師匠の呪文で眠ってもらった士郎さんの意識の中へ、僕と師匠、それとチャチャゼロさんも入っていく。木乃香さんと茶々丸さんは万が一他の人が来ないように監視しているみたい。
暗い意識の中を泳ぐように沈んでいく。少しすると明かりが見えてきたけれど、そこで師匠がストップをかけた。
「坊や、まずは士郎の最初の記憶だが……士郎の話は覚えているな?」
「士郎さんが言っていた大火災、ですか?」
「そうだ。あれはかなりオブラートに包まれたものだ。私から言わせれば地上に這い出た地獄。そんな光景だ。準備はいいな?」
地獄……師匠がそこまで言うなんて、正直言って怖いけれど、それでも僕は見ないといけない。士郎さんを知る事が今の僕にやれる事なんだ。
「行けます」
「では見るぞ」
眼前に広がった光景。それを見て僕は悲鳴を上げていた。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?!?」
「落ち着け!!!」
「ひっ!? こ、これが、士郎さんの……」
真っ黒な太陽。そこから流れ落ちる真っ黒な泥が地上を焼き付くしていた。あれが何かは分からないけれど、とにかく怖いものだ。そして気が付く。僕くらいか僕より小さな男の子がたった一人でフラフラと歩いている。思わず駆け寄って手を伸ばしたけれど、すり抜けてしまった。
「戯け。これは記憶だ。触れん」
「この子が、もしかして士郎さんですか?」
「そうだ。全てを失った士郎の記憶の始まりだ」
「……初メテダゼ、言葉ヲ失ウッテノハヨ」
確かに士郎さんはそう言っていたけれど、こんな事が起こっていたなんて思ってもみなかった。
「うわっ!?」
近くに何かが転がってきた。黒焦げになっていたけれど、人の上半身だ。思わず吐き気が込み上げてくる。それを何とか飲み込んで、士郎さんを見る。生き残る為に歩いている。周りのもの全てを見ないようにして、聞こえてくるものに耳をふさいで、前へ前へと歩いている。僕は村の人が守ってくれ、お姉ちゃんも守ってくれた。士郎さんは本当に独りぼっちだ。でも限界が来て倒れてしまう。
「あっ……」
そこへ走ってきた男性が士郎さんを抱き抱える。その人はまるで自分が救われたかのように泣いていた。
「あれが士郎の養父だ。あいつに士郎は助けられ、憧れを抱くようになった。あの救われた顔が綺麗だったから憧れた。自分もああなりたいと思ったから、あの男の正義の味方という夢を引き継いだのだ……次の記憶に移るぞ」
「……はい」
また景色が暗くなり、そして全く違う場所へと出てきた。ここは学校? 夜のグラウンドだ。そこでは誰かが戦っている。凄い速さだ。
「あ、あれ……士郎さん!?」
「いいやあれは士郎であって士郎ではない」
朱色の槍を持つ男性と戦っているのはどう見ても僕の知る士郎さんだ。でも師匠の言う意味がよく分からない。士郎さんなのに士郎さんじゃない?
「士郎が言った戦争。正確には聖杯戦争というが、士郎はあそこに参加した使い魔を1体隠していた。それがあそこにいるアーチャー、英霊エミヤ。英雄となった衛宮士郎だ」
「士郎さんが、英雄に?」
「アンダケ強ケリャ英雄ニナッテモオカシクネーヨナ」
士郎さんが言った伝説上の人々の中に、士郎さん自身も入るなんて……今僕らの傍にいる士郎さんもいずれはああなるんだろうか。
『誰だ!?』
槍を持った人が何処かへ走っていく。あっ! あの制服の人はもしかしてこの時代の士郎さん!? 間違いない。さっきの男の子と同じ髪色をしている。僕らもその姿を追い掛けていく。
『悪いがこれも仕事だ。運がなかったと諦めてくれや』
「あっ!!」
し、士郎さんが心臓を刺された……流れ出る大量の血。致命傷だ。そこへ女性がやってきた。手に持った宝石を士郎さんに当てて呪文を唱えると士郎さんの傷が塞がっていった。良かった。士郎さんは死なずに済んだんだ。でもさっきの士郎さんの始まりといい、今といい、士郎さん、ううん、人ってこんな簡単に殺されてしまうの?
無事に目を覚ました士郎さんは家に帰ったけれど、また槍を持った人の襲撃に遭う。さっきの女性はもういない。追い込まれて蔵に入った士郎さん。逃げ場を無くした士郎さんに迫る槍。その瞬間に誰かがその槍を弾いた。
『問おう。貴方が私のマスターか?』
「坊や、あれがアーサー王だ」
「アーサー王……って女性ですよ!?」
「そういうものだ。受け入れろ」
「ヒュー、ツエー」
昔から何度も物語で見てきたアーサー王が女性だったなんて……もしかしてあの槍の人はクーフーリン? アーサー王とクーフーリンの戦いなんてどんなお伽噺にも語られない。
そこから見られた様々な戦いもどれもが僕の常識を上回っていた。英霊、宝具、そして……魔術。これだけ見せてもらったなら分かる。
「士郎さんは、僕らとは違う世界から来たんですね」
「そうだ。しかし世界は違えど人の在り方、魔法の危険性は変わらん。そして正義の形もな……」
記憶は止まらない。大火災の原因、聖杯の真実、それらを知った士郎さんとアーサー王、セイバーさん。2人は前聖杯戦争の生き残りギルガメッシュとそのマスターの神父を打倒し、聖杯の破壊に成功した。
『セイバー……』
『最後に、1つだけ伝えないと……』
『……ああ、どんな?』
『……シロウ、貴方を……』
士郎さんは聖杯戦争で多くの戦いを経験し、多くのものを失って、そして多くのものを得た。
僕は自分を犠牲にして誰かを助けようとする士郎さんの生き方を見せ付けられた。歪んだ、でも正義の味方として正しいんじゃないかと感じる生き方。
「さて切っ掛けは終わった。ここから士郎は正義の味方として動き出す。本番はここからだぞ、坊や」
今回はかなり駆け足になっていますが、エヴァの言ったように次からが本番です。自分オリジナルの士郎のお話になりますので、書くのに少しお時間頂くかもしれません。