剣と杖と先生   作:雨期

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二週間ぶりに戻って参りました!!脳と体を休めて書いていました。
オリジナルで書くって本当に難しい。しかも今回だけで終わらなかった士郎の過去編。次も頑張ります。


第46話『別れ』

 衛宮士郎は聖杯戦争後、卒業してすぐに海外へと飛び立った。姉のような存在であった藤村大河には『血は繋がってなくても切嗣さんの子ね』と呆れられ、妹分の間桐桜からは『家の事は任せて、先輩は頑張って下さい』と笑顔と涙で見送られ、そして聖杯戦争で出逢った義理の姉のイリヤスフィールには『キリツグみたいになっちゃ駄目よ』と注意を受けた。

 まず向かったのはロンドン、魔術師達の住まう時計塔。聖杯戦争を共に戦った遠坂凛も一緒だった。士郎は彼女の付き人として時計塔で暫く世話になる事となった。魔術は聖杯戦争で多少は使えるようになったものの、まだまだ未熟。戦闘で難なく使える程度には鍛練をしておきたかった。

 

「投影(トレース)、開始(オン)…………ふぅ、どうだ遠坂」

 

「相変わらず投影だけは反則ね。アーチャーの干将莫耶をここまで完璧に投影するなんて」

 

 ロンドンで過ごして約1年。士郎が得意とする強化、解析はかなりの精度となり、そして特異な投影は神秘の特にない刀剣なら一瞬で、宝具だろうと時間を掛ければほぼ完璧な形で投影可能となっていた。

 

「そりゃどうも……これだからここまで出来るっていうのもあるけどな。遠坂も気が付いているだろ。あいつは、俺だって」

 

「……ええ、夢であいつの記憶を見たからね。ごめんなさい士郎、黙っていて」

 

「いやいいんだ。遠坂だって俺を気遣っての事だろ。気にしてないよ。さてそろそろバイトの時間だ。行ってくる」

 

「いってらっしゃい。ルヴィアにコキ使われるようなら帰ってきてもいいわよ」

 

「はいはい」

 

 魔術の鍛練をし、執事のバイトをし、時折ボランティアとして各地を巡る。そんな日々を送っていた。時折魔術協会から魔術師の処分を依頼され、凛と共に依頼をこなす事もあった。

 ある辺境の村をまるごと工房にした魔術師を始末した。若い魔術師を誘拐しその肉体を様々な道具に作り替えていた魔術師を始末した。それらは非人道的故に処分を命じられたものではなく、ただ協会にとって邪魔だっただけだ。士郎もどちらかといえば協会の邪魔になるものだが、凛の弟子として協会の意向に従う限りは有益な戦力として見逃されていた。

 協会からの依頼を何度も受けているうちに士郎の疲れも目に見えるようになっていた。人を救いたいと願う彼が魔術師といえど誰かを殺す事に加担するのはかなりの負担だったのだろう。そんな彼を見た凛はある提案をした。

 

「ねぇ士郎。一度冬木に帰ったら?」

 

「帰ったらって、確かにもう1年くらい経つからみんなの顔を見たいってのはあるけど、遠坂は来ないのか?」

 

「今は協会への報告とかを纏めないといけなくてね。ちょっと士郎だけでもみんなの様子を見てきてもらおうと思ったのよ。私も余裕が出来たら一度帰るわ」

 

「そういう事なら行ってくる。また向こうに着いたら電話するよ」

 

「ええ、待っているわ」

 

 凛に勧められての帰郷。久しぶりに自宅に電話をするとすぐに大河が電話に出た。帰郷について伝えると五月蝿いくらいに喜び、遠くでイリヤの怒鳴り声が聞こえてきた。その様子に向こうは平穏なのだと士郎は思わず笑みをこぼしていた。

 チケットを取り、3日後に冬木の地へと足を踏み込んだ。この3日という期間さえなければあのような事はなかったのかもしれない。

 

 

ーーーーーー

 

 

「冬木も久しぶりになるのかな。あれから1年か。長いような短かったような……」

 

 過ごしてみると1年は短かったけれど、季節が一周するまで冬木を離れる事なんてなかった。でも定期的に連絡はいれていたからみんなが元気なのも知っている。それもあってあんまり懐かしい気分にもならない。

 だが足を踏み込んだ瞬間、何か違和感を感じた。空気が違うというか……嫌な予感がする。走って家に向かう。

 

「……なんだこれ」

 

 異様な魔力を感じる。未熟な俺でも理解出来るくらいの魔力。これは過去にも感じた事がある。サーヴァントの魔力だ。聖杯戦争は終わった筈。だというのになんでうちからサーヴァントの魔力を感じるんだ!

 

「藤ねぇ!! 桜!! イリヤ!!! どこだ!?」

 

 玄関から飛び込んでみんなを探す。魔力はこっちか! 感じる気配は3つ。1つはサーヴァントだろう。3人のうち誰かが家にいないのか?

 

「セイッ!!」

 

「シロウ!!」

 

「! イリヤ! 藤ねぇ!! てめぇ何しやがった!!」

 

 戸を蹴破って気配のする部屋に向かうと藤ねぇが倒れていて、イリヤがサーヴァントに抱えられていた。藤ねぇの腕は折れていて気も失っている。イリヤは無傷のようだが、あのサーヴァントはなんだ!? まるで影。人の形はしているが、真っ黒で何者なのか判別出来ない。でもその武器は理解出来る。槍、それもゲイボルグ? つまりはあいつはランサーなのか?

 

「うおぉぉぉっ!!!」

 

 干将莫耶で斬りかかるが、やはり速い。回避されるとそのままイリヤを連れたままランサーは逃げていった。

 

「くっ、待ちやがれ!!」

 

「し、ろ……」

 

「藤ねぇ! すぐに手当てを」

 

「私は、平気だから……イリヤちゃんを助けて」

 

「……ああ、行ってくる」

 

 本当は藤ねぇを助けてやりたい。でもここでイリヤを追わないと何があるか分からない。イリヤが無傷で拐われたのは何か理由がある筈。

 家から出てあのランサーを探す。視力を強化するとすぐに見つかった。まるで追ってこいとでも言わんばかりの速度で逃げている。あの方角は柳洞寺か。あの寺で思い出すのはキャスター。サーヴァントでありながらサーヴァントを使役していたあいつのような奴が今回もいるのか? しかし聖杯戦争がまた始まったなんて聞いていない。

 

「!? あれは……」

 

 階段の下から門を通っていったランサーの姿が見えた。そして門前には誰かが立っている。あれもサーヴァントだ。あの長刀。まさかあのアサシンと同じ奴か? だがあいつも黒い影だ。

 

「投影(トレース)、開始(オン)」

 

 あいつが前回の聖杯戦争と同じアサシンなら遠距離攻撃に対して対抗する手段がない筈。それにあいつは門から離れられない。ここからなら一方的に攻撃出来る。

 投影した矢をつがえ、放つ。しかし仮にもサーヴァント。通常の矢では全て斬り落とされてしまった。魔力は温存しておきたかったが、そうも言っていられないな。カリバーンを投影し、矢として放つ。アサシンの長刀と触れた瞬間にカリバーンを爆破させた。門ごとアサシンは消し飛んだ。すまん、一成。

 妨害する者もいなくなった階段を掛け上がる。柳洞寺の境内は不自然なまでに静かだ。門が消し飛ぶような爆発だぞ。誰か来るのが普通だ。

 

「ガッ!!?」

 

 か、らだが、重い!? まるで重力を何倍にもされたようだ…………みつ、けた……上空を飛ぶキャスターらしき影。あの杖にも見覚えが、ある。柳洞寺のみんなが出てこないのも、こいつの仕業か。

 俺を捕らえたと判断したのか降りてくるキャスター。それは迂闊だぞ。

 

ーー投影(トレース)、開始(オン)

 

 複数の剣を創造し、溜め込む。

 

ーー憑依経験、共感終了。工程完了(ロールアウト)。全投影(バレット)、待機(クリア)

 

 呪文は決して口にはしない。あいつが俺の間合いに入った瞬間が勝負だ。

 

「停止解凍(フリーズアウト)、全投影(ソードバレル)連続層写(フルオープン)!!!」

 

 上空より無数の剣の雨を放った。だが瞬間、キャスターの姿が消えた。転移魔術か。しかしそっちに意識がいった事によって重圧は消えた。干将莫耶を投影し、気配のした背後に投擲する。

 

「そこだ!!」

 

 杖によって干将莫耶は弾かれたが、連続して投擲をする。それも弾かれるが構わない。転移魔術を行わせない為の攻撃だ。息つく暇もなく矢を放つ。

 

「投影(トレース)、ぐっ……開始(オン)!!」

 

 俺が投影した干将莫耶に惹かれ、先に投擲した4本の干将莫耶が俺へと飛んできて、その間にいたキャスターの背中へと突き刺さった。落ちてくるキャスターに自らの手で止めを刺した。

 

「くっ、はぁはぁはぁ……」

 

 連続して投影した代償だろう。頭痛が酷い。魔力もかなり使ったからか体も重い。でもイリヤが待っている。行かないと。ランサーは、あっちか? ここまではっきりと気配がするなんて、間違いなく誘っている。

 しかしアサシン、キャスターというあまり強力とはいえないサーヴァントとはいえ、こうも易々と倒せたのは何故だ? 確かに俺は1年前より強くなっている。でもサーヴァントには程遠い。アサシンは弱点を突いたからともかく、キャスターはあいつのフィールドでの戦いだ。もっと不利になって、負けてもおかしくはない。こいつらは本当にサーヴァントなのか? 力はあるが、考える力のない、まるで人形のようだった。

 ランサーの気配を追って辿り着いたのは巨大な洞穴だった。柳洞寺にこんな場所があったなんて。中からは禍々しいほどの魔力が漂ってくる。それに怯んでいる暇はない。一歩踏み込むと、中から何かが飛んできた。

 

「フッ!!」

 

 干将莫耶で弾いたそれは鎖付きの杭。ライダーか。こんな洞穴の中で蜘蛛のように自在に動くあいつの相手なんて手間だぞ。逃げる? いや間違いなく追い付かれる。ここで対処する他ない。

 

「…………」

 

「やっぱりライダーか。ここを通してもらうぞ」

 

「……サ」

 

「?」

 

「…サ、ク、ラ……タス、ケテ……」

 

「お前……何を、うっ!?」

 

 強烈な蹴りを何とか防ぐ。こいつ、さっきまでのサーヴァントと同じ影だが、自我があるのか? 何故桜を助けてと言うんだ。いやそれよりも、桜がここにいるって言うのか?

 両手に持った杭で攻撃を仕掛けてくるが、明らかに鈍い。俺でも防ぎきれる。

 

「サク、ラ……」

 

 そういえばライダーは慎二のサーヴァントだったか。その時桜と知り合っても不思議じゃない。でもサーヴァントってのは新しく召喚されると前の記憶はなくなるんじゃなかったか? 正確には記憶ではなくて記録になるんだったか。なんであれ新しく召喚されたライダーなら桜にここまで執着するのも妙だ。

 だがこいつの言う事が正しく、もし桜が危機に瀕しているというならば俺の答えは1つしかない。

 

「どういうつもりか知らないが、桜だって俺の家族だ。必ず助けてやる。そこをどけライダー」

 

 攻撃の手が止んだ?

 

「アリ……ガト、ウ」

 

「! 待て!!」

 

 俺の制止を無視し、ライダーは手に持った杭を心臓へと突き刺した。倒れ、魔力となって消えていく。何が何だか分からないが、この先にはイリヤだけじゃない。桜もいるんだ。そして恐らくサーヴァント達は皆第五次聖杯戦争のサーヴァント。まだ出会っていないのはアーチャー、バーサーカー、そして……

 

「お前もいるのか? セイバー……」

 

 

ーーーーーー

 

 

 不気味なくらい静かな洞穴を進んでいく。禍々しい魔力はどんどんと濃くなるというのに、何も起こっていないのが逆に不気味だ。

 

「光だ」

 

 暗かった道から一転、開けた場所へ出た。かなり広く、そして中央には巨大な窪みと俺もよく知るものがあった。あれは、聖杯だ。そしてその前には3人の人と3騎のサーヴァントがいる。イリヤ、桜、そして小柄な老人。桜の爺さんの間桐臓硯だったか?

 

「むっ? 衛宮の小童? 何故ここにおる? 桜よ、お前が連れてきたな」

 

「あんた、桜のところの爺さんか? なんでこんな場所にいる!! イリヤを拐ったのもあんたか!? 桜を何故連れてきた! 目的はなんだ!!」

 

 イリヤは拐われてここにいて、桜は目が虚ろだ。ちゃんと意思があるのはこいつだけ。黒幕はこいつと考えるのが打倒だろう。

 

「カカカッ、誘拐は正確には桜がやった事。儂は指示を出したに過ぎん。桜がおらねば計画は果たせぬ故に桜がおる。目的は単純明快。大聖杯の起動じゃよ。さて満足かの?」

 

「大聖杯?」

 

「儂らの後ろにあるものじゃ。このアインツベルンの小聖杯と違い、大元となる聖杯。無論、力も小聖杯の比ではない」

 

「だがそれもこの世全ての悪(アンリマユ)に犯されている! そんなものどうするつもりだ!」

 

「どうするもこうするも願いを叶えるに決まっておろう。不老不死の願いを」

 

 こいつ、そんなもののためにイリヤと桜を利用するつもりか。

 

「シロウ! サクラは聖杯と繋がっているわ。この影のサーヴァントを召喚して使役しているのもサクラよ! こいつらは第五次聖杯戦争で聖杯に呑み込まれたサーヴァントの複製よ! また造り出されるかもしれないわ!!」

 

「なんで桜が聖杯と……てめぇの仕業か!」

 

「その通り。儂が小聖杯の欠片を実験的に埋め込んでおいたのじゃ。よもや起動するとは思わなんだが、嬉しい誤算というやつじゃ。とはいえ桜だけでは限界もある。その為のこの小聖杯じゃ」

 

「ふざけんじゃ、ねぇ!!!」

 

 投げ付けた干将莫耶は控えていたバーサーカーによって弾かれる。

 

「桜、こやつを殺せ」

 

「…………」

 

「桜! こんなやつの言う事は聞くな!! 一緒に帰るぞ!!」

 

「せん、ぱい……もう遅いんです」

 

「えっ?」

 

「ぬっ!? 桜! 貴様何っ……」

 

 ……間桐臓硯が影に呑まれた? 桜はあいつに操られていたんじゃ……

 桜の姿が変わっていく。髪は白く、服は黒に赤の縦縞の入ったどこか禍々しいものに。あれはアンリマユだ。

 

「……しつこいですねお爺様」

 

 桜は自分の胸に腕を突っ込んだ。言葉も出せず呆然としている俺をよそに自身の内側をまさぐっている。そして抜いた手には小さな蟲が摘ままれていた。

 

「憐れですね。こんな蟲にまでなって生きているなんて」

 

ーープチュッ

 

「憐れ過ぎて、つい慈悲を与えてしまいましたよ」

 

「サクラ、貴女……呑まれたわね」

 

「元々ですよイリヤさん。折角お爺様が用意して下さいましたし、イリヤさんも頂きます」

 

「桜! やめ」

 

 イリヤも影に呑まれた……どうして……なんでこんな事に……

 

「……桜ぁっ!!!」

 

「怒っているんですか先輩。でも私も怒っているんですよ。先輩、私を捨てて姉さんと出ていっちゃうんですもの」

 

「姉、さん?」

 

「聞いていませんか? 酷い姉さん。遠坂凛。あの人が私の実の姉です」

 

 遠坂と、桜が、姉妹? もう訳が分からない。だけど、今の桜を止めないといけないのだけは分かる。きっと言葉では止まらない。

 

「投影(トレース)、開始(オン)」

 

「先輩では勝てませんよ。でも安心して下さい。先輩は殺しません。ずっと傍にいてもらいます。やりなさい、バーサーカー、ランサー、アーチャー」

 

 向かってくる3騎の英霊。バーサーカー、ランサーはあまりにも真っ直ぐで行動が読みやすい。だがアーチャーの野郎は違う。ライダーと同じだ。自我を失っていない。バーサーカーの股を潜り、ランサーの槍を受け流してアーチャーへと斬りかかる。

 

「ハァッ!!!」

 

 アーチャーも干将莫耶で防ぐ。同時に何かが俺の脳内へ流れ込んできた。これは、こいつの記憶? 無数の人を殺し、殺し、殺し殺し殺し殺し殺し殺し、そしてその何倍もの人を救った。

 

「……衛宮士郎、間桐桜を救うのは不可能だ。殺せ」

 

 ! こいつ、自我があるだけじゃなくまともに話せるのか! イリヤの言葉通りならこいつらは聖杯に一度呑まれた存在。アンリマユに犯されている筈だが、過去にアンリマユを打ち破った俺の未来の存在なら耐性があってもおかしくはないという事か。しかし桜を殺せだって?

 

「ふざけるな!! 俺は桜を救う!!」

 

「間桐桜を殺さねば、多く人が、世界が死に絶えるぞ。間桐桜を1人殺せば多くの人が救われる」

 

「誰がそれを信じるかよ!!」

 

 斬り合う度に流れ込んでくる記憶。こいつの言う事はきっと正しい。そう思ってしまう。いや事実正しいのだろう。そしてその行為は、正義の味方としても正しい。

 

「っ!」

 

 直線的とはいえランサーとバーサーカーは厄介極まりない。ランサーは素早く、バーサーカーはその一撃がかするだけでも瀕死となる。そしてアーチャーは俺の延長線上に立つ未来の存在。理性的なこいつは付け入る隙がなく今の俺よりも確実に強い。何より面倒なのがアーチャーと斬り合う度に流れ込んでくる記憶。戦いに集中しないといけないのに、こいつのせいで俺の価値観が揺らぎかけ、心が折れそうになる。

 

「うおぉぉぉぉっ!!!!」

 

 ああ、こいつは、英霊エミヤは正しい。正しいからこそ道を踏み外す事もなく、人に理解されない正義を貫いた。俺も、いずれこいつと同じ道を…………だからどうした。今は俺の未来なんてどうだっていい。桜を救うんだ。桜を

 

「ぐあっ!?」

 

 右脚を槍で貫かれた。機動力が落ちたところへバーサーカーの斧剣が迫る。何とか防御は出来たが、焼け石に水だ。干将莫耶は砕け、俺の腹も引き裂かれた。吹き飛ばされて転がる。腹が熱い……内臓はギリギリ零れていないが、出血が激しい。魔力もほぼ尽きた。投影出来たとして、干将莫耶一組が限界。

 

「それくらいでいいです」

 

 ランサーとバーサーカーは桜の制止で止まった。アーチャーは元々追撃するつもりはなかったらしい。だがあいつの目は俺に訴えかけてくる。桜を殺せ、と。本来ならあいつがやるんだろうが、桜には逆らえないんだろう。それで俺か。俺は救うと決めているのに……

 

「諦めましたか先輩。そうして大人しくしていて下さい。すぐイリヤさんと同じ場所へ連れていってあげますよ。その後は藤村先生、帰ってきたら姉さん、学校の皆さん。先輩の知り合いはみーんな私の中に仕舞ってあげます」

 

 俺だけならどうしてくれてもいい。でも他の誰かが巻き込まれるのは許せない。例えそれが桜のやる事だとしてもだ。

 

「……駄目だ……」

 

 生命力を無理矢理魔力へと変換する。腹部に鋭い痛みが走る。剣が体から生えて傷口を塞ぎ始めている。これで、なんとか立ち上がれ

 

「止めなさいランサー」

 

「ぐっ、うあぁあぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 残っていた左脚も貫かれる。それだけでなく、両腕も。這いずる事すら許されない。

 

「先輩の我が儘は認められません。さあ、眠って下さい」

 

 足元から黒い泥に呑まれていく。死の呪詛が全身に浴びせられる。1年前にも経験したアンリマユに呑まれる感覚。あの時はまだ動ける状態だったし、アヴァロンにも助けられた。でも今は出血多量でろくに動けず、助けてくれるものもない……ああ、それでもやっぱり認められない。誰かが犠牲になるのも……桜を人殺しにするのも、認められない!!

 

「あ………………」

 

 光が、見えた。まるで地球のような大きく、丸い光。それが何か語りかけてくる。何と言っているのか分からないのに、理解出来てしまう。きっと、この力があれば……

 

「我が死後を預けよう、抑止力」

 

 途端に沸き上がる力。怪我も完治している。成る程、随分とサービスがいいじゃないか。泥から飛び出し即座にその場を離れる。敵はサーヴァント3騎と聖杯。うち1騎は十二の試練により命のストックのあるヘラクレス。これらを対処するならば俺の持つ唯一の魔術が最適解だろう。成功した事のない大魔術だが、世界と契約した今なら難なくこなせる。

 

「I am the bone of my sword.(体は剣で出来ている)」

 

「そんな! 動ける筈がないのに! 先輩を止めなさい!!」

 

「Steel is my body, and fire is my blood.(血潮は鉄で 心は硝子)」

 

 迫ってくる3騎のサーヴァント。アーチャーはやる気を感じられないが、他の2騎は違う。本気で殺すつもりできている。だというのに怖くもなんともない。彼らは、こんなにも遅かっただろうか。

 

「I have created over a thousand blades.(幾たびの戦場を越えて不敗)」

 

 投影した干将莫耶は溢れんばかりの魔力を受け姿を変える。巨大化したそれでバーサーカーの胴を薙ぎ払う。

 

「Unknown to Death.(ただの一度も敗走はなく)Nor known to Life.(ただの一度も理解されない)」

 

 ランサーの突きを跳んで交わし、槍を足場にランサーへと飛び膝蹴りを放つ。

 

「Have withstood pain to create many weapons.(彼の者は常に独り 剣の丘で勝利に酔う)」

 

 アーチャーは攻めてこない。俺がどうするか見定めるつもりだ。

 

「Yet, those hands will never hold anything.(故に、生涯に意味はなく)」

 

 桜はどうすればいいのか理解出来ずに混乱している。瀕死だった男が突如としてサーヴァント3騎を相手に互角以上に立ち回っているのだ。戦闘経験のない桜にはこの状況を打破する知識はない。

 

「So as I pray, unlimited blade works.(その体は、きっと剣で出来ていた)」

 

 世界が塗り替えられる。無限に広がる剣の丘。無限の剣製。十二の試練を突破する武器は元々殆ど持ち合わせていなかったが、アーチャーの記憶からいくらかは補完した。これでさっきよりはずっと有利になった。究極の一を持つ英霊からすればこの世界は厄介なもの程度になるだろうが、こいつらは所詮英霊の影。コピーのコピー。そんな劣化品ならばこの固有結界でも十分だ。

 

「こ、れは……もう何だっていいです! 先輩を止めなさい!!」

 

 向かってくるランサーとバーサーカーへ丘に刺さっていた剣を掃射する。ランサーは回避しているが、バーサーカーには次々と剣が突き刺さる。その一つ一つが命を奪うには十分な威力を有している。

 

「ハァッ!! セヤッ!!」

 

 ランサーとは直接斬り合う。時に長剣、時に槍、時に刀。数多の武器を扱い徐々にだがランサーを攻めていく。どうやら身体能力は今は俺が上回っているようだ。

 

「■■■■■■■■■!!!!」

 

 バーサーカーも到着したか。命はかなり消費したようだが、まだ無事か。しかし連携も何もない攻撃では、いくら強力な英霊2騎の攻めでもそう恐ろしくはない。むっ、アーチャーがつがえているのは……カラドボルグか!!

 

「偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)」

 

「熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)!!!」

 

 ランサー、バーサーカーを巻き込みながら飛んでくる螺旋の矢を7枚の花弁で受け止める。空間すら引き裂く威力の矢だが、投擲武器に対して圧倒的防御力を誇るアイアスによって防ぎきる。とはいえ花弁も最後の1枚まで削りきられてしまったが。

 ランサーは今の一撃で即死。バーサーカーの命も1つは持っていったな。しかしあの野郎、援護と同時にあわよくば殺しに来やがった。

 

「何をしているんですかアーチャー!!」

 

「これが最も効率的と判断したまでだよ。戦力の補充なら君の手でいくらでも出来るだろう」

 

「先輩の未来の姿と思って甘くしていましたが、貴方のような使えないサーヴァントは不要です。消えなさい」

 

 桜の影に呑まれるアーチャー。影のようになっていたあいつの表情なんて分かる筈もないのに、嗤っているのが理解出来てしまった。

 

「■■■■!!!」

 

「残りはあんただけだな、大英雄」

 

 狂化してなお優れた武を披露したバーサーカーの姿はもうない。今目の前にいるのはただ力を振り回すだけのデカブツ。最初の干将莫耶での一撃に剣の掃射、そしてアーチャーのカラドボルグで最低でも3度殺している。残り9回か。かつてカリバーンで7度殺したが、あれはセイバーという本来の担い手あっての力。俺だけではそうはいかない。

 

「そこだ!!」

 

 様々な武具で殺すのがいい。メロダックで首を断ち斬り、グングニルで心臓を貫き、バルムンクで両断する。ギルガメッシュの宝物庫から見たもの、アーチャーの記憶によって補填されたもの、持ちうるAランクの宝具をぶつけていく。

 だが流石はバーサーカー。何度殺されても怯まず向かってくる。いくら身体能力が向上していてもあれに掴まれたらお陀仏だ。

 

「セイバー、また力を借りるぞ」

 

「■■■■■■■!!!」

 

「終わりだ!! 勝利すべき黄金の剣(カリバーン)!!!」

 

 あの時の再現のように、カリバーンはバーサーカーの胸へと深々と突き刺さった。命が全て尽きたバーサーカーはまるで乾いた泥のようにボロボロと崩れていった。

 ここまでやって回路はまだ万全。固有結界の維持も問題ない。理由は簡単だ。ガイアとアラヤ、2つの抑止力が背中を押している。世界にとって危険な存在となる桜を殺せと言ってくる。

 

「桜」

 

「まだ、まだです! サーヴァントなんていくらでも」

 

「もう帰ろう」

 

「……えっ?」

 

「藤ねぇには一緒に謝ってやる。イリヤの事は、また後でおもいっきり叱ると思う。でも今はもう帰ろう。間桐の爺さんも死んだんだ。桜はもう自由なんだよ」

 

「…………本当に、先輩は優しいですね。でももう日常には帰れないんですよ。アンリマユが私の内にある以上、同じ事を起こします」

 

「ならそいつを排除すれば」

 

「無理なんです。私の魂をしっかりと呑み込んじゃっていますから。ですから先輩、正義の味方にお願いです。私と聖杯を壊して平和な世界にして下さい」

 

「そんな事出来るか! 俺じゃあ何も出来ないかもしれないが、遠坂だって近いうちに帰ってくる。その時になれば」

 

「それは時間が足りません」

 

 桜がそっと指を指す。その先には大聖杯から漏れ出す黒い泥が広がっていた。そしてそこから影のサーヴァントが産み出されようとしているのも分かる。

 

「今はまだ先輩の結界内ですが、これも何日も維持出来るものではないでしょう? 泥が外に溢れれば世界が汚染されます。イリヤさんが教えてくれたんです」

 

「イリヤ、が?」

 

「元々小聖杯であるイリヤさんは私の中でまだ生きています。そのイリヤさんが現状を何とかするには大聖杯を破壊するしかないと言っています。そして大聖杯を破壊すれば、聖杯と繋がっている私も……」

 

「…………でも、それじゃあ桜も、イリヤも……」

 

「……ごめんなさい先輩。最後に辛い役目を押し付けてしまって。でもこうするしかないんです。先輩、帰ろうと言ってくれた時、本当に嬉しかったです。嬉しくて嬉しくて、アンリマユを押し退けてこうして先輩と話す事が出来ました。ありがとうございます、先輩。イリヤさんも助けに来てくれて嬉しかったって言っています。どうか、私が私であるうちに最期を……」

 

「……ごめん桜。後輩にこんな気遣いさせるなんて駄目な先輩だな。しかも大切な人も守れないなんて、正義の味方失格だ」

 

「いいえ、先輩は正義の味方です。だって今から世界を救うんですから」

 

「……投影(トレース)、イマージュライナー」

 

 俺は、今から桜とイリヤを殺す。大切な人を殺して、世界を救う。こんな正義しか行えない自分を殺したくなる。

 セイバー、こんな情けない俺が君の剣を使うなんて許されないと思う。でも大聖杯の破壊にはこれしかないんだ。ごめん。

 手に握られた剣はエクスカリバーに限りなく近い贋作。彼女の剣には遠く及ばないが、それでも大聖杯を砕くには十分な剣。それを振りかぶり、持てる限りの魔力を籠める。

 

「桜、イリヤ、さようなら」

 

「はい、お元気で。先輩」

 

「……永久に遥か黄金の剣(エクスカリバー・イマージュ)!!!!」




士郎の詠唱がアーチャーと同じなのは世界と契約した為。
エクスカリバー・イマージュは、その、作者の勢いで使わせました。
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