剣と杖と先生   作:雨期

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感想の数が凄い多かったです。皆さん色々と期待や不安や愉悦があったと思いますが、かなーり丸く収めました。


第44話『オブラートに包んで』

「そういえば士郎さんって昔はどんな人だったんですか? 折角ネギ先生の過去を見たんだし、士郎さんの過去もちょっと見せて下さいよ」

 

 朝倉の言葉に何度も士郎の過去を見た木乃香と茶々丸は完全に凍り付いた。何の覚悟もなく偶然士郎の記憶を覗き見てしまった自分達が士郎との関係に悩み、思想すらも変えられてしまった記憶。軽い気持ちで見ては間違いなく自分達と同じになってしまうと感じていた。

 エヴァンジェリンは頭を抱えていた。女子中学生らしい無邪気で好奇心溢れた考えだが、止めなくては間違いなくトラウマとなり、士郎を嫌悪するようになる。そうでなくとも今の木乃香や茶々丸のようにどこか狂ってしまう。ただ頭ごなしに止めたとしても別の機会にまた見ようとするだろう。どう止めるべきか悩まされていた。

 ネギ、刹那、カモミールはかつて士郎が平然と人を殺そうとした事を知っている。そんな事がやれる士郎が過去にどれだけの人を傷付けてきたのか予想も出来ないが、それをほぼ一般人と言ってもいい生徒達が見るのは危険だと考えていた。

 明日菜は木乃香が士郎の記憶を見てから変わってしまったのを知っている。あんなにほんわかとした木乃香を必死に魔法の練習へと走らせ、士郎を傷付けてでも止めると言わせた士郎の記憶を見てはいけないと直感した。

 

 各々が朝倉の発言に危機的なものを抱いている中、当の士郎は作ってきた唐揚げを摘まみ口に放り込むと、はっきりと言い放った。

 

「見せるのは難しいけど、話すくらいならいいぞ」 

 

「えー、見せて下さいよ」

 

「血生臭い記憶が結構あるんだ。和美は良くても、のどかとかはそういうのに耐性ないだろ。そのアーティファクトを使う以上はのどかに配慮しないとな。それに女性関係のものもあってな……そういう場面は見せたくはない」

 

「あっ……し、士郎さんも大人ですもんね……そういう事もありますよね…………分かりました! お話で手を打ちましょう!」

 

 朝倉が妥協した事に心配していた面子はほっと胸を撫で下ろした。それと同時にネギ、刹那、明日菜、カモミールの4名は知らなかった士郎の記憶を知る機会だと思い興味を持った。

 

「さて、どこから話そうか」

 

「それじゃあ、士郎さんが魔法に関わった理由からお願いします! あっ、それとも士郎さんもネギ先生みたいに魔法の村みたいの出身ですか?」

 

「いやそんなのじゃないよ。始まりはネギ君に似ているかな。俺は昔、街を呑み込むような大火災に巻き込まれてね。そこで血の繋がった家族も、いたかもしれない友達も、そしてその前までの記憶も全部無くしたんだ。火災の中、なんとか生き延びていたけれど結局倒れて動けなくなった俺を助けてくれたのが魔法を教えてくれた爺さん。養父になってくれる人だったわけだ。後で知ったんだけれど、その火災も魔法が関係していたらしい」

 

 いきなり家族も記憶すらも失ったという言葉に記憶を知る者以外は驚きを隠せなかった。確かにネギも危機的状況を父親に助けてもらっている。流れとしては似たようなものだが、過程も結果も別物だ。ネギはまだ石化した村人を助けられるという希望がある。しかし士郎は全て失ったところから始まっているのだ。

 

「そんな爺さんも火災の影響ですぐ亡くなってさ。教わった魔法も間違ったやり方のもの。残ったのは夢くらいなものでさ」

 

「夢?」

 

「正義の味方という夢だ。爺さんが成りたくても成れなかった夢。それを今俺が引き継いで目指している。火災で全てを無くして空っぽの衛宮士郎は、そこで初めて生きる目的を見出したんだ」

 

 それは違う。それは衛宮士郎の目的ではなく父親の目的だと木乃香は言いたかった。しかし言える筈がない。もう士郎は後戻り出来ないところまで来てしまっているのだから。

 

「それから暫くして俺が高校三年に上がる前くらいだったかな。大火災を引き起こす原因となった魔法儀式が勃発してそれに巻き込まれたんだ。それが俺がこっちの世界へと踏み込む最大の要因となったものだ」

 

「周りに被害を出すなんてどんな儀式なんですか?」

 

「ネギ君の知るような魔法形態とは全くの別物なんだけど、7人の魔法使いが7体の特殊な使い魔を従えて戦う小規模な戦争。勝者は何でも願いの叶う道具が手に入るものだ。問題は7体の使い魔でな。どれも歴史に名を残した存在を召喚したものなんだ」

 

 伝説の存在を使い魔とする儀式。確かにネギには聞き覚えがないものだった。それに戦争とは穏やかではない。

 

「あの時参加していた使い魔は、アーサー王、クーフーリン、ギルガメッシュ、メドゥーサ、メディア、ヘラクレス、佐々木小次郎だ。みんなとてつもない強さでさ。今の俺でも敵うかどうか……」

 

「な、なんですかそのメンバー……」

 

「夕映、分かるの?」

 

「分かるですよ。日本では知名度の低い英雄もいますが、伝承通りの存在ならどの方も規格外です」

 

「その通りだ。その戦いで俺はアーサー王を使い魔にしてな。俺には勿体無い人だったよ。初めての命を掛けた戦い。その中で初めて人を殺した……そして戦争に勝利したんだ」

 

「……な、なら願いは叶えられたのですね!」

 

 士郎の人を殺したという発言に暗くなる周囲を気遣ってか刹那が話を進めようとする。勝ったならば願いの叶う道具が手に入った筈。しかし士郎は首を横に振った。

 

「あれは壊したよ」

 

「えっ!? こ、壊してしまったのですか!?」

 

「ああ。故障したものだったし、俺は叶えたい願いもなかったからな。アーサー王、セイバーも許してくれたよ。さあこれで俺の話は終わりだ。ご飯にしようか」

 

 みんなもっと聞きたい事もあったが、これ以上は答えてくれる雰囲気でもなかった為諦める事とした。朝倉だけは追加で質問しようとしていたが、木乃香と茶々丸に引きずられていった。

 

「ああ、そうだ。坊やと士郎には後で話がある。いいな?」

 

「えっ、分かりました」

 

「いいぞ」

 

 

ーーーーーー

 

 

 皆が寝静まった時間にネギと士郎はエヴァンジェリンの所へとやってきた。そこには木乃香、茶々丸、ついでにチャチャゼロもいる。

 

「以前坊やは士郎に人殺しは許せないと、士郎が見捨てた人を自分達が助けると言ったな」

 

「はい」

 

「言った以上はそれがどれだけ無責任か、そして困難か知らねばならぬ。貴様らの意見も聞いておこう」

 

「ウチは見るべきやと思うよ。士郎さんを手助けするのに士郎さんを知らんのはおかしいもん」

 

「私も賛成です。士郎さんがこれまで何をしてきたのか、何故人を殺さなくてはならなかったのか、それを知っておくべきです」

 

「楽シイモン見レルナラ何デモイーゼ」

 

「……みんながそういう意見なら俺は反対しないよ。でもネギ君、俺の記憶はかなり過激なものだ。無理はしないでほしい」

 

「大丈夫です! 僕もちゃんと士郎さんを知りたいです!」

 

 この時のネギは本気だった。ただ地獄を覗くには理解と覚悟が足りていなかったのだ。




ネギ君には地獄を見てもらいます!!
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