夢(記憶)を見ました。士郎さんが聖杯戦争という殺し合いに参加する夢(記憶)、士郎さんがロンドンへ旅立つ夢(記憶)、士郎さんがマスターとは違う死徒という吸血鬼と対峙する夢(記憶)、士郎さんが疫病にまみれた村を殲滅する夢(記憶)、そして士郎さんが大切に想っていた間桐桜さんを手に掛ける夢(記憶)……
本来ガイノイドである私が見る事はない夢。士郎さんと契約したからこそ見た夢(記憶)。そのどれもが鮮烈で、記憶データに刻まれていきます。
士郎さんはどこでも人の為に動いていました。そしてより多くの人を救う為、人を殺していました。以前士郎さんが少しだけ話してくれた事。言葉で聞いたそれは実際には私のイメージ以上に凄惨で、救いのないものでした。人を救う筈の士郎さんに救いがない。それでも士郎さんは人の為に動きます。自身を度外視し、より確実に、より多くの人を救うその働きは、人というよりも私(機械)に近いものでした。
士郎さんの在り方は正しいものなのでしょうか? 私にはそれが分かりません。マスターに尋ねても答えてもらえないでしょう。ならば士郎さんの記憶を知っていて、かつ答えてくれる人に尋ねましょう。
「こんにちは、近衛学園長、お聞きしたい事があります」
「絡繰君だけとは珍しいのぉ。何かな?」
「士郎さんの記憶を、覗きました」
「……ふむ」
「士郎さんは自身が傷付き、また少数を殺して多数を生かしました。その在り方は正しいのでしょうか?」
学園長は無言で、深く考え込んでいます。そして口にした答えは私が予想だにしていないものでした。
「答えは出せぬ」
「えっ?」
「人の生き方に良し悪しはあれど、正解不正解というものはないとワシは考えておる。これは正義にも言える事じゃ。正義に善悪はない。衛宮君は正しく正義の体現者と言えるじゃろう」
「正義とは善ではないのですか?」
一般的に正義の味方とされるものは良い行いをした人々だ。マギステル・マギも同様。だから悪の魔法使いたるマスターにはマギステル・マギの資格はない。しかし学園長は正義に善悪はないと言った。思考回路が追い付かない。
「悪を成す事で正義となる事もある。衛宮君が人を殺したのもそれじゃ。先の大戦にてナギ達も多くの人を殺した。それでもナギはマギステル・マギと呼ばれておる」
「ですが士郎さんはそうではありません。寧ろ、迫害され恐れられていました」
「先程も言ったが、衛宮君は正義の体現者じゃ。善悪のない純粋な正義。自分の行い次第で、いやほんの些細な切っ掛けでいつ敵になるか分からぬ存在なのじゃよ。恐れられて当然じゃ。じゃが彼にはマギステル・マギとなるだけの資格はある。ただ、1人で頑張りすぎただけじゃ」
「……はい。それは理解できます。士郎さんはいつも1人でした」
「他に理解者であり協力者となる者がおらんかった。しかしこの世界ではそんな事は起こさぬ」
「同意します。士郎さんの傍に必ず私が立ちます。そして士郎さんを守ります。士郎さんが世界中の正義の味方ならば、私は士郎さんだけの正義の味方となります」
……いえ、きっと私だけでは足りない。私だけで士郎さんが守れるなら向こうの世界でも誰かが守れた筈。悔しいが私は力不足だ。誰かの協力なくして士郎さんは救えない。
「そうじゃな。身近な人ほど衛宮君を御しやすいじゃろう。木乃香やエヴァにも協力を頼んでみると良い。さて絡繰君の悩みは解消したかのぅ?」
「完全とは言えませんが、良い答えでした。ありがとうございます」
「フォッフォッフォッ、これでも学園の長。学園の者の悩みくらいは聞かねばのぉ」
士郎さんの近くには常に誰かが居なくてはなりません。士郎さんを独占したいという感情が以前の私にはありましたが、今は違います。みんなで士郎さんの手を握らなくてはなりません。やはり一番に協力を要請する必要があるのはあの人ですね。
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「突然呼び出して申し訳ありません木乃香さん」
「ええよ。ウチもちょうどエヴァ師匠に魔法習いにいくつもりやったし。それで茶々丸さん、どうしたん? 今日の夕飯の相談?」
「士郎さんについてです」
いつもほんわかと柔らかな表情をしている木乃香さんの顔が強張る。
「士郎さんを守る為に協力して下さい」
「……ウチ恋敵よ?」
「構いません。好きになった人を助けたいのです」
私の言葉に木乃香さんは大きく頷いてくれました。ああ、木乃香さんも同じ気持ちだったんだ。
「ええよ。ちょうどおんなじ事考えてたんや。士郎さんはほっときたくないんや。でもウチには力が足りへん。どうか茶々丸さんの力を貸して下さい」
伸ばされた木乃香さんの手を私はしっかりと握り締めました。士郎さん、どうか覚悟しておいて下さい。私も木乃香さんも、貴方の為に頑張ります。
40分で書き上げたので荒いかもしれないです。