剣と杖と先生   作:雨期

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一切書く予定のなかった話なんですが、まあいっか。


第49話『理由』

 朝の台所から響く食材を切る軽快な音。士郎はいつものように朝食を作る。しかし今日は珍しく1人だ。

 

「士郎さん! おはよーございます!」

 

「和美か。おはよう、随分早いじゃないか」

 

「私もいるです」

 

「夕映も?」

 

 背後から声を掛けてきたのは朝倉と夕映。2人は昨晩エヴァンジェリンの話を聞いてなお士郎の事が知りたかった。だが士郎の記憶を覗こうというつもりではない。2人で話し合った結果、直接話を聞こうという結論になった。

 

「昨日エヴァちゃんから聞いたんですけど、士郎さんが人を殺してたって本当ですか?」

 

「料理を作りながらでもいいか? 俺からも直接言った筈だが、魔法儀式の時に人を殺したよ」

 

「それからの話です。エヴァンジェリンさんはもっと多くの人を殺したと聞きました」

 

「そんな事を話したのか…………何でかな?」

 

「何で、です……?」

 

 士郎が首を傾げると夕映も釣られて首を傾げた。

 

「エヴァが何でそんな事まで2人に話したのかなって」

 

「士郎さんの記憶を見せない為じゃないんですか?」

 

「それだけならそこまで言う必要はないだろ。もっと別の言い方もあるし、エヴァなら力ずくで抑え込むのも無理じゃないのに、どうして人殺しを強調したのかな?」

 

 士郎の疑問に朝倉も夕映もエヴァンジェリンの言葉の真意を考えた。士郎の言うように人殺しを強調する必要などない。では何故そこをそんなに強く言ったのか。

 

「わざわざ士郎さんに対して恐怖心を抱くようにした?」

 

「確かに士郎さんを恐れれば記憶を覗こうなどとは考えないです。でもあのエヴァンジェリンさんがそんな単純でしょうか? もっと別の意図があるのでは?」

 

「例えばだが、俺から見たら2人はまだこっちの世界に入ったばかりという事もあって、魔法の危険性への認識が薄いと思う。そこで俺みたいな人殺しが平然と傍にいるっていうのを教えたかったとか?」

 

「それなら納得いくかも。私も確かに石にされたけど、怪我とかしてなかったし、危ないってあのくらいの認識でいたわ」

 

「人が死ぬなんて日常でもある事だ。交通事故、災害、それこそ偶然犯罪に巻き込まれる可能性もある。でもこっちの世界に来るって事は少なからずその可能性が高まるんだよ」

 

「そう、ですね。魔法はどこかお伽噺のようなものと思っていましたが、全て現実なのですよね。士郎さんや刹那さんが真剣を使うのに、ネギ先生は杖。しかし危険性としてはどちらも変わらないという事ですか」

 

「見た目で判断出来ない以上は魔法の方が危険かもな。魔法なんて呪文さえ唱えれば突然素手からミサイルが飛ぶようなものだ」

 

「うっ、そう考えるとえげつないかも」

 

 ネギは魔法についてみんなに教えていたが、その時には生徒達は危険性など考えもしなかった。しかしこうして分かりやすい例えをされると魔法の危険性についてよく分かる。武器を持たずして兵器と同等の威力を出せる。エヴァンジェリンはそんなものが飛び交う世界に2人が踏み込んでいるのだと認識させる為にああ言ったのだと、2人は思い込んでいた。

 

「エヴァちゃん凄いなぁ。そんな事考えてたんだ」

 

「ええ、流石ですね。しかも答えを直接与えず自分達で考えるように仕向けるとは。それで士郎さんは、そんな世界で人を殺したのは自己防衛の為ですか?」

 

「……いや、人を救う為だ」

 

「おかしくないですか? 人を救う為に人を殺すなんて」

 

「トロッコ問題って知っているか?」

 

「あっ、それって……」

 

 本を好きな夕映はすぐにピンと来た。その手の話は本でも何度も読んできた。それは物語の出来事、と思っていた。しかしどうやら目の前の男はそれに直面してきたようだ。

 

「暴走したトロッコが真っ直ぐ進むと5人を引き殺す。しかしレールを切り替えれば5人は助かり、その代わりに切り替えた先にいる1人が死ぬ。これはその行為が許されるのかという問題だが、俺はそれにぶつかり、常に1人を殺してきた」

 

「で、でもそれって士郎さんが悪い訳じゃ」

 

「いや、俺が悪いよ。最初の頃は救いきれず、零れ落ちた人々を見捨ててきた。そしてある時歯車が狂って、生きていると周りに被害が及ぶと判断した人を、俺は殺してきた」

 

「それは、悪人です?」

 

「善悪は関係なかった。悪があるなら間違いなく俺だ」

 

「倫理的に見れば確かに士郎は悪だな」

 

「エヴァちゃん!? なんでいるの!?」

 

「たまたま寝起きが良かっただけだ」

 

 

ーーーーーー

 

 

 その日、私は眠れなかった。士郎の記憶を見た事で昂ってしまったか。ま、不死の吸血鬼たる私が一晩寝なかっただけでどうにかなる事はないのだが……

 暇潰しに散歩をしていると漂ってくる良い出汁の香り。今日は味噌汁は確定だな。どれ、つまみ食いに行ってみるか……む、朝倉和美と綾瀬夕映。何をしている?

 ほう、士郎が殺人をした理由をわざわざ聞きにきたか。まあ記憶を覗くのではなく本人に聞くなら許してやらん事も……

 

「確かに士郎さんを恐れれば記憶を覗こうなどとは考えないです。でもあのエヴァンジェリンさんがそんな単純でしょうか? もっと別の意図があるのでは?」

 

 …………何を言っているんだ? いやいや私はただ士郎の記憶を見せない為に言っただけだぞ。意図なぞないぞ!

 

「エヴァちゃん凄いなぁ。そんな事考えてたんだ」

 

「ええ、流石ですね。しかも答えを直接与えず自分達で考えるように仕向けるとは」

 

 ……まあ私の株が勝手に上がったから良し! まだ話は続けるのか。ああ、そういえば元々は士郎の殺人の理由を聞きに来ていたな。さて、私もそろそろ本来の目的を果たそうか。

 

「倫理的に見れば確かに士郎は悪だな」

 

「エヴァちゃん!? なんでいるの!?」

 

「たまたま寝起きが良かっただけだ」

 

 会話に適当に入ってから小鉢に盛ってあるきんぴらを一つまみ。うむ、今日も旨いな。

 

「倫理的に見なければ士郎さんは悪ではないのですか?」

 

「ああ、私から言うと正義の体現。最小限の犠牲で最大限の救済なぞ簡単にやれる事ではない。時代が時代なら英雄と讃えられていただろうさ」

 

「皆さん、おはようございます!」

 

 声がした方を向くとそこにいたのは坊やだった。士郎の記憶を見た翌日だ。私の予想ではもっと弱々しい姿を見せると思っていたのだが、今の坊やはとても力強い印象すら感じた。




どうしたネギ君!? 何があったんだ!?
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