エヴァンジェリン、ネギ、チャチャゼロの意識が肉体に戻ってきた。直後、ネギは口を押さえて膝をついた。
「うっ……うぇ……」
「大丈夫かネギ君!!」
士郎も眠りから覚めたばかりだが、ネギの異常に気が付くとすぐに背中を擦る。その様子にネギは士郎に任せる事としたのか、エヴァンジェリンは木乃香と茶々丸に声を掛ける。
「見張りご苦労。で、案の定覗きが来たか」
「せやでエヴァ師匠。でもパクティオーカードは没収したから安心や」
「くっ、ジャーナリズムが敗北するなんて」
「朝倉さん、貴女のジャーナリズムに他人を巻き込むのは如何なものかと。宮崎さん、頼まれたからと言って何でもかんでも請け負ってはいけません。時には拒否しないとこうして罰に巻き込まれますよ」
「は、はい」
木乃香と茶々丸によって正座させられていたのは朝倉、のどか、夕映、そしてカモミールだ。のどかのパクティオーカードは奪われ、イドノエニッキは使えない状態なので士郎の記憶を覗き見るのは不可能だが、未遂の罰という事でこうなっている。近くでは止めに入っていた明日菜と刹那が普通に座っている。
「木乃香さん、宮崎さんはもうそろそろ良いのでは?」
「うん、もうこんなのに参加したらあかんよ」
「ご、ごめんなさい」
「エヴァちゃん、ネギは大丈夫なの? すっごい調子悪そうだけど」
「大丈夫かどうかは坊や次第だ。ま、坊やの未来の為には見ておくべきだろうし、耐えられると信じているから見せたのだ」
木乃香や茶々丸は士郎の記憶を分割して、少しずつ見たという事もあり、急激に変化が起こる事はなかった。しかしそれでも心は変わっている。ネギは一気に全て見てしまった。人々を守る為に人を殺す士郎。救った人々に罵倒される士郎。これまでのネギの価値観を破壊するには十分すぎるほどだ。
「兄貴がああなっちまうなんて、一体旦那の何を見せたんすか?」
「麻帆良に来るまでの半生だ。興味本意で覗くようなものではない。特に貴様らガキが見てしまってはな……」
「明日菜やせっちゃんも止めるのに参加してくれて助かったわぁ」
「まあ、士郎さんが人を…………あんまり良くない事やったのは聞いてたもん」
「我々が安易に踏み込むべきではないのは京都で教えて頂きましたから」
「何々! 明日菜と刹那さんは何か知っているの? いいなー、私も知りたいわ」
「あんた、今なんで正座させられているか分かってんの?」
楽天的な朝倉の発言に呆れてしまう明日菜。そんな時に同じく正座させられていた夕映が手を上げる。
「私達が士郎さんの記憶を無断で覗こうとしたのはいけない事ですが、木乃香さんと茶々丸さんに警備させてまで妨害する理由はなんでしょう?」
「簡単な事。貴様らのようなガキではあの現実に耐えられんからだ」
「現実、ですか? ですが魔法の世界が厳しい事は先生の幼少の頃の記憶で理解しています」
「理解? 確かに坊やの記憶も厳しいものだったが、貴様らは理解など出来ているのか? 貴様らは坊やの記憶から『ああ、なんて辛くて悲しいんだろう。魔法は怖い事もあるんだなぁ』と妄想しているだけではないか?」
「そんな事はありません!!」
エヴァンジェリンの言葉を夕映は強く否定する。修学旅行時点では魔法というものが現実に存在するのだと知り興奮していたが、ネギの記憶を見て本当の魔法の厳しさを知った。だというのにそれが妄想と言われるのが許せなかった。
「そうか。ならそういう事にしておこう。朝倉和美、貴様も同じか?」
「理解しているかどうかって聞かれると難しいけど、魔法が危ないものってのは知ってはいるよ。何せ石にされてたしね。でも興味があるものからは離れられないよ!」
「ああ、そういえばあの時に被害に遭っていたか。その図太い性格は嫌いではないが、あまり変な方向に向けると後悔するぞ」
「エヴァ、ネギ君を寝かせてくる」
「頼むぞ」
なんとかネギは落ち着いたようだが、まだ顔は青い。そんなネギは士郎に任せてエヴァンジェリンは少女達と話を続ける。
「そもそも士郎の記憶を知ってどうする?」
「士郎さんって謎が多いから知りたいのよね」
「他の者もそういう感情はあるか?」
エヴァンジェリンの問い掛けに、覗きに来ていたメンバーは勿論、明日菜と刹那も頷いた。士郎の強さや経歴の不詳具合を知ると過去に何があったのか知りたくなるのは当然と言える。
「では軽く教えてやる。あれは人殺しだ」
「へっ?」
「エヴァ師匠!!」
平然と出た信じられない言葉に朝倉は目を丸くし、木乃香は明らかに誤解を誘う発言に怒鳴った。間違ってはいないが、あまりにも適当過ぎる。
「木乃香、少し黙っていろ」
「……はい」
「貴様ら、特に朝倉和美と綾瀬夕映は目の前で人が惨殺される光景を長々と見せられても大丈夫な覚悟はあるか? ないだろう。普段の士郎の態度から暖かな記憶を想像していたのではないか? はっきり言って士郎以上に血生臭い生き方をしている者を私は知らん。人を殺した数では私よりも士郎の方が多いかもしれんな。もしこれを聞いてなお士郎の記憶を見たいのならまず私の記憶を見せてやる。ヴァンパイアハンターを全員違う方法で殺した時の記憶をな。私はもう寝る。貴様らもさっさと寝ろ」
立ち去っていくエヴァンジェリンに朝倉も夕映も何も言えなかった。あんなにも優しい士郎が人殺し。それも600年生きた悪い魔法使い以上の殺人をしているなどと予想だにしていなかった。
「そっか。士郎さんって、そんなに……」
「修学旅行での事も納得がいきますね。殺し慣れるという事があるのかは知りませんが、迷いなく殺すのは出来るでしょう」
「殺したのは悪い事やけど、色々と事情もあるんや。あっ、別に殺しを正当化するつもりやないで。のどか、カード返すわ」
「う、うん……あり、がと……」
「皆さん、士郎さんは皆さんへ危害を加えるような事はありません。ですので、明日会っても極力普段と変わらぬよう、怯えないようにお願いします」
士郎の真実、そのほんの一部を知った少女達はそれぞれが自分の心を整理しながら床に就いた。
士郎が人を殺していた。非常に断片的な情報をどう捉えるのでしょうか。