剣と杖と先生   作:雨期

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ちょっとずつ更新ペースを戻しますよ


第47話『正義』

 桜とイリヤを殺した。最期の桜が言っていたイリヤの言葉というのは本物か分からない。もしかしたらイリヤは既に死んでいて桜が俺の為に嘘を言っていたのかもしれない。でも大聖杯の中にいたであろうイリヤを大聖杯ごと破壊したのは俺だ。

 そして桜は今俺の隣で眠るように死んでいる。髪も服も元に戻っているが、胸には穴が開いている。あの蟲を抜き出した時に既に桜の肉体は死んでいたのだろう。そして俺が止めを刺した。

 暫く声も出さず、涙を流し続けていた。だがいつまでもそうしてはいられない。桜は俺を正義の味方だと言ってくれた。ならそれに恥じない行動をしなくてはならない。人々を救う。世界の為に、俺は動かなくてはならない。桜を殺してまで手に入れた世界の平穏を脅かしてはならない。

 

「行ってくるよ、イリヤ」

 

 桜を背負い、大聖杯のあった場所へそう告げて俺は外へ出た。冬木に帰ってきた時には夜だったが、もう外は明るくなっていた。丸一晩ここで過ごしてしまったか。

 

「遅くなったが、帰ろう桜」

 

 もう返事は聞こえてこない。背中にも温もりを感じる事はない。俺が奪ってしまったから。

 家に戻るなんて事は出来なかった。藤ねぇに合わせる顔がなかった。間桐の家の電話を使って遠坂へ連絡を入れる。

 

『もしもし?』

 

「遠坂か。俺だ」

 

『あら士郎、連絡が遅かったんじゃないの?』

 

「すまない…………落ち着いて、聞いてもらいたい事がある」

 

『何か、あったのね』

 

 俺が冬木に戻ってきてからの事を全て伝えた。サーヴァント達との戦闘、世界との契約、大聖杯の破壊、そして、イリヤと桜を殺した事。遠坂は何も口出しする事なく静かに聞いてくれていた。

 

「……俺じゃあ、イリヤも、桜も、守れなかった」

 

『いいえ。士郎はよくやったわ。冬木のセカンドオーナーとして、そして桜の姉として礼を言わせて頂戴。ありがとう』

 

「……」

 

『大聖杯については近いうちにロードと共に解体するつもりだったの。もっと早く動けば、こんな事にはならなかったでしょうね。ねぇ士郎、桜は今どんな顔してる?』

 

「顔? ……穏やかだよ。本当に、眠っているのと変わらない。少し、笑っているようにも見えるな」

 

『そう……なら最期は幸せだったのね。士郎はこれからどうするの?』

 

 これから、か。きっと遠坂は俺が何をしたいのか分かって言っている筈だ。

 

「正義の味方になる旅をする」

 

『なら師としてはっきりと伝えておかないとね。衛宮君、今日で破門よ。もう関わるつもりはないから好きにしてらっしゃい』

 

「ああ、ありがとう」

 

 俺の魔術の特異性は分かっている。好き勝手やっていればいずれは封印指定認定されるだろう。そうなったなら遠坂にも何かしら声が掛かるかもしれない。その時に何もしないでいてくれていると言ってくれているのだ。これほど有難い事はない。

 

『明日にはそっちに行くから、桜は寝かせておいてあげてくれる? 私も、一目顔を見ておきたいわ。どうせあんたはすぐに出ていくでしょう』

 

「何でもお見通しだな……」

 

『何でもとはいかないわ。あんたが分かりやすいだけよ。行ってらっしゃい』

 

「ああ、じゃあな……今までありがとう」

 

『待って。最後に、笑える時には笑いなさい。あんまりしかめっ面でいるとアーチャーみたいになっちゃうわよ』

 

「それは嫌だな。分かった、気を付けるよ」

 

 電話を切り、寝かせている桜の傍にいく。

 

「こっちに居られる時間が短くてごめんな。また出掛けるよ。さようなら、桜」

 

 冷たくなった頬をそっと撫で、桜に別れを告げた。仮に天国のようなものがあったとしても、俺の死後は世界にくれてやった。何があっても二度と会えない。これが俺に与えられた罰の1つなんだろうな。

 

 

ーーーーーー

 

 

 冬木を出てから多くの地域を巡った。行く先々で人助けをしていた。世界との契約によって得られた力で多くの人を助ける事が出来たが、それでも助けきれない人もいた。全力を尽くしても零れ落ちた命に幾度となく涙を流した。

 そんな事をしているうちに協会に力を知られた俺は案の定封印指定を受ける事となる。協会からの刺客を払い除け、身を隠しながら、変わらず人助けを続けた。

 その中でも様々な出逢いがあった。隻腕の封印指定執行者、バゼット。彼女はかつて第五次聖杯戦争においてランサーのマスターだったらしい。言峰に騙されて腕ごと令呪を奪われてしまったそうだ。それでも今は元気に執行者をしており、ルーン魔術とキックボクシング、そして現存する数少ない宝具のフラガラックを使った戦闘は脅威という他ない。

 偶然訪れた街に潜んでいた死徒を退治した時に出逢ったのが埋葬機関のシスター、シエルさんだ。彼女には色々と世話になった。黒鍵の扱いを教えてもらい、聖骸布を提供してくれたのも彼女だ。その支払いが基本的にカレーだったのは彼女らしい。

 同じ封印指定を受けている魔術師の橙子さんとは彼女の助手を通じて知り合った。何でも現代において世界と契約する人間を直接お目にかかりたかったとか。彼女の精巧な人形には驚かされたが、助手の幹也さんが俺を手掛かりゼロから見つけ出したと聞いた時には頭が痛くなったのを覚えている。

 

 桜の死から3年。俺にとって大きな転換点となる事件が起こった。NPOの仲間から原因不明の伝染病が蔓延した村があると教えられた。空気感染し、致死率も酷く高く、そして治療法が存在しないその病気は瞬く間に村を汚染した。それでも村人達は生きる希望を失わなかった。生きている者を全員集め、街の大きな病院を目指す事とした。

 彼らが街へ着けばその病気は一瞬にして何千万という人に感染し、程無くして世界を覆う事は目に見えていた。生きていた村人は100人に満たない。俺は、その全員を一晩のうちに殺した。桜の時と同じ事をしたのだ。世界の為に、人を殺したのだ。

 それ以来、俺は九の為に一を切り捨てる選択を選ぶようになっていた。人を殺すなんて間違っているのは百も承知だ。でもその僅かな犠牲を出さなければ、いずれ何十倍、何百倍もの人が犠牲になる。そうなる前に原因となるものを潰す。

 テロリストを殺した。少年兵を殺した。民間人を殺した。国の要人を殺した。家族を持つ父を殺した。子を宿した母を殺した。無邪気に遊ぶ子供を殺した。殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した。そうすれば、最低限の犠牲で多くの人を守れたから。

 

「エミヤ、君は壊れている」

 

 友人からそう言われた。知っているとも。こんなにも血で汚れた手をした男が正義の味方を名乗るなど壊れている以外表現出来ない。壊れていると自覚しているのに俺は正義の味方を諦めきれていない。こうして一を殺し続けていれば、きっと残りの九だけの世界が出来るのだと、そう思っているのだ。そんな事は有り得ない。そう知っているのに、その理想を捨てられない。

 そんな事を続けて何年過ぎただろう。俺は戦争の首謀者として裁判に掛けられ、死刑を命じられた。この裁判は俺が壊れていると言ってくれた友人が起こしたものだ。彼は怖かったんだ。いつか俺の剣が自分に向くのではないかと思ったんだ。死刑宣告の直後、裁判所は歓声に包まれた。俺の手によって家族を、友人を失った人、職を無くした人、俺のせいで被害を被った人々は喜んで当然だが、それらの人々よりも圧倒的に数が多かったのが俺が助けてきた人々だった。彼らも俺の友人と同じように怖かったんだ。無償で、自身の安全も顧みずその人達を助けてきた。でも彼らからすれば俺が何故人を助けるのか理解出来なかったことだろう。俺は彼らにどう見えていたんだろう。

 

 

ーーーーーー

 

 

「さて坊や、どうだった?」

 

 まだ士郎の記憶は続いている。物や罵声を浴びせられながら絞首台に向かう風景が見える。それを背景にエヴァンジェリンはネギへ問いかけた。虚ろな目をしたネギは体を震わせ、何か言おうとするが、口が上手く動かない。

 

「…………あ……その……」

 

「ガキニハ早カッタンジャネーノ御主人」

 

「士郎を知りたいと言ったのは坊やだ。自分の言葉には自分で責任を持ってもらおう。さて、士郎は処刑の寸前で助けられ麻帆良へやってくる。遠坂凛も関わるつもりはないと言っておきながら甘いものだ」

 

「チョットバカリ、イヤカナリ居候ヲ見ル目ガ変ワルナコリャ。アンダケノ殺人ヤッタノ、コッチニハイネェンジャネェノ」

 

「兵器による大量虐殺は数あれど、個人の力ではないだろうな……もう異世界での士郎の記憶は終わりだ。意識を肉体に戻すぞ」

 

「アイサー御主人」

 

「…………」

 

 結局ネギは何も言う事が出来なかった。ただただ無言で青くなった顔を俯かせたままだった。




なーんか上手く書けなかったのです
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