられたものだが、今目の前にいる衛宮さんは善良な一般市民そのものだ。
「衛宮さん、聞いてもいいかな?」
「答えられる範疇なら」
「衛宮さんは昔は戦場にいたのかい?」
「ああ、そこそこな。NPOの一員として活動したり、個人でも色々とやったな」
嘘は言っていないが、深い部分は隠している。魔法使いとしての活動を言いたくない、とは考えにくい。何せ私も魔法側の人間というのは衛宮さんも知っている。今更隠す必要はない。だがどうせ下手に追及してもはぐらかされるのが落ちだろう。
「私も昔は戦場にいてね。もしかしたら会っていたかもしれないと思ったんだよ」
「うーん、ごめん。全く覚えがないな」
「謝る必要はないよ。私だって覚えていないという事は会っていないんだろうさ」
しかし不自然な人だ。NPOに所属していたというのなら、何かしら痕跡があってもおかしくはない。しかし彼が痕跡を残し始めたのは去年の三学期頃。それまでは影も形もなかったのだ。ある依頼でとことん調べたが、何も情報はなかった。あれほどまでに強く、そしてお人好し。こんな人が一切の情報がないとは信じられない。過去を消されたか、突然降って湧いたかでもない限りはこうはならないと思っている。
「どうしたんだ真名。食べないと損だぞ」
「ふふ、そうだね。少し取ってくるよ」
なるべく本人から情報を引き出したいが、どれだけ有益な情報を獲られるものか。
ーーーーーー
「悪いね衛宮さん、奢ってもらって」
「これくらいなら安いもんさ」
結局無意味な情報と既知の情報しか獲られなかった。戦闘同様に防御の固い人だ。
「あっと、忘れるところだっ…………はぁ、拳銃を取り出させてすらもらえないとは思わなかったよ」
「言ったろ。戦場にいたって」
私が懐に手を入れた時点では何が出るなんて分からないだろうに、それを止めるなんて未来予知でも出来るのかな。
「腕試しにすらならないなんてね。でもいいさ。本来の目的のケーキバイキングは楽しめた。また会おう、衛宮さん」
「またな。今日は楽しかった」
衛宮さんと別れてすぐにケータイに着信が届く。依頼主からだ。
「もしもし」
『もしもし。どうだったカナ? 何か情報は獲られたカナ?』
「残念ながら。でもそうだな、今晩の動向くらいは分かったよ」
『ホウ、教えてもらっても?』
「今晩は餃子パーティーらしい」
『……それは羨ましいネ』
「また情報が入り次第連絡する」
……私も今晩は餃子にしようかね。
何の収穫もありませんでした!!
日常回はまだ続けます。書くのがとても楽なんで、作者にとっての休憩回ですね。